在宅訪問管理栄養士の先駆者として、在宅療養の食を支える −特定非営利活動法人 ケアプランニングNEST 代表 爲房 恭子−

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大阪・中央区に拠点を構える「ケアプランニングNEST」。理事長であり管理栄養士でもある爲房恭子さんを中心に、20年以上前から在宅栄養ケアを行ってきたNPO法人です。爲房理事長はセミナーや勉強会の講師としても活躍し、大学でも教鞭をとるなど、次世代を担う在宅訪問管理栄養士の育成にも力を注いでいます。

爲房理事長へのインタビューを通じて、在宅医療における“栄養サポート”の重要性と管理栄養士の役割、今感じている課題や理想像に迫ってみました。


<プロフィール>

▲爲房 恭子(ためふさ・やすこ)

日本栄養士会 認定栄養ケア・ステーション 

特定非営利活動法人 ケアプランニングNEST 代表

武庫川女子大学栄養科学研究所 高齢者栄養科学部門嘱託研究員

管理栄養士(在宅訪問管理栄養士)

大阪厚生年金病院(現:独立行政法人地域医療機能推進機構大阪病院)、順天堂大学医学部付属順天堂医院で管理栄養士として従事。その後、管理栄養士養成、高齢者の栄養管理に関する研究に携わる。2002年、逵妙美副理事長と共に「ケアプランニングNEST」設立、2007年にNPO法人化。「在宅療養者の栄養ケアを考える会」を主宰し、多職種協働で行う栄養支援の学びと訪問ケアスキルを兼ね備えた在宅訪問管理栄養士の育成にも取り組んでいる。

 

食べられなくなった患者の「食と栄養」を手厚くケア

—在宅訪問管理栄養士は、主にどのような症状の患者さんをサポートするのですか?

在宅療養中の患者さん宅へ訪問し、食事摂取状況をお聞きし、上腕周囲長や皮下脂肪厚などの身体計測による栄養状態のチェック後、データと合わせてアセスメント(観察・分析)し、栄養食事指導を行います。現在、訪問依頼で多いのは低栄養に陥ってしまった患者さんです。誤嚥性肺炎が怖くて毎食、同じような“とろみ食”になり食事の楽しみがない、脳梗塞や脳卒中の後遺症や認知症が原因で食べるのが億劫になる、がん治療の抗がん剤の影響による味覚障害で食欲が減退するなど、低栄養になる要因は多種多様です。そうした患者さん一人一人の症状と食べる力(摂食・嚥下機能)に合わせた、安全かつ美味しい治療食を提案するのが在宅訪問管理栄養士の役割です。

 

—栄養サポートは、どのように始まるのでしょう?

まず、主治医の指示書をいただきます。血液検査結果などの臨床データをはじめ、「糖尿病の患者さんで必要栄養量は1日1600kcal」といった栄養量に関する指示、「体重の経過に注視」「脱水の危険性あり」といった病名以外の症状の特徴や問題点など、訪問前にできるだけ多くの患者さん情報を共有していただくようにしています。それらをもとに訪問し、栄養ケア計画を立てます。

 

—とはいえ、病院に入院中の患者さんと異なり、生活環境や嗜好性まで考慮する難しさも?

そうですね。訪問先のご家庭のキッチンにも入らせていただき、調理器具や冷蔵庫の中にある常備食材などを考慮しながら、毎日の食事を準備されるご家族にとっても続けやすい献立をプランニングします。食べる時の姿勢、食べ方も人それぞれなので、同じ病状の患者さん=同じ栄養管理や献立メニューには決してならないですね。

嗜好性については、テイスト(味)だけでなく、テクスチャー(食感)も大切な要素。嚥下障害がある患者さんにとって、口の中で食材がバラバラになると飲み込みづらい要因になります。

例えば、プリンは安全だと思いがちですが、カラメルは液体・プリンは固体で異なる物性を持っています。固体のプリンを飲み込もうとする前に液体のカラメルが先に咽頭を通過するため、そのスピード差が原因で誤嚥を起こしやすい。カラメルがたっぷりかかったプリンの方が美味しいだろうと、つい思ってしまうのですが。

