在宅医療・地域医療の最前線|大津京独自モデル“hST”に迫る -公益社団法人 大津市医師会 理事 学術部長・医療法人 西山医院 院長 西山 順博-

西山医院の院長であり、大津医師会の理事としても地域を牽引している西山先生。病院勤務医の経験を生かし、NST(栄養サポートチーム)から一歩踏み込んだ、在宅での栄養管理を多職種連携で安定的に行う「在宅療養サポートチーム(hST)」を提唱し、実現させました。

現在、人口約34万人の大津市を、西山先生が中心となっている「チーム大津京」をはじめ、7つの医療・介護チームで支えています。全チームに共通しているのは、医療スタッフ・介護スタッフ・患者を支える家族が垣根を超えて協働する理想的な連携です。

革新的なチーム医療「hST」とは? その構想から実現までの経緯、さらに将来的な展望に迫りました。

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▲西山 順博(にしやま・よりひろ)医師
公益社団法人 大津医師会 理事 学術部長、医療法人 西山医院 院長

滋賀県生まれ、近畿大学医学部卒業。滋賀医科大学消化器血液内科にて小山茂樹医師に師事し、消化器病・消化器内視鏡専門医として内視鏡診断・内視鏡治療のキャリアを積む。2002年より大津市民病院にてPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)とその管理、NST(栄養サポートチーム)のディレクターとして活躍。2008年に医療法人西山医院の副院長に就任。地域の同業・多職種、行政に働きかけ、さまざまな医療・介護連携の仕組みを整備する。

勤務医時代のミッションがターニングポイント

—どういう経緯でNST(栄養サポートチーム)に携わるように?

大津市民病院に勤務していた頃、ちょうど世の中では入院患者に最善の栄養療法を提供するNST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)が注目されるようになりました。それまでの日本の医療は、例えばがん患者さんの場合、内視鏡やCTなど検査の度の絶食で低栄養状態に陥って手術は成功しても回復が遅くなってしまったり、高齢患者さんの誤嚥性肺炎の治療やリスク回避のための禁食が結果的に患者さん自身の体力を奪ってしまったり。そういうケースが珍しくなかったんです。

NSTは、できるだけ禁食期間を短くして十分な栄養管理を行い、手術前後の体力温存や合併症の予防、入院日数の短縮などの効果につなげるチーム医療です。私が勤めていた病院でもNSTを稼働することなり、その立ち上げに消化器内視鏡の専門医として私も携わることになりました。

—その経験が在宅での食支援を志すきっかけに?

NSTの活動を通じて感じたのが、医師以外の看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、歯科医師、歯科衛生士、理学療法士、言語聴覚士、作業療法士、メディカルソシャルワーカ―などの職種を超えたメディカルスタッフとのチームワークの重要性。そして、胃瘻PEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)を味方につければ、在宅でも栄養管理が可能になると確信していました。

NSTにかかわるまでは、病院で数年経験を積んでから、将来は内視鏡検査を専門にした開業医になろうと考えていたのですが、気づけば5年以上NSTとPEGの研究にのめり込んでいました(笑)。そして、退院後に自宅療養される胃瘻の患者さんを在宅でトータルに支援する仕組み・チームづくりを、病院と同じように開業医レベルで整備したいと考えるようになったんです。

在宅療養する患者さん第一主義の栄養サポート

—在宅でのNSTの仕組みはどのように整えていったのですか?

まず、開業から2年かけて「大津市PEG地域連携パス(PEGパス)」の仕組みを整えました。これは、病院で胃瘻造設して退院した患者さんの在宅支援をスムーズに行うためのクリニカルパスで、胃瘻交換を病院や私のような専門医にて半年ごとに行い、日々の管理と診療は各地域の在宅医が行う病診(病院⇄診療所)・診診(診療所⇄診療所)の総合連携システムです。

幸い大津市医師会では、既に糖尿病、脳卒中、心筋梗塞、がん、認知症など、疾病別の地域連携パスが確立されていたので、医師会に働きかけたところ賛同を得られ、スムーズに稼働まで辿り着けました。

—“PEGパス”の仕組みを整えると、どんな効果が?

