在宅医療患者のQOLを高めるペインコントロール ‐医療法人凌仁会 ホームケアクリニック田園調布 院長 小林 徳行‐

渋谷駅から東急東横線で約10分の場所に位置する田園調布駅。この付近は昔から高級住宅街として知られており、近隣の家並みは区画も大きく緑豊かでとても落ち着いた印象があります。

そんな田園調布駅から徒歩数分の場所にあるホームケアクリニック田園調布は、地域に根差した在宅医療を目指して2年前に開院しました。麻酔科医としての経験が長い院長の小林徳行先生は、在宅医療にとって重要な緩和ケアに重点を置き、日々多くのご家庭を訪問しています。

今回は小林院長に、緩和ケアやペインコントロールに長年従事された経験を活かした在宅医療についてお話を伺いました。

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▲小林徳行(こばやし・のりゆき)医師
医療法人凌仁会 ホームケアクリニック田園調布 院長

日本医科大学院卒業後、栃木県小山市民病院麻酔科、日本医科大学付属病院麻酔科、三井記念病院麻酔科などを経てスウェーデンカロリンスカ医科大学に留学し技術研鑽を行う。帰国後は日本医科大学の附属病院や多摩永山病院に勤務、2014年にホームケアクリニック田園調布を開設。

痛みのケアが必要だと感じた在宅医療

―在宅医療を始めた経緯を教えてください。

大学院卒業後、私は一貫して20年以上麻酔科医として手術や慢性的な痛みの治療に従事してきました。様々な病院で麻酔治療の経験を積み上げた他、より専門的な痛みケアを行うことができるペインクリニックを担当することもありました。

しかしながら、ペインクリニックや総合病院の緩和ケアチームの場合、痛みの緩和が主目的のため全体の治療の中でもサポート的な立場になることが多く、主治医が別に存在するケースがほとんどでした。実際、所属した大学の付属病院にも緩和ケア科の入院施設はありませんでしたし、最初の頃は患者さんの看取りも経験したことがありませんでした。

その後も複数の病院で経験を積み、多くのがんの緩和治療などを手掛けるようになるにつれ、より専門的な緩和治療を学ぶために勉強会へ参加したり、自らが主催となり医師向けに緩和ケアに関する研修会を開催する機会も増えてきました。

こういった場でがん治療や緩和ケアで活躍している医師と話をする中で、痛みのサポートを必要としているものの、まだまだ体制ができておらず医師も不足していると感じたのが「在宅医療」の分野でした。
今から7年ほど前のことですが、当時はまだまだ“家で看取る”という考え方はほとんどなく、在宅医療はまだまだ発展途上という雰囲気でしたね。

―ご自宅で患者さんの痛みの緩和も行うということですね。

そうです。実際に在宅医療の現場を学ぶために首都圏で多くの患者を持つ、在宅医療の専門クリニックの手伝いをさせていただいたところ、定期往診の際に慢性的な痛みやがんなどの苦しみを緩和することで、ご本人も身体がずっと楽になり、またご家族の方もより安心して日々のサポートを行うことができるということを何度も目にしました。

当初、在宅医療でできることは限られていると思っていましたが、実際に現場で治療に当たったところ、定期的な診療によって患者さんの状態をリアルタイムに把握することができ、早めの処置とご家族への的確なアドバイスを行うことで、症状の悪化を防ぐことができるという点に気づきました。
こういった現場経験で手応えも感じたため、麻酔科医の経験を活かして在宅医療に取り組もうと決意しました。

在宅医療における緩和ケア

―実際に開業された後はいかがでしたか。

私は緩和ケアを得意としていたので、開業当初から地域包括からがんで痛みを抱えている患者さんを紹介していただいたり、今まで関わってきた病院から相談・紹介をいただくことも多くありました。
また、以前病院勤務していた川崎市など少し離れた地域の方も含めて多くの患者さんが集まりました。

現在は田園調布近辺を中心に、大田区、品川区、世田谷区、目黒区などの地域の患者さんを中心に100名程度担当させていただいております。

―それでは順調な滑り出しだったのですね。

とはいえ、痛みが大きいがんなどの重症の患者さんへ常に最善の治療を行うことが必要でしたので、今までのような病院内での診療とは感覚が異なり、最初は肉体的にも精神的にも大変でした。
在宅医療ですので24時間体制で診療を行っていますが、開業当初、医師は自分一人でしたので、夜間は常に往診に出られるよう待機していました。

もちろんできるだけ緊急の事態が起きないように、定期診療の際に丁寧に患者さんの症状や容体を診察し、次回往診までの間に起こりうる症状の変化をご家族にも分かりやすく具体的にシェアするなど対策は講じていましたが、訪問看護やケアマネの経験のある師長、スタッフ、そして何より、患者の御家族の協力があったからこそ乗り越えることができたと思います。
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▲小林先生の似顔絵イラストを使った可愛いホームページ。訪問診療への心理的ハードルを下げるためにわかりやすい情報発信を心がけている。
http://homecare-denen.jp/

地域連携が重要なポイント

―24時間お一人で対応されるのは大変だったのでは?

