今も毎日自転車で訪問を続けるのには理由がある -鈴木内科医院 院長 鈴木 央-

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JR京浜東北線大森駅から徒歩10分ほどの場所にある鈴木内科医院は、50年以上前から外来診療とあわせて在宅医療を行い続けている老舗の診療所。

今回取材をさせていただいた鈴木央先生は同院の2代目の院長先生で、お父様である鈴木荘一先生は、日本にホスピスやターミナルケアといった治療概念を取り込んだ在宅医療のパイオニア的存在です。

息子として間近でお父様の診療を見つめ続けてきた鈴木先生もお父様同様に、在宅医療や老年内科を中心とした診療を行う他、地域医療普及のために医師会や学会、研究会等を通して様々な活動を行っています。

今回は鈴木先生に、高齢化が進む日本において在宅医療を広めるために必要なものや課題について取材しました。

 

<プロフィール>

▲鈴木 央(すずき・ひろし)先生 鈴木内科医院 院長

1987年昭和大学医学部卒業後、同院大学院へ。

卒業後、高津中央病院内科医長、社会保険病院都南病院内科部長などを経て、1999年8月鈴木内科医院の副院長に就任。

2015年同院の院長に。

 

所属学会・認定・資格:

日本プライマリ・ケア学会 理事、日本在宅医学会 幹事、全国在宅療養支援診療所連絡会 副会長、東京プライマリ・ケア研究会 副会長、城南緩和ケア研究会 世話人、大田区在宅医療連携研究会 会長、大森医師会 理事(学術担当)、東京医科歯科大学 臨床教授、東邦大学員外講師

 

在宅医療は生活モデル重視型医療の原点

-幼少期から、医師という職業を意識されていたのでしょうか。

子どもの頃から夕食では毎日父の演説を聞いていたので(笑)、確かに他の人に比べると医療は身近な存在でしたね。

日本の医療制度の問題点や終末期治療の課題についてなどを父はよく話していました。

実際に夜の往診に同行させられることも多かったです。

また高校時代に祖母が自宅で亡くなった際には、死因がはっきりしないからと自宅で解剖することになったのですが、解剖中の付き添いは私ひとりだけで…。

いずれも父からすれば、医師なるためのアーリーエクスポージャーだったのでしょうが、私からすると全てが「大リーグボール養成ギプス」のような感覚で(笑)。

とはいえ、様々な経験をさせてもらったので、早い段階から自分も医師になるのだろうなという意識は芽生えていました。

 

-実際に医師になられた後はいかがでしたか。

前職の都南病院では、在職中に在宅医療を新規で立ち上げるお手伝いをしました。この時の経験はかなり役立っていると今も感じています。

在宅医療とは「患者の家までの道路」が「病院の廊下」で、「患者の居宅」が「病室」だ、と例えられることがありましたが、実際には全然違いましたからね。病院は「治す治療」ですが、在宅医療は「“本人・家族の希望を叶える”治療」です。

生活モデルを重視した治療が在宅医療なのだというのを、当時の経験から肌で実感しました。

 

-生活モデルを重視した治療とは?

つまり“本人のニーズを実現するため”の治療です。

在宅医療部門を立ち上げた当初、病院で24時間末梢点滴を受けていた患者が自宅で治療を受けたいということで在宅医療部門にやってきました。とはいえ24時間の点滴を家族がフォローするのはかなり大変です。

これでは自宅でのケアが家族のストレスになってしまうと思い、本人や家族の気持ちを汲み取った結果、点滴を1日1本にしてみることにしました。

1本72カロリー程度のたった1本の点滴です。理論的に考えたら1週間ももたないのですが、実際には、1ヵ月以上に渡ってご家族と仲良く暮らされました。

本人が自宅に帰りたいという場合は、治療方針もそれにあわせて環境調整を行うことが大切だということを学びましたね。

 

▲「ご家族に負担のある医療はやめたい、患者やご家族の望むものを叶えるにはどうすれば良いか?それを実現できる医療を提供したい、と強く思うようになりました。」と話す鈴木院長。

 

父は在宅医療を日本に取り入れた第一人者

-当時はまだ、在宅医療はそこまで普及してなかったと思いますが…。

当時は介護保険がスタートする直前でしたので、在宅医療を行っている診療所はかなり少なかったですね。

当院では父が開業した当初から外来診療と往診による在宅医療の両方を行うスタイルだったので、在宅医療をかなり早期から行っています。

 

-そうしますと55年ほど前から在宅医療を行っているのですね!

