外資系コンサルとして医療を俯瞰した武藤医師が「在宅医療」に取り組む理由とは。 ―医療法人社団 鉄祐会 理事長・祐ホームクリニック 院長 武藤 真祐―

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開成高校から東京大学医学部、同大学院では基礎研究で博士号を修め、早稲田ではMBAを取得。医師としてのキャリアも東大病院、三井記念病院で循環器内科を経て、宮内庁で侍医と順風満帆であろうところ、外資系コンサルタント会社のマッキンゼーに転身。2010年からは在宅医療の現場を理事長として率いながらも、東京・日本・アジアにおける医療の未来をイノベーティブに切り開き続けています。

そんな、在宅医療の世界でもユニークなトップランナーである武藤先生に患者やスタッフへの思い、そして日本やアジアの医療環境において在宅医があるべき姿を語っていただきました。

<ドクタープロフィール>

▲武藤 真祐(むとう・しんすけ)さん 医師

医療法人社団 鉄祐会 理事長・祐ホームクリニック 院長

 

【経歴】

1996年東京大学医学部卒業。2002年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。2014年INSEAD Executive MBA。東大病院、三井記念病院にて循環器内科、救急医療に従事後、宮内庁で侍医を務める。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2010年医療法人社団鉄祐会を設立。2015年にはシンガポールで「Tetsuyu Home Care」を設立し、サービスを開始。東京医科歯科大学医学部臨床教授、厚生労働省情報政策参与。

 

コンサルタントから医業に戻り、現場をゼロから立ち上げることを決意

―さまざまなご経歴をお持ちですが、在宅医療を始められたきっかけは?

医師を志したのは6歳の頃、野口英世の伝記に感銘を受けてなのですが、実際に循環器内科医としてカテーテル治療など、最先端の医学に身を置いていました。そうしたところ、1999年の大学病院における患者の取り違え事故などを機に、医療崩壊がメディアで叫ばれ始めました。現場の医師は一生懸命なのに、社会の医療や医師を見る目の厳しさにギャップを感じ、客観的な立場で医療界を見たいと考えて、マッキンゼーでコンサルタントとして医療を見つめてみることにしました。

2年を終えて医療の世界へ戻る時、真っ先に考えたのは、自分自身で医師として医療に携わっていきたいということでした。コンサルタント的に医療現場に対して「べき論」を振りかざすのは簡単ですが、それは実は、現場は皆わかっていることではあるんです。大事なのは、現場が変わろうとして行動することですが、既存の病院ではそれは難しい。そう考えて、自分でゼロから現場を立ち上げようと決めました。

それで、どの分野にするかを考えた時に、社会の課題である少子高齢化と、今後テーマになるであろう、自宅で最期まで過ごすための解決策となる「在宅医療」に行き着いたのです。

 

―それで2010年に始められたのが、在宅医療専門の「祐ホームクリニック」ですね。

開業に当たってはマーケットリサーチをしてみて、文京区や北区が高齢化にもかかわらず在宅医療のクリニックがなかったので、その辺りで物件を探したんです。ちょうど六義園という公園の近くにいい感じのところを見つけたので、決めました。目の前も桜で、すごくいいんですよ(笑)。

 

―武藤先生というと、内閣府や厚生労働省、総務省が医療におけるICT活用を進める際の委員活動の印象も強いのですが、開業当初からシステムづくりは力を入れられていたのですか?

いえ、当初は医師も私一人でしたし、患者さんもわずかでしたから。ただ、病院時代から書類作成など、本来の医療以外の雑務が多いことには疑問を感じていました。それで、まずは医師だけしかやることのできない仕事が何かを見直すところから始めて、それ以外のことは看護師に任せ、看護師のやっていたことは事務に回すなど、リストラクチャーを徹底的に行ったんです。その上で、ICTが絶対的に必要になり、システムを作り込んでいった形ですね。

 

患者が主体的でいられるよう、病院の外での時間・空間を豊かに

―鉄祐会として現在は東京に4ヵ所、それに東日本大震災直後に作られた宮城県・石巻とで、5ヵ所の在宅クリニックを運営されています。

そうですね。東京は2015年に平和台、2016年に吾妻橋と麻布台が加わりました。患者さんは5ヵ所で1000人くらい、うち施設のご入居者は200人くらいで、ほとんどは居宅にお伺いしています。

 

―居宅にこだわる理由は、どのようなお考えからですか?

