訪問看護師の魅力と可能性を探る!‐特定医療法人清翠会 牧在宅ケア理事 八津川栄子‐

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在宅医療の現場を、熱い思いで支えるキーパーソンをココメディカ編集部が徹底取材!
今回は、大阪府内に3拠点を持つ「牧訪問看護ステーション」で所長(統括責任者)として活躍されている、八津川栄子さんをインタビューしました。

働きやすさを重視した環境づくり、地域の医療機関と連携した新しい取り組みなどの
お話しから見えてきた、訪問看護師のリアルな“今”と魅力に迫ります。

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▲八津川 栄子(やつかわ・えいこ)さん
特定医療法人 清翠会 牧在宅ケア・理事
牧訪問看護ステーション・統括責任者
訪問看護認定看護師

心臓専門ICUや小児科など病院看護師として9年間勤務。一度は看護職を離れたが、1996年5月に開設した「牧訪問看護ステーション清水」の訪問看護師として復職。現在、大阪市旭区を中心に活動する3つの系列ステーションの統括責任者として、総勢50名に及ぶ訪問看護師・介護士・理学療法士・事務員を束ね、地域の在宅医療を支えている。

病院看護師からブランクを経て、訪問看護のスペシャリストへ

−八津川さんのご経歴を教えてください。もともと関心があって訪問看護の道に?

いえ、むしろ逆です。病院で看護師として働いていた20代の頃は、訪問看護事業が始まっていなかったし、在宅医療への興味は正直ありませんでした。実は私、9年間の病院勤務で看護師の仕事そのものに情熱が持てなくなってしまった時期があって、看護師を辞めて転職し、5年ほどフラワーデザインの仕事をしていたブランクがあるんですよ(苦笑)。

だから、若い看護師さんが病院業務の忙しさに疲弊して目標を見失ってしまったり、看護職から一度離れたブランクが不安でカムバックに二の足を踏んでしまう気持ち、何となく理解できるんですよね。私自身がそうでしたから。

私がもう一度、看護師に戻りたい!と思ったのは、1995年の阪神淡路大震災がきっかけでした。「看護師が足りない」という報道を知り、いてもたってもいられなくなって。友人看護師が声をかけてくれ、看護ボランティアとして避難所へ。地域住民の方たちのケアや交流を通じて、自分の中で完全に消えたと思っていた看護師魂に再び火が点いたんです。

そして、カムバックするなら病院勤務ではなく、地域に根ざした看護師として役に立ちたいと思い、新聞で偶然見つけたのが、このステーションの立ち上げに向けた訪問看護師を募集する小さな求人広告でした。開設当初の訪問看護師は私を入れて、わずか4名。大きな病院で働いた経験しかなかったので不安はありましたが、訪問看護の基本を研修できちんと学ばせてもらえましたし、何事もやってみなきゃわからない!と飛び込みました。

−病院看護師と訪問看護師の両方を経験し、気づいたことはありますか?

病院で看護師をしていた頃は急性期の患者さんとしか接したことがなかったのですが、訪問看護で慢性期や高齢の患者さんと日常的に接するようになり、ハッと気づかされました。過去の私は「“病気”や“怪我”そのものとしか向き合えていなかった。肝心な患者さんのことが全く見えていなかったんだ」って。

退院後、ご自宅でどんな風に過ごしていただくのが患者さんご自身とご家族にとって安心で最良のケアなのか、そこまでイメージした上で病院での看護ができなければ全く意味がないという一番重要なことを、訪問看護師になって初めて実感したんです。

また、在宅の医療レベルが想像以上に高いことにも驚きました。不可能なのは、大規模な医療機器が必要な手術だけ。それ以外の病院でできるあらゆる看護は、在宅でも可能なんです。さらに、注射やお薬による治療以外にも重要な看護があることも学びました。患者さんが正直な気持ちを打ち明けてくださったり、不安そうなお顔から笑顔がこぼれたり。患者さんの心に小さなロウソクを灯すような心のケアです。訪問看護って本当に奥が深くて、やればやるほどハマっていくんですよ。
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▲理事・統括管理者として会議や事務仕事が増えた今も「現場が一番好き、だって楽しいんだもの」と八津川さん。可能な限り訪問看護師として利用者の元へ足を運ぶ。

看護師自身がやりがいを実感できる環境と仕組みを確立

−開設20年を迎え、訪問看護ステーションはどう変わりましたか?

