訪問歯科医が医療チームの中で活躍できる体制づくりを。―むらたデンタルクリニック 院長 村田 雄子―

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大阪ミナミの中心地である「心斎橋駅」から徒歩3分の好立地に位置する「むらたデンタルクリニック」は、訪問診療に特化するために村田先生が2003年に開業した歯科医院です。
訪問歯科の重要性を地域や医療機関、介護・福祉施設に働きかけながら、現在では約150人の入院・在宅の患者さんを対象に口腔ケアを行い、QOL(生活の質)の向上にも貢献。患者さんとその家族の笑顔溢れる生活をサポートしています。

今回は、村田先生にこれまでの取り組みや訪問歯科診療ならではのやりがい、今後の目標についてお話を伺いました。

▲村田 雄子(むらた・ゆうこ)さん
むらたデンタルクリニック 院長

大阪歯科大学卒業後、財団法人ライオン歯科衛生研究所勤務。訪問歯科の経験を経て2003年12月にむらたデンタルクリニック開業。『En女医会』関西支部代表。私立金蘭会学園中学校・高等学校歯科校医

訪問歯科の現状に直面してショックを受けた。

-訪問診療に携わったきっかけについて教えてください。

大学卒業後は、大手企業を巡回して従業員の方々の歯の健診や指導を行う産業歯科医として勤務していました。訪問診療に携わったのは、産業医退職後です。歯科のない病院の入院患者さんを対象に診療しましたが、ゆくゆくは自分で患者さんを見つけて都合のいい時間帯に仕事できたらいいなと思ったことがきっかけでした。

-初めて経験して、どんな印象を持ちましたか。

私自身は健康で入院経験はなく、身内にもいなかったので、患者さんがどんな状態で過ごしているのか、まったく知りませんでした。足腰の弱い高齢者は何をするのも億劫で歯磨きすらできない状況の方が少なくありません。

特に病院でお世話をする方が注射器のシリンジで流動食を与えている様子を見たときは、とてもショックでしたね。口が汚れて開かないので無理矢理に押し込んでいる印象を受けました。

―当時、訪問診療で口腔ケアは実践されてしていなかった?

今から20年以上前だったので介護保険はなく、私自身、歯科の訪問診療という仕事があることすら知りませんでした。実際に訪問診療をやっているクリニックも少なかったと思います。
私の父も歯科医ですが私が訪問診療を始めようとした時には「何しているの?」という感じで、医師の兄弟も「もっとメジャーなインプラントでもしたらどう?」と言われ、まったく理解してもらえなかったですね。

―だからこそ、自分がやらなければという気持ちになった?

そうですね。訪問診療はやればやるほど、患者さんや家族に喜んでもらえます。もちろん、外来診療も喜んでもらえますが、自宅に伺って家族を含めて深くお付き合いができる点が大きな違いです。

私は訪問診療を中心にやりたくて、2003年にクリニックを開業しました。そのとき、提携していた特養と障がい者施設があったので、そこから診療をスタートさせようと。ちょっと遠方だったので、街中に開業すればどこにでも行けると思い、心斎橋を選びました。

 

口腔ケアの大切さを伝え、「食べられる力」をつくっていきたい。

―クリニックの体制や訪問診療の割合を教えてください。

クリニックは私と歯科衛生士の8人体制で、訪問診療は全体の約9割。片手間でできる仕事ではありませんから。現在、6つの施設と提携して150人程度の患者さんを診療しています。
施設からの患者さんがメインですが、個人から依頼されたり、ケアマネージャーさんからの紹介もあります。

―どうやって患者さんを増やしてきたのですか。

知り合いのクリニックに手紙を書いたり、チラシに「歯に困っている人がいたらご紹介ください」と手書きのメッセージを添えて持参したり、とてもアナログでしたね(笑)。
クリニックから1人紹介を受けて、患者さんに喜んでいただき、新たな紹介に繋がったり、「他の病院でも診てほしい患者さんがいるから」と声をかけてもらい、徐々に患者数は増えていきました。

―そのほかにも軌道に乗せるまでの苦労はありましたか。

歯科の訪問診療についての専門書は少なく、自分たちで診療のやり方を考え、持参する道具も「これは必要、これはいらない」と試行錯誤をしながら、よりよい方法を模索してきました。何をどうしたらいいのか、わからないままに13年が過ぎたような感じです(笑)。