患者さんの栄養管理が格段に向上し、状態も安定するので、胃瘻に対する抵抗感が軽減され、ドロップアウトする人が減ります。現在では、私が発行しているPEGパスは年間50件前後ですが、大津市全体では年間400件のPEGパスが発行されるまでになりました。それだけ、各地域の病院と開業医の連携が安定的に行われている証しだと言えると思います。

PEGは在宅NSTの栄養経路の一つです。食べられない患者さんの中で深刻な嚥下機能障害がある割合はわずかで、抗がん剤の影響で口内炎ができていることが原因だったり、消化器疾患で食欲が落ちていたり、義歯が合っていなかったり、様々な潜在的要因が隠れているケースが多い。だからこそ、在宅でもNSTができるだけ早く適切に介入を行えば、再び食べられるようになる患者さんも多いと私は考えています。
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▲開業医として年間約1300件の内視鏡検査などの外来診療を行いながら、訪問診療にも応える西山先生。「やがて外来患者さんの多くが在宅診療に切り替わる。それが地域の未来です」

医療と介護の真の連携を目指して

—在宅と病院ではNSTのチーム体制に、違いがありますか?

病院のNSTは医療従事者が中心。在宅での食支援は、医療職だけではなく、介護職であるケアマネージャーやヘルパーを含めたチーム体制が肝です。実は考え方も医療と介護では違いがあり、医療は「疾病の治療が最優先」というICIDH(国際障害分類)の考え方が根強い。介護では「障害や疾病があっても、支援する人がいれば生き方の可能性は広がる」というICF(国際生活機能分類)の考え方が主軸です。

よく「医療はキュア、介護はケア」と表現されますが、在宅医療ではキュアとケアの総合的な視点を患者さんにかかわる全員が共有することが、何よりも大切です。

そこで、大津京では在宅NSTに介護福祉職を加えた、独自の在宅療養サポートチーム「hST」を構想。「Home care Support Team」の略で、「h」の小文字はGOOD(いいね!)サインの手の形をモチーフにしています。
利用者(患者)・家族に良し、医療・福祉従事者に良し、世間にとっても良しの“トリプルGOOD”が理想形です。多職種のチーム全員が同じ土俵に立って患者さんを支えているという意識を高めるため、共通言語となる「おうみ在宅療養連携シート」も考案しました。
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▲おうみ在宅療養連携シート
西山先生を中心に工夫を凝らして企画された連携シート。以下のサイトよりダウンロードが可能。
http://www.otsu.shiga.med.or.jp/kokoro_no_heian/

—連携シートでは具体的にどんな情報共有を?

シートの特徴は、1枚で患者さんの医療・看護・介護・福祉の情報、終末期医療に対する要望が分かることです。現在の病名と処方状況、過去の病歴や認知度などの基本情報はもちろん、生い立ち、好き・嫌い、仕事や趣味といった個人的なこと、経済状況、家族構成、ご家族の願い、住宅状況や近隣との付きあいなどの環境的なこと、見守りや励ましがあれば自分でできること、患者さん本人が数ヶ月後に叶えたい目標、地震や停電など災害時の対応方法まで、細かく書き込めるようになっています。

例えば、誤嚥性肺炎の患者さんであれば、訪問看護師やケアマネージャーが中心となって、患者さんと家族の情報を引き出し、シートに記入。「孫の誕生日にケーキが食べたい」などの目標に向けて、医師は療養方針や処方の設計図を描き、栄養士が食事の内容や形状を工夫したり、歯科衛生士は入れ歯の状態をチェックしたり。全員でその想いに応えてゆくんです。

—まさに、身体のキュアと心のケアの両立ですね!

心の支援を二の次にして医療支援ばかりを優先すると、結果的に寝たきりの患者さんを増やしてしまう要因になりかねません。医師だけ頑張ってもダメで、看護師やケアマネが頑張るだけでも不十分。ご家族の協力も必要だし、何よりも患者さん本人が生きたい・食べたい・頑張りたい!と思えることが大事なんです。

構想から2年後、初のhST「チーム大津京」が始動!

—hSTの活動について教えてください

2012年10月に、まず、この大津京駅周辺の大津京エリア限定で取り組もう!と「チーム大津京」の名称で決起集会を開催。訪問看護師、ケアマネ、薬剤師、管理栄養士など、最初は10人くらいからのスタートでした。2カ月に1回、偶数月の第1金曜日・夜8時半から1時間の定例会をするぞ!と決めて以来、ずっと現在も続いています。

チーム内で何でも話せるよう、職種や肩書きに関係なくお互いに「〜さん」と呼び合うのが慣例。チームリーダーは在宅の現場を一番理解しているケアマネージャーで、サブリーダーが医師・歯科医師・薬剤師の医療従事者です。だから僕は「チーム大津京」のケアマネージャーをサポートするサブリーダーです。

—具体的にどんなテーマで勉強会を?

