2025年までに15万人の訪問看護師を育てるために -公益財団法人 日本訪問看護財団 常務理事 佐藤美穂子-

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1994年に創立された財団法人日本訪問看護振興財団(現公益財団法人日本訪問看護財団)では、訪問看護の普及・振興のために、訪問看護等在宅ケアサービスの充実と質の向上を目指して様々な事業を行っています。その内容は多岐に渡り、訪問看護従事者向けの研修の開催といった教育事業を始め、訪問看護ステーションや療養通所介護の直営、開設運営支援、訪問看護や介護に関する調査研究や政策提言、さらに他職種連携や教育機関との共同研究・試行事業等の研究助成など、訪問看護に関わる幅広い活動を行っています。今回は、同財団の佐藤美穂子常務理事に、これからの訪問看護師に何が求められるかについてお話を伺いました。

<プロフィール>

▲佐藤美穂子(さとう・みほこ)さん

公益財団法人 日本訪問看護財団 常務理事 

高知女子大学衛生看護学科卒業後同大学助手を経て東京白十字病院に入職。1986年に日本看護協会訪問看護開発室に入職。1995年には厚生省に入省し老人保健課訪問看護係長に就任後、介護技術専門官、訪問看護専門官、看護専門官等を歴任。2001年に財団法人日本訪問看護振興財団の事務局次長を経て2002年に常務理事、現在に至る。

 

公益財団法人日本訪問看護財団とは

訪問看護をはじめとする在宅ケアの質的・量的拡充を図り、病気や障がいがあっても安心して暮らせる社会を目指し、訪問看護等在宅ケアの事業に従事する人材の育成や事業運営等の支援、調査研究、訪問看護等在宅ケアの事業の運営を通して情報の提供及び制度改善等の政策提言を行なうと共に、訪問看護等在宅ケアの推進に努め、国民の健康と福祉の向上に寄与することを目的とする団体です。

 


訪問看護の普及と質の向上のための活動

訪問看護に関わるようになったきっかけは?

大学時代は看護学を専攻しており、3.4年生になると沢山の病院実習を行うのですが、毎日の病院実習で正直少し疲れを感じることもありました。そんなある日、保健師の実習として生活保護を受けている高齢者のご自宅に訪問する機会があったんです。

「痩せても枯れても一家の主」と、凛として生活をされている方の看護を体験して、こんな風にご自宅に出向いて一人ひとりと向き合って看護をするという選択肢もあるんだと気づきました。

 

病院外での看護のやりがいに気づかれたのですね。

そうですね。大学卒業後、訪問看護を先駆的に行っていた東京白十字病院に入職しましたが、結婚退職後ロンドンに3年ほど滞在して高齢者のシェルターハウスでボランティアを体験し、長男出産の際には現地の訪問看護に触れたことも大きかったです。イギリスでは150年以上前から訪問看護制度があるため、我が家にも退院翌日から訪問看護師が来てくれました。授乳がうまくできなかった私に1日3回も訪問してくれて。赤ちゃんの体温管理などアドバイスをもらうことができ、日本でもこんな制度があればいいと思いました。1986年に日本看護協会訪問看護開発室に入職し、訪問看護制度の創設や訪問看護ステーションの開設支援などに9年ほど携わることに。この時の経験もあって、1995年から厚生省で訪問看護係長として訪問看護ステーションの普及・整備等を行いました。

 

財団では具体的にどのような活動を行われていますか?

日本訪問看護財団では、今までの経験を活かして訪問看護ステーションの運営支援や調査・実践に基づく政策提言、訪問看護師の研修等を行っています。

当初は訪問看護ステーションの開設が順調に伸びていたのですが、2000年の介護保険制度実施後や2006年に7対1入院基本料の新設によって一時期、減少傾向になりました。2012年の医療と介護報酬の同時改定により報酬の引き上げなどがあり、最近は開設が増えてきていますね。

ただ、2000年には全体の6%だった営利法人立訪問看護ステーションが約44%にまで増えており、訪問看護の実務経験がない管理者の存在や、ステーションを開設したものの医師やケアマネジャーとの連携がうまくできずに利用者数が伸びないといった新たな問題が起きています。信頼度の高いサービスを提供するためにも、知識・経験のある訪問看護師を増やすことがこれからの訪問看護における課題です。それらの課題に対して、財団では訪問看護ステーションの立ち上げ・運営の相談支援や、訪問看護師の研修を行っています。

 

▲「小規模訪問看護ステーションでは研修会の参加も大変。財団では、いつでもどこでも学べる「訪問看護eラーニング」を10年前から配信し、累計1万人が受講されています。」

まだまだ足りない訪問看護師

現在、訪問看護師は全国にどのくらいいらっしゃるのでしょうか。

2014年の厚労省のデータでは訪問看護ステーションの就業者数は4万人程度です。同年の全就業看護職員は160万人ほどですので、2.5%程度になります。

 

この数字についてどうお感じですか?