―患者さんからは、どのようなニーズが多かったのですか。

当初は入れ歯や歯痛の治療がほとんどでした。けれども、きちんと入れ歯ができて痛みもないはずなのに食べられない。治療をしてもすぐに虫歯ができたり悪くなるのはうまく歯磨きが出来ないためで、それならば口腔ケアを更に重要視しなければと思いました。
また、嚥下の勉強をしてより口腔ケアが重要だと再認識しました。

―それが口腔ケアの始まりだったのですね。

口腔ケアの基本は歯磨きです。訪問診療の患者さんは、体が不自由な方や寝たきりの方が多く、介助をしなければ上手く歯を磨くことができないため、まずは歯科衛生士が口の中をきれいにします。そうすると口の中の細菌が減って肺炎や風邪などの疾患が改善することも。

また、歯磨きで刺激をすることがリハビリになって嚥下機能の向上にも繋がります。
少しでも口から食べることの力になりたいと思い、歯科衛生士と一緒に日々勉強と実践を繰り返しています。

▲「歯科医が医療チームの中に入って在宅の患者さんのケアにあたるのは、まだ珍しいケース。これから地域や医療機関などに働きかけていきたいですね」と村田先生は意欲的に語ります。

 

患者さんや家族と深く関わり、笑顔を見たときがやりがい。

―これまでに患者さんのQOL(生活の質)が改善したケースはありましたか。

開業前のことですが「入れ歯を作ってほしい」と依頼を受け、何度かご自宅に訪問しましたが、おばあちゃんはいつも寝たきり。一度も起きた姿を見ることがないまま、入れ歯ができて、装着する日も寝ていらっしゃいました。
私が帰った後に目覚めて、娘さんが「ご飯を食べてみようか」と声をかけたら「あれが食べたい」ってピザを指差したんです。そして小さくカットしたものを口に入れたら「味あるなあ」と言ったそうです。その話を後日伺って、とても嬉しく感じました。

―寝たきりの患者さんが「食べたい」と言うのは、凄い変化ですね。

何がきっかけで食べられるようになったのか、本当の理由はわかりませんし、歯科衛生士とも「私たちは何もしていないのにね」と話すことがあります。
けれども自分のことを心配してくれる人がいる。優しい言葉をかけてもらったら気持ちが上向くことってありますよね。「先生がそう言ってくれるなら好き嫌いをせずに食べよう」「あれも食べてみよう」とか、機能に問題がない方であれば、食べられるようになるんです。

―それは外来診療では体験できない醍醐味ですね。

ご家族と深く関わり、喜びを分かち合えることがやりがいです。以前、認知症の奥さんを介護するご主人から「どんな献立を作っていいのかわからない」と相談を受けて、旬のカボチャを使ったグラタンの調理方法や2人用のレシピを調べて渡したことがありました。
「おいしくて、家内も喜んで食べた」と聞くと、他の患者さんにも教えて喜んでいただいて、それがどんどん広がっていきましたね。

―歯科医と患者の関係を超えて、まるで家族のようですね。

自宅にお伺いするので家族構成もお孫さんの名前も知っている。そういう関係はとても楽しいですよ。歯科衛生士も自分の親のように患者さんを慕ってくれて、YouTubeで曲を流して一緒に歌ったり、それが口のリハビリにもなります。
口腔ケアの後は、デイサービスのようなことをやっていますね。

私たちが来る日が待ち遠しくて、当日は笑顔で楽しんでいただく。そんなことを目的に、訪問診療に取り組んでいます。

 

チーム医療の一員となって、よりよい口腔ケアを実現したい。

―訪問歯科は他職種や地域に浸透していますか。

医師やケアマネージャー、自治体の福祉課の方などに口腔ケアの重要性について伝え、施設でスタッフ向けの勉強会なども実施していますが、最近では理解していただける方が増えてきたと思います。

ある若い医師から相談を受けて患者さんの自宅に訪問したところ、拘縮などで口の中を噛み込んで血だらけになっていました。そこで抜歯の施術をしましたが、その場で医師がずっと見守ってくれたんです。
その後、尿の細菌数が減って体調もよくなっているなど、患者さんの変化について医師と歯科の立場で意見交換をするようになりました。こういった連携が増えると嬉しいですね。

―まだ、多くの課題が残っていますか。

チーム医療が推進されるなか、医師と看護師、ケアマネージャーなどは密接にコミュニケーションが取れていますが、歯科医は置き去りの状態です。口腔ケアの重要性を理解している医師もいますが、そうでない医師も少なくありません。一言相談してもらえたらうれしいですね。

―例えば、どんなときに声をかけてほしいですか。

特にこれといった疾患がないのに、食事が減ったり、むせたり、食事を嫌がったときですね。入れ歯が合っていない、歯が痛い、口内炎や口腔カンジダ症を発症している可能性、また、口の中を清潔に保っていないとおいしく食べられず、食欲が減退することがあります。

―特に高齢者の場合、症状をきちんと伝えられない方も多いのでは?