在宅医療の重要性に早くから気づいた父は、イギリスに死を看取る病院があると知り、1970年代に何のコネクションもないまま、終末期医療を世界で最初に手掛けたロンドンのセント・クリストファー・ホスピスに見学に行きたいと手紙を送りました。

そして院長から快諾の返事をいただくと、すぐに渡英して当時唯一だった終末期医療を間近で見学し、さらに治療や手術のサポートをして帰国しました。

 

-まさに日本の在宅医療の第一人者ですね。

父の頃は少し時代が早すぎて在宅医療の概念を広めることができなかったのですが、その意志は私たちの年代が受け継ぎ、国や政府への働きかけを行い続けることで、1990年代頃から在宅医療の重要性が次第に広まっていきました。

法制度なども整備されつつある現在は、再び「地域」ベースでの在宅医療の普及に注力しています

医師会での活動や医師同士での情報交換などを積極的に行い、在宅医療の普及に少しでも役立てればと考えています。

▲「“外来診療+在宅利用”というスタイルは譲れません。在宅医療の患者さんの中には。元気になって外来に通うことを目標にしている方もいらっしゃいます。」と外来診療も行うことの大切さを語る鈴木院長。

 

これからは“共感・安心”が医療のキーワードになる

-長年在宅医療に携わられる中で、今後のあり方についていかがお考えですか?

まず大前提として、高齢化社会が進む今、日本における医療そのものの考え方が変わってきています。

在宅医療は生活モデルを重視した治療であると先ほどお話しましたが、この発想は在宅含めた地域医療だけに留まらず、外来診療でも同様の考えになりつつあると感じています。

 

-外来診療も生活モデルを重視した形になっていくのですか?

今までは、医師は医学的知識があり完治することができればよかったのですが、社会情勢や人口構成も大きく変化していくこれからの日本では、患者の気持ちに共感できるコミュニケーション力や、患者に寄り添える穏やかさが求められます。

私はこれを「優しい医療」と言っていますが、患者の様々な事情や生活背景などにあわせて治療方針やスタイルを変えていくことが外来診療でも必要になってくると感じています。

 

-そう感じられたきっかけがあるのでしょうか。

 認知症のケアとして使われるユマニチュードは、一部では魔法の技術などとも言われていますが、これは一種のコミュニケーション法です。相手を認めて優しく伝えることで患者と心を通わせて改善に向けて治療を行います。

これからの医療は、こういった手法がますます必要になるでしょう。実際に私自身も、認知症患者や癌末期の患者への治療でこの手法がうまくいき、試しに外来診療でも行ってみたところ同様に改善がみられ、さらに禁煙外来などでも一部で改善がみられる患者も出てきました。

社会情勢が変容する中で、患者が安心して治療を受けることができる環境や姿勢を医師が作ることが、今後ますます求められるでしょう。

 

在宅医とかかりつけ医によるグループ診療の重要性 

-変わりゆく中で、在宅医療を今後より浸透させるためには? 

厚労省は在宅医療を19番目の基本領域として総合専門医と認定しましたが、本来はそういった特殊な分野ではなく、日常のかかりつけ医の延長線であるべきだと考えています。

そういう意味では、在宅医療に特化した診療所に限らず、内科・皮膚科といった医師が積極的に在宅医療に参入していただきたいと考えています。

 

-かかりつけ医が在宅医療を行うケースは多いのですか。 

在宅医療は、診療所や病院が提供する医療とは全く異なります。

薬の使い方ひとつにしても、病院で一般的と考えられている手法とは全く異なる形で処方することもありますし、ペーパーワークも実はかなり多いです。

在宅医療専門ではない医師からみるとかなり特殊な世界ですので、参入したくともハードルが高く感じるのかもしれません。

 

-何か改善する手立てはないのでしょうか。

この部分は、すでに在宅医療を行っている医師と連携する「グループ診療」で解決できればと考えています。

在宅診療専門クリニックとかかりつけ医、そして看護師やケアマネ、介護スタッフなどが連携してトータルで高齢者を支えていく形が、今後の地域医療のモデルになるのではと考えています。