本当に少ないですよね。現在、日本看護協会と全国訪問看護事業協会、そして当財団の3団体が共同で2014年に「訪問看護アクションプラン2025」を提言して、2025年までに訪問看護師を15万人にしようと目標を立てています。

 

今から約3~4倍の人数が必要なわけですね。

そうです、そして数だけではなく、看護の質も同時に高めていく必要もあります。

2015年から始まった「特定行為看護師研修制度」は、訪問看護で必要とされる範囲と専門性を伸ばし在宅療養者のニーズに応えるという意味で、意義があると思っています。

 

特定行為研修によって訪問看護には変化はありますか?

特定行為研修を修了した看護師は、医師から包括的な指示があれば、21区分38行為のうち修了した行為を手順書に基づき判断して行うことができるようになります。訪問看護に必要な分野のスキルを選択して体系だって学ぶことができるため、訪問看護師の判断力や症状マネジメントと技術力が向上することはもちろん、利用者から見ても安全なケアを受けられるという安心感が得られるプログラムだと思います。

 

 

ICTの活用で看護サービスの質向上を促進

医療分野ではICT活用が進んでいますが訪問看護の現場ではいかがでしょうか。

もちろん、訪問看護の現場でもタブレット端末の活用などで記録の電子化や請求事務のシステム活用はどんどん進んでいます。訪問看護師は「介護と医療のつなぎ役」ですが、まず医師との情報共有のスピードと質は欠かせません。各地でネットワーク化も始まっています。

それはそれとして、日本訪問看護財団が「財団方式アセスメントケアプランツール」として開発したケアマネジャー用のアセスメントがありますが、それを訪問看護アセスメントシステムとして愛媛県訪問看護連絡協議会と共同開発しました。

すでに愛媛県では、システムのテスト導入をしており、ここから全国に拡げていくことができればいいと思います。

 

ICT活用で看護の質の標準化を目指すわけですね。

そうです。アセスメント項目が決まっているため、新人でもベテランでも入力すると訪問看護の課題が複数出てきて、その中から訪問看護計画に移します。看護を実施し再アセスメントして訪問看護計画を見直す流れができるのです。

誰でも根拠に基づく看護計画を立案できるようになると、訪問看護の質の均てん化と訪問回数や時間、内容の標準化になります。実施した結果を再アセスメントして成果の見える化にもなります。

今後は、AIを活用してこれらのケアデータを蓄積していければ、今までなかったケアデータ解析も可能になると思います。DPCなどにより入院医療はどんな対象・疾患にどんな治療をして、何日入院して治癒したなどのエビデンスが明確ですが、看護やケアはファジーな部分もあり、数値化しにくいのです。しかし、医療の専門知識をもって、在宅医療・介護にかかわる訪問看護師のケアデータを活用する意義は大きく、とても関心がありますね。

▲これまで数多くの訪問看護師と接してきた佐藤さん。「看護師は多職種と連携し医療と介護を一体化したケアができる唯一の職種。“訪問看護の見える化”が大きなテーマです。」

 

「看看連携」強化で早期退院の実現を

訪問看護と病院との連携についてはどうお考えでしょうか?

とても大事です。実は、病院は脆弱な高齢者にとって、大変危険な場所なんです。院内感染の危険性もあれば、刺身など好きなものが食べられない、運動も不十分などでサルコペニア(筋肉減少)や生活不活発病を起す可能性もあります。ですから、病院看護師さんには早く在宅医療・訪問看護に引き継いでほしいと思っています。

がん末期の患者さんの場合、やっとご自宅に帰られたのに2週間で亡くなられることもあります。訪問看護は慢性的な状態の方をケアするものなのに、急性期のようになってしまっている現場もあります。病院と訪問看護ステーションの看護実務者同士が連携して、早めに患者さんが自宅に帰れるようにすることは課題ですね。

 

現状はうまくいってないのでしょうか。

まだまだ退院を決めるまでの期間が長過ぎますね。

理由の一つは、なかなか自宅に戻れない入院患者の増加で苦労されていることと、訪問看護について知らない看護師が多いのではないかと思います。そのため患者さんのゴールは「退院か転院させる」ことになってしまって、訪問看護師が在宅療養生活を支えることが想定されていないかも。

3ヵ月以上も入院していれば、なかなか帰宅するのが大変になりますね。特に精神科病院などは1年以上の入院患者が8割以上で、退院後も生活力が復帰しないなどの問題があります。私たち訪問看護側の感覚で言うと、病院はあくまで利用施設。ですので、入院治療のめどがつけば、早く在宅療養に戻るべきなんです。「病気は家庭で治すもの」です。この辺りをもっと理解していただきたいなと思っています。