そうですね。食べないからといってお粥やミキサー食にしたり、食事を下げるのは、少し乱暴な気がします。形のない食事を出されたら余計に食事をしたい気持ちが失せてしまいますから。

まずは原因を知り、少しでも形のあるものを食べてもらう、一口でも食べられるようになってもらうことを目標に取り組んでいくべき。
そのためには医師と一緒に歯科医が訪問診療に伺う仕組みをつくり、チーム医療に歯科医師が加わることが当たり前になってほしいですね。

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▲「おばあちゃんの入れ歯を作ってからお孫さんの運動会に行き、笑顔で写真撮影をしたご家族からは『やっぱり歯が見えているといいですね。昔の母を思い出します』と感謝されたこともあります」と語る村田先生。そういう言葉がやりがいに繋がるそうです。

 

元気の素はすべて患者さんから貰っています。

―これから歯科医を目指す方へのメッセージをお願いします。

訪問歯科はメジャーでも花形でもなく、とても地味な分野です。今の若い人たちはインプラントをはじめとする最新医療を目指す方が大半ですが、数十年後にはインプラントを施術した高齢者のケアが大きな問題になると思います。日々のメンテナンスが重要なインプラントをどう維持していくのか。
その点も含めて訪問歯科のニーズは高まり、これから担っていく役割は大きくなると思います。

―訪問診療を通じての気づきはありましたか。

人は生まれたときから亡くなるまで口で食べることが一番の楽しみ。元気にもなります。私たちは、口から食べることを当たり前のように思っていますが、高齢になると飲み込めなくなることが実際にあるんです。こうやって専門的な仕事をしている私でさえ、これまで考えたことがありませんでした。訪問歯科をしていたからこそ、気づくことができたと思います。

死に直面することもそう。施設で亡くなったことを知らずに訪問して、せっかくだから作った入れ歯をケアマネージャーと装着して「笑っているように見えるね」と話したこともありましたね。

―貴重な体験をして、ご自身は変わりましたか。

イライラすることが減り、怒らなくなりました(笑)。些細なことを気にしてもしかたがない、気が長くなりましたね。歯科衛生士も患者さんと家族ぐるみでつき合い、みなさんのおかげで自信がつき、誇りを持って仕事をしています。
私自身、彼女たちがいたからここまで頑張ってくることができました。仕事のモチベーションやパワーはすべて患者さんから貰っています。

▲「この仕事が好きな歯科衛生士は、自分の親だったらどうだろうという視点で、もっとこうしたい、こんなことにも取り組みたいと考えながらケアにあたっています。私が開業以来、頑張ってこられたのは、そんな彼女たちの支えがあったからです」と笑顔で語る村田先生とスタッフのみなさん。

 

取材後記

笑顔を絶やさず、明るく元気に取材に応じていただいた村田先生。歯科衛生士の女性スタッフと一丸になって訪問歯科に取り組む情熱や想いがひしひしと伝わってきました。長年、一緒に患者さんをサポートする歯科衛生士さんは3年前にガンを発症し、治療をしながら今の仕事を継続。「私たちは毎日、患者さんや家族のみなさんから元気を貰っています。だから頑張っていきたいんです」と笑顔いっぱいに語る姿は、取材陣の私たちの心に強く響きました。さらに高齢化が加速して訪問歯科のニーズが高まるなか、地域や医療機関とチームをつくり、いくつになっても自分の力で食べ、誰もが生き生きと暮らせる生活を実現してほしいと願っています。

◎取材先紹介

むらたデンタルクリニック
〒542-0081 大阪市中央区南船場4-12-9 クレスト心斎橋2F
TEL:06-6282-0780
http://www.murata-dc.com/

<取材・文 藤田 美佐子 /撮影 前川 聡>

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