 

—そうなのですか!? 知りませんでした・・・。

茶碗蒸しも、口の中で食塊形成が難しくバラけやすいのですが、長芋をすりおろして加えて調理すると食べやすくなります。また、お寿司も酢めしを作るときにゼラチンを加えるだけで、ご飯が口の中で程よい食塊になり飲み込みやすくなります。安全な嚥下を促すポイントは、同一物性であり、適度な粘性があってバラバラにならず、ベタつかず、サラサラしすぎず、少し冷たいもの。そうした「ちょっとした工夫」の積み重ねが「食べる楽しみ」を取り戻すことにつながります。

 

病院所属の管理栄養士からフリーランス、食支援のNPO法人設立へ

—理事長ご自身は、もともと病院勤務の管理栄養士だったのですか? 

急性期の総合病院で管理栄養士として働いていました。そして、2度の出産ブランクを挟み、非常勤で復職したり、母校で管理栄養士の後進育成や研究に携わったりしながら、気づけばフリーランスの管理栄養士として活動するようになっていました。

 

—在宅訪問の栄養食事指導に力を注がれるようになったのは?

昭和57年(1982年)に人保健法(※)が制定され、看護師による在宅訪問が始まりました。大阪市でも、これより遅れること約10年後の平成5年(1993年)に管理栄養士の在宅訪問が始まり、私もこれに参画したのが「訪問」のきっかけです。前例のない初めての試みにチャレンジするのが結構好きなんです、私(笑)。

※老人保健法は、2008年「高齢者の医療の確保に関する法律」に改題され、「後期高齢者医療制度」の運用が始まりました。

 

—介護保険制度が始まる以前から、訪問診療の黎明期を支えてこられたのですね。

平成12年(2000年)に介護保険制度がスタートしたことがきっかけで、より医療との連携を強化した在宅訪問による栄養食事指導がしたいと考えるようになり、2002年に「ケアプランニングNEST」を立ち上げ、2007年にNPO法人化しました。現在は私を含めて、管理栄養士・栄養士が6名、歯科衛生士、保健師、社会福祉士等15名が在籍しています。当法人または、各々の所属する医療機関から訪問先の地域のドクターや看護師、薬剤師などと連携して、訪問診療チームの一員として患者さんをサポートしています。

 

在宅栄養ケアの早期介入が早期回復につながる

—現在、在宅訪問の栄養食事指導は、どこから依頼があるのですか? 

医師またはケアマネジャーからの依頼がほとんどです。今まで提携してきた訪問診療クリニックが17施設ほど。訪問先は、大阪市、吹田市、豊中市、尼崎市、西宮市など広範囲になります。

ホームページをご覧になった患者さんのご家族から、直接お問い合わせをいただくこともあります。ただ、本格的に医療の一環として在宅訪問管理栄養士が介入するためには、患者さんの“かかりつけ医”の指示書が不可欠。私たち単独では、介護保険や医療保険を利用した栄養食事指導を始められないのが現状です。

 

—どのように連携できれば、理想的ですか?

例えば、急性期病院に入院していた患者さんが退院後にご自宅で管理栄養士の訪問をご希望されるケースであれば、在宅医療に切り替わる時点で、管理栄養士も退院時カンファレンスに入れていただくと、スムーズに患者さんやご家族のご要望に応えやすいと思います。

 

—早期の栄養サポートを始めるための連携が大切?

その通りです。入退院を繰り返す患者さんも多いので、病院の管理栄養士と地域の在宅訪問管理栄養士の間で情報共有と連携がスムーズに行えるようになれば、切れ目のない在宅栄養サポートが可能になり、患者さんにとって一番理想的です。大変進行した低栄養の改善は困難です。早期の栄養介入ができれば、それだけ早期回復につながります。まずは病院の地域医療連携室が中心となり、退院時共同指導の担当者会議(※)に、病院側の管理栄養士と地域の在宅訪問管理栄養士の両者が関わることが当たり前になってほしいですね。

※退院時共同指導=医師、看護師を含む在宅療養をサポートする多職種のスタッフが一堂に集い、在宅への移行期の課題や治療方針を共有すること

 

—利用者や家族も、在宅栄養ケアの重要性を認識できていない?

