整形外科医が提供する在宅医療の価値。高齢者の“骨”の問題に向き合う―おおはらクリニック 院長 李 潤基―

無料メルマガ登録

須磨アルプスを臨む高台に位置する「おおはらクリニック」は、敬誠会須磨診療所の後継医療機関として2016年9月に開業。整形外科医としての経歴を持つ院長の李先生は、見知らぬ土地で人脈づくりから始め、現在では病診連携を強化して在宅と外来を両立されていらっしゃいます。どのように地域の信頼を得て実績を重ねてきたのか。その取り組みや苦労についてお話を伺いました。

<プロフィール>

▲李 潤基(り・じゅんき)さん

おおはらクリニック 院長

1968年10月11日生まれ。兵庫県医科大学卒業後、同大学の整形外科に入局。和歌山県有田市の医療法人たちばな会・西岡病院で2年間、兵庫県尼崎市の合志病院で11年間、整形外科医として経験を重ね、2015年9月に敬誠会須磨診療所の所長に就任。2016年9月には同診療所の後継医療機関としておおはらクリニックを開業し、現職に至る。

 

整形外科医として11年間で3000件以上の手術を担当

—整形外科医を目指した理由は?

医師である叔父に影響を受けて兵庫医科大学に進学。病院実習で外科の手術を見たとき、やってみたい気持ちが高まりました。もともと手術をする医師に憧れがあり、白黒をはっきりつける点でも、内科よりも外科の方が自分の性に合っていると思いましたね。

 

-その後の経歴を教えてください。

兵庫医科大学の整形外科に入局後、和歌山県有田市の医療法人たちばな会・西岡病院で2年間、兵庫県尼崎市の合志病院で11年間、整形外科医として勤務しました。

西岡病院は地域医療の中核を担う大きな病院で、当時から内科の先生や院長が訪問診療を行っていました。当時私は在宅医療は少ししか経験できませんでしたが、外科から内科まで幅広く診るなか、自分の力不足を痛感したことを覚えています。

 

-なぜ、力不足を感じたのですか?

当時はまだ経験が浅く医師としての専門性もなかったので自分に自信が持てない状態。西岡病院では在宅から外来までいろんな分野の診療を診ることが当たり前で、当直になればいろんな対処を求められましたから。しかし、その経験で度胸がつき、広く浅く勉強ができました。

患者さんとも深く関わりましたね。有田市はみかんの産地で病院を出た瞬間からみかん畑。患者さんや職員はみかん農家が多く、みかんや新鮮な魚介を持ってきれくれる方も多かったです。

 

-合志病院ではどのような経験を?

僕はもともと尼崎で生まれ育ったので、患者さんとの庶民的な関わりが自分に合っていました。合志病院は外科・整形外科・脳外科を中心とした100床クラスの急性期病院。年間約2000台の救急車を受け入れ、年間300件程度の整形外科の手術を行っていました。私は月水金の午後に1日3~4件の手術に執刀し、技術面もそうですがインフォームドコンセントなど様々な経験を通じて多くを学びました。

 

骨粗しょう症はQOLや寿命にも影響する疾患

-急性期からなぜ高齢者医療に興味を?

合志病院で高齢者の骨折をたくさん診るなか、骨粗しょう症に関してなおざりにされていることを身に染みて感じました。患者さんは未治療または漫然と同じ薬を処方され、適切な治療がなされていないケースが多く、本人と家族、医師も「高齢だから仕方がない」という認識が大多数ですが、骨粗しょう症はれっきとした疾患。僕に言わせれば生活習慣病と同レベルです。

 

-生活習慣病と同レベルというのは?

糖尿病を放置しておくと将来的に脳血管障害や心筋梗塞、心疾患になるため、自覚症状のないときから予防や服薬治療を行います。骨粗しょう症もきちんと治療をすると骨折のリスクを下げることができます。

高齢者の骨折はQOL(生活の質)を低下させ、寿命にも影響を及ぼします。例えば大腿骨の頸部骨折を起こした後の寿命は1年後の生存率が87%、3年後は75%。逆に言うと1年以内に13%、3年以内に25%の方が亡くなっているわけです。

 

-そのような状況なのですね。現在は啓蒙活動も行っておられるのですか?

おおはらクリニックは、特養やデイサービス、居宅サービスなどを展開する『きらくえん』の敷地内にあります。開業当初に入居者さんの検査を実施しましたが、98%が骨粗しょう症の重度の患者さんでした。100人中30人程度は診るようになりましたが、本来であれば全員が対象。しかし、治療を望まない家族もいらっしゃるし、高齢者医療の仕組みの問題で思うように進まないのが現状です。

それでも特養や老健施設の看護師を対象に講演を行い、施設でイベントを開催するときは骨密度コーナーを設け、興味関心を持っていただけるように取り組んでいます。自治会からの講演依頼も受けていますよ。

 

「骨粗しょう症は2次的なもので直接命には関係ないと思われていますが、骨が弱ってきたら寿命にも大きな影響を与えます」と語る李先生。医師やスタッフ、患者さんに対する啓蒙活動も自分の役割だと感じているそう。

 

見知らぬ土地での開業。半年間は在宅患者さんがゼロだった

—開業のきっかけについて教えてください

長年、地域医療を支えてきた須磨赤十字病院が移転統合する際に「診療所は残してほしい」という住民の声に応え、合志病院の医療法人が敬誠会須磨診療所として経営を引き継ぎ、私は所長に就任しました。その1年後におおはらクリニックに改名して開業。ようやく半年が過ぎたところです。

 

-外来と在宅医療の両方を手がけている理由は?

