救急医療の最前線で命をつなぐフライトナースとはー大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター 森岡佳菜ー

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今回は、命の瀬戸際にある重症患者が待つ現場へ、フライトドクターと共にドクターへリで駆けつける看護師“フライトナース”に注目!

大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センターで、2015年春からフライトナースとして活躍する森岡佳菜さんにインタビューしました。

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1分1秒を争う重症患者のもとへ、ドクターヘリで緊急出動!

−フライトナースの具体的な役割を教えてください

山間部や交通網が整っていない遠地の急患や事故など、救急車だけでは対応が難しい重症患者のもとへ、ドクターヘリで向かう救急医療チームの一員がフライトナースです。

こんなナースらしからぬ格好をしているので、レスキュー隊員のように見えるかも知れません(笑)。

出動要請を受け、飛び立つまで5分以内です。大阪府一円、京都府中部、滋賀県・奈良県・和歌山県の一部など、片道約20分(75km)の距離へ飛びます。

 

初期治療はランデブーポイント(ドクターヘリ着陸場)の救急車内で行いますが、症例によっては救出現場まで移動して行うこともあります。

その後、最適な医療施設にヘリで搬送します。ドクターヘリで転院搬送するケースも多く、そこで待つ医療チームへ患者さんの状態や処置内容を伝達するのも重要な仕事の一つです。

 

全ての瞬間が人の生死と直結し、1分1秒を争う現場です。出動要請が入るたび、言葉にできない緊張感が全身をかけめぐります。

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▲ドクターヘリは6人乗り。
フライトドクター、フライトナース、パイロット、メカニック(整備士)の4人で現場へ向かい、患者と家族を乗せて病院へ搬送する。

−現場で驚いたことはありますか?

情報が少ないことです。
ランデブーポイントへ向かうヘリの無線に患者情報が届くのですが、「80代、男性、意識なし」といったキーワード程度。限られた情報からいかに患者さんの病態を予測し、医療資機材と薬剤の準備をするか。

これが本当に難しくて…。例えば「胸の痛み」という症例でも、心筋梗塞の場合もあれば、呼吸器疾患が原因の可能性もあります。

 

あらゆる事態に対応できる医療資機材がドクターへリには揃っていますが、その全てを医療資機材バックに詰め替えて現場へ走るのは不可能なので、常に“最速・最良”の準備とは?を自問自答し続けている毎日です。

フライトナースになって約半年が経ちますが、毎日が反省の連続です。

 

ベテランの大先輩でさえ、「満足のいく看護ができた!と思えるフライトは1回もない」が口癖。私なんて本当にまだまだ、ひよっこです。

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▲「医療資機材バックの重さにも驚きました」と森岡さん。
身につけているポーチの他、現場では常に数キロに及ぶ医療資機材バックをいくつも背負って全力で走り続ける。

救命救急の看護を極めたい!その想いからフライトナースへ

−フライトナースになるまでの道のりは?

私の母も看護師だった影響か、物心ついた頃からケガ人の手当てをしたり、救命救急のドキュメント番組を見るのが好きでした。ごく自然に「看護師になりたい」と考えるようになりました。

やがて看護学校と大学で計5年間の勉強を重ね、「救命救急しかない」と確信しました。

 

朝いつも通り元気に「行ってきます」と出掛けた人が、数時間後に命を落としてしまうのが救命の現場。

突然の事故や発病で、ご本人もご家族も何の心の準備もないままライフスタイルが激変します。

そんな予測不能の危機に陥った人を支えたい!1秒でも早く駆けつけて看護師として役に立ちたい!と思ったのが、一番の理由です。

 

フライトナースを志したのも、より早く!という願いを叶えてくれる手段がドクターヘリだからでした。

当院の救命救急で働き始めた当初からフライトナースを目標に、5年間の実務経験を積みながら選考基準(※)を満たし、志願しました。

 

※大阪大学医学部附属病院で規定されているフライトナース選考基準は、日本航空医学学会が定めている選考(以下①〜③)に準じます。
①看護師経験5年以上、救急看護師経験3年以上(救急外来、集中治療室、救急病棟の経験を有し、全てにおいてリーダーシップがとれるもの)
②JPTEC(Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care)プロバイダーおよびACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)プロバイダーもしくは同等の知識や技術を有している
③日本航空医療学会主催のドクターヘリ講習会を受講している

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▲ヘリの内部には、除細動・呼吸器・酸素ボンベなどの医療機器や器具がいっぱい。
後部のハッチからストレッチャーで患者を運びこむ。

−フライトナースになって感じた変化はありますか?

