地域医療と人々を結ぶ、未来系・薬剤師を発見! -ゆう薬局グループ 薬剤師 船戸一晴-

今回は京都を中心に展開する調剤薬局『ゆう薬局』の薬剤師である、船戸一晴さんを取材! 船戸さんは、高齢化が進む京都府北部地域で、2008年頃から地域の医療・看護・福祉にかかわる人々と協働しあい、薬剤師として在宅医療を支えてきました。

一方で「音楽・ラジオ好きの薬剤師」として『FMたんご(正式名:京丹後コミュティ放送)』『FMまいづる Marine Station Kyoto』のラジオ番組でパーソナリティを務めるなど、枠にとらわれない情報発信も。

日々、どんな思いで地域と向き合っているのか。薬剤師だからこそ可能な在宅支援とは。船戸さんのお話しを通して「地域包括ケア」の真の理想を探ってみました。

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▲船戸 一晴(ふなと・かずはる)さん
ゆう薬局グループ(株式会社ユー・ピー・ディー)
執行役員・広報担当
舞鶴・京丹後・福知山エリアマネージャー 薬剤師

熊本大学・薬学部薬科学科を卒業後、2002年4月「ゆう薬局」入社。店舗での調剤・窓口業務と同時に、地域高齢者の在宅支援にも携わるように。現在、エリアマネージャーとして京都府北部地域の薬局11店舗を束ね、本部の執行役員、さらに広報も手がける。

京都府北部の薬局勤務から、ごく自然に在宅支援がスタート

−どうして薬剤師の道を選んだのですか?

僕、小児喘息で10歳頃まで入退院を繰り返していたんです。喘息から気管支炎、肺炎へ悪化するのがパターンなんですが、入院して抗生剤を点滴し、安静にしていると数日で症状が良くなった。だから入院も治療も怖くなかったんです。お医者さんとお薬に僕自身がお世話になった原体験が、医療の道へ進み、薬剤師を目指すようになったきっかけです。

病院ではなく、薬局勤務の薬剤師を選んだのは、患者さんとの距離が近い環境で仕事がしたいと感じたから。いずれ生まれ育った京都北部に帰って地元の役に立ちたい!という思いもあり、京都に根ざした薬局展開が特徴の「ゆう薬局」に就職しました。

−薬剤師としての在宅支援はいつ頃から? 京都という地域性は関係ありますか?

僕が携わるようになったのは、京都市内の小さな薬局に配属になった12年ほど前です。それより以前から、配属先の薬局では地域の医師の要請や患者さんご自身からの相談に応える形で、ごく自然に在宅訪問の事例が既に動きはじめていたので、先輩から引き継ぐ形で在宅支援を経験させてもらいました。

さらに、2008年に故郷の京丹後市で管理薬剤師として働き始めてからは、地域のニーズもあり徐々に在宅訪問する件数が増加していきました。京都府の中でも北部地域は高齢化率が平均3割と高く、医師不足が深刻で、医薬分業率も低い。医師も薬局も、都心部に比べて圧倒的に足りていないという現実があります。

医師が処方したお薬を薬局へ取りに来られない患者さんがいらっしゃるから、こちらから届けに出向く。ご高齢で認知機能が下がってくると、お薬の飲み忘れや過量服用してしまう可能性があるので、定期的にご自宅まで様子を伺いに行く。大げさなことではなく、そうした“お世話好き”が積み重なっただけなんです。

−患者さん宅へ訪問するようになり、薬剤師だから気づけたことはありますか?

人によって薬の作用の現れ方や副作用の程度が異なり、ご高齢の患者さんの場合はADL(※)が徐々に低下して状態も変化しやすい。1日3回の服用が突然、難しくなるケースも珍しくありません。処方通りの服薬支援だけで十分だろうか?と自問自答するように。

処方内容が、その時々の患者さんにマッチしているか。お薬を飲んでからの状態の変化はどうか。薬剤師として客観的に察知・評価できれば、今まで医師や看護師がリーチできなかったフォローが可能になるかも知れない。そう強く感じるようなりました。

※ADL(activities of daily living)= 摂食・着脱衣・排泄・移動など、人間の基本的な日常生活動作。高齢者の介護の必要性の判定指標にも用いられる。
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▲「地域の中で丁寧にニーズを汲み取って動いただけ」と、在宅支援に取り組みはじめた頃を振り返る船戸さん。薬剤師は“医師と患者の関係性をサポートする翻訳者”と強調する

薬剤師として地域の医療と人々を結ぶ中継役に

−どんな在宅支援に薬剤師としての気づきを生かしたのでしょう?

