最終目標は“医師を辞めること”!? ホリスティック医療に取り組む医師の想い -ホリスティッククリニック横浜 院長 井上 宏一-

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JR京浜東北線(根岸線)/横浜市営地下鉄関内駅から徒歩約10分、歴史を感じさせるレンガ造りの建物を眺めながら歩いていくと、ホリスティッククリニック横浜に到着します。可能な限り投薬をおさえ、対話を通して患者さんと向き合う治療方針と、ビジネス街でありながら内科・小児科に対応することで支持を集める同医院。今回は院長である井上先生に、医院名にもなっているホリスティック医療について、また、地域における今後の在宅・訪問医療についての展望を伺いました。

 

<プロフィール>

▲井上 宏一(いのうえ・ひろかず)さん

ホリスティッククリニック横浜 院長

医師であった祖父の影響を受け2000年3月順天堂大学卒業後、小児科医局入局。医療法人順江会江東病院、国際親善総合病院の小児科出向を経て、2004年6月社会保険蒲田総合病院(現東京蒲田医療センター)内科入職。7月より同病院内科医長。2010年より医療法人順齢会に入職し、2011年2月から医療法人順齢会南砂町おだやかクリニック院長、2016年4月 ホリスティッククリニック横浜院長を務める。

 

ゴールの見えない医療の中で、ホリスティックが果たす役割

-医院の名前にもなっているホリスティック医療について教えてください。

ホリスティックには、薬ではなく自然療法、通常とは違ったものというイメージがありますが、当院の治療は特別なものではありません。

保険診療だけにこだわらず自由診療で行っている点滴療法や食事療法、または食事療法だけでは改善が困難な方に対するサプリメントを取り入れた栄養療法などその人の生活全体を捉えてあらゆる治療を取り入れることを目指した医療です。

 

しかし、主流の医学からすれば、ホリスティックは宗教的でエビデンスが疑わしい、一方、ホリスティックという言葉が響く人は、セラピストや自然療法というイメージを強く持っていらっしゃって、薬が良くないと否定しがちです。

 

-少し極端ですよね。

私個人のホリスティックに対する姿勢は、あらゆるものを否定しない、データだけを見るのではなくその人の背景を含めた全体を見ましょうというものです。その中で西洋医学、自然療法、もしくはそれ以外の療法であっても、患者さんにとってプラス面があれば上手に組み合わせます

 

ホリスティックは、血圧が高いから血圧の薬を飲みましょう、合併症を予防するためにこれを飲みましょう、といったゴールが見えない現代医療の中でこそ果たす役割は大きいと考えています。

 

-本来は患者さんお一人おひとりにゴールがあるはずだと。

私の中では健康も幸せも同じだと考えています。

健康とは検診結果がオールAになることではなく、人によって多少数値の異常があったり薬の服用が必要だったりしても、日々の生活が楽しく送れればそれは健康なのではないでしょうか。

幸せについても決まった定義はありません。

こう考えると幸せも健康も同じで、健康=幸せになるために薬を使うのか、それ以外の自然療法や食事療法を実践するのかというだけの違いです。

 

-在宅医療に従事されている方と、通じる部分が多いように感じます。

当院を始める数年前から現在まで、お付き合いがある医療法人で在宅医療のお手伝いをさせてもらっています。

内科外来を担当しながら内科訪問診療を実施していますが、高齢の患者さんの数値が悪いので、もう少し改善を促そうというような働きかけには無理を感じることがあります。

 

やはり数値そのものよりも、日々の生活をいかに快適に過ごしていただくかが大切なのではないでしょうか。加えて在宅医療では、患者さん当人だけでなくご家族もいらっしゃいますから、家庭環境の中にまで入って話し合う中で、様々なお悩みや苦労を分かち合う努力も必要です。

開院から約1年、まだまだ地域の患者さんを増やしていきたいと語る井上先生。ホリスティック、不安外来に代表されるように、クリニックの特長はまずは患者さんのお話しにじっくり耳を傾けることです。そのため常に清潔感があり、温かみのある雰囲気で統一されています。

 

高齢者のことを考えるからこそ、若年層の「健康貯金」を

-高齢者を取り巻く医療の環境は、今後どのようになっていくとお考えですか。

今の日本には今後、若年層と高齢層が逆転していく社会にあってどのようにご高齢の方を支えて行くか、また、自分自身の老後は大丈夫だろうかという不安があると思います。

その中であえて当院が現時点では在宅医療よりむしろ若い方に目を向けているのは、できる限り健康に歳を取っていくために、若い段階から「健康貯金」を蓄えておく必要があると思っているからです。

