キュア<治療>から一歩踏み込む、総合ケア<癒やし>へ -医療法人祐星会 桃クリニック 院長 後藤 克子-

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大阪・桃谷の住宅街にとけこむように建つ、「桃(もも)クリニック」。地域の幸せを願う“桃”と“四つ葉のクローバー”をモチーフにしたロゴ看板が印象的です。

院長の後藤克子先生は、大阪市内の病院で整形外科医として20年のキャリアを積んだ後、ご自身の家族の看取りがきっかけとなり、訪問診療の専門クリニックを開業。患者本人と家族が望む医療と介護、看取りにこだわった活動をされています。

また、訪問看護師や介護スタッフなど、現場を支える人々から拾うリアルな声を生かした「医療と介護の勉強会」にも力を注がれています。

在宅医療に対する課題感や思いを、率直に語っていただきました。

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▲後藤克子(ごとう・かつこ)さん
医療法人祐星会 桃クリニック 院長

和歌山県立医科大学医学部卒業後、大阪大学医学部整形外科研修を経て、大阪府立救命救急センター、大阪警察病院整形外科、四天王寺病院整形外科などに勤務。
2012年(平成24年)10月に桃クリニックを設立。

患者と家族の看取りを経験して、在宅医療の道へ

—訪問診療の専門クリニックを開業された、経緯を教えてください。

クリニック開業まで、整形外科医として20年くらい病院勤務をしていました。一番長く勤務した四天王寺病院は社会福祉法人だったこともあり、80代から90代のご高齢の患者さんが圧倒的に多く、手術などで骨折は治癒しても筋力低下や内科的な合併症などによって、ご自宅への復帰が困難になってしまう患者さんを数多く目にしてきました。

ある時、糖尿病の入院患者さんが若い時に手術された人工関節から細菌感染を起こし、抗生剤などの治療を尽くしても熱が下がらず、最終的に病院でお亡くなりになったことがありました。
「とにかく1日も早く帰って家で死にたい。足を切り落としてもいいから家に帰らせて欲しい」と訴えていらした患者さんの辛そうな表情が忘れられなくて。患者さんにとって、本当に幸せな最期ってなんだろう?と自問自答するように。

さらに私自身、家族の看取りをした経験も大きいですね。実家が火事に遭い、父が大やけどを負ってICUへ救急搬送。せめて最期は私の家でと思い、煙を大量に吸い込んで肺の状態が悪かったので在宅酸素療法ができるよう病院へお願いしたところ、「こんな状態では帰せません」と諭されました。
私が子育てしながらの共働きという環境も配慮してくださってのことなんですが、結局そのまま病院で息を引き取って・・・。患者本人や家族が望む医療や看取りを叶えることが、どうしてこんなに難しいの?という行き場のないやりきれなさを感じたんです。

—看取りをご家族の立場で経験されて、在宅医療の必要性を確信されたんですね。

そうです。終末期の患者さんには、その時々の症状の変化、年齢、ご本人とご家族の希望に寄り添う総合的なコントロールが必要。医師として「家で穏やかな最期を迎えたい」と望む患者さんの力になりたいと思いました。

開業して見えてきた、病院医療と在宅医療のギャップ

—現在のクリニックの医療体制を教えてください。

開業から4年が経ち、現在は周辺地域(大阪生野区・天王寺区・平野区など)を中心に約150人の患者さんを訪問診療しています。8割が居宅(自宅療養)、2割が老人ホームなどの施設に入居している患者さんで、ほとんどが地域のケアマネージャーからのご紹介です。

患者さんの中心は、80代、90代のご高齢の方で高血圧、糖尿病、循環器系の持病を抱えていて通院が難しい方と終末期のがん患者さんが約半数、軽度から重度の認知症の方が半数くらい。常勤医師は私と消化器系ドクターの2人。必要に応じて非常勤で精神科のドクターにも入ってもらっています。さらに看護師が2人、事務スタッフ数人のチーム体制です。

集患や人材については幸い人のご縁に恵まれたと思っています。そうした苦労よりも、まだまだ病院医療と在宅医療のギャップを埋められていない、という課題感が強いですね。

—在宅医療に携わるようになって、見えてきた課題はありますか?

病院から在宅療養への切り替えが、まだまだスムーズではないところです。患者さんご本人は「家へ帰りたい」と思っていてるのに叶わない現実が未だに多いのは、病院側の医師が在宅医療に対して漠然とした不安を抱いていたり、理解が進んでいないためだと思います。

実際には、訪問看護師や介護スタッフが、患者さんのために24時間体制で気遣い、駆けつけ、家族のように心が通ったケアをしているのに…。患者さんのことを思ってであっても「こんな状態では家へ帰せない」と頭ごなしに言ってしまう病院の医師に、在宅医療の現場をもっとちゃんと知ってほしいですね。

また、今在宅で問題になっているテーマとして「Polypharmacy(多剤併用)」があります。

患者さんが病院から処方されているお薬の内容にも、「こんなに何種類も必要?」と思うことが度々あって。特に80代以上の高齢期になると、その時々の症例だけを診て治療や投薬を行うことが、必ずしもベストとは言えないんです。糖尿病や心臓病などの慢性的な疾患は完治が見込めず、たった1日で病状が激変する可能性もあります。
それなのに、患者さんご自身の要望もあってか2カ月分の薬が処方されているケースも。70代までの患者さんならばまだしも、80代を過ぎた患者さんが2カ月ずっと同じ安定した症状かどうか…在宅医療のドクターを一度でも経験したら、そう考えられるはずなんですけど。

—病院医療と在宅医療は、そもそも何が違うのでしょう?