我々が目指す在宅医療は看取りにこだわっているんです。今は年間180人ほどをお看取りしていますが、終末期に最期までご自宅などの住み慣れた土地や場所で過ごされることを支援させていただきたいんです。居宅であればご家族とお話して、さまざまな状況を許容しながらそれを実現していくことができます。

一方で施設においては、スタッフに責任や負荷がかかり過ぎぬよう、患者の希望よりも施設側の都合が優先されてしまいがちです。もちろん、今後ますます独居の方が増えていくという意味においては、施設在宅の必要性を感じますが、企業的な考えのために医療のあるべき姿がゆがめられてしまうようなことは嫌なんです。

我々がやりたいのは、終末期のその瞬間のことだけではなくて、在宅という、病院の外にいる時間や空間を豊かにするためのケアの提供ですから、それを実現するためなら何でもやらせていただきます。

 

―亡くなるまでのわずかな時間でも、ご自宅で過ごされるのは価値のあることですね。

そのとおりです、間違いなく。病院と最も異なるのは、自宅では患者が主体的に考えられる点ですね。病状によって限度はありますが、それでも主体的であるように思える、というのがものすごく大事なんです。入院中は起床や就寝、食事の時間や内容までも決められてしまいますよね。もちろん、常に看護師がいて安心といった利点もありますが、それでも我々は最期まで患者が主体的に思える環境を提供し、かつ、それに対して不安もなるべく感じないようにというのを目標に、ケアを提供しています。

 

▲在宅は病院と違い、管理されずに患者が主体性を持って生活できる。「患者自身が主体的であるように思えることがすごく大事なんですよ。」と語る武藤医師。

 

在宅での医療環境はめざましく進歩、病院にも引けをとらない

―この数年で在宅専用の医療機器も増えてきましたが、そうした環境による助けも大きいでしょうか?

それは大きいですね。人工呼吸器を付けられた方や緩和ケアのためのPCAポンプを付けられた方なども、在宅でもたくさん診ています。基本的には依頼があればどのような患者さんでも、重症であっても、それを理由にして断ることは今まで一切していないです。

 

―患者さんの病状で言えば、多いのはどういう方ですか?

がんの方も多いですが、いわゆる廃用症候群と言われるような寝たきりの方もいらっしゃいますし、脳梗塞後の方に認知症の方に・・・、さまざまですね。5ヵ所のクリニックそれぞれの地域柄によるところもあります。例えば、石巻は今常勤医が2人ですが、彼らは共に緩和ケアの専門医ですので、そういった患者さんがやはり多かったりもします。

緩和ケアについては、放射線を使うもの以外は、病院で診るのと同じことが今は在宅でもできますね。それに同じ症状であっても、自宅にいるほうが痛みを感じにくいということもあるものです。その点でも自宅での緩和ケアは優れていると感じますし、その他にも仕組みとして病院だからできて在宅ではできない、といったものはもう、ほとんどないでしょう。

 

在宅医療の教育・経営までサポートすることで、30代医師も注目

―鉄祐会の5ヵ所のクリニックで患者数は1000人ということでしたが、ドクターはどのくらいいらっしゃいますか?

