対話を何より大切に。そのために私が捨てたもの・こだわったもの。-医療法人三つ葉 三つ葉在宅クリニック 代表 舩木 良真-

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中部地方屈指の文教地区である名古屋市昭和区。そのほぼ中央、市営地下鉄鶴舞線と桜通線が交差する御器所駅から徒歩1分という立地にあるのが「三つ葉在宅クリニック」。高品質の医療サービスを持続的に提供することを第一に、複数の医師が集まり対等な立場でグループ診療を行うという新しいスタイルを、2005年の開業当初から採り入れています。今回、代表で医師の舩木良真氏にお会いし、グループプラクティスや多職種連携におけるパートナーシップのメリットについて、また、患者さんを診るときに大事にされていることなどについてお聞きしました。

<プロフィール>

▲舩木 良真(ふなき・よしまさ)さん

医療法人三つ葉 三つ葉在宅クリニック 代表

名古屋大学医学部卒業後、同大学附属病院にて研修。その後、東京のクリニックなどで学び、アジア各国、北欧、ニュージーランドなども医療視察する。2005年4月、新しい高齢者医療モデルの構築をビジョンとする「三つ葉在宅クリニック」を、若手医師4人で設立。

 

「グループで何か新しいことができないか?」から始まった

-どういった経緯で、グループプラクティスを実践されようと思われたのでしょうか?

研修医の頃、毎月集まってディスカッションする医師仲間がいました。友人、知り合い、その先輩や後輩など、多いときは10人くらい。一緒に食事をしながら、見学に行った医療現場の様子とか今後の医療についてとか、いろいろ話し合っていました。そんな中で、グループで何か新しい試みができると面白いな、と考え始め、その中で在宅医療に興味を持つようになったんです。実は、開業しようと思ったときにはもう、一緒にやるメンバーも決まっていて、それぞれが開業に備えて研修や視察などで知見を広げ、持ち寄る形になりました。

 

-先生はどのようなご準備をされたのですか?

いろいろな医療機関を見学した中で、フェアで温かい姿勢に惹かれ、「新宿ヒロクリニック」の英裕雄先生のところで1年間、研修させていただきました。本当にたくさんのことを教えていただき、今も大好きな先生です。北欧、ニュージーランド、アジア各国の医療現場も視察しましたし、山口県のホスピスでも3か月間研修し、国内外の様々な医療現場を見て回りました。

 

-ビジネススクールでMBAも取得されたのですね。

研修医の頃から週末を使って通っていたので、ずいぶん時間がかかりましたが取得できました。在宅医療をグループ診療で行うにあたりマネジメントをどのようにしようかと、最初は組織行動学、ヒューマンリソースマネジメントなどを学ぶのだけが目的だったのですが、通っているうちにだんだん面白くなってきて、結局全ての単位を取りました。立ち上げ時の医師は私も含めて全員ビジネススクールで勉強しました。

皆で同じ方向を向いてやっていく、共通言語を持つ。そのために皆で取ることにしました。私たちのスタイルは、例えばコンサルティングファームや弁護士事務所のような感じで、経営陣はパートナーシップでやっているんですよ。私もあくまでもパートナーの1人。いわゆる代表パートナーですね。

 

-現在は、パートナーは先生を含めて3名なのですね。

そうです。今でも大きな戦略は、基本的にこの3名の合意で進めています。現在、常勤医はこの3名を含めて8名、非常勤医は10名です。

 

-開業前の構想通りのグループプラクティスが実現できていますか?

信頼できるパートナーがいるということは、すごく快適ですよ。例えば海外に長期間行く必要がある、という時に電話の電源を切っていても何も不安はありません。代わりに任せられる相手がいる体制なので安心して休みも取れますし、一般的な開業医の先生方より、当クリニックの医師の労働時間は短いでしょうね。皆で楽しみながら仕事をした上で、しっかり休んで家庭の時間も大切にしたいという、私たちの思いなんです。

 

-スタッフや他のドクターも同様ですか。

はい。もちろん、定時に皆、帰ります。週に1回は3時に早帰りで土日はオフ。有給休暇は全従業員が取得率100%ですよ。QOLの観点からだけでなく、ワークシェアリングを進める上でも休むことは大事なんです。その人の不在によって起こる出来事が新しい課題になるから、それを皆で考えていけるんですね。

 

▲ドクターもスタッフも残業ゼロ。有給休暇を取らないと「絶対取れ」とせっつくのだそう。先生自身も「休みはしっかり取っていますよ。家では4人の子供の子育ても頑張らないといけませんので」と。それでも24時間365日、患者さんへの対応が可能なのは、ワークシェアリングが最大限機能する”仕組み”を作り込んでいるから。

 

ヒエラルキーを排除し、フラットな組織に。

-クリニックには看護師を置かない方針とお聞きしたのですが、その理由は?

