行政と医師会のネットワークをフル活用し多職種連携を実現 ‐貝坂クリニック 院長 髙野学美‐

東京駅、国会議事堂、皇居、霞が関・丸の内・大手町…。これらの政治・経済の主要エリアを全て抱え込んでいるのが東京都千代田区です。そんな「日本のへそ」とも言われる千代田区の特徴の一つとして昼夜人口の違いがあります。昼間人口が80万人以上であるのに対して夜間人口はなんと6万人以下。これは23区内で最も高い昼夜人口比率です。

そんな特徴あるエリアに2006年に開設した貝坂クリニックは、千代田区医師会の活動にも精力的に取り組んでいます。

院長の髙野学美先生は、行政や医師会が提供するサービスやシステムをフル活用し、医療・介護従事者たちと密に連携を取り、包括的なケアの提供を行おうと日夜まい進されています。地域包括ケアが重視される中で、今回は高野院長に多職種連携を実現するポイントについてお話を伺いました。

<ドクタープロフィール>

貝坂クリニック 院長 髙野 学美(たかの・まなみ)先生

慶應義塾大学医学部麻酔学教室を経て獨協医科大学越谷病院に勤務。その後、カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学し、獨協医科大学講師、慶應大学病院勤務後、2006年貝坂クリニックの立ち上げに副院長として携わる。2013年から同クリニック院長に就任。

千代田区医師会副会長、慶應義塾大学医学部麻酔学教室非常勤講師、認知症サポート医。

 

多職種連携を実現するため無くてはならない「情報共有」

-千代田区ならではの医療制度などあるのでしょうか。

同様の制度を実施している地域もありますが、千代田区では「かかりつけ医紹介制度」を行っています。ご高齢の方でかかりつけ医がいない場合、医師会や保健所、地域包括支援センター等を通して最適な医師を紹介しています。
とはいえ、かかりつけ医がいれば全て安心というわけではありません。医師の往診は月に2回程度のため、定期的に訪問している介護サービス従事者の方々やケアマネ―ジャーの方との連携はやはり大切です。彼らの情報を関係者全員で共有し、包括的なケアを行うようにしています。

 

-情報共有に成功された例を教えていただけますでしょうか。

往診の際には特に問題がなかった患者さんが、数日後におむつに黒い尿をされたと介護福祉士から報告がありました。血尿とも異なる症状ですので、私のほうですぐに専門医に相談し、翌日には病院から受入可能との連絡を受けてすぐに入院することができ、大事に至らずに済んだという事例がありました。

この事例には2つのポイントがあります。介護福祉士からの報告によって、かかりつけ医である私が危険な状態であることにすぐに気づけたこと、そして提携先の病院と迅速に連絡をとり翌日に入院させることができたことです。

 

-入り口(情報収集)と出口(入院先の決定)の両方との連携ができていますね。

私どもがスムーズに多職種連携を行えているのは、行政が提供しているメディカルケアステーション(以下:MCS)というSNSを、関係スタッフ全員で共有していることが大きいです。MCSでは、患者一人ひとりにかかりつけ医を中心とした看護師、薬剤師、ケアマネージャー、介護サービス従事者などが紐づいており、全員が同じ情報を共有することができます。先ほどのケースも、このMCSに掲載された介護福祉士の報告をもとに迅速に判断することができました。

他にも、「奥様が介護に少し疲れているようなので、患者さんだけではなく奥様のサポートもお願いします」といった、ご家族の情報も共有することで、よりトータル的なサポートを行っています。多職種連携、包括ケアを実現するためには、やはり「情報共有」が大切だと日々実感しています。

 

的確な治療を提供するために行政や医師会をフル活用

-やはり情報共有は大切だと改めて感じます。

現在利用しているMCSは、千代田区医師会を通して行政から無償で提供してもらっているため、私どもは閲覧・入力用のiPadのレンタル料を支払うのみで、このネットワークを活用することができています。

 

-それは事業者側の負担が少なくて導入しやすいですね。

MCSの無償提供に限らず、現在千代田区医師会では在宅医療の質向上のために様々な取り組みを行っています。例えば、定期的にかかりつけ医、介護福祉士、リハビリ担当者、薬剤師、病院担当者などが会議室に集まり、一人の患者さんに対する治療・ケアの方針について話し合う場を作っています。

 