医師は30人で、そのうち常勤が12人、非常勤が18人です。4月には常勤が4人増えますし、30代前半の若い医師がほとんどですね。それは、われわれの教育体制によるところが大きいでしょう。法人内では、全体をまたいでの勉強会や症例検討会を毎週行っていますし、体外的にも、日本在宅医学会の専門医取得の研修プログラムを提供していて、毎年継続的に専門医を送り出しています。そのほか、東京大学、慶應義塾大学、東京医科歯科大学から医学生の研修を受け入れたり、JCHO東京新宿メディカルセンターから初期研修医を受け入れ、今後大学病院から後期研修医をと積極的に教育を提供しています。

 

―在宅医療の「臨床」に加え、「教育」にも注力されているのですね。

はい。後進を育てたいという気持ちもありますし、そういう教育の様子を見て、また別の医師たちも共感して集まってくれるなどして、法人全体が底上げされればと思いますね。また、「研究」についても今、京都大学と臨床研究を行っていく準備を進めているところです。そして、大切なのが「経営」ですね。若い医師には経営意欲もある人が少なくありません。そういう人のために、法人で開業をして院長を任せているんです。

在宅医療にまず必要なのが人です。院長、事務長、看護師、事務アシスタント、往診車のドライバーの5人がセットですね。そうした人材と、資金も法人で用意して送り出すんです。それを見て、自分も将来開業したいと希望する若い先生たちもまた入ってきています。もう本当に「人がすべて」なんですね。いかに優秀な人材に来てもらうかというのが、理事長として私がとても大事に考えていることです。

 

シンガポールを足がかりに、英語・中国語圏のアジアでも展開

―2015年にはシンガポールにも進出されているのですね。

そうですね。1年経って、在宅の患者数も100人を超えました。当地では自動車が税金も高く高級品なので、移動は電車やタクシーです。私以外のスタッフは全員が現地採用のシンガポール人で、患者さんもそうです。

シンガポールとの縁というのは実は、私は2014年にフランスのビジネススクールであるINSEADのシンガポール校でMBAを取得しているのですが、同級生が現地でマネジメントを行っているのです。私は立ち上げから1年間は毎週、今でも隔週に1回現地に行って、日本での我々の医療スタイルを実践してきました。日本にいる時にも毎週、WEBを通じて現地スタッフとミーティングを重ねていますので、遠隔でも問題はないですね。

 

―日本で確立された在宅医療のモデルを、アジアで展開されたいというのは、もともと考えられていたのですか?

それはありましたね。ただ、医療保険や介護保険の制度や環境もまったく日本とは異なりますから、日本と同様に在宅でのケアを行っていこうというときに、どういう編成でやるのか、課金はどうするのか、価値提供のあり方は・・・といったことはゼロから作らねばなりませんでした。看護師の教育ツールやICTのシステムも、日本のものとは別にゼロから作成しましたね。日本式の、日本人らしいケアといったエッセンスはもちろん活かしています。

▲シンガポールではスタッフが英語、中国語を含め、3種類ほどの言語を日常的に使用。そこをベースに、2017年には中国とマレーシアでも展開を始める。

 

病院の外で行うコミュニティケアこそ、世界の医療の新潮流

―「アジア」で「在宅医療」を、ということにこだわられているのですね。

アジアに病院を作る、ということであれば、我々の他にもできる方がたくさんいらっしゃいますから。これからの医療のメインストリームは、病院の「外」にあります。日本では保険でカバーされているので認識されにくいのですが、病院の医療はものすごく高価なものです。それよりも大事なのは退院後のケアやリハビリであって、どの国もコミュニティケアといった言い方で、病院の外にどのような提供体制を作るかに論点が移っているのが実情です。我々としても病院の外で、むしろ病院を補完する機能として何ができるかという考え方で進めています。

 

―実際に、ニーズを感じられていますか?

日本が今、世界に先駆けて急速に高齢化していますが、アジアの国々もそれに続く勢いです。その時に問題なのが、格差ですね。ヨーロッパでは社会が成熟してから高齢化が起きていますから、コミュニティで支える環境がそれなりにできていました。しかし、アジアは全体的に、先進国になる前に高齢化が始まってしまうので、貧富の差がある状態でいかに支えられるかが課題になります。

 

患者の主体性を尊重し、寄り添うのが在宅医のあるべき姿

―武藤先生のお考えになる在宅医療の理想とは、なんでしょうか?