もちろん歳を取れば外部のサポートは受けられるかもしれませんが、それを当てにするのではなく、必要以上の薬には頼らずに将来を見据えていこうということです。

 

-薬の量はなかなか減りませんね。

実は医師の側も、これまで出していた薬をやめてしまって良いのだろうかと不安に思っている面があります。

そこで、薬を出す、出さないだけに終始するのではなく、こういう理由があって飲まなくて良いです、飲まないことで仮にこういう症状が出たら言ってくださいという言葉があれば、段階的に減らせるはずです。

 

そうすることで現状では介護や医療を受けざるを得ない年齢層の人々が、将来的にはサポートを必要としない年齢層に変化して、逆に自分よりさらに高齢の人を助けられるようになるかもしれません。

良い意味での老老介護ですね。

 

-貴院の患者さんを見ていて感じられていることはありますか。

安心のために医療を活用される方が多い印象です。

特にお子さんをお持ちの親御さんなどは、辛そうなときには解熱剤を使って良いですよ、といっても状況が把握できたので大丈夫ですとおっしゃいますね。

 

逆にご年配の方はお医者様になんて相談できないという方が多いです。

いまだに医師の言葉というのは重いんですね。

昔はこういう関係性を利用して、ご家族が医師に対して、きつく指導してくださいということもありました。

ただし、私は基本的には頼まれても怒ることはありません。

厳しく指導して病状が改善するのであれば、そもそもそれほど重大な症状ではないと思いますので。

 

-もっとスムーズにやる方法もあるということですよね。

たとえばお酒をやめろといってほしい場合は、ではなぜお酒やめないのかという根本をご本人とお話ししたい。

その方の価値観に関わることかもしれませんし、酒がなかったら生きていく意味がないという人もいるかもしれません。

私はそういう人に対して頭ごなしにダメとは言えませんので、健康上のリスクを挙げた上で、ご家族にも本人の意思を伝えさせていただきます。

「もうすぐ病院のベッドが足りなくなるではなく、お世話にならなくても良いように、健康でいられる可能性を探りたいです。要介護者や病人が増える前提で話を進めるだけでなく、若い頃から、健康に老いるということを考えたい」と、2025年問題に対しての見解を述べられました。

 

訪問診療で感じた、患者さんとの対話の重要性

-先生ご自身が在宅医療や訪問診療を手がけるお考えはありますか。

開院したばかりですし、自分自身がまだまだ勉強不足ということもあって、残念ながらそこまでは考えられていません。

 

-先生の周囲で、在宅医療に取り組まれ始めた方などはいらっしゃいますか。

医学部時代の同級生はまだ病院勤務が多いですが、自分がこの2年間訪問診療に関わった中で、様々な医師が動き出していることは感じました。ただし、訪問診療を継続していくには壁もあります。

 

ある程度規模が大きくなれば医師1人ではカバーしきれなくなるため、非常勤の医師を呼ぶことになります。

しかし、非常勤の方は時給で医師が足りない穴をフォローする存在のため、ご家族にとっては初めての先生が来てすぐに帰ったという印象を与えがちです。

これは訪問診療の立ち上げ段階では多いケースのようで、非常勤の医師が初めて訪問する際には、必ず同行して適切な指導をするという医師もいるようです。

 

-在宅医療や訪問診療に着手していないお立場から、疑問に思うことなどはありますか。

私がこの2年間ほどお手伝いをさせていただいている医療法人は、もともと整形外科の病院のため3ヶ月ごとに訪問リハビリを行っています。

その中で、私たちとは別に内科の訪問を受けている方もいらっしゃって、継続的に処方される薬について「飲んでいいんでしょうか」といった相談をご家族から受けることがあります。

 

訪問先の患者さんがどの程度訪問診療を受けてらっしゃるのか、どういった医師なのか判断しづらい部分もありますが、もし私の診察であれば処方しないような薬もあり、少し量が多いのかなと感じます。

 

