患者さんとご家族の本当の希望に寄り添う終末医療を実現するために -医療法人社団プラタナス 松原アーバンクリニック 院長 梅田耕明-

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京王井の頭線明大前駅から徒歩10分、閑静な住宅街の中にあるのが2005年12月に開院した松原アーバンクリニックです。
在宅療養支援診療所でありながら18床のベッドを備え、ホスピスのようなターミナルケアをサポートできる体制を整えています。
今回は松原アーバンクリニック院長である梅田先生に、設立までの経緯、地域における訪問診療、在宅緩和ケアの活動内容などについてお話を伺いました。

 

<プロフィール>

 

▲梅田 耕明(うめだ・こうめい)さん
医療法人社団プラタナス 松原アーバンクリニック 院長

1953年三重県伊賀市生まれ。
1979年に日本大学医学部卒業後、同年日本大学医学部第一外科教室入局。
1987年坂戸中央病院外科部長、1990年社会保険横浜中央病院外科部長、1992年小倉病院外科部長、続いて院長を歴任。
2005年、以前から理念に共感していたプラタナスの立ち上げる松原アーバンクリニック院長に就任。

 

人と思いを共有できる医師を志す

-先生のご経歴を簡単に教えていただけますか。

私は理系で電子工学を学んでコンピューターを作る道に進もうと思っていましたが、高校で音楽に出合い、人と心や思いを共有できるコーラスに感銘を受けました。

高校3年生の進路選択で、そういった体験ができる職業は何かと本気で考えて、受験直前のお正月に「医者しかない!」と急に方針転換したんです。

 

-差し迫ったときに決断されたんですね。

親からは怒られましたが、紆余曲折の末に日本大学医学部に入学し、気がつけば先輩に誘われるまま外科に入局していましたね。

担当になった小児外科では、様々なカルチャーショックがありました。

 

たとえば、その当時は医療技術が追いつかず、肝硬変になってしまったお子さんを真の意味で助けることができない。

これでは医療で苦痛を伸ばしているだけではないかという気持ちになってしまい、一般外科に移りました。

その後は中規模の病院で外科部長をしていましたが、立場が上がれば患者さんに付きっきりというわけにはいかず、音楽に感銘を受けたときのように、人との交流を大切にするにはどうすればよいかと思い進退を考えていました。

 

小倉病院から誘いを受けたのはそんなときです。

たまたまかつてのコーラス部の先輩が在籍していたことが縁だったのですが、話を聞くとどうやら病院の先行きが不安定で、立て直せるのであれば自由にやらせてもらえるとのことで、結果としてはそこに14年間勤務させてもらいました。

 

-初めてご自身の理想とする医師として活動できたということでしょうか。

そうですね。小倉病院で地域の外科医として治療をしながら救急医療も行っていた頃、大学病院から転院してきた終末期の患者さんに出会いました。

漫画の『ブラック・ジャック』には、「もう駄目だと言われてもなお生きたい」と願う患者さんが登場しますが、それと同じような状況の方です。

病院で治療をしていると、医師の医学的な判断だけで自分の人生が決まってしまう。

けれど自分は最期まで納得して生きたい。

こうした患者さんにお会いすることで、手術から終末期、そして最期の瞬間まで関われるような病院をつくりたいという気持ちが強くなりました。

▲「医療業界には、定型的な治療計画でコストを削減しようという流れがおしよせていました。そこで松原アーバンクリニックでは、従来の医療・看護のスタンダードにとらわれず、病気を持った患者さんやご家族が、地域でどのように生きていくかをサポートするという目標を共有してきましたね。」と梅田先生。

 

患者さんの生き方に寄り添いたい。プラタナスとの出会い

-それがプラタナスでの活動につながってくるということでしょうか。

実は小倉病院に在籍しているときから、緩和ケア、終末期にどう関わるかを考えて、病院の運営をしながら私1人で30名ほどの在宅患者さんも診ていたんです。

プラタナスは2000年から始まった医療法人ですが、私が小倉病院で実践しようとしていた医療ととても似通った理念を持っていたため地域間での交流がありました。

 

例を挙げると、患者さんの情報は患者さんのものという考え方です。

当時はカルテの開示がされていませんでしたし、CTやMRIなどの画像データも医療者のものという傾向が強かった。

権利意識を確立して医療者のペースで動くのではなく、患者さんがどう生き、どう治療したいかに耳を貸しながら、お手伝いできる病院が理想だなと思っていたところ、意気投合したということです。

 

-プラタナスでは訪問診療立ち上げに積極的に関わられたそうですが。

訪問診療の立ち上げを一緒に行いました。

プラタナスのメンバーと様々なディスカッションを行って、地域の患者さんのニーズや理想の医療機関像を知るために、私が最期を看取った患者さんのご家族などにインタビューして回ったんです。