管理栄養士の訪問栄養指導について、月2回まで介護保険(介護認定者)や医療保険を利用できることすら、ご存知ない方が多いでしょうね。また、「食事指導=制限食」だと誤解されている方も、まだまだ大勢いらっしゃいます。アンケート調査を実施したことがあるのですが、医療スタッフ側は在宅療養者の約8割に「栄養・食に問題あり」と感じているのに、肝心の療養者・介護者(家族)が「食事制限がないので栄養指導は不要」「年齢的に今さらと思う」など問題視しておらず、動機づけが不十分。在宅栄養ケアの認知度と普及率の低さを伺い知ることができます。

 

市民や介護者に向けて「口から食べる大切さ」を広く啓蒙

—利用者の認知度や動機づけを高めるための取り組みも?

現在、行政が総合事業として「運動」「栄養」「口腔」の3つを柱に、要支援の方たちが要介護にならないための取り組みを行っています。管理栄養士は「低栄養のリスクを有する方の栄養状態の改善」のサポートや予防に重要な役割を果たしています。

また、私たち独自の取り組みとしては、介護者(ヘルパー・家族)を対象に、栄養学の知識や調理技術の向上を目指して、介護食の調理講習会も不定期ですが開催しています。症状別の適度な“とろみ”加減など、レシピだけでは分かりにくいポイントが具体的に学べる!と、喜ばれています。

 

—栄養指導で提案した献立を実際に作る、介護者の理解が深まらないと長続きしない・・・。

その通りです。栄養ケア面だけを考えれば、献立はいくらでも考えられるのですが、お食事を準備する介護者の負担になってしまっては本末転倒。特に、最近は老々介護のケースも多く、手の込んだ献立はご家族の負担になりかねません。そこまで考慮して栄養サポートを行うのが、在宅栄養ケアの難しさでもあり、やりがいでもありますね。

 

—そもそも「口から食べる」ことは、なぜ、そんなに大切なのでしょう?

胃ろうや点滴だけでなく、口から食べて栄養を吸収することで、胃腸の免疫力が高められ、感染症の予防につながります。また、唾液の分泌が促されるので、口腔内の衛生状態も保たれやすくなります。好きな食べ物を口にすると、空腹が満たされるだけでなく、幸福感を得られますよね。食事を楽しむことは、生きる希望につながるのではないでしょうか。

 

—口から食べられる喜びが、心身の栄養につながるのですね。

脳梗塞で寝たきりになった患者さんの栄養指導に入らせていただいた時に、最初は100%胃ろうに頼っていたのが、主治医・歯科医・言語聴覚士などとの連携で嚥下機能が少しずつ改善し、全ての食事ではありませんが、口から食べる楽しみを再び得られるようになったケースがあります。特に好評だったのが、ふろふき大根。ゼリーのようにとろけるまで煮込んだ大根に、白味噌にバターを少し加えたソースをかけるとコクとトロミが増すのです。これを「うまい、うまい」と喜んでいただけました。患者さんとご家族の幸せそうな笑顔が、本当に嬉しかったですね。

 

▲一般の高齢者などを対象に、大学などで日々の食生活や栄養管理の重要性を啓蒙する取り組みも。“野菜の栄養と女性の健康”など、親しみやすいテーマが評判に。

 

地域医療の充実を目指し、在宅訪問管理栄養士の育成にも尽力

—在宅訪問栄養管理士の認定制度が平成23年(2011年)に始まりましたが、どうお感じですか?