最寄り駅から遠く、クリニックまでは急な坂道が続くため、整形外科のみで開業するには厳しい立地条件。当初から外来だけでなく在宅医療もやっていこうと考えました。しかし、この地域のことは全くわからず、誰一人知り合いがないため、最初の半年間は在宅医療の患者さんは“ゼロ”の状態でした。

 

-集患についてはどんなことから取り組みましたか?

地域の介護事業所から訪問看護ステーション、大きな病院の地域医療室を中心に「須磨赤十字病院の後継医療機関で在宅も行っています」と挨拶まわりをしました。顔を知ってもらうことが信頼への第一歩だと思ったからです。また、在宅医療ではいろんな科の疾患を診るため、僕の友人から合志病院の先生などいろんな人から協力を得ました。

 

-当初はどんな苦労がありましたか?

医療というのはチームプレイが基本ですが、在宅医療は医師と看護師、ケアマネージャー、薬剤師などいろんな部門のスタッフが連携して家族を支援します。苦労はたくさんありましたが、私は全員が初対面ということもあり、特に大変だったのは人間関係づくり。ある患者さんを受け持った瞬間から多くの方々と関わりますが、一人ひとりとの出会いや繋がりを大切にしてきました。

 

患者さんの看取りは、手術とは違ったやりがいがある

—現在の在宅患者さんの人数は?

居宅と施設からの患者さんを併せて75人位です。13時から17時の間で、多いときは1日10件程度訪問しています。高齢者から障がいをお持ちの方、がん末期の方まで様々です。

総合的に診ることのできる“地域かかりつけ医”をコンセプトに、現在では他の病院との連携システムが少しずつ出来上がってきています。神戸医療センターや北須磨病院、小原病院などにご紹介したり、逆に紹介を受けたり。ベースが内科ではないので、自分ができることは積極的に行い、無理だと思ったら他の医療機関に紹介する割り切りが良かったと思います。あとは必要とされたときにすぐに伺うフットワークの軽さでしょうか。

 

-病院と在宅の違いはどう感じていますか

病院時代、患者さんの家族の問題はケアマネージャーに任せて病気だけを診てきましたが、在宅は患者さんと深く関わるのでそういうわけにはいきません。また、認知症など多岐に渡った知識が必要なので、いろんな意味で勉強になります。

 

-在宅医療のどんな点にやりがいを感じますか?

在宅医療は看取りが主な仕事。根本は患者さん自身の「病院ではなく、最期まで自宅で暮らしたい」という想いを叶えることです。治療という治療は何もできず、もどかしいところはありますが、その人の人生のエンディングに付き添って感謝されるのは、手術とは違った喜びがあります。

 

「これからの時代、かかりつけ医にとって在宅医療は不可欠なもの。24時間365日体制で肩入れし過ぎると体力的に継続できなくなるので、地域の先生とチームを組んでバランスを保つことが大切です」と語る李先生。

 

目指すのは、何でも相談できる地域のかかりつけ医

—多職種との連携での苦労や課題はありますか?

訪問看護師やケアマネージャーをはじめとするスタッフとの人間関係づくりを大切にしていますが、これまでの病院での経験や価値観とは異なった意見をもらい、ぶつかることも。また、僕自身が「もっと早く情報を伝えてほしい」と思うこともあれば、逆に「先生から情報が欲しかった」と言われたこともありました。そこで「お互いにファックスでもいいので情報交換しましょう。電話も気軽にください」と伝え、今では比較的スムーズに連携が取れています。

 

-隣接の高齢者福祉施設とはどう関わっていますか?

当初から『きらくえん』の訪問医療や健診などを行っています。2017年2月には当クリニック2階の空きスペースに介護予防リハビリをオープンされたので、今後さらに連携することが増えてくると思います。医療と福祉のボーダーラインがなくなるなか、いろんなことに挑戦したいと考えていますが、まだ発展途上の段階ですね。患者数が増えるにつれ、様々な経験をするでしょうし、それを乗り越えていくのが今の課題です。

 

-最後に、今後の抱負を教えてください

将来、整形外科専門の在宅医が求められる時代が来るかもしれませんが、現段階ではオールマイティに、プライマリ・ケアのしっかりできる医師が必要とされていると思います。理想は在宅と外来を両立させること。クリニックの立地条件からいえば在宅中心になりますが、昼間は地域のかかりつけ医として貢献していきたいですね。治療にとどまらず、「何でも相談できる先生」と言われる存在になり、必要に応じて適切なアドバイスができるクリニックを目指していきます。

 

取材後記

これまでの実績や基盤をもとに開業する医師が多いなか、縁もゆかりもなく、アクセス条件の厳しい立地でクリニックを立ち上げた李先生。地域での人脈づくりをはじめ、フットワークよく行動して信頼関係を築き、認知症をはじめとする高齢者医療についても幅広く学んでいらっしゃいます。常に前向きに懸命に挑戦し続け、いくつもの壁を乗り越えてきた李先生は、地域で頼りになるクリニックとして発展することはもちろん、在宅医療にこれから取り組もうとする医師に勇気を与えてくれると感じました。

 

◎取材先紹介

おおはらクリニック

兵庫県神戸市須磨区妙法寺菅ノ池684−1

TEL078-741-5180 FAX078-741-5181

URL http://www.sumasinryojo.sakura.ne.jp/

 

(取材・文/藤田 美佐子、撮影/前川 聡)

無料メルマガ登録

【無料公開中】人気記事を資料にまとめました!

資料ダウンロード「感染予防」