 

-患者さんの立場に立った医療を、患者さんやそのご家族から学んだということですね。

回答の中から、地域の診療所はどうあるべきか、地域医療における在宅の必要性、ターミナルの患者さんを診るホスピスケアへの関わり方などがまとまってきたんです。

その後、2006年からは在宅療養支援診療所に保険点数が付くようになりました。

さらに、「がん対策基本法」が制定されて、厚労省ががん治療の拠点病院を作り、地域でどのようにがん患者さんを診ていくかの仕組み作りを促進し始めました。

こうした2つの制度改革の上で、大病院と地域の診療所、在宅療養支援診療所が連携して動こうという気運が高まって、私たちの活動にも追い風が吹きましたね。

▲梅田先生は「患者さんのお役に立とうと一生懸命になればなるほど、視野狭窄に陥る。けれど、本当に寄り添えているのか、いつも問いかけをしていくことが大切です。」と11年間の感想を語る。

 

「常に全員、全力で人を看る」アーバンクリニックの理念

-松原アーバンクリニックはその流れの中で、満を持して開院されたのでしょうか。

私はコンセプトを実現するためのディレクターとして、院長に就任したと思っています。

向いている方向は同じですが、コンセプトをプラタナスのスタッフと共に考え、コンサルティングや事務経営のサポートには専門企業が入り、そしてそこに専門医師が加わった三位一体の結果がこの診療所です。

本当に患者さんのことを考えたときに、訪問診療、在宅緩和ケア、そして地域でホスピス的に利用できる入院施設を持った在宅療養支援診療所というスタイルになったということです。

 

-在宅療養診療所でありながら入院施設をもつ医院はめずらしいと思います。

在宅療養支援診療所でありながら18床のベッドを備え、ホスピスのようなターミナルケアのお手伝いができるのは当院の特長のひとつです。

年間百数十名の患者さんをお看取りしながら、こうした形態でやっている医療機関はほとんどないんじゃないでしょうか。

 

-当初から緩和ケアと入院施設を併行するお考えだったのでしょうか。

開院した2005年当時はまだまだ地域の中でホスピス、緩和ケア病棟というのが少ない時代だったため、緩和ケアスタッフの育成と、入院施設としての充実を併行しようと考えていました。

忘れてはならないのは、在宅は助けてくれる周囲の存在なしには療養ができない、患者さんを看てくださるご家族とそれを支える医療職・介護職がいて、初めて成り立つ診療だということです。

ですからご家族が休んでいただける時間を作る目的で、レスパイト入院も受け付けています。

 

-専用の入院施設はどのように活用されていますか。

当院の病床は緩和ケアのみならず、一般在宅訪問診療を受けておられる患者さんにもご利用いただいております。

その一つとしてメディカルショートステイというサービスがあります。

訪問診療では私たちは絶えず患者さんを診られるわけではありません。

それが、入院いただくことで24時間医療者がその患者さんのそばにいることができます。

病院と違って高度な医療機器はありませんが、在宅で療養するためにどういった配慮が必要かという視点で評価させていただくことができるわけですね。

 

-松原アーバンクリニックのコンセプトを教えてください。

2005年の開院の際に色々な方にインタビューをしたり、ホスピスを見学に行ったりしました。

そこに、これまでの医師としての経験、患者さんとの付き合い方を加味して、緩和ケアやホスピスがどうあるべきかイメージを作り始めたんです。

たどり着いた考え方は、「患者さん、ご家族の視点で地域医療を支えていくクリニック、あるいは診療を実現する」ということでした。

 

-今も大切にすることという内容で三つの言葉を掲げてらっしゃいますね。

ひとつ目は「人を看る」という姿勢です。

医療を押し付けるのではなく患者さんの望みを伺って、それに寄り添う、お手伝いする、サポートするスタンスを大切にしようと思っています。

そのためには医学、看護という体系があって医療があるのではなく、まず患者さんがいてその方を人間として拝見した上で全人的なサポートをしていく必要があるのです。

まさに緩和ケアの考え方ですよね。しかし一方で、緩和ケアにのめり込むと視野が狭くなってしまって、最初に目指した人を看るという姿勢が薄れてしまうこともあります。

 

-“こうあるべきだ”を押し付けてしまうことにもなると。

それをリセットして、初心を忘れないように見張ってくれるのが、二つ目に掲げている「チーム医療」です。

多くのスタッフが意見を出し合って、医療のスタンダードではなく患者さんの希望に合わせた真摯な治療を行っていくためにはチームワークが欠かせません。

 

