在宅医療の「今しかない!」に多職種連携で応える ―医療法人社団秀皓会 ふなもとクリニック 院長 船本 全信―

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兵庫県西宮市、JR神戸線甲子園口駅から徒歩数分の場所に、ふなもとクリニックは位置します。現在では訪問看護や居宅支援事業所、デイサービス、ヘルパーステーション、分院を開設し、地域の在宅医療のニーズに幅広く対応しています。船本先生は、よりよいサービスを迅速に提供するために法人内ではメーリングリストを活用。さらに西宮医療研究会を発足するなど、診診連携をはじめとするチーム医療にも積極的です。今回は多職種が連携する際のポイントやメリット、今後の課題についてお話を伺いました。

<プロフィール>

▲船本 全信(ふなもと・まさのぶ)さん

医療法人社団秀皓会 ふなもとクリニック 院長

1991年に広島大学医学部卒業後、大阪大学医学部第3内科で研修。大阪逓信病院(現 NTT西日本大阪病院)第2内科、大阪府立成人病センター第1内科の勤務医を経て、大阪大学医学部大学院にて研究に従事する傍らKDDIや武田薬品の産業医として勤務。2001年にふなもとクリニックを開業。

 

看取りシステムをつくるため、若いうちに開業

―在宅医療で開業をしたきっかけは?

当初は50歳くらいで開業をしようと思っていたんです。けれど患者さんと接しているなかで「最期は自宅で迎えたい」という方に数多く出会い、その想いをサポートしていきたいという思いが高まって開業に踏み切りました。2001年当時は在宅で看取りをするシステムがまだまだ整ってなかった時代。若いうちから組織づくりをする必要性を感じて、クリニックを開業後に、居宅支援事業所とデイサービス、訪問看護、ヘルパーステーション、分院をつくっていきました。

 

―もともと看取りシステムの構想があったのですね。

私が往診に行っても1週間に1回、せいぜい15分程度です。けれども自分の代わりとなってヘルパーや訪問看護師などのスタッフが見てくれたら、体調の変化や患者さんとその家族の要望をいち早くキャッチできますよね。

 

―法人内の看護・介護サービスを利用する患者さんの割合は?

大体6割程度です。私は他施設や病院からの紹介でも往診に行くので、そういった意味ではネットワークが広いと思います。当院の外来患者さんは最期までフォローすることを基本スタンスにしていますが、外に開かれた施設として他施設からの患者さんも喜んで担当させていただいています。

 

―法人内に各サービスを持つことで患者さんにはどんなメリットが?

病院から末期がんの患者さんの紹介を受けることが多く、ケアマネージャーや訪問看護、往診のセットでの依頼が大半ですね。なかには数日後に看取りになるケースもあります。患者さんにとって“今しかない”そのタイミングで退院を調整して、自宅で穏やかにお看取りできることは、法人内に一貫した医療と介護の施設を持っているからこそのメリットだと思います。

2016年には福祉用具のレンタル事業を立ち上げたので、ベッドもすぐに用意できますよ。

 

メーリングリストの活用で患者さんにきめ細かなサービスを

―そのほかに法人内に看護・介護サービスを持つことにこだわった理由はありますか?

今はパソコンや携帯でのメーリングリストを活用しています。他施設では難しいですが法人内であればIT環境が統一されているので情報共有も容易。それが自前にこだわった理由です。

 

―メーリングリストはどのように活用していますか。

私が往診して「褥創ができているから対応してほしい」と伝え、メーリングリストに写真をアップすると「こまめに入浴をして清潔に保ちましょう」「訪問看護をもう1回増やしましょうか」と意見や提案がすぐに返ってきます。その後に訪問看護師が訪問して、治療過程の写真を撮ってくれるのでリアルタイムに進捗状況を把握できます。

SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)が下がり、熱が出ていて肺炎の疑いを看護師やヘルパーが気づけばすぐに臨時往診に行くなど、きめ細かなサービスにも繋がっています。

 

―連携に置いて医療と介護の壁を感じることはありませんか?

色々な職種が関連するので“ニュアンスの壁”はあると思います。他事業所の場合、双方に遠慮が生じる可能性がありますが、法人内であればお昼ごはんを食べながら気軽にコミュニケーションを取り、「実はこういうことだったんだ」と気づいて理解が深まることも少なくありません。

 

―スタッフ全員が顔を合わせる機会はありますか。

法人全体での食事会は年3回、このクリニックでは3カ月に1回程度、食事会を実施。そのほかグループ同士の会議は適宜行っています。MR(医薬情報担当者)や福祉用具の業者さんなど、連携している幅広い業種の方と情報共有したり、患者さんのためにといった意思共有を図っております。

 

「患者さんや家族の話をよく聞いて道筋をつけ、病気の改善に向かって最短コースで治療を続ける。自分の家族を診ているのと同じ目線で治療を進めていきたい思いがあります」と開業当時を振り返る船本先生。

 

西宮市の15クリニックとオープンな関係で診診連携

―地域ではどんな活動に取り組んでいますか。

当法人は、機能強化型の在宅療養支援診療所として、西宮市の在宅医療の改善や充実に取り組んでいます。その一環として1病院を後方支援病院として15医療機関程度でグループを作り研究会を発足しました。具体的な活動は、情報交換から診診連携、物品購入まで幅広い連携を図り、月1回は医療や介護の今後をテーマに勉強会を実施しています。1人でやるよりもみんなで取り組んだ方が、モチベーションが高まりますね。この15のクリニックだけで、西宮市全体の在宅看取り数の約40%強を占めるようになりました。