フライトナースになるまでは、ドクターヘリや救急車で搬送される患者さんを受け入れる立場でした。

「過去の病歴は?」「どんな事故?」など、少しでも多くの情報を聞き出すことが看護に役立つと思っていました。

けれど、現場ではスピードが最優先!様々な情報を確認したり、細かく記録することの難しさを感じています。

また、現場で救急隊や警察などの他職種とコミュニケーションを取りながら、迅速な初期治療を行う大切さも痛感しました。

少しずつですが、現場と救命救急センターの両方の流れを点と点がつながるような感覚で考えられるようになり、ドクターヘリで当院へ搬送した患者さんが回復されるまで看護できた時は、「本当に良かった!」と嬉しさが込み上げてきます。

 

−一方で手を尽くしても救えない命もある…

そうですね…。全力を尽くしても、現実として死を迎えることがゴールの患者さんもいらっしゃいます。

ですが、その支援も看護です。ご家族が病院に駆けつけたその日に患者さんがお亡くなりになるのか、数日後・1週間後にお亡くなりになるかのでは、ご家族の心の受け入れ準備が違ってきます。

また、意識不明の患者さんも汗や皮脂でお身体が汚れ、爪が伸びるので、ご家族と一緒にお顔を拭いてあげたり、爪を切ってあげることができれば、「何もしてあげられなかった」という心残りを1つでも軽減するお手伝いができます。

フライトナースとして1秒でも早く患者さんのケアができれば、その可能性を広げられるのではないか?とも思っています。

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▲命の瀬戸際で配慮する余裕がない現場だからこそ、「患者さんを自分の家族だと思って接することを心がけています」と森岡さん。

看護師としてできることは、何でもチャレンジあるのみ!

−目指すフライトナース像は?

今はまだ、ドクターの動きを予測しながら処置の対応をすることで精一杯です。

毎日、滝のような汗をかいています(苦笑)。

 

もっともっと現場の出動経験と症例を積み重ねて、フライトナースとして成長したいです。

そして、医師ではない看護師がドクターヘリに乗っている意味を探し続け、自分の信念を確立したいです。

パニックに陥っている患者さんとご家族の不安を取り除く声かけや心配りなど、看護師にしかできないケアはたくさんあるはずだと思っています。

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▲出動のたびに、症例と処置内容を細かく記録している森岡さんの“マイ・ノート”。
「反省点を赤字で書くのですが、まだまだ赤だらけ(苦笑)。1つずつクリアしていきたいです」

−これからの目標は?

救急看護の分野には、認定看護師や専門看護師など、新たなステップアップの場があるので魅力的です。

一方で、まだ救命救急の看護しか知らないため、様々な知識を身につけたいという思いもあります。

どんな領域の看護でも学べることはあるので、どん欲に何にでもチャレンジしたいです。

満足した時点で、成長が止まってしまう気がして怖いんです。

看護の仕事には答えがなく、ゴールもありません。

日々、全力で患者さんと向き合い、振り返って反省して、できなかったことができるようになって…その繰り返しです。

それが、いつか患者さんにつながる!と信じられる仕事だから、しんどいとか、辞めたいとか、一度も思ったことはありません。

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▲休日は週2日。
「看護の振り返りや勉強会資料を作成したり、仕事の延長モードの時もありますが、1日中寝ていることも(笑)。ドライブに出掛けるのが一番の気分転換です」

フライトナースは人として成長し続けられる仕事!

−現場から救急病院へ。

重症患者の命をつなぐバトンリレーの重要な担い手であるフライトナース。

緊張感を伴うシビアな命の現場で使命感を持って患者と向き合い、家族に優しく寄り添うことで、看護師としてはもちろん、人間的にも成長し続けることができる分野といえそうだ。

 

◎取材先紹介

大阪大学医学部附属病院 高度救命救急センター
大阪大学医学部附属病院に1967年、日本初となる本格的な重症救急専門施設(特殊救急部・災害外科)として開設。最新鋭の医療設備、臨床検査室、集中治療室(20床)を備え、365日24時間体制で重症患者を受け入れている。院内の各診療科との連携で、あらゆる症例に対応している。2008年1月より、大阪府委託事業としてドクターヘリの常時運航がスタートした。現在、フライトドクター6人、フライトナース7人が活躍中である。年間約150回の出動要請に応えている。
(大阪大学医学部附属病院全体の看護師数は約1000人、高度救命救急センターの看護師数は約45人)

〒565-0871
大阪府吹田市山田丘2−15
TEL:06−6879−5111(代表)
http://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp

取材・文:野村ゆき/撮影:前川 聡

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