ステーションの拠点が3カ所に増え、訪問看護師の人数も常勤・非常勤あわせて約30名に。300軒の在宅医療をサポートする大阪でも有数の大型ステーションに成長し、地域の方たちにも施設名ではなく、“牧さん”と親しみを持って呼んでもらえるようになりました。

利用者の15%は、グループ施設の急性期病院(牧病院)、回復期病院(牧リハビリテーション病院)からの依頼ですが、85%が外部の医療機関やケアマネジャーからの紹介です。近隣の他のステーションとも連携して利用者を受け入れあったり、定期的に集まって勉強会を開催して情報共有を行ったり、密度の濃い関係性を築けています。

訪問看護師と患者さん、そして連携する地域の“かかりつけ医”のマッチングや調整も管理者である私の役目です。看護師1人が受け持つのは、平均14〜15軒の患者さん。訪問を担当する看護師は1人ですが、1軒ごとにメイン担当者とサブ担当者の2名体制で受け持つようにして、1人の看護師が抱え込み過ぎないよう、偏った看護にならないよう、また看護師自身が体調不良や家庭の事情で急に休まなければならない時に対応できるよう、注意を払っています。

−看護師のモチベーション維持も大切ですよね、どんな工夫を?

毎週木曜日のお昼休憩後の約1時間を看護事例の勉強会にあてるなどして、相談しやすい雰囲気づくりを心掛けています。看護師たちには「仕事が終わっても担当の患者さんのことを考えてしまっていたら、それは危険信号よ」とよく言っていて、看護師同士でもお互いを気遣い合ってくれていますし、私自身も何気ない会話のやり取りで思い詰め過ぎていないか察知できるよう気を配るようにしています。

また、病院勤務は常に同じ施設内で看護できる安心感がありますが、訪問看護は天候に関係なく外へ出掛けなければならないし、訪問する患者さんのお宅によって環境面も大きく異なるため、臨機応変な看護が求められます。だから、「訪問看護師手当」「認定看護師資格手当」「24時間連絡体制手当」といった特別手当を充実させ、産前産後休暇、育児休業、介護休業などの特別休暇は常勤・非常勤問わず申請できる環境を整えていっています。

訪問看護認定看護師の資格取得も、当法人が全面バックアップ。授業料はもちろん、講習を受けるための交通費も全額支給されます。私が資格を取得した頃は授業料の支給だけだったのに、うらやましい(笑)。それくらい年々、働きやすい環境になっています。家庭を持ってからだと時間的な余裕がなくなってしまいやすいので、若い看護師にこそ認定資格取得に積極的にチャレンジして欲しいですね。

−訪問看護師に向いているタイプって、あるんでしょうか?

あえて言うなら、真面目過ぎない人(笑)。気持ちに遊びがないと、一途になりすぎて、視野がどんどん狭くなって、知らず知らず自分を追い詰めてしまいやすい。「治療はこうあるべき」という自分の考え方にとらわれてしまうと、心が先に折れちゃうんです。

私自身がそうでしたが、看護の仕事から一度離れることで、気持ちの余裕を持てるようになる場合もあります。今ここで働いている看護師にもカムバック組は多くて、一番ブランクが長い人で15年かな。挫折、転職、結婚、子育て……。あらゆる人生経験が強みとして生かせるのも、訪問看護師の良い面だと思います。

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▲八津川さんは、看護職を離れていた時の経験を生かし、現在、系列デイサービス施設で毎月フラワーアレンジ教室を開催。「回り道に思える人生も必ず意味があるんですよ」。

看護師は必ず一度は訪問看護を経験!それが当たり前になってほしい

−訪問看護の今後について、課題に感じていることはありますか?