従来のヒエラルキーを取り除きたかったからです。医療機関では院長を頂点に医師が上にあり、看護師がその下、というヒエラルキーが生まれがちです。私たちは、全員がパートナーシップで繋がっていて平等だという意識を組織に植え付けたかったので、看護師は100%外部の訪問看護ステーションに協力をお願いしています。そうすれば同じ事業所同士、医師も看護師も対等ですよね。確かに非効率な部分もあり、コミュニケーションコストもかかりますが、組織を守るためにそうしたいという思いがあります。また、外部の人に動いてもらうという苦労の中からイノベーションが出てくるんじゃないかとも思うのです。現在、訪問看護ステーション約60か所、ケアマネージャーさん約200人と連携しています。

 

-組織づくり・連携システム構築と理想を次々実現され、次にもっとこうしたいという思いはありますか?

やはり、患者さんの満足度が一番大事なので、そこをもっと上げたい。そしてドクターを含めた職員満足度と、地域の連携先の満足度も。訪問看護ステーションには満足度調査のアンケートも取っています。

 

-看護師さんにアンケートを?

開業当初に、2回ほどかなり詳細な調査をしました。設定したいろいろな項目と総合満足度との因果関係を統計学的に処理して。その結果、詳しい分析ができたので、最近は総合満足度10段階評価と自由記載だけを定期的に実施して変化を見ています。

在宅医療を行う上で、地域のインフラとして長く続けるというのが私たちの一番の目標です。困った人がいたら必ず受ける、それをずっと続ける、ということですね。そのためにはある程度の余力を持って運営していく必要があるし、連携する職種の人たちも苦しくならないように、と意識しています。

 

-持続的に医療サービスを届けるためにも、働く側の負荷について気を付けていらっしゃるのですね。

かなり気を付けていますね。サービスを家に届ける同じデリバリー型サービスとして、宅配業も参考にしています。労働時間の問題だけでなく、患者さんの「決まった時間に来てほしい」と「困ったらいつでも来てほしい」の両方のニーズにどう応えるか、とかですね。

まだ完全に両立できてはいないですが、当クリニックではほぼ実現できているんですよ。それだけの“余力”をちゃんと持っているからです。予定がギッチリ詰まっていたら、緊急な往診には対応できませんからね。

 

-訪問範囲が名古屋市昭和区、千種区、瑞穂区、東区、中区、熱田区、名東区、天白区の8区をカバー。結構広いですよね。

それを3つのエリアに分けて、3チームがそれぞれでマネジメントしています。3つの診療所があるようなイメージですね。ただ、あくまでチームなので、チーム間でも皆で話し合うし勉強し合う。エリア・チーム制は連携も取りやすいので、休むときも安心してゆだねられるし、患者さんも、同じように診てくれる先生が来ることで不安感を抱かなくて済みます。

▲看護師は置かない。ヒエラルキーは三つ葉在宅クリニックには馴染まないと言う舩木先生。「医療機関では院長の権限が絶対。3人の医師がいて1人がボスだったら、看護師はそちらに目が行くでしょう。他の2人の医師は居心地が悪くなってしまいます」と。ご自分の権限に対しても普段から気を付けていらっしゃるそうだ。

 

“強み”にフォーカスし「持たない経営」を貫く

-開業前からずっと戦略がブレていない、というイメージです。

ここまでグループ診療をやってきて、訪問看護ステーションも持たず、有床診療所も介護施設も持たない。基本的には「持たない経営」というのを貫いています。これは自分たちの強みだけにフォーカスしようという姿勢であり、そこはブレないですね。増やすのはドクターの数と患者さんの数だけ。その増やすスピードについても気を付けています。急成長は歪みを生むことがあるのでリスクが大きいのです。開業当初に5年後、10年後のビジネスプランを書いているんですが、それに近い経営ができています。

 

-患者さんの紹介数をコントロールされている、ということでしょうか。

得意分野と不得意分野がありますから、不得意の方を無理してどんどん入れるということはしないですし、得意な分野を皆さんがわかってくださっているということです。在宅医療にもいろいろなセグメントがありますよね。陸上競技に例えるなら、がんは短距離走でしょうか。私たちは短距離ではなく長距離選手。高齢者医療という長距離走をリタイアしないで走り続けます。5年10年という年月の中で、途中転んで骨折したり、肺炎を起こしたり認知症になったり、いろいろなことが起こるわけです。そのライフイベントを一緒に走る、最期まで。私たちのグループプラクティスで価値が出やすいのは、そういうセグメントです。私たちが提供する価値はこれです、と明確にしています。

 

-そうすると、紹介をいただく先というのは。

まさしく、マラソンしている高齢者と一緒に走っている方からご紹介を受けています。ケアマネージャーさんとかご家族からのご紹介を多く頂いています。

 