-一人の患者さんに対してそれぞれ議論をされているのですか。

そうです。こういった会議を開いても、医師が多忙で参加できずケアマネや介護・看護従事者のみで話し合いを行っているというケースもあるようですが、医師不在では意味がありません。私たちは最大限スケジュールを調整し、医師も必ず出席した上で、治療方針の共有や問題点、課題を全員で話し合っています。日々の診療はもちろん大事ですが、スタッフ同士で情報共有・課題抽出することによって、迅速かつ的確なサポートへつながると考えています。

 

-他にも医師会からの情報などあるのでしょうか。

介護保険制度の改正など、在宅医療に関連する法規やサービスが変更になった際には逐一情報が下りてくるため、主治医意見書の作成においては最新情報を基に作成できる点も大きいでしょう。

主治医意見書は介護保険を決定するための重要な指針になるため、患者さんの要介護度、要支援度に大きな影響を与えます。場合によっては要介護レベルが実際の症状と異なるものになり、必要な介護を満足に受けられなくなってしまうこともあります。行政から届く最新情報を知っているかどうかは、医師として最適な治療プランを提供するために最低限必要なことではないでしょうか。

 

高齢化・災害対策…。医師としての地域貢献もミッションのひとつ

-医師会と連携することは在宅医にとっても大きなメリットがありますね。

医師会への参加は任意ですので選択の自由はありますが、病気・治療に関連する最新情報を入手したり、介護保険などの法規変更といった情報も迅速に得ることができますので、的確な治療に行うためには参加は必要なことだと考えています。

また、医師会にはご年配の先生方も多く在籍されていて、学ぶことがたくさんあります。

医師会では指導されながら、指導していくことで次の世代に繋がります。若い先生にもぜひ参加して欲しいですね。

 

-在宅医療以外の分野ではいかがでしょうか。

食中毒や感染症発生等の情報も医師会から最も早く速報が届きます。マスコミから全ての情報が流れてくるわけでは無いので、やはり行政や専門団体からの迅速で正確な情報は治療方針を決定する上で貴重なものだと感じています。

 

-逆に医師会に参加することで大変なことなどもあるのでしょうか。

医師会は幼稚園・小中・高等学校における学校検診や区民健診、休日応急診療、企業や公共機関の産業医、また区で行う救急・災害医療等へ参加するなど、クリニックでの診療以外に様々な地域貢献事業への参加が必要となるため入らない方がいるのかもしれませんね。

医師という職業になったからには、自院だけではなく地域の医療事業にも参加し地域貢献を行うことが使命ではないかと私は思いますが、なかなかそううわけにもいかないようです。

 

多職種連携、地域連携は現在の日本における土台のようなもの

-千代田区ならではの医療課題などはあるのでしょうか。

在宅医療サービスの強化とあわせて現在千代田区では、救急・災害医療の整備を進めています。千代田区は丸の内・大手町などオフィスビルがとても多く、震災が起きた際には、チームとなって災害医療体制を作る必要があります。

取り組みの一つとして、丸の内、大手町の高層ビルを管理する大手不動産会社と医師会でタイアップをして、災害時医療連携訓練、帰宅困難者支援・ボランティアセンター立ち上げ訓練を行っています。毎年より実践的な内容になっており、前回は寝台救急車も参加して災害時のトリアージ訓練を行いました。トリアージ訓練では、限られた時間で医師が救助者の症状や重症度を判定し、応急処置とその後の治療に対する指示を出していきます。的確な判断を下せるように医師会では年に2回、トリアージに関する講義も行うなど、万が一に備えて最大限の準備を進めています。

 

-地域医療には幅広い治療スキル、対応力が必要なのですね。

在宅医療も災害時医療も、迅速な情報収集と関係者間での情報共有が大切です。医師がどれだけ情報を持っているかによって、患者さんへ提供できる治療の幅も変わって来ます。

在宅医療も災害時医療も現在行政が力を入れている分野ですので、これらのICTを使ったネットワークシステムを活用して、より最善の治療を患者さんに提供することが私たち医師にとって必要だと感じています。

 

取材後記

在宅緩和ケアやがん疼痛治療を始めとした在宅医療を行っている髙野院長は、千代田区医師会副会長、さらに同医師会の介護保険委員も務めており、より幅広い視点で多職種連携や地域連携について問題意識を持っておられます。現在の日本で起きている様々な医療問題に対して「迅速」且つ「包括的」に対応するために、行政やネットワークを活用して医師として最大限地域貢献をされており、とても勉強になるお話を伺うことができました。

 

◎取材先紹介

貝坂クリニック

〒102-0093
東京都千代田区平河町1-4-12 平河町センタービル10階3号
TEL:03-5213-6710
http://www.kaizakaclinic.com/

 

<取材・文 ココメディカマガジン編集部 /撮影 菅沢健治>

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