患者さんの人生ドラマに向き合うのが在宅医療 ‐医療法人社団トータルライフ医療会 在宅医療部長 長屋直樹‐

無料メルマガ登録

医療法人社団トータルライフ医療会では現在、トータルライフクリニック本郷内科、東京トータルライフクリニック、トータルライフ訪問看護ステーション雷門の3つの施設を運営しています。今回取材を行った東京トータルライフクリニックは、浅草駅にほど近い場所に位置しており、一般内科、在宅医療、ウェルネスセンターの3つを軸に医療サービスを提供されています。もともと同クリニックは本郷を拠点として内科中心の診療を行っていましたが、在宅医療に造詣が深い長屋先生が2000年に参画されたことで、2010年にはトータルライフクリニックの一部門として正式に在宅診療部を発足しました。現在は、内科やウェルネスセンターと連携した多角的な在宅医療を行っています。

同クリニックでは「絆と希望がよみがえる安定した在宅医療」をモットーとし、患者の心のケアにも力を入れています。今回は長屋先生に在宅診療、特に看取りにおける心のケアなどについてお話を伺いました。

 

<プロフィール>

▲長屋直樹(ながや・なおき)先生 

医療法人社団トータルライフ医療会 在宅医療部長 

岐阜大学医学部卒業後、武蔵野赤十字病院、同愛記念病院外科、都立墨東病院救命救急センター、都立駒込病院外科などを経て2000年にトータルライフクリニック本郷内科へ入職。

2010年から東京トータルライフクリニック 在宅医療部長に就任。在宅医学専門医、外科認定医、抗加齢医学専門医。在宅医療に早期の段階で注目し、アジア心身医学会や女性のための抗加齢医学研究会、文京区医師会学術集会などで講演を多数行う。

 

予測予防医療とコミュニケ―ションであきらめない診療を。

-現在の患者数や構成を教えてください。

在宅医療の患者数は280人程度です。年間の看取り数でいうと、2016年は55人で、そのうち20人は在宅での看取り、35人は病院での看取りでした。年齢や疾患にもよりますが、当院ではご本人や家族の希望があれば基本的に「あきめない診療」を行っており、少しでも長くお元気でいてもらえるように医師や医療従事者が包括的にサポートしています。

 

-“あきらめない診療”とはどんなものでしょう。

予測予防医療の観点で在宅医療を行っており、問題が起きる前に出来るだけ早く対処して患者や家族の不安・痛みといったストレスを可能な限り和らげるようにしています。慢性的な病気であれば進行させないための治療を早期に行う、何か新たな症状が出ているなら予想される次の症状が起きる前に対応するなど、何事にも早期に対応することで、病気や死に対して“あきらめない”診療を行っています。

 

-すばらしいスタンスですね。とはいえ、医療面のケアだけではなかなか難しいのではないでしょうか。

もちろんです。予測予防医療に基づく診療を行う他、やはりコミュニケーションはとても大切にしています。特に最近は独居老人や老老介護の家庭が増えていますが、こういった方々は人と触れ合う機会も少なく生きる気力やモチベーションまで下がってしまい、定期的に入退院を繰り返しているケースも多いんです。

そこで当院では、医師の診察時やヘルパーやケアマネが往訪した際には「元気でいれば、こんな楽しいことがあるよ!」といったお話を繰り返しすることで、生きる気力やモチベーションを上げるようにしています。半年も経つと患者さんの顔つきが変わって、医師やケアマネが自宅に来ることを楽しみにしてくれるようになるんです。そうすると次第に症状も安定してくることが多く、当院では診療とあわせて会話やコミュニケーションを積極的に行うことを目指しています。

 

-コミュニケ―ションが生きる気持ちを生み出すのですね!

例えば、ある91歳の患者さんは胃癌のためご飯も食べられず脱水症状を起こしがちで生きることに対する希望もなくなっている状態でした。それまでは数ヶ月に一度は救急車で運ばれていたのですが、私たちが隔週で伺い、毎回「最後までしっかりお世話しますよ!」という声掛けを行い続けた結果、患者さんもその言葉に安心してくれるようになり、現在は診療とあわせて訪問リハビリも実施し、自ら歩いてトイレに行けるようにまでなりました。

もちろんその間も、癌は少しずつ進行しており、症状は進んでしまいますが、気持ちの面で、私たちが「最後までお世話します!」と伝え続けたことが患者さんにとって生きることのモチベーションになってくれたのだと思います。

 

病診連携と医療従事者の専門化によって環境は整いつつある

-在宅医療を始めた当初と比較していかがですか。

より満足度が高い在宅診療を行うことができるようになったのではないでしょうか。私たちが取り組み始めた1999年頃は在宅診療を行っている医師が少なく、また連携してくれる病院もほとんどなかったため急病時のフォローアップには苦労しました。2000年に介護保険が制定されましたが、ヘルパーやケアマネは患者さんの受入れにも慣れておらず、毎日がてんやわんやでしたね。今は、当時よりも理学療法士や作業療法士が増えていますし、訪問リハビリを行う施設も増えたので在宅診療を行う環境はかなり整備されたと思います。

 