高齢化社会が進む中で在宅医療のニーズは確実に増えていきますが、在宅医療専門クリニックだけでは補いきれません。

地域のかかりつけ医にも参入してもらい、連携しながら地域をサポートしていくというスタイルが主流になると考えています。

 

医師も横の繋がりを意識する時代に

-今後は医師同士の連携が必要なのですね。

在宅医療のモデル地域としては尾道や長崎、横浜が有名ですが、あの辺りは医師同士が同級生だったり慣れ親しんだ近所仲間だったりと比較的連携しやすい環境ともいえます。

ですが、様々な地域から様々な理由で移り住んでいる人がいる東京ではどうでしょう。

実は私も、医師同士が連携して地域の高齢者を支えるネットワークを以前作ったのですが、なかなか定着させることができなかったです。

開業して診療所を自身でやっていると、なかなか他の医師との連携する機会もないので、連携をしようといっても最初は違和感があるかもしれませんね。

 

-先生もネットワークを作られたのですか?

そうです。少ない利用者ではありましたが、嬉しい相談もありましたよ。

ある消化器科の先生から、がん末期の患者に対して、自分は詳しくないから一緒に診療をやってほしいという連絡を頂いた時は本当に嬉しかったですね。

かかりつけ医の先生には患者や家族の心のケアを、そして私が在宅医療の部分を担当しました。こういったグループ診療を今後はもっと浸透させていければと考えています。

 

-グループ診療を促進するために必要なものについてはいかがでしょうか。

かかりつけ医が在宅診療へスムーズに参入できるような体制を整えることが大切です。

在宅医療を行うにあたって困ったことがあればすぐに相談できる専門機関があること、患者の容体が急変した時も対応できるように入床施設と提携していること、そして診療報酬の面での改善がポイントではないでしょうか。

後はやはり医師同士でもっと積極的に情報交換をすることですね。

 

▲「地域の普通の町医者でありたいんです。医師会には在宅医療をまだ行っていなくても素晴らしい先生が多くいらっしゃいます。そんな医師会の先生方と一緒に“地域”で進んでいきたいです。」と本当に地域を大切にしていらっしゃる鈴木院長。

 

在宅医療とかかりつけ医の二人三脚が高齢化を支える

-先生は今在宅医療を推進するために行っていることなどありますか。

私は出来るだけ積極的に医師会や地域の交流会に参加するようにしています。

医師同士でどんな治療を行っているのか、どんな地域を担当しているのかなどをもっと共有し合うことが必要だと考えているので。

在宅診療が浸透してなかった時代は国や政府に理解してもらうための活動を行っていましたが、現在は在宅医療を地域に根付かせるためのセカンドステージです。

地域医療の一環として在宅医療がもっと浸透するように日々情報発信や交流を行っています。

 

-診療にあたって日々心掛けていることはありますか。

父もそうでしたが、私は普通の町医者でありたいですし、最後までかかりつけ医でありたいと考えています。

毎日往診の際には、看護師やスタッフと連なって大森近隣を自転車で走っているので、近所の人には「暴走自転車」と言われています(笑)。

もちろん速度は守っていますが、そんなあだ名を付けていただけるのも、地域に密着しているという証だと前向きに思っています。

 

-最後に一言をお願いします。

在宅医療は、地域医療を支えるための大事な一翼です。

ですが地域住民の医療へ対するニーズを満たすためには在宅医療だけでは足りません。患者を長年診療してきた町のかかりつけ医がケアすることが、患者本人にとっても家族にとっても満足度の高い終末期医療になります。

そしてさらに在宅医療に特化した医師が、かかりつけ医ではフォローできない部分をサポートするという体制を作ることが、高齢化社会を迎える日本の終末期医療のあるべき姿だと考えています。


取材後記

在宅医療の大ベテランである鈴木先生への取材ということでかなり緊張して取材に臨みましたが、先生はまさにユマニチュードを日常から体現されていらっしゃるような方で、とてもリラックスした雰囲気で取材を行うことができました。

地域医療を広げるために医師会や学会、シンポジウムなどを通して積極的に活動をしながらも、日々自転車で自ら往診をされているその姿に本当に心が動かされました。

 

◎取材先紹介

鈴木内科医院

http://www.myclinic.ne.jp/clinic_s/pc/index.html

TEL:03-3772-1853

 

              <取材・文 ココメディカマガジン編集部 /撮影 菅沢健治>

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