自らハブとなり「医療の枠」を超えたネットワークの価値を提供したい -えびす英クリニック 院長 松尾 英男-

渋谷区恵比寿にあるえびす英クリニックは2001年に在宅医療専門クリニックとして開業されました。現在は渋谷区・目黒区全域と港区、世田谷区、品川区の一部地域を診療範囲とし、医療従事者間での連携はもちろんのこと、高齢者やその家族が必要とする様々な業種・業界の方々とも連携をされて患者の痒いところに手が届く充実したトータルサポートを実現されていらっしゃいます。
今回は、幅広いネットワークを構築するための秘訣や多職種連携のメリットについてお話をお伺いしました。

 

▲松尾 英男(まつお・ひでお)さん

在宅療養支援診療所 えびす英クリニック 院長

杏林大学医学部卒業後、同大学消化器内科へ入局。医局人事により関東中央病院、三鷹中央病院を経て在宅医療専門の曙橋内科クリニックへ勤務。2000年代官山内科クリニック院長就任。その後独立し、2001年に在宅療養支援診療所えびす英クリニック開業。

 

24時間対応が可能な施設がなかった15年前

-在宅医療をはじめられたきっかけを教えてください。

卒業後は大学病院の消化器内科医として勤務しました。肝癌、膵臓癌など消化器癌のターミナルケアも多く行いましたが、とにかく多忙で時間が足りず、診察では一人の患者さんあたり数分ずつしか患者と会話をする時間を持つことができませんでした。

大学病院は最先端の治療法などを学べましたし、とても貴重な経験が積めましたが、次第にもっと患者一人ひとりと密にコミュニケーションを取って治療を行えないかと考えるようになりました。そんな時に、知人に在宅医療専門クリニックを紹介してもらい見学に行ったことがきっかけとなり在宅医療に出会いました。

 

-在宅専門クリニックを見学されてみていかがでしたか。

在宅医療は患者宅で診療を行うため、自然と医師と患者の目線が同じになります。患者や家族と会話をする時間がしっかり取れるという点も私が求めていた医療に近かった。だから、半年間の非常勤医を経た後、こちらのクリニックに常勤医として勤めるようになりました。

 

-在宅医療の現場が理想に近かったということですね。

そうですね。渋谷区内のグループクリニックで院長もさせていただきましたが、せっかくなら自分で在宅専門のクリニックをやってみたいと思い、1年後に同じ渋谷区内にてえびす英クリニックを開業しました。

 

-在宅医療を中心に行うクリニックはまだ珍しかったのではないでしょうか。

看取りをやってほしい、通院ができないので自宅に来てほしい、24時間診てほしいといったニーズは当時からありましたが、渋谷区内で在宅医療専門クリニックはありませんでした。

またクリニックに限らず、訪問介護、看護介護など含めて24時間緊急対応をしてくれる施設がほとんどなかったため、毎晩患者から3,4本の電話がかかってきました。緊急往診はもちろんですが、発熱や痛み、さらに点滴がとれたなど本当に様々な相談が毎晩あり、当時は替わりの医師もいませんでしたので、全て私が対応していました。

 

▲ネットワークは在宅医療の基本。「僕は1人のマンパワーしかないけど、僕の後ろに何百人ものネットワークがあれば、目の前の患者さんが助かるじゃないですか。」と話す。

 

多職種連携を強化し患者の満足度をあげる

-1院での対応はかなり大変だったのではないでしょうか。

以前勤めていたクリニック同様に引き続き渋谷区で開業したのは、信頼していたケアマネージャー、病院のMSW、訪問看護師との関係を引き続き維持したかったからです。在宅医療の場合は、やはり「横」の連携が大切です。開院当初は医師が私一人でしたので、多職種連携はクリニック経営の上でも必須条件でした。

また夜間診療に関しても、当初は他に出来る施設がなかったので私が対応していましたが、次第に24時間対応可能な訪問看護ステーション等が出来てきたので、そういった施設との連携を強化しました。

 

-開業当時と比較して多職種連携に違いはありますか。

24時間体制の施設が増えたため、夜間対応は看護師などと役割分担出来るようになりました。また開業以来、医療機関や医療従事者と連携を積極的に行っているため、患者の悩みや相談により幅広く対応できるようになっています。

例えば独居の寝たきりの方の場合お薬を取りに行くことができないケースが多いのですが、複数の薬局薬剤師とも提携しているため、薬剤師に服薬指導や薬の調合等をお願いしています。また看護師や薬剤師に限らず、数が少ない往診可能な眼科、耳鼻科、皮膚科とも提携するなど、様々な専門を持った医療機関との関係も大切にしています。