-ところで、訪問診療する上ではITはもはや欠かせない技術です。こちらでは電子カルテも独自に開発されていると伺いました。

グループ診療では情報共有が大変重要になってきます。それは、単に医療情報をシェアするだけでなく、医師の様々なナレッジ、それも医学的なものだけでなく連携先とのコミュニケーション方法なども含む知見、それらをどうシェアしていくかというのは、極めて大事なのです。既存のEMR(Electronic Medical Record=電子カルテ)では全然足りない。ナレッジや物流やスケジュールも制御したいし、勤怠管理で誰に負荷がかかっているか、だからこうしようとか、細々制御したいわけです。だから今、この医療法人ではシステムエンジニアを4名雇って自社内で開発を続けています。

 

-システムエンジニアが4名もいらっしゃるんですね!

私たちは施設などのハード、つまり固定資産を伴うものには投資せず、ITに投資している、ということですね。システムはかなり作り込んでいて私がいなくても経営が回るような仕組みができている、グループ診療を円滑にするためのIT投資という訳です。

 

 

患者さんの死生観に寄り添い、対話を大切に

-とてもスマートな印象で在宅医療のイメージが一変しました。

こういう話をすると、冷たい印象で受け止められてしまうことが多いので聞かれなければ自分からは話さないようにしているんです(苦笑)。私自身は医師として診療が何よりも好きで、基本的に朝から晩まで診察しているんです。日中は経営やマネジメントのことはほとんど考えていませんよ。

 

-際立った部分に目がいってしまい、申し訳ありません。経営者としてでなく、お医者様としての患者さんへの思いをお聞かせください。

やはり“信頼関係”を大事にしたい、と思っています。患者さんひとりひとりについて、どんな人生を歩んできたのか、価値観・家族関係などを知って考えた上でないと、その人に適したサービスができない、満足度を上げられないから。ではどうやって知るか。コミュニケーションしかありません。相手の話を聞く。聞いて聞いて情報を集める。初診は1時間くらいかけますし、定期訪問でも患者さんが話し出してくれたらずっと聞いています。すると、その人が何を大事にしていて何が嫌なのか、というのが見えてくるんですね。そうすることで、患者さんの死生観に寄り添うことができるんです。

 

-そんなに話を聞いてくれるお医者さんだったら、患者さんも安心ですね。

そうですね。ただ聞くだけじゃなく、楽しそうに聞きますから。人がどういうふうにその価値観を持つようになったのかとか、とても興味がありますので、本当に楽しいんですよ。人間観察が好きなんだと思います。

 

-信頼関係を築かれる様子が見えるようです。

私は、信頼関係の強さは対話した時間に比例すると思っているのです。医師と患者だけでなく、医師同士、家族間でも、対話の時間を極めて大事にしています。なので、限られた時間の中で、一番多くを占めているのは、患者さんとの時間です。逆に、対話の時間を減らしてしまうもの、例えば講演活動などは、極力避けさせてもらっています。

 

-どこに重きを置くか、ということを徹底して考えているのですね。

私たちのやり方を否定的に見られる方もいるかもしれません。労働時間が短いことしかり、システムエンジニアを雇うことしかり、ちょっと特殊に見えますからね。

在宅医療も、いろいろな人がそれぞれの価値観を持ってやっていらっしゃいますよね。見習うところは見習い、そうしない場合もある。それぞれの得意分野を追究していったらいいのではないかと、私は思っています。患者さんにより、また地域により、さまざまなニーズがあるのですから。

▲ミーティングルームには、三つ葉在宅クリニックが大切にしている信条が貼られている。メンバーが同じ方向を向き、同じ価値観を共有することも、高品質な医療サービスを持続的に供給するためには必要だと考えており、それは「ブレない経営戦略」に繋がっている。

(※人物にはプライバシー保護のため、ぼかしを入れております。)

 

取材後記

経営学の知を活かし、グループプラクティスとITで新しい地域医療の姿を体現。そんな事前情報を手に、前衛的でクールな方を想像し、緊張しつつ取材に臨んだのですが、お会いした舩木先生は笑顔の優しい穏やかな方でした。「あまり前に出たいとは思ってないんですよ。一応、代表ということなので取材にも応じていますが」と苦笑されていましたが、いえいえ、本当に良いお話をたくさん伺えました。まだ揺籃期にあると言える在宅医療。もしも方向性に悩んでいらっしゃる方がいたら、「自らの強みだけにフォーカスする」というお話は、ヒントになるかもしれないと感じました。

 

◎取材先紹介

医療法人三つ葉 三つ葉在宅クリニック

〒466-0015
愛知県名古屋市昭和区御器所通3-12 御器所ステーションビル3F
TEL:052-858-3281 FAX:050-858-3282
http://www.mitsuba-clinic.jp/

 

 

(取材・文/磯貝ありさ、撮影/日置成剛)

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