走り出した頃はまだ訪問医療に慣れてなかったので大変でしたが、現在は地域の診療所や総合病院とも連携し、また非常勤の医師を雇うことによってより手厚く、万全なサポート体制を敷いています。

やはり在宅医療を行う上で重要なのは、医療機関の地域連携です。当院では現在、協力医療機関として昭和医科大学、荏原病院、東邦大学大森病院、東邦大学大橋病院、東京労災病院、関東中央病院、東京医療センター、田園調布中央病院、奥沢病院、出身大学である、日本医科大学、多摩永山病院、武蔵小杉病院、とも提携をしており、必要に応じて入院の手配なども行っております。

また内科・外科・皮膚科・消化器科など様々な先生方と患者さんに関する連絡を密にやり取りをすることで、それぞれは得意分野を最大限に活かした最善の治療を提供しています。
私の場合は、痛みが強い重症の方やがん患者の方はもちろん、褥瘡がひどい場合なども痛みの緩和のために往診に行くなど、緩和ケアの観点から治療を中心に行っていますね。

―痛みのケアはどんな病状においても大切ですね。

そうです、痛みや苦しみの緩和は、とても大切です。特にがんの患者さんの場合、痛みを伴うことが多いのですが、例えば肺がんの場合は痛み以上に息ができずに苦しいという症状を訴える方が多い。またすい臓がんの場合は、寝ていても痛みがひどくて目が覚めるという症状も多いため、そうした場合は鎮静が必要になります。
しかしそれぞれの症状や容体によって使用する麻酔薬や医療用麻薬の量は調整しなければいけません。

麻酔注射はもちろん、在宅での硬膜外ブロックや、各種神経ブロック、持続くも膜下脊髄ブロックの管理、ポンプを使用した持続鎮痛剤、鎮静薬の投与も行うなど、麻酔のプロとして症状に応じた最適なペインコントロールを行っています。
もちろんこの辺りは、ご家族の方とも事前に話し合った上で症状を見極めて最適な麻酔処置を行っています。

緩和ケアにはご家族との会話も大切

―痛みのケアに鎮静剤が必要なこともあるのですね

家族と一緒に住み慣れたご自宅で療養をしたいと切望される患者さんに対して、麻酔科医として緩和ケアをどこまでやるかは、とても大切な見極めのポイントです。
例えばご自宅での療養を希望されている心不全の患者さんに対して、御自宅で利尿剤や強心剤の持続投与をすることは持続的なモニタリングからも難しく、終末期となって緩和的な医療用麻薬や鎮静剤を使用することは、御本人や御家族の意向を常に確認しながら、進めなければなりません。

こういった点については初診の時から繰り返しご家族の方とお話を行い、きちんとすり合わせを行いながら定期診療を行っています。末期の心不全やCOPDなどの呼吸不全、ALSなどの神経疾患といった非癌患者の緩和ケアというのも大事な問題です。

―現在の在宅医療の課題についていかがお考えですか

在宅医療の社会的認知度はまだまだ低く、誰に相談したらいいのか、また何をしたらいいのか分からない方も多くいらっしゃいます。また、この付近は高級住宅街と言われていますが、中には広い家にお一人でお住まいになっている独居老人の方もいらっしゃいますし、病院を退院して在宅医療を始めたものの、そもそも在宅医療の意味をご理解されないまま、病院側に言われるままに退院してしまった方もいらしたりと様々です。

私たちは訪問医として治療や投薬を行うことはもちろんですが、在宅医療の意義や本質をご家族やご本人に丁寧にお話しすることも一つの役目ではないかと考えています。
そのためにも地域包括ケアを大切にし、自院だけで完結せずに他医療機関や行政、介護サービス事業所等とも提携をして、地域全体で連携を図ることが重要だと考えています。
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▲症状にあわせて神経ブロックや鎮静薬投与など、専門的なペインコントロールを在宅医療でも行っている小林院長。日本では高度な麻酔設備を持っているクリニックはまだ少ないため全体的な治療の底上げも必要だとおっしゃっていました。

今後はより在宅医療でも専門性を求められる時代に

―訪問医療における緩和ケアは今後ますます重要になりますね。

在宅医療の中でも緩和ケアや緊急往診、看取りといった部分へ行政の評価が高まっていることもあり、確かに麻酔科関連の学会でも在宅医療における緩和ケアに関連する研究や論文発表が増えてきています。

緩和ケアのプロフェッショナルの間でも年々在宅医療への関心が高まっているからこそ、患者さん、ご家族、そして担当する訪問医や関わるスタッフ達全員が、より安心して在宅医療を活用できるように、緩和ケア、ペインコントロールという観点から在宅医療の患者さんのQOL向上をサポートできればと考えています。

取材後記

麻酔科医のプロである小林院長からは、緩和ケアの重要性や麻酔の際のポイントについて詳しくお話を伺うことができました。
緩和ケアに特化することで、医師会や近隣の病院、介護施設等とも堅固な連携体制を構築しており、それぞれ役割分担によって患者さんに最善のケアを行える体制を確立されていると感じました。

◎取材先紹介

医療法人凌仁会 ホームケアクリニック田園調布
〒145-0071東京都大田区田園調布2-42-5アパートメントカヤ101
TEL:03-6715-6812 FAX:03-6715-6813
http://homecare-denen.jp/

(取材・文 ココメディカマガジン編集部/撮影 菅沢健治)

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