 

病院看護師にもっと訪問看護の考え方を知ってもらいたいですね。

訪問看護師は退院した患者がその後どうなっているのかを病院看護師にフィードバックする機会も作りたいですね。

病院だけで働いていると在宅療養のイメージがつきにくいと思います。訪問看護では病院のように全て揃っている環境での看護は難しいので、ご自宅にあるものを応用してケアを行うことは当たり前。訪問したお宅ではご利用者がちゃんと食べられているのか不安があると冷蔵庫を確認して、何も食べ物がなければその場で必要なものを買ってきて用意するなんてこともあります。そういう型にはまらない気配りも訪問看護では必要になりますから、病院とは考え方も求められる行動も違いますね。

今後は、訪問看護師がその地域住民の健康の番人のような役割というか、保健も医療も生活支援もできるコミュニティナースのような存在になることが求められるでしょうね。地域包括ケアにおいて、訪問看護師の活躍できる範囲はまだまだ拡がります。

 

訪問看護師を増やすために 

2025年までに訪問看護師を増やすためにはどんな取り組みが必要でしょうか? 

まずは看護基礎教育の「在宅看護論」で、病院看護とは違う在宅の面白さや醍醐味を伝える必要があります。現段階では訪問看護を経験している教員が少ないのですが、今後は増えてくるでしょうから、しっかり病院と在宅の2つの場所で看護を提供することの大切さを看護学生に教えてほしいですね。

最近は、国の在宅医療推進の政策もあって、訪問看護の研修会では病院の看護師さんが増えています。明るい兆しですね。あとは処遇や働きやすさといった職場環境の問題も解決する必要があります。新卒から引き受けて育成できる規模の大きな訪問看護ステーションも必要です。

 

職場環境の問題とは?

例えばキャリアアップですね。病院は組織的にラダーなどを活用して評価し合うことができますが、訪問看護師は1人で訪問してケアをするという仕事ですので、看護の質が保てているかという客観的な評価が難しいのです。不安になって中堅者が離職することもあります。

財団が発行した「訪問看護OJTガイド」は、本人ができている自分を確認しながら必要な研修を受けるなどに活用されています。財団立訪問看護ステーションでは入職者全員、訪問看護eラーニングを通して自身の業務の得手不得手を確認することにしています。

もう数年前から財団では訪問看護師の生涯研修体系を提案しているところです。卒後の研修として、初任者、キャリアアップ支援としての中堅者や管理者用研修、認定看護師、専門看護師、特定行為研修修了看護師など、訪問看護師の仕事を生涯に渡って続けることができるような展望を描いています。

 

待遇面にも課題がありますか?

その部分もやはり看護師数を増やしたいと思うとまだまだ整備が必要です。

訪問看護ステーションも24時間体制が求められる中で、携帯電話当番は夜勤や当直ではない位置づけになっています。この辺りの評価をもう少し手厚くして、病院看護師と訪問看護師の給与差縮小に反映していければ、訪問看護につきたい人も増えるでしょうし、同じステーションでより長く仕事を続けられるだろうと思います。

 

訪問看護師は、「人明かり」を胸に

最後に一言お願いします。 

私たち訪問看護師は、一人ひとりに寄り添う「人明かり」になりたいと思うのです。「人明かり」とは、2016年5月に財団の作った訪問看護テーマソングなのですが、看護や介護を必要とする人を最期まで優しく見守る心のことです。すごく情緒的ですが、訪問看護師はそういう役割だと考えています。

超高齢社会が進む今、医療と介護を一体化して実践しながら多職種とつなぐ訪問看護の重要性はより高まってきています。卒後教育の見直しや職場環境の整備によって訪問看護師への間口を拡げたいと思います。訪問看護師の皆さんがやりがいを持ち、かつ将来のキャリアプランを描いていけるように、様々な制度改善の提言や仕組みづくりを行っていきたいと考えています。


取材後記

2025年に向け訪問看護師はまだまだ足りません。今後もっと多くの看護師に訪問看護師として働くことの面白さや、在宅の現場で患者さんとどんなやりとりが行われているかを知っていただき、訪問看護の門を叩く方が少しでも増えてほしい。そのためにココメディカマガジンでも訪問看護を応援していきたい!と佐藤さんのお話を伺いながら気合を入れ直しています。

 

◎取材先紹介

公益財団法人 日本訪問看護財団

http://www.jvnf.or.jp/
TEL:03-5778-7001

 

<取材・文 ココメディカマガジン編集部 /撮影 菅沢健治>

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