訪問リハビリの融合で在宅医療の可能性を広げる―プライマリーケアクリニック 院長 木内典裕 ―

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京王線・井の頭線「明大駅前」から徒歩3分程度に位置するプライマリーケアクリニックは2012年に開業した在宅療養支援診療所で、杉並区、渋谷区、新宿区、中野区などを中心に訪問診療を行っています。救急センターを経て整形外科の治療を多数行ってきた木内院長は高血圧、糖尿病、心不全といった総合診療とあわせて、急性期病院から自宅退院した方々などを対象に訪問診療とあわせて訪問リハビリも行っています。理学療法士や作業療法士とも連携することで幅広いフォローアップを実施している木内院長に、在宅医療の現状や今後の展開についてお話を伺いました。

 

▲木内典裕(きうち・のりひろ)さん

プライマリーケアクリニック 院長

群馬大学医学部卒業後、東京大学附属病院整形外科へ入局。

その後、東京専売病院麻酔科(現 国際医療福祉大学三田病院)で経験を積み、さらにさいたま赤十字病院救命救急センター・整形外科、都立広尾病院ER・整形外科、三楽病院 整形外科医長、国立国際医療研究センター、NTT東日本関東病院、JR東京総合病院 リハビリテーション科医長など、長く整形外科治療を中心に技術研鑽を行う。2012年にプライマリーケアクリニックを開業、現在に至る。

リハビリテーション科での経験から在宅医療に出会う

-もともとは整形外科の専門だったのですね。

幼少の頃に何度もお世話になった整形外科の先生がとてもよくしてくれたことがきっかけで整形外科医に興味を持ち、大学卒業後は東京大学付属病院の整形外科へ入局しました。

整形外科医として一人前になる場合、一般的には麻酔科で経験を積んだ後に整形外科に進むケースが多いのですが、私の場合は少し特殊で、麻酔科勤務後にさいたま赤十字病院の救急センターに勤務することになりました。同級生が整形外科手術の経験を積んでいる間、私は心肺停止や全身熱傷で搬送されてくる患者さんの開胸心臓マッサージや緊急手術を行うなど、とにかく日々バタバタと診療にあたっていました。

整形外科医には子どもの頃から興味を持っていたので、医師になったらとにかく早く手術を沢山経験したいと思っていたのですが、逆にこの時の救急医時代の経験によって、他では学べなかった度胸がつきましたね。緊急時でも落ち着いて客観的に状況を見るという姿勢や、患者さんがどんな状況であってもまずはできる範囲で緊急処置を行うという医師としての心構えなどです。さらに救急診療には日々様々な症状の患者さんが来るため、内科・外科など総合的に診療するスキルも身につきました。

常に慌ただしい環境でしたが、整形外科に限らず様々な身体の部位を診察することができたのは非常に貴重な経験でした。

-救急センターで救急診療のノウハウを学ばれたのですね。在宅医療に興味をもったきっかけは?

そうです。その後は念願の整形外科医として複数の病院に勤務し、ずっとやりたかった整形外科手術を連日行うことができるようになりました。整形外科医長として責任あるポジションも任されるようになったりと、充実した日々を送っていました。

そんな私の気持ちに変化が起こったのは、開業前に勤務したJR東京総合病院での経験です。ここは、整形外科とあわせて回復期リハビリテーション病棟があったためリハビリテーション科医として治療を行う機会がありました。

回復期リハビリテーション病棟は、手術を終えた患者さんがスムーズに社会復帰できるように治療や機能訓練を行う施設です。ここでのリハビリテーション科医としての役割は、診察や治療を行うだけではなく、訓練処方箋を作成し理学療法士や作業療法士などに適切な機能訓練を行うように依頼を出すなど多岐に渡ります。包括的な治療プランの作成はもちろん、そのプランを円滑に遂行させるための調整力などが求められ、今までやってきた医師の世界とは大きく異なることに、最初は驚きましたね。

-今までの手術中心の現場とはかなり異なりますね。

整形外科医の時は悪いところを治す「手術」を中心に考えていましたが、実際には、手術が終わったら「リハビリ」というプロセスがあり、さらにその後は自宅へ戻り「普段の生活を滞りなく送る」という一連の流れがあります。

この病院のリハビリテーション科は回復期病棟だったため、診療や各療法士への指示出しとあわせて退院後のプランについてケアマネージャーさんや関係施設の方々と話をする機会も多かったのですが、彼らと接する中で、リハビリテーション科医として得たスキル・経験は、在宅医療の世界においても必要とされているのではないかと考えるようになったのです。

 


▲「ケアマネに任せっきりにせずに、ケアプラン作りには専門知識を持った医師がもっと介入しないといけないと思う」と話す木内先生。

専門家のコーディネートが必要な在宅医療

ご自身のどんな経験が在宅医療に活かせると感じたのですか。

リハビリテーション科は、医師だけではなく理学療法士や作業療法士、言語療法士など様々な専門家が関わっており、それぞれの役割や考え方を尊重した上で、医師が中心となって周囲と綿密なコミュニケーションを取りながら治療プランを遂行していきます。

