救急医療の経験から高齢者に安心を提供できる在宅医療を。 -医療法人ユリシス会きむら訪問クリニック 理事長・院長 木村 眞一-

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大阪府箕面市小野原は自然豊かで閑静なエリアです。この大好きな場所に『きむら訪問クリニック』とサービス付き高齢者向け住宅『ポルト・ローサ小野原』を開業した木村 眞一医師は、救急医療で25年の経歴を持つドクター。

救急医時代、多くの高齢者がER(救命救急室)に運び込まれたとき、「気軽に相談してくれたら」「こんなに大変になる前に治療を始めたらよかったのに」と感じたそうです。

現在、周囲のスタッフたちとITも活用して密接にコミュニケーションを図り、高齢者が安心して暮らせる生活をサポートしていますが、これまでの経緯や医師としての想い、今後の展望について伺ってみました。

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▲木村 眞一(きむら・しんいち)さん
医療法人ユリシス会 きむら訪問クリニック 理事長・院長

大阪府出身
昭和61年大阪医科大学医学部卒業後、大阪大学医学部特殊救急部入局
その後、松戸市立病院救命救急センター医長、大阪厚生年金病院救急部部長、
星が丘厚生年金病院救急科部長に勤務。
平成21年にきむら訪問クリニックを設立。

救急医療では“生と死”しか興味が持てなかった

―当初、救急医療を目指したきっかけを教えてください

周りは卒業前に進路を決めていましたが、私は国家試験が終わっても診療科を絞り込めず、迷っていました。
何気に救急医療の本を読んだときに思い立ち、関西で唯一救急医療の講座を設けていた大阪大学に「話を聞かせてほしい」と電話をして足を運びました。

対応してくださった助教授は少しすると熱傷の話をし始めたんです。
火事で体の半分以上が焼けてしまうと急激に水分が失われて想像を絶する体液減少が起こり、亡くなることを初めて知った私は、ダイナミックな変化が人体に起こることに興味を持ちその場で「私を採用してください」と言いました。

―それからずっと救急医療の分野で活躍を?

25年間、救急医療に携わりました。救急車で運ばれてきた重症の患者さんは血圧から体液量、呼吸機能まで激しく変化します。
その間はお互いに語り合うことはなく、数値の変化だけに注目し、救命することに一心不乱。救急医療に携わった時期の前半は、生きるか死ぬかの二択にしか興味がありませんでした。

トリアージで早期予防の大切さを感じる

―前半ということは、その後に転機があったのですか

2004年、臨床研修制度ができて救急教育が必須科目になりました。私は厚生年金病院の救急部の部長として迎えられ、研修医を教える立場になったんです。彼らと看護師とで患者さんを受け入れ、重症度を判断して順序をつけて診断する。救急の第一線では重症の患者さんを優先していましたが、教育の場面では軽い症状の患者さんの処置も教えなければいけません。救急では他の科ではやらないトリアージを学ぶことが重要なのです。

―そこから在宅医療へと結びついたのは?

教育のために救急患者さんを一切断らず、これまでの4倍、5倍の人数を受け入れました。そのうち、入院するのは1割程度で。ほとんどは診察して少し横になったら帰れる人ばかり。もっと前に処置しておけば入院どころか受診する必要もなかったのかもしれない。

特に高齢者は誤嚥性肺炎や骨折などで運ばれてきましたが、こうなるまで放っておくなんて……と漠然と思いましたね。今思えば、この時感じていたもやもやに在宅医療で向き合っているわけですね。

在宅医療の患者さんは元気。当初は何を診るのかと思った

―在宅医療に携わったのは、いつからですか

49歳のときです。救急外来に終止符を打ち、1カ月半、海外旅行に行ってこれからのことを考えました。すると日本から「高齢者の訪問診療のクリニックに行ってみないか」と勧誘の電話がきたんです。そのときに初めて救急とは関係ない訪問診療専門のクリニックの院長になりました。

―実際に患者さんを診察して、どう感じましたか

どんな患者さんがいるのかと思って診てみましたが、当時の担当患者さんは、みんな元気だったんです(笑)。たまにあっても熱が出た、食欲がない、眠れなくなったという程度。風邪なら薬を処方するくらいで、救急一本だった私にとっては医師としての存在意義を感じにくかった。

時々、夜中に異変が起きて往診に行っても大半はその場で処置できることが多く、本当に緊急のときは介護スタッフが救急車を呼んで事後報告。正直、最初の頃は在宅医療にこんなに長く携わるとは思いませんでした。pixta_21977290_S-1-min

在宅医療と救急医療との共通点を見つける

―それでも在宅医療を続けようと思ったのは?