 

-幅広いネットワーク構築が大切なんですね。

医療に限るわけではありませんが、ミスが起きる可能性を最小限にするには、複数の人間でチェックすることが大切ですよね。

例えば薬の処方の際には全てを自分だけで行わずに、できるだけ薬剤師、看護師にもチェックをしてもらったり、患者の家族も巻き込んで一緒に薬をチェックするなど複数の目で確認するようにしています。在宅医療では信頼できるパートナーを見つけることがとても大切だと考えています。

▲在宅医で定期的に集まり情報共有する場も設けている。「在宅医という同じ環境、立場に立つ者同士で悩みを共有したり、失敗談、成功談を聞くことがプラスになります。医療だけでなく子育ての話など、同じ立場だからこそ分かり合えることが多いです。」と松尾医師。

 

医療者に限定しない幅広い人脈構築

-往診の際に気を付けていることなどありますか。

診察はもちろんですが、会話を通した「情報収集」を大切にしています。例えば緊急病院を選ぶにしても、病院によって入院費用は異なりますよね。1泊4万円の個室でも収入的に大丈夫かどうかといったことを、緊急時に慌てて家族に確認しているようでは遅すぎます。

症状や治療の経緯はもちろんですが、患者の周辺情報についても日々の診察で情報収集しなければいけません。そのためにも、診察の際には我々が患者と同じ目線になることで話しやすい雰囲気を作るよう心掛けています。

 

-往診では治療を行うだけではないのですね。

当院では重症者や末期がんのターミナルケアも行っているため、診察の際に自然と相続や葬式のお話になることもあります。そういうことを何度か経験していくと、在宅医療は医療従事者間の多職種連携だけでは、足りないのではないかと考えるようになりました。

私もこの15年ほどの間に様々な相談を受けており、そういった際には長年に渡って信頼関係が構築できている医療、介護関係会社、弁護士、司法書士、葬儀社、身体障害者でも対応出来る旅行会社、お坊さんなど様々な方をご紹介しています。

家族の込み入った部分であるからこそ、逆に在宅医が中心となり医療面でのケアとあわせて、医療以外の分野でも必要な人材を適宜紹介することで、家族がいつまでも仲良くいられると考えています。

▲医療だけではない様ざまな家庭事情の相談にものる松尾先生。「訪問医は患者さんが亡くなった後、家族がより良く生きてくるところまで考えるものです」と話す。

 

-在宅医療にとって横の連携はとても重要ですね。

在宅医は全てのプロフェッショナルにはなれませんが、我々が中心となることで様々なケアを提供することができると思います。また、同じ地区でも患者によって家族構成や家庭環境は様々ですので、それぞれのニーズにあったきめ細やかなフォローをするためにも沢山の信頼できるパートナーを見つけておく必要があります。私自身も、そんなかかりつけ医にみてもらいたいですしね。

▲「在宅医療をやっていておもしろいのは、今回の取材もそうですけど、医者だけじゃない色んな職種の人と出会えることですね。」と人脈を大切にされている松尾先生。

 

-これから在宅医療を目指す方に一言。

病院での診察と異なり、在宅医療では医療従事者に関わらず様々な方々と触れ合う機会があります。多職種連携を実現するためのチャンスは沢山ありますので、どんどん新しい場に出向いていくことをお薦めします。

信頼は数珠つなぎで広がります。新しい出会いの先にはさらに新しい出会いがあります。医療従事者はもちろんそれ以外の業種も含め、信頼できるパートナー達との幅広い多職種連携はよりトータルに患者のQOL向上を実現することができるでしょう。

 

取材後記

在宅医療に長きに渡って携わっている松尾先生は「東京在宅クリニック院長の会」の会長も務めています。当時、コンサルや業者に頼らず開業準備を全て行い、また開業後も人事・保険等の手続きは全てご自身で行われたご経験を、少しでも他の方々にも役立てたいと立ち上げたそうです。現在は数十名の在宅医療の院長が会員として所属しており、医療技術だけではなく経営や人事についてなど院長として関わる様々な情報を共有しているそうです。その他、「おやじの会」という小学生のお子さんを持つ父親の会にも所属するなど、お仕事に限らずプライベートでも横の繋がりを大切にされる方でいらっしゃると感じました。

 

◎取材先紹介

えびす英クリニック

東京都渋谷区恵比寿南2-17-2 プリマベーラ102
TEL:03-5720‐7760
http://hideclinic.com/

 

<取材・文 ココメディカマガジン編集部 /撮影 菅沢健治>

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