 

―診診連携はどのように進めていますか。

西宮市といっても甲子園から宝塚に行くにはかなり距離があるので、遠方の場合は近くのクリニックに患者さんをお願いします。私も患者さんを紹介しましたが、それは顔が見える同士だからうまくいっていると思います。月1回のミーティングで患者さんの状況を聞いたり、「また、何かあったらお願いします」といった話になるので。

なかなか診診連携が進まないという話も聞きますが、西宮市では、クリニックの担当地域がうまく分散し、かつ、協調性の高い先生が集まっていることが成功の要因でしょう。同じ地域に2つのクリニックがあっても「今回は私が担当するので、次回は先生にお願いしますね」というオープンな関係です。

 

―これからのテーマについて教えてください。

地域の病院や訪問看護ステーションなどの施設と情報共有を図り、私たちのグループから様々な側面において在宅医療をサポートしていきたいですね。当法人のメーリングリストのようなシステムができればいいと思いますが、パソコンやネットワークの環境が異なるので西宮市全体をカバーできるようになるには、もう少し時間がかかりそうです。

 

多職種が共通の思いで同じ方向を目指す組織に

 ―クリニックのこれからの課題は?

ドクターによって患者さんに対する思いや優先順位は異なります。当然、ケアマネージャーや訪問看護師にもそれぞれの視点や思いがあります。一番反映させないといけないのは、患者さんとその家族ですが、その辺のすり合わせが難しいところです。

例えばドクターが「こうした方がいい」と言っても、ときには患者さんが望まないことがあるかもしれません。当法人では、ケアマネージャーや訪問看護師がうまく意向を汲み上げてフィードバックしていますが、組織には人の異動があるため、そのタイミングでうまく進まないケースも生じています。

 

―意思の共有を図るために取り組んでいることは?

3カ月に1回、管理者会議を実施して私自身の思いや今後の方向性を話して意見をもらったり、一体感を深めるための決起集会を行ったりしています。ベクトルの方向が多少違っていても正反対でない限り、押しつけずに管理者に任せることが基本スタンス。マラソンと一緒で、先頭集団だけをつくるのではなく脱落者がでないように、ときには背中を押したり、声をかけることも大切だと思います。

 

―先生はみなさんの前でよく語るのですか?

そうですね、タイミングを見てよく話しています。自分自身の生き方は変えていないので、共鳴してついてきてくれるスタッフが、これだけ増えたと思うと嬉しいですね。

 

これまで苦労を感じたことがないと語る船本先生。「ボーリングに例えるならストライクよりもスペアを取りに行く方が好きですね。この課題はどうすればクリアでいるのか、トラブルを対処することにやりがいを覚えます」

 

地域に根ざし、20年30年と継続できる法人づくりを

―今後の在宅医療をどう捉えていますか。

在宅医療は、団塊世代の最期を看取るまでは高齢者が中心になりますが、その次に必要になってくるのはがん末期と小児難病の対応です。私は診療していませんが、グループで連携しているドクターは在宅で小児の難病患者さんを診ていらっしゃいます。一般的に在宅医療と聞くと高齢者をイメージしがちですが、このようなニーズもあります。

 

―先生はどのような展開を考えていますか。

ホスピスのような施設をつくりたいと考えています。しかし、一つの医療法人が手がけるにはハードルが高いのですが、うまく調整を図って実現したいですね。

とはいえ、何より2001年に設立してから矢継ぎ早に施設をつくってきたので、まだ有機的に一体化していない部分、機動力が足りないところがあると思っているので、組織を固めることが一番です。スタッフを増員して育てることで、20年30年と継続できる体制を築きたいですね。

 

―最後に、開業して良かった点について教えてください。

設立して十数年経った今、ようやく地域に根づきはじめた気がします。私は「自分の家族だったら飲んでほしいから、この薬を服用しましょう」「こんな根拠があるから、この方法がいいと思います」など、逃げずにはっきりと物事を言うタイプ。そういった方針を支持していただき、患者さんの家族さんが継続的に当院の外来を利用してくださったり、引っ越しても遠方から来てくださる患者さんがいることを嬉しく感じています。

「苦労のない(不苦労)、福の籠った(福籠)、幸福な老後(福老)を」の願いを込めて、ふくろうをシンボルマークに。クリニックの受付に飾っている白衣を着たふくろうの置き物は、家族が「先生に似ている」と見つけたもの。

 

取材後記

「自宅で最期を迎えたい」という患者さんの願いを叶えるため、設立から約15年で外来から在宅医療までの一貫したサポート体制を構築してきた船本先生。ぶれることのない強い意志を持ちながらもスタッフに押しつけずに現場に委ねる。風通しのいい雰囲気をつくり、仕事以外のコミュニケーションを大切にすることが多職種連携の成功ポイントだと感じました。いつ訪れるのかわからない人の死。穏やかな最期を迎えるためには、どんなタイミングでも臨機応変に対応できる円滑な連携が重要なカギを握ります。

船本先生は、西宮市の複数のクリニックと意欲的に連携を図っていらっしゃいます。今後も地域の在宅医療のキーマンとして、患者さんのために新しいテーマに挑戦していかれることを期待しています。

 

◎取材先紹介

医療法人社団秀皓会 ふなもとクリニック

兵庫県西宮市甲子園浦風町7-13

電話:0798-81-1192 FAX:0798-81-0092.

http://www.funacli.or.jp/

 

(取材・文 藤田美佐子 / 撮影 前川 聡)

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