病院で行うのは、目の前で起きている患者さんの病状を改善する治療「キュア」です。一方、在宅医療は、さらにもう一歩踏み込んだ心身の癒やし「ケア」が主軸です。
病院で退院後の“生き方”と“日常生活”もイメージしたキュア(治療)を行い、在宅医療で年齢や病状に応じたケア(療養)をするという流れが、もっと定着してほしいですね。

そして、在宅療養中の患者さんにとって1日の質を高めていくこと、豊かな1日を積み重ねることが「豊かな人生である」という理解がもっと広がって欲しいと思います。pixta_21977290_S-1-min
▲開業当初は緩和ケアの専門医にサポートを受けながら知識を吸収。勉強会を開催するきっかけにもなった。「今後もいろんな科のドクターにかかわっていただきたいですね」

勉強会を通じて連携を高め、現場の空気を変えたい

—勉強会を行っていらっしゃるのも、そうしたギャップを意識して?

一緒にチームを組んで患者さんを診る、医師・看護師・ヘルパーが、職種の垣根を越えて集まり、スキルアップできる場を創れたらという思いから始めました。
訪問先や立場、年齢や経験値も異なるスタッフ同士が今感じている現場での課題を共有しあい、少しずつでも改善できたら、在宅医療全体のレベルも上がり、世の中の認知度も高まるのではなないかという期待もあります。開業当初からほぼ毎月勉強会を開催しているので合計40回くらいになります。

—具体的にどんなテーマの勉強会を?

現場の訪問看護師やヘルパーから興味のあるテーマや困っている課題をヒアリングして、専門家の先生に講義していただいたり、グループワークを行ったりしています。
高齢者の糖尿病治療、肺炎と肺炎球菌ワクチン接種の意義、終末期の栄養管理、褥瘡(じょくそう=床ずれ)の予防・改善・洗浄ポイント、新薬についてなど。他病院のドクター、製薬会社の方、管理栄養士さんなど多彩な講師陣にお話しをしていただきました。
人気が高いのは認知症の看護・介護と終末期の緩和ケアをテーマにした勉強会で、多いときは80〜100名が集まる時もありますよ。

—勉強会でのつながりを、今後どう生かしていきたいですか?

病院との連携を深めて、病院勤務の医師に向けて何か発信したり、アプローチしたり、永続的なコミュニケーションを作っていけたら、一番理想的ですね。
そうすれば入院から在宅医療へ、切れ目のないスムーズな治療とケアの移行が可能になるでしょうし、ずっと課題に感じているギャップを少しずつでも縮めることにつながると思いますので。

患者が望む「幸せな看取り」を叶えるために

—訪問診療の医師として看取りを通じて感じることはありますか?

終末期のがん患者さんを最期まで診させていただくと、抗がん剤をやめて痛み止めをほとんど使わなくなっても、点滴など必要な補助ケアをするだけで、人間の身体って自分が苦しまないよう、少しずつ自ら幕引きをしてゆく調整機能のようなものが備わっていることに改めて気付かされます。

そして最期は、家族全員に見守られながら、本当に眠るように穏やかに息を引き取られて…。ご家族の皆さん、泣きながらも患者さんへ思い思いの言葉をかけ、お化粧もしてあげて。なんて穏やかで人間らしい最期なんだろうと思います。
患者さん自身が、「結構いい人生だったなぁ」と思える最期のひと時を過ごしてもらえることが一番。医師としてそのお手伝いをさせてもらえると、本当にありがたい気持ちでいっぱいになります。

—そのためなら、365日・24時間体制のケアもいとわない?

もちろんです。患者さん・ご家族からのファーストコールも、基本的に医師が直接受けています。患者さんご自身の容態の変化だけでなく、ご家族が不安に耐えられなくなって夜中にコールがある場合もありますが、そうした精神的なケアの積み重ねも大切だと思っていますから。

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▲認知症の担当患者が自宅を抜け出して徘徊し、近隣クリニックから連絡が入ることも。「もちろん、駆けつけます。さらに今後は地域全体への働きかけも必要だと感じています」

看取りを考える=人間らしい生き方に繋がる

—これからの在宅医療に必要な視点は、どんなことでしょうか?

最近、特に思うのが「口から食べる」大切さ。
高齢の患者さんにとって食べることが苦しみにならないよう、最後まで食事を楽しめる状況や仕組みをどう構築していけるか、もっと医療チーム全体として取り組んでいくべき課題だと思っています。胃瘻のこと、歯科的アプローチ、肺炎に対する考え方にもかかわってくる総合的な問題です。

また、「幸せな看取り」を叶えるためには、本当はご本人がまだ元気なうちに、ご家族を含めて、最期のひと時をご自宅・病院のどちらで迎えたいのか、どういう看取りを望んでおられるのか、どんな状況になったら終末期のサインだと受け止めた方がいいのか、一緒に話し合うことが当たり前の世の中になってほしいですね。

取材後記

いつか必ず訪れる、家族の“看取り”という現実。後藤先生のお話を通じて、在宅医療は、その現実と真正面から向き合い続けることでもあるのだと改めて感じました。
「在宅医療の認知度とスキルが高まれば、自宅での幸せな“看取り”が確実に増え、その経験は必ず次の世代へ繋がってゆくんです」。取材の最後に力強く結んで下さった言葉が印象的でした。

取材・文/野村ゆき、撮影・前川 聡

◎取材先紹介

医療法人 祐星会 桃クリニック
大阪市生野区勝山北1−18−14
TEL:06−6711−5537
http://www.momo-zaitaku.com

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