1年半、そのクリニックで患者さんを診ていると、あることに気づきました。救急医療のときは2~3分診察したら見当がつき、何をどうしたらいいのかわかるんです。けれども高齢者は最初の症状がはっきりせず、お腹が痛いのに肺炎だったことも。考え方によっては一番アセスメントが難しい分野だと思うようになりました。

―なるほど、高齢者は一番難しいですか

自分で症状を伝えられない人もたくさんいます。それからは危ないと思ったら、ある程度過剰に予防策を打った方がいいと考えるようになりました。そこは救急医療と似ていて、一見、何も変わったことがないけど腹部の出血などいろんなものが隠れている。
浅い川でも深みがあると思って渡るように、万が一に備えて周到にいろんなアプローチを考える。そこに興味を持ち、もっと在宅医療を突き詰めていきたいという気持ちになりました。

介護は生活、医療は備え付けの消火器のようなもの

―それでクリニックを開業されたのですか?

どうせなら自分でやろうと思い、2009年10月に訪問診療クリニックを開業しました。最初は「訪問の救急」だと意識していましたが、それはごく一部。大半は生活で、介護の時間の方が圧倒的に長い。医療が果たす役割は、廊下に備え付けてある消火器のようなものです。

外来や病院では、病状の診察や検査をしますが、そこに至るまでの経過はわかりません。それに救急医療では病状を客観的に診ることが大切で、主観は邪魔になると思っていました。

しかし、在宅医療では主観が大切で、普段生活を診ている介護スタッフが日々の健康状態をよく知っています。その情報を拾い上げることに努めたらいい。みんなが話しやすい環境をつくることが重要だと感じました。

―どんな方法で情報を拾い上げましたか

チェックシートをつくり、私がほしい情報を記入してもらいました。FAXで送られてきたシートに返事を書いて返信してみんなに共有してもらい、それを何千、何万枚と蓄積していきました。今振り返ればアナログな方法でしたが効果はありましたね。

例えば患者さんの元気がなければ一生懸命に食べさせようとしますが、それが誤嚥の原因になる場合があります。そのとき、3日位はお水だけにして様子をみてくださいとアドバイスをして容態が改善すると、次に同じようなことが起こったとき、「ご飯を止めてお水にしました。いつまで止めたらいいですか」と聞いてきます。そうやって患者さんの症状が良くなり、介護スタッフと共感できたときにやりがいを感じます。

介護スタッフとの連携と効率化、食のあり方がテーマ

―今後の在宅医療の課題は何でしょうか

医師はあくまでも病気を診ることが仕事。病気でない人にアプローチする気持ちは沸きにくいこともあります。一方、介護側は日常生活においての不安や心配がたくさんあります。そこには医療と介護のギャップがあり、不安を解消できるシステムをつくらなければ、いくら病院を隣接して往診を行っても満足は得られない。どうすれば医療は介護現場に役立つのかを考えていかないと大変になってくるでしょう。

そこでお互いが意思疎通を図り、いつでも気軽に質問や相談ができるよう、クラウドを活用してスマホで簡単にアクセスできる仕組みを2016年4月から導入しました。介護報酬が改定されるなか、医療・介護の連携と効率化を図り、質を落とすことなくよりよいサービスを提供したいと考えています。

―これから取り組みたいことについて教えてください

高齢者は食事、睡眠、排泄などの機能障害を起こしますが、訪問診療では特に食べることにウエイトをおいてアドバイスを行っています。これまでは高齢になれば栄養はいらないと言われてきましたが、病気になればカロリーが必要だし、自分で食べる力も重要です。

病状の回復や健康維持のための食事のあり方を伝えていきたいですね。在宅と食、食と命といった分野において、私たちのような医療法人が系統的な方法を見つけて取り組んでいくべきだと感じています。
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ココメディカ読者へのメッセージ

—最後に、読者の皆さんへのメッセージをお願いします

私が訪問診療クリニックを開業できたのは、当法人の理事を務めるケアマネージャーとの出会いがあったからです。医療は病気の治療、介護は生活という視点の違いがありますが、彼女が私と介護現場のパイプ役を務めることで、医療と介護がうまく連携できていると思います。

それから今日まで介護スタッフやケアマネージャーをはじめとする多くのみなさんからの患者さん情報が、よりよいケアの提供に役立っています。これからもお互いの負担を軽減し、患者さんに安心を与える体制づくりに努めていきたいと考えています。

ライター取材後記

木村医師が人の命を助けることに全身全霊をかけた救急医時代の話は、緊急を要するリアルな現場感や情熱が伝わり、時間が経つのを忘れて引き込まれていきました。
そんな救急医療と在宅医療に共通点があることはとても興味深かったです。

現在は、クラウドやインターネットを活用し、医療と介護の連携に先進的に取り組み、効率化やお互いの理解を深めている同クリニック。高齢化社会の加速や介護スタッフの人材不足など、多くの課題を抱える業界のなかで、医療と介護、患者さんのすべての方々が満足できる体制を築かれることを期待しています。

◎取材先紹介

医療法人ユリシス会 きむら訪問クリニック
吹田市五月が丘東13-18 第2誠和ビル210号
TEL: 06-6877-6660
http://www.kimurahoumoncl.jp/

取材・文:藤田 美佐子(オフィスゆきざき)/撮影:前川 聡

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