-病診連携はいかがですか。

私たちのエリアでは地域包括ケアも進んでおり、「時々入院、ほぼ在宅」という方針が現実化しつつあると感じています。総合病院や大学病院主催の地域連携会が定期的に開催されている他、循環器、皮膚疾患、整形外科といった分野での医師連携も進んでいます。

 

▲「“急変させない医療”つまり、救急車を使わない医療を目指しています。何かある場合は前もって病院へお任せすることで、お互いにストレスなく落ち着いて対応することができます。」と話す長屋先生。

 

-ソフト面でもハード面でも整ってきているのですね。

クリニック側でもより手厚いフォローを行うために、現在当院では4名の常勤医で在宅診療を行っています。私を含め認知症サポート医が2名いる他、外科医や内科医などがおり、より幅広い診療を行う環境を整えています。これによって、常に先手を打った治療を提供し満足度の高い在宅診療を行えるようになりました。体制が整うことで、ますます患者主体の診療を行いやすくなっていると感じます。

 

ますますフレキシブルな診療が求められる在宅医療

-環境が整う中で、在宅医療における心のケアはいかがお考えですか。

在宅医療に携わっていると、患者さま一人ひとりのドラマに出会います。

90歳、100歳の方は、生きてきたことの満足度が高く平穏死を望まれることも多いですが、年齢や疾患によっては「もっと生きたい」という気持ちが大きいこともあります。制度や人的資源が整う中で、私たちはより“フレキシブルな診療”を行い、満足度の高い在宅医療を提供することが求められるでしょう。

 

-“フレキシブルな診療”とは?

一人ひとりの人生にあわせた診療でしょうか。例えば第二次世界大戦前後にヨーロッパからシベリア鉄道を渡って日本に来られた102歳の東欧出身の女性は、いつもお元気なんです。インフルエンザですごい熱が出てても、本人も周囲も気づかないくらい元気でおしゃべり好きでパワフルな方なのですが、先日、ひょんなことで病院での検査が必要になった際に、病院の施設を見た瞬間に戦時中の体験がフラッシュバックしたようで、急にパニックを起こされました。迅速な対応で事なきを得たのですが、在宅診療はまさに、一人ひとりの人生そのものを映し出しているのだと思う出来事でした。

 

-個々の体験によって症状や対処法が異なることもあるのですね。

そうですね。こういったフレキシブルな対応は医師に限らず、医療従事者でも同様です。長年警察官をやってこられた男性は、ご家族のない独居の方だったのですが、ご本人の希望でご自宅にてお亡くなりになりました。直腸がんからくる言語障害、左半身マヒの状態で、ほぼ毎日ヘルパーや看護師が訪問してサポートしていたのですが、いよいよ最期という時にヘルパーがたまたま同席しておりまして、咄嗟に彼女が患者の手を擦りながら傍で見送ってくれたんです。

以前なら、看取りの経験が少ないヘルパーが多かったので、自宅での看取りを希望されている患者の場合でも状況に慌ててしまいつい救急車を呼んでしまう、なんてことが多かったのですが、今は医療従事者が専門知識と経験を持っているため、状況にあわせた臨機応変な対応を取れるようになってきたと感じています。

 

▲「在宅医療は徐々に訪問看護師とヘルパーさんが主体になってきています。ヘルパーさんと医師の関係性が以前より対等になってきているのもとても理想的な姿ですね。」と今後の在宅利用のあり方を語る。

 

-独居の方が増えると、自宅での看取りも難しくなりますね。

家族や知人などが支援するインフォーマルケアの事例もあります。長唄の師匠だった73歳の女性は、病院での胃癌末期の治療を断り余命1ヵ月を自宅で過ごされました。看護師やヘルパ―が毎日サポートをし、医師も週2、3回ほど診療に行くような状態でしたが、いよいよ最期という時に、長唄時代の先輩や師匠達が自宅に集まってきて、私に痛みを最大限抑えるケアをしてほしいと依頼してきました。その後改めてお伺した際には、見事な和装を身にまとって鮮やかな紅を塗った状態で安らかに眠っており、ああ、自宅での看取りが本人にとって本望だったろうな、と心から思いましたね。

 

-まさに患者主体の在宅ケアですね。 

制度が整い医療従事者のノウハウが豊富になっている今、在宅医療や看取りは患者一人ひとりの人生にあったものが必要とされてきます。しかしこれらは、医師の診療だけでは実現できません。患者の心のケアやサポートといった治療以外の対応も大切ですし、医師や看護師、ケアマネやヘルパーなど関わる医療従事者のフレキシブルな対応能力が求められるようになるでしょう

 

取材後記

長屋先生は15年以上在宅医療に携わり、様々な患者さまのケアやサポートを行ってきておられます。今回いくつかの事例をお話していただきましたが、実際にはお一人お一人の患者さまに対するそれぞれのドラマがあったのだと感じました。様々な場面を経験されているからこそ、こんなに穏やかで温かみのある笑顔と、つい何かを相談したくなるような優しさのある雰囲気を醸し出されているのだと感じました。

 

◎取材先紹介

医療法人社団トータルライフ医療会 東京トータルライフクリニック

http://www.tlc.or.jp/tokyo/

TEL:03-5806-9871

 

              <取材・文 ココメディカマガジン編集部 /撮影 菅沢健治>

無料メルマガ登録

【無料公開中】人気記事を資料にまとめました!

資料ダウンロード「感染予防」