毎回お互いの職種と役割を深く知るためのグループワークを行います。例えばリッチェル(おしゃぶり)を嚥下機能訓練として推進する「プロジェクトR」を発案したり、食事が取れない場合の医薬品の栄養剤を甘くないカレー味やホワイトソース味にできないか?と栄養士が考案しレシピを提供したり。チーム全員で意見を出し合い、時にケンカ寸前になるほど議論が白熱することも。そうやってお互いが足りない知識を吸収し、それぞれの現場で「患者○○さんのチーム」を作って活かすことが目的です。その積み重ねによって在宅診療の現場が淘汰され、医療・介護両方のレベルアップにつながるはずですから。

—大津京以外のエリアにも“hST”の輪は波及を?

少し遅れて、高齢化が進んでいる大津北部エリアに2つのチームが立ち上がりましたが、人口約34万人の大津市を網羅するのは難しい。そこで、大津市の7つのエリア別に地域包括支援センターと保健福祉施設の拠点があることに着目。この7拠点を活用した、7つのhSTを立ち上げ、2014年に全稼働しました。現在、大津市医師会員は約250人、そのうち在宅支援診療所のドクターが約38人。医師同士の連携はこれからが正念場です。
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▲「チーム大津京」の定例集会は西山医院で開催。現在は毎回40人以上が集まる盛況ぶり。「栄養士さんが毎回手作りのお菓子を持ってきてくれ、それも楽しみの一つです」

hST=大きな総合病院のような存在に

—目指している地域医療の理想像を教えてください

7エリアのhSTが一つの大きな総合病院のように稼働することです。そこには様々な診療科(医師)が揃っていて、薬局(薬剤師)があり、おいしい食堂(管理栄養士)もある。道路が病院の通路、患者さんの家が病室です。そして、大津市のどこかで寝たきりになったり、サポートを必要とする人がいれば、hSTがその患者さんのチームを結成し必ず助けに行く。2025年問題という言葉をよく耳にしますが、そこをゴールにしていたら間に合いません。目指すは、2020年の東京オリンピックイヤーまでの確立です。

—理想の実現に向けて、課題はありますか?

あえて挙げるなら、他職種の連携よりも、同職種の連携でしょうか?医師は医師、薬剤師であれば薬剤師。お互いを競合相手と思ってしまうと、何も進まない。高齢化は加速する一方ですから、もっと広い視野で協働しあえるよう歩み寄らないといけません。

ノウハウや情報はオープンに。ぜひ役立ててほしい

—「チーム大津京」の取り組みは今後の地域医療のモデルケースになりそうですね

人口や高齢化率、住居タイプの割合など、各地域で異なるので、大津市独自のhSTの取り組みが、全国のあらゆる地域の在宅医療にあてはまるとは思っていません。ですが、ノウハウや情報はオープンにして参考になるようであれば、役立ててもらいたい。そんな想いから、誰でも閲覧できるオープンサイト『こころの平安』を開設しています。多職種連携のための「おうみ在宅療養連携シート」など、自由にダウンロードできますので、各地域に合うアレンジを加えて完成させてください。

—今後の活動について考えておられることはありますか。
チーム大津京の活動を通じて、医療職とケアマネージャーの連携はできてきました。今後は第二段階として在宅現場を支える介護福祉士、社会福祉士、ヘルパーに、もっと地域の勉強会や集まりに顔を出してもらえたら嬉しいですね。

また、これから在宅医療に取り組もうとしている医師や医療職の皆さんにももっと在宅の現場を知ってもらいたいと思っています。病院と在宅医療は全く違いますから。患者さんの生活を見るということを体感して欲しいですし、他職種との連携の大切さも知って欲しい。チーム大津京の活動を覗きにきてくれることは歓迎です。
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▲「2025年問題に立ち向かうには、2020年までに各地域でhSTがしっかりと稼働し続けていないと手遅れになる」と強調する西山先生。「あと4年しかない、皆で頑張りましょう!」

取材後記

医師会・行政に働きかけ、多職種の人々を巻き込み、医療職と介護職が連携し合う「hST(在宅療養サポートチーム)」の仕組みを、構想からわずか2年で実現させた西山先生。「僕は設計図の大枠を創っただけです」と微笑みながら、「ですが、僕がいなくても存続・稼働する強固な仕組みにしたかった」と想いの強さを語ってくださいました。“チーム大津京”の取り組みをモデルに、その地域の生活に根ざした在宅医療・介護の連携が全国レベルで当たり前になることが、日本のこれからの幸せにつながりそうです。

◎取材先紹介

医療法人 西山医院
滋賀県大津市皇子が丘2−2−12
TEL:077−523−2078(代表)
http://www.nishiyama-iin.com

こころの平安(hSTの理念や連携シートの詳細がわかる専用サイト)
http://www.otsu.shiga.med.or.jp/kokoro_no_heian/

(取材・文/野村ゆき、撮影・前川 聡)

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