例えば、自宅療養中のがん患者さん向けに「痛みのチェックシート」を導入しました。緩和ケア薬の副作用を不安に感じている患者さんのフォローとして、どんな痛みの症状が、どの部位に、いつ起こるのかを訪問時に確認して記録し、担当医師に宛てたコメントを書き添えるようにしたんです。

このチェックシートを患者さんが外来受診する数日前に訪問して作成。患者さんとご家族を介して受診時に医師へ渡すことで、受診後の処方内容に反映してもらえるようになりました。

時には、医師へ「患者さんは今こういう状態なので、別のお薬の導入を検討いただけないでしょうか」と写真や資料を添えて協議していただくこともあります。そして、医師からのフィードバックは、患者さんの担当ケアマネージャーや訪問看護師へも情報提供して、経過観察の協力をお願いします。

−そんなことまで!? 多職種との連携が必要ですが、どのように関係性を築いたのですか?

地域包括支援センターや居宅介護支援事業所、訪問看護ステーションへ電話をしたり、直接足を運びました。他の職種が参加する勉強会や交流会にも、ずいぶん参加しましたね。そして、患者さんの状態や問題点を協議するカンファレンスや担当者会議の場に「ぜひ薬剤師の僕も呼んでください」と声を上げていきました。

でも、最初は呼んでもらえないんですよ(泣)。薬局の薬剤師が、本気でそういう場に顔を出したがるという発想自体がありませんから。でも、焦らない、腐らない、笑顔を絶やさない(笑)。「あ〜っ、残念!参加したかったなぁ」「次はぜひ声をかけてくださいね」と懲りずに何度もアプローチを続けるうち、徐々に扉が開かれていった感じですね。

医師が不足してるから、地域の薬剤師、訪問看護師、ケアマネージャー、ヘルパーなど、患者さんと家族を中心に繋がっている全員が、問題に気づいた時点で互いに連絡を取り合って臨機応変にフォローする。そうやって医療と患者さんの生活の質を担保する体制を整えることが、何よりも重要だと僕は思っています。
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▲医師、看護師、ケアマネ、栄養士、行政職員、地元の新聞記者など、職種を超えた繋がりが生まれ、勉強会や交流会などを定期的に開催。密度の濃い関係を継続している

若者から超高齢者まで、誰もが気軽に耳を傾けられる“ラジオ”で情報発信!

−ラジオ番組のパーソナリティを引き受けたのも、何か想いがあって?

5年ほど前、FMたんごの番組に市民ゲストとして呼んでいただいたのがきっかけでした。パソコンのハードディスクに2万曲以上のストックがあるほど音楽が好きで、ラジオを聴くのも大好き。はじめは100%プライベートな活動だったはずなんですけど・・・(苦笑)。

もちろん、地域の人々に薬剤師の職能をもっと知って、日々の生活に役立ててほしいという想いは最初からありました。レギュラー番組を持たせてもらうようになって、お薬手帳の活用方法や熱中症対策、医療に携わる多彩なゲストを招いてのトークセッションなどを積極的に発信しているのも、そんな想いからです。

けれど、健康情報に偏りすぎると幅広い人へ逆に届きにくくなるので、良い意味でのゆるさとお役立ち感のバランスを考えながら番組を構成するように心掛けています。

−DJの活動は、薬剤師の仕事にも良い影響が?

患者さん宅や薬局窓口での会話が広がりました。「あの曲、またかけてね」「今度、腰痛の話をしてよ」など、気軽に話しかけてもらえるのが、何よりも嬉しい影響です。

訪問時に「好きな本も読めない、食事も思うように取れない。明日・1週間後の楽しみがないのが何よりも辛い」と話していた末期がんの患者さんが、リスナーになって番組宛にお手紙をくださったことも。「亡くなる直前に“私のメッセージとリクエストがラジオで流れたの”と自慢してたんですよ」とご家族から聞いて胸がいっぱいになりました。

僕は、薬剤師とのコミュニケーション=薬と体調の話題ばかりじゃなくてOKだと思うんです。患者さんを継続的に見守らせていただく中で、言葉の選び方、声のトーン、目線の合わせ方、歩行や立ち体勢などから得られる情報はたくさんあります。専門職としての視点を、必要な時にちゃんと発揮できるかどうかが重要なんです。
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▲ラジオ番組の他にも地域のカフェやアート系イベントなどに出張DJとして積極的に参加。人と人が出会うことで生まれる“化学反応”を自ら楽しんでいる

地域の全員が繋がってこその「地域包括ケア」

−2016年4月に『かかりつけ薬剤師制度』が始まりました。どうお考えですか?