-そして三つ目には、「常に全力で」を挙げておられます。

患者さんには、そこまでに受診してきた医療機関があります。

しかし、ターミナルケアになるともうその病院で治療することはなくなり、あとは緩和ケアか地域医療・訪問診療を利用して継続治療を行ってくださいと言われるケースがあります。

患者さんにしてみれば、今まで信頼して命を預けていた医師から、「もうやることがありません」と宣告されるわけです。

その対応は冷たいようですが、一方でその病院がなければここまで延命すら叶わなかったかもしれません。

 

“卒業”した医療機関の治療があったからこそ、私たちと出合えたと考えれば、やはり元の医療機関との連携は続けるべきです。

こうした外来、在宅、病棟、などの垣根がないサポート体制を「全力で」という言葉に込めています。

 

▲在宅医の役割について「慌てていると救急車を呼んでしまうようなこともありますが、そうせずに死を自然なことと受け入れられるようにすることが私たちの役目です。」と語る梅田先生。

 

大切なのは患者さんの本音をアセスメントすること

-2009年に130件ほどだった看取り数が、2015年に176件と増えており、地域の方に受け入れられる様子が見えるようです。

そうですね。がんになった患者さんに、最後はどこで終末を迎えたいかと伺うと、緩和ケア学会などのデータでは60%の方が自宅とおっしゃいます。

私たちも当初は、全体の患者さんの3分の2ががん患者さんだったこともあり、80%以上の方はご自宅でお看取りして、在宅のみで看ている方はほぼ100%ご自宅で最期を迎えることを目指していました。

 

-今は方針が変わられたということでしょうか。

時代の流れで核家族化が進み、在宅や、独居の看取りは増えていました。

しかし、ヘルパーさんや訪問看護師さんは、ターミナルケアに慣れていない方がまだ多く介護者側は疲弊していたわけです。

患者さんからすれば、介護者のことを考えたときに、「やっぱり入院したほうがいいかな」と考えてらっしゃる、一方で周囲は「最期は自宅で看取ってあげたい」という気持ちがあって、互いの思いやりで患者さんも、ご家族も迷ってらっしゃるんです。

こうした反省点に立って、現在では家でも病棟でもどちらでも使ってくださいという方針にシフトしました。結果的に、今はターミナルの患者さんのお看取り率は、ご自宅と病棟で半分ずつ程度になっています。

 

2025年に向け多職種連携の基盤作りを進めたい

-先生が今後この地域や松原アーバンクリニックの中で目指すことはなんでしょうか。

目標に到達できるかは分かりませんが、「患者さん、ご家族に寄り添いながら、その方がその方らしく亡くなる最期まで、いかに医療者は生きることをサポートするべきか」という最初に立てた理念があるだけです。

医療者の視点ではなく、患者さんやご家族の視点でいつもその理念を考えられるように、心の窓を広く持ち続けることにゴールはないですね。

11年かけてある部分はできたかなと思いますが、まだまだ全ての方に行き届くには難しい部分があると思っています。

 

-具体的に取り掛かりたい課題はありますか。

団塊の世代の4人に1人が後期高齢者になる2025年問題などを考えると、ホスピス、緩和ケア病棟の整備が課題です。

今後10年程度をかけても、全終末期の患者さんの20%をお手伝いできるまでにはなりませんし、自分の希望通りの最期を迎えられない方が世田谷区においても4000名ほど出るだろうという現実があります。

また、病院で最期を迎えるのは嫌だと思い、在宅志向の方が増えていることは確かですが、それをカバーできるだけの医師や訪問看護師といった人材が足りません。

人材も施設も需要に追いつかないことになれば、クリニカルパスではありませんが、どうにか在宅で不均衡を是正しようとする国の誘導が必ず出てきます。

そうなったときに、この地域だけでも理念を貫き続けるための多職種連携の基盤作りに携わりたいですね。

 


取材後記

梅田先生は取材の直前に一人の患者さんを自宅でお看取りされていました。

これからインタビューを受けることを伝えると、「在宅のお看取りが円滑にできるように、ぜひ活動をアピールしてください」と、たった今奥様を亡くされたご主人が言ってくださったそうです。

人の終末期や自然な死をどう受け入れるかは難しい問題ですが、開院以来11年で梅田先生を始め松原アーバンクリニックのスタッフの方々が、地域の患者さんやご家族と築いた絆は未来の地域医療の大きな希望になってくれるだろうと感じました。

 

◎取材先紹介

医療法人プラタナス 松原アーバンクリニック

〒156-0043

東京都世田谷区松原5-34-6 アリア松原1F

TEL:03-5355-3388

http://www.matsubara-urban.jp/

(取材・文/佐々木修、撮影/菅沢健二)

 

 

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