認定制度は管理栄養士のモチベーションアップのためにも良いこと。ですが、看護師や歯科衛生士と比べると、まだまだ管理栄養士の在宅訪問件数が少なく、活躍できる場をもっと増やす働きかけも大切だと感じています。在宅栄養サポートは他職種との連携が不可欠ですが、管理栄養士の在宅視点のスキル不足も問題点の一つと言えるでしょう。

 

—その改善に向けた活動も?

2010年に在宅ケアに携わる多職種の有志を募って、「在宅療養者の栄養ケアを考える会」を発足しました。具体的な訪問栄養食事指導の事例報告や、看護師・ケアマネジャー・保健師・言語聴覚士・歯科衛生士など他職種との連携実例、最新の“やわらか食”の展示と試食、パネルディスカッションなど、多彩なテーマで10回以上の勉強会を重ねてきました。

また、2016年末から2017年春にかけて、在宅訪問管理栄養士を養成するための集中連続型の研修カリキュラムを開催しました。病院や施設に勤務している管理栄養士などを対象に、訪問栄養指導にもっと関心を持ってもらいたいとの想いから企画したところ、反響の高さに私自身も驚きました。

 

—具体的にどんな指導をされたのですか?

大きな特徴は、同行訪問で実体験できること。現場での患者さんへの栄養指導を間近に感じ、主治医やケアマネジャーとの具体的な連携方法を学んでもらうためです。管理栄養士の所属や立場で異なる契約方法、栄養ケアの計画書や報告書の作成演習、グループワークや意見交換など、今後に活かせる実践的な内容にこだわりました。

 

—課題でもある、病院の管理栄養士と地域の在宅訪問管理栄養士のネットワーク構築にも繋がりそうですね。

そうなれば、素敵ですね。病院や施設の管理栄養士は、その時々に直面している病名や症状に沿った栄養指導に終わりがちですが、在宅訪問管理栄養士はもっと広い視点が必要になります。例えば、胃切除後のダンピング症状(血糖値の乱高下による動悸・手指の震え・下痢などの様々な症状)が出ている場合、在宅療養中の患者さんの生活背景や心的要因が引き金となり症状が起きている可能性も否定できません。山積する問題点に対し、優先順位がつけられるか?が在宅訪問管理栄養士の技量になります。ですが、そういう訓練を積む実践的な場が少なく、在宅栄養ケアの教育は、まだまだ不十分です。

今までの私たちの経験が、今後を担う次世代の管理栄養士の役に立てたら、これほど幸せなことはないと思っています。在宅栄養ケアの重要性と広く訴え続け、管理栄養士の活躍できる場を増やすための啓蒙活動にも、今後もっと力を注ぎたいと考えています。

 

▲「訪問栄養士養成セミナー」()、「在宅療養者の栄養ケアを考える会」()。「より多くの管理栄養士が活躍できる場が広がってほしい」と爲房理事長。全国の管理栄養士がネットワークを組み、行政に働きかける取り組みも活発化しているそう。

 

取材後記

少子高齢化が加速する今後、在宅療養者の栄養管理を多職種連携でサポートする「在宅NST(栄養サポートチーム)」のニーズはますます高まるでしょう。その中軸を担うはずの在宅訪問管理栄養士が、まだまだ育っておらず、在宅医療の現場での認知度も十分ではない現状を知り、正直ショックを受けました。爲房理事長が理想として掲げる、所属・組織が異なる管理栄養士の同職種連携、在宅医療現場における認知と地位向上が実現すれば、多職種連携が名実ともに完成し、「食べる喜び」を再び取り戻せる高齢者や療養者が増えるはずです。誰にとっても身近で、生命に直結する「食と栄養」の重要性について、理解が深まることを願わずにはいられません。

 

◎取材先紹介

日本栄養士会 認定栄養ケア・ステーション

特定非営利活動法人 ケアプランニングNEST 

大阪府大阪市中央区鎗屋町2-2-7-501

電話:06−6945−1558

http://www.eiyoucare-nest.com

 

                 (取材・文/野村ゆき、撮影・前川聡)

 

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