患者さん一人一人が主体となって「この人なら安心して相談できる」と思う薬剤師を登録できる制度なので、患者さんの安心感、薬剤師の自信と誇りに繋がれば素敵だと思います。残念ながら今の制度だと、僕自身はどなたにも登録してもらえないんですけど(苦笑)

−えっ!? 制度が始まる何年も前から、地域の“かかりつけ薬剤師”なのに?

同じ薬局で週32時間以上の勤務実態があることなど、条件があって。複数の店舗と本部を飛び回っている僕は、現状ではクリアできないんです。でも、店舗それぞれに信頼できるスタッフがいるので心配はしていません。私への相談事があれば、登録有無に関わらず今まで通り対応しますしね。薬局の薬剤師が今まで以上に身近な存在として患者さんと繋がり、地域に参加しやすい流れになってくれたらと期待しています。

−船戸さんが考える、地域医療の理想とは?

「地域包括ケア」が高齢化社会を支えるキーワードのようになっていますが、僕は、ちょっと違う捉え方をしています。子ども・学生・青年・熟年・高齢者まで、地域で暮らす全員が支える立場であり、支えられる立場でもある。それが真の「地域包括ケア」だと思っています。医療・介護・福祉に携わる人間だけで地域のことを考えても、広がりに限界があるからです。

だから、地域の勉強会や交流会など、医療・介護とは関係ない地域の集まりにも可能な限り顔を出します。「薬局の薬剤師だから医療や介護に関する地域活動しか参加しない」では、もったいないですからね。

薬剤師の仕事も“まちづくり”や“地域活性”の一端を担っている。自然にそうなっていることが、一番の理想。その輪の中に僕自身も入っていられたら幸せだなぁ、って思います。

まとめ

薬剤師として地域の中へ飛び込み、患者にとってベストな在宅支援を模索。ネットワークづくりに尽力してきた船戸さん。「特別なことは何もしてません」と何度も強調する自然体の笑顔が印象的でした。

地域の人と人が、持続性のある関係を育み、地域の特性にマッチした医療・支援を導き出すのが「地域包括ケア」の真髄。船戸さんをはじめ、京都府北部地域の職種を超えた連携と取り組みは、今後の日本を考える上で重要なモデルケースといえるかも知れません。

取材先紹介

ゆう薬局グループ

京都を中心に77店舗(2016年6月現在)を展開する調剤薬局グループ。早くから在宅医療の支援に取り組むなど、地域社会を牽引。2013年、京都府医師会・複数の薬学部との連携で実現した全国初となる『在宅チーム医療推進進学講座』を京都府立医科大学に開設。

2016年6〜7月には、深刻な過疎化が進む京都府南丹市日吉町に、ゆう薬局×明治国際医療大学付属病院×ローソンの共同企画による『健康×生活サポートセンター日吉(仮称)』が段階的にオープン。保険薬局に訪問看護ステーション・コンビニ(ヘルケアローソン)・コミュニティスペースを併設する全国的にも珍しい複合施設として注目を集めている。

◆ゆう薬局グループ(株式会社ユー・ピー・ディー 本部)
〒606-8413 京都市左京区浄土寺下馬場町106
TEL:075-771-1690
http://www.uno-upd.co.jp

※船戸さんが『キャッチー船戸』としてDJを務めるラジオ番組『みゅ~じっくぱふぇCatchy』『Premium Kyoto(火曜)』は京都北部のコミュニティ放送2局で放送中!
京丹後コミュニティ放送:http://fm-tango.jp
FMまいづるMarine Station Kyoto:http://775maizuru.jp/

 

(取材・文:野村 ゆき / インタビュー撮影:井原 完祐)

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