在宅における看取りは大切で実際、法人内での看取り率は7割近くにもなっていますが、それはあくまで結果に過ぎません。それよりは、患者さんにとってオプションが増やせればと思います。患者さんが在宅を望めばきちんと対応しますし、病院に戻りたければそれでも構いません。主体性を持って選べる、というのが大事なのです。そうできる環境を提供したいですね。

もう一つには、寄り添うことです。旧来の医療は、父と子の関係のような絶対的なものでした。その後、インフォームド・コンセントとしてサインをもらうなど契約関係に移行し、病院での医師と患者には、向かい合って落としどころを探るようなところがあるものです。でも在宅医療では、横に座って一緒に「どうしましょうか」と考えるわけです。教師と生徒ではなく、コーチとして一緒に患者さんの人生を歩んでいくんですね。

 

―患者さんが主体性を持って選べるよう、一緒に考えられるわけですね。

ただ、迷う方もおられますので、説明をしながらプロとして好ましい方向に誘導するようなことはありますが、「こうしなさい」「これしかない」というのは良くないですね。決めるのは患者さんであり、ご家族であるべきです。

最終的に答えを我々が持っていたとしても、少なくともこのプロセスを、患者さんが決めたという風に持っていくか否かでは全然違います。説得ではなく、納得をいかに引き出すかを考え、一つひとつの言葉や対応には非常に留意していますね。

ありがたいことに私自身、在宅で何千人という患者さんを診てきましたが、クレームを言われたことはほぼ皆無なんです。短いお付き合いの中でも何を望まれているのかを常にものすごく考えていますし、そのご希望にふさわしいものを提供できる人間でありたいと心しています。まだまだ十分ではないことも多々ありますが、自分の中で大きな目標にしているところです。

 

新しい環境が、在宅医療にチャレンジとイノベーションをもたらす

―最後に、今後の鉄祐会についてビジョンをお聞かせください。

拠点を増やすことは目的ではありません。必要があれば拡げていくことはしますが、それにはスタッフに新たなチャレンジをして欲しいという意味合いのほうが強いです。何年も同じことを続けていると緊張感がなくなるものです。人というのは常に成長することに喜びを持っているはずだと信じていて、私自身も今、ジョンズ・ホプキンス公衆衛生大学院の学生でもあるのですが、新たな環境でのチャレンジというのは大事でしょう。

新たな拠点ができるなどして環境が変われば、皆がんばれると思っています。そうやって、いい人たちが集まって、ここで仕事をして成長していけると思ってもらえるような場所を作り続けたいのです。そのための道具は、臨床でも教育でも研究でも、何でもよいのです。そうした本質的な価値観を大切にして、やっていきたいですね。

 

▲マネジメント層とはビデオ会議も含め頻繁にミーティングを行っている。「納涼会と忘年会は毎年、法人全体で行っているので、新たなスタッフとも直接声を交わしていきたい」と話す。

取材後記

数年前セミナーで武藤先生のお話を聴講し、スマートな口調とICTツールや診療に持参する機器や医療材料の写真入りリスト、それに訪問先での動画などの現場のアイデアを惜しみなく提供される様子に驚かされました。今回お話を伺って、そうした姿勢から多くの“武藤チルドレン”も生まれ、当の武藤先生ご自身も進化を続けておられるのがとてもよくわかりました。これが“武藤流イノベーション”なのでしょう。

 

◎取材先紹介

医療法人社団 鉄祐会 祐ホームクリニック

東京都文京区千石4丁目25-5 KSTビル3階
TEL:050-3784-2001  FAX:050-3784-2989 
http://www.you-homeclinic.or.jp/

 

<取材・文 ココメディカマガジン編集部 /撮影 菅沢健治>

 

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