若い世代の訪問看護師がまだまだ少ないことです。このステーションも看護師の平均年齢は40歳前後。男性看護士が1人、他は全員がママさん看護師です。結婚・出産後も家庭との両立がしやすい分野なのに、20代、30代の若い看護師がなかなか増えてくれないことに危機感を抱いています。

最大の壁は「訪問看護は経験豊富な看護師じゃないとムリ」という病院看護師たちの勝手なイメージ。これは全くの誤解で、病院看護の経験が3年もあれば基本スキルは十分だと私は考えています。訪問看護に少しでも関心があるなら、とにかく一度トライしてみて、やっぱり病院看護の方が向いていると思えば、また戻ればいいんですよ。

訪問看護の経験があれば、退院後のケアを具体的にイメージしながら病院でできる最善のケアを考えられるようになるので、看護師としてのスキルアップに自然につながります。いずれどんな専門分野へ進むにしろ、訪問看護の経験は必ず役に立つはずです。

今の時代、看護師の働き方も、自分のライフスタイルや目標に応じて変わってゆくべきです。病院勤務をして、訪問看護をして、また病院勤務に戻って、再び訪問看護へ。そんな風に自由に働き方を変えながら看護師であり続けることが可能だし、そういう看護師がもっともっと増えれば、医療全体のレベルアップにつながると私は信じています。

看護師も患者さんも笑顔になれる在宅ケアを目指して

−新しい取り組みや理想があれば教えてください

2016年春から、当ステーションを含めた複数の訪問看護ステーションが近隣の大型総合病院と密に連携するコラボレーションを始めました! 病院のカンファレンスに各ステーションから訪問看護師が交替で参加し、患者さんの退院後の在宅ケアに向けての助言をする画期的な場になっています。これは全国的にみても、まだまだ珍しい取り組みだと思っています。

訪問看護師・病院看護師の枠を超えて活発な意見交換や交流ができるので、看護師同士の刺激になりますし、訪問看護に興味を持ってくれる若い病院看護師が増えるきっかけになれば素敵だと期待しています。

1つのステーション単体では実現が難しい取り組みも、地域のステーションが力を合わせれば、大きな病院に働きかけることができます。訪問看護の現場から地域包括ケアを考え、仕組みづくりに活かすことが当たり前にできれば、より前向きでハッピーな在宅ケアが可能になると確信しています。
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▲牧訪問看護ステーションの看護師・介護士の皆さん。明るく、たくましく、誇り高く、家庭と仕事の両立を実現している。

まとめ

病院ではなく、自宅などの住み慣れた場所で人生最後の瞬間まで、その人らしく生きるための在宅ケアを支援する訪問看護。1992年に訪問看護事業がスタートし、団塊の世代が75歳を迎える2025年には現在の3倍以上の訪問看護師が必要になるといわれています。

だからこそ、生き生きと高いモチベーションで働き続ける訪問看護師が増えれば、地域全体の医療レベルがアップする。在宅ハッピーの連鎖を生むヒントが、牧訪問看護ステーションの取り組みに表れているといえそうです。

◎取材先紹介

特定医療法人 清翠会 牧訪問看護ステーション

1996年5月、開設。現在、「牧訪問看護ステーション清水」「牧訪問看護ステーション高殿」「牧訪問看護ステーション守口」の3拠点を持ち、24時間連絡体制で大阪市旭区を中心に、守口市、門真市、東大阪市の一部まで広域の在宅ケアをサポート。法人グループ施設に「牧病院」「牧リハビリテーション病院」「牧老人保健施設」「まきグループホームロイヤル」「まきデイサービスセンター」などがあり、幅広い医療・介護サービスを提供している。

◆牧訪問看護ステーション清水
〒535−0021 大阪府大阪市旭区清水4−2−22
TEL:06−6953−1222
http://www.maki-group.jp/houkan/

 

取材・文:野村ゆき/撮影:前川 聡

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