在宅医療の場合は、ケアマネージャーさんがご家族や関連機関などと調整を行うことが多いのですが、彼らは医学的な専門知識があるわけではありません。実際に現在、日本リハビリテーション医学会などでもその重要性が問われていますが、リハビリ後の治療プラン作成や各専門家との調整に関しては、医師がもっと深く関与しないといけないのではないかと感じています。

-専門知識を持ったコーディネーターが必要なのですね。

そうです。さらに現在の在宅医療は、内科や消化器科治療をされてきた医師が診療を行っていることが多く、整形外科医出身の医師がほとんどいませんでした。

しかし実際には、膝などの関節痛の治療の相談や、転倒して骨折したが思うように動けずに困っているなど、整形外科治療に対するニーズがかなりあると感じたのです。

ずっと夢だった整形外科医として引き続き経験を積むことも考えましたが、在宅診療はまだ歴史も浅く、診療方法や治療体制などにおいて我々がまだまだ改善や工夫する余地があるのではないかと感じ、整形外科医・リハビリテーション科医の経験を活かして在宅医療に挑戦しようと決意しました。

訪問リハビリ・整形外科治療を融合した在宅医療

実際に在宅医療を開院されていかがですか?

非常勤で勤務している病院からの紹介やケアマネージャーさんからの紹介で多数の患者さんを担当させていただいております。現在は、総合診療と訪問リハビリがほぼ半分ずつという状態です。

訪問リハビリでは、整形外科への通院が困難な方に対して、起き上がりや立ち上がり、歩行といった動作困難な部位の筋肉ほぐし、関節の運動といった運動機能アプローチや食事・排泄・入浴など日常生活の様々な動作指導、さらに患者さんのモチベーションアップのための心理的サポートなど様々なケアを行っています。現在当院では理学療法士が3名、作業療法士が1名常勤している他、非常勤でも3名が勤務しており、医師による診察とあわせて週に2回程度各療法士が訪問してリハビリを実施しています。

訪問リハビリの患者さんでも、内科的な治療が必要と思われた際には医師が訪問し、診察・処置を行うなど包括的な診療を行っています。さらに外部の鍼灸あん摩マッサーシ指圧師とも連携しており、訪問マッサージも取り入れています。

整形外科ならではの治療もあるのですか。

高齢者の方ですと、リウマチや年齢による関節痛に悩んでいる方も多いのですが、当院の場合は膝などに溜まっている関節の水を注射器で抜くことができます。内服薬の処方ではなかなか根本改善にならないことも多いのですが、これによって症状がかなり改善するケースが多いですね。また往診用レントゲンなども用意しているので、スピーディーに骨折等の診断を行うことができます。

先日は、100歳を超えた患者さんがずっと気にされていた目の上の大きなイボを、局所麻酔によって除去手術を行いました。術後はイボがあったことを忘れるほどに違和感なく日々の生活を送っております。こういった治療は直接的な病気の原因ではないかもしれませんが、患者さんがより楽しく前向きに生活を送るというQOL向上という点で効果的ではないかと考えています。

▲開業後、訪問リハビリへの需要が多いことも再認識し「療法士を増員してもっと対応できる人数を広げたいと考えています」と話す。

 

内科から整形外科まで幅広い治療を行える診療を提供したい

今後の目標などはありますか。

高齢になると次第に関節が弱ってきてしまいます。足腰が弱ると普段通りの生活を送ることが難しくなるのでリハビリが必要になります。当院ではすでに訪問診療と訪問リハビリの二本立てで治療を行っている他、連携機関による指圧マッサージ、リハケアマッサージ、径路あん摩マッサージ、鍼灸など医療行為以外のケアプランも多数用意しています。

今後についても、クリニック数を増やすということではなく、整形外科外来やリハビリテーション外来を設置して、より幅広く多角的に困っている方々をサポートできる体制を整えたいと考えています。現在、当院顧問精神科医の往診もおこなっており、認知症等の方にも手厚いフォローとなっています。

在宅医療の今後について一言。

在宅医療へ対する関心は以前よりも高まっています。ただ、現場の状況からすると「在宅医療」という言葉が独り歩きしている感も否めません。まずは医師自らが、看護師やケアマネージャーなど関係スタッフと連携して治療を行うための、コーディネーターとしてのノウハウや実績を共有していくべきでしょう。

また当院の場合は整形外科医の経験を活かして訪問リハビリを取り込んだ在宅医療を行っておりますが、在宅医療は内科系に限らず外科系の医師にとっても確実にニーズがある分野ではないでしょうか。もっと様々な分野で様々な経験を積んだ医師の方々に在宅医療に挑戦していただき、この分野を発展させていければと思います。

 

取材後記

整形外科医としての経験を元に、在宅医療と併せて訪問リハビリを行っている木内院長。お薬や注射による治療ももちろん大切ですが、歩行や入浴など日々の何気ない動作を行うにあたって身体能力の維持・強化はとても大切です。平均寿命とあわせて健康寿命の重要性が問われている中で、骨・関節・筋肉など運動機能面からアプローチする整形外科的治療は今後の在宅医療において新しい要素になるのではないかと感じました。

 

◎取材先紹介

プライマリーケアクリニック

〒156-0043 東京都世田谷区松原1-38-8 1 階
TEL 03-5301-0360 FAX 03-5301-0362

http://pcc-t.jp/

<取材・文 ココメディカマガジン編集部 /撮影 菅沢健治>

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