-それぞれの医師の判断次第ということですね。

自分が関わってない内科訪問に関して相談された場合には、「この薬は飲まなければダメか」、「量を減らせないか」、先生に尋ねてみてはとしか言えません。

訪問診療の医師も人手が足りない面があると思いますが、結局、クリニックでやっていた内科が外に変わっているだけで、とりあえず薬を出しているというように見えてしまうこともあります。

 

-それだけに対話の重要性が増すように感じます。

幸いなことに私が担当していた医療法人が診ていた患者さんとは、訪問診療を立ち上げてまだ1年ほどでそれほど訪問先も多くなかったため、じっくりとお話しを伺うことができました。

色々な不安を抱えているご家族に、話を聞いて良かった、治療方針が分かったなどとおっしゃっていただけたのはやりがいになりました。

 

これは裏を返せば、私たち医療者側と一般の患者さん側とで言葉のコミュニケーションがあるようで、実は大事なところが翻訳されてないということだと思います。

▲「診療体制やスタッフなど、どのような経緯で始める方が多いのでしょうか」と、診療訪問や在宅医療への興味は持ちつつも、実現の手立てには分からないことも多いと語る、井上先生。

 

不安外来の設置で、症状の背景にある心配ごとに迫る

-具体的にはどういったケースがあったのでしょうか。

たとえばアレルギーが出たお子さんの検査をして、抗アレルギー薬をとりあえず1ヶ月分出し、薬がなくなる頃にまた来てくださいという診療は、少し乱暴な印象です。

親御さんからすれば、少しアレルギーがあるだけで1ヶ月間も薬を飲み続けなければならないのかと当院に相談に来られて、「アレルギーが治ったのであれば飲まなくて良いですよ」とアドバイスさせていただいたことがあります。

 

-治療に対して不安を抱えている方はたくさんいらっしゃると思います。

クリニックを開院する前から、不安を抱えている方が多いなという印象はありました。

しかし、現実には先生は忙しそうだからと、なかなか患者さん側から深い話ができません。

医師の方も、手が離せないのであれば、その日は相談の上いったん話を切り上げ、また後日につなげればよいと思います。

そうした工夫もなしに対話を打ち切ってしまっては、患者さんの背景にある不安にまでは迫れません。

 

-それが不安外来の設置につながったということですね。

自由診療でこの薬を飲んでいて良いのだろうか、今の治療は理にかなっているのか、子どもの予防接種は全部打って良いのだろうかといった漠然とした不安を抱えた方に向き合って、コミュニケーションのすれ違いの解消に努めています。

 

井上先生は「医療者側と患者さん側とで言葉の壁があることは開院前から感じていました」とおっしゃいます。その経験をもとに、医療に関するあらゆる不安に答える「不安外来」を設置されました。

 

コミュニケーションによって目指す“医師からの脱却”

-先生ご自身が目標とすることはありますか。

ここだけの話ですが「医者を辞めること」です。どういうことかというと、医師として立場が上がれば医療行為はどんどん若い人間に任せていかなければならなくなります。言葉で患者さんを安心させることに関しては、特別な医療行為ではありませんし、だんだんと“カウンセラーのように啓蒙する方にシフトしていければよいな”と考えています。

 

-在宅医療の医師も、おおむね7割がご家族との会話で、医療は3割ほどとよくおっしゃっています。

私も訪問診療の際は、診察や薬のことにも関わりましたが、お話しに行く感覚でした。

患者さんご本人以外にも、周囲のご家族の様々な不安や希望を受け止めてあげることは、医療行為ではなく普通のコミュニケーションだと思います。

 

医師はある程度歳を重ねたら、自分の経験からこういうことですよ、大丈夫ですよ、心配だったらまたお話に来てくださいねという風に役割を変化させて、“ただ治療をするだけの医師を辞める”必要があるだろうと思っています。

 

 

取材後記

カジュアルな普段着で登場された井上先生ですが、白衣は威圧感があるためあまり着ないとのこと。こちらからの質問にも、おだやかかつ丁寧にお答えいただき、その人柄が「薬を使わずにじっくりお話しをお聞きする」治療方針にぴったりとマッチしていました。どのような病気であっても最後には人対人。患者さん個々のお悩みを真摯に受け止めるホリスティッククリニック横浜は、地域には欠かせない存在になりそうです。


◎取材先紹介

ホリスティッククリニック横浜

〒231-0005

神奈川県横浜市中区本町1-4プライムメゾン横濱日本大通3F

TEL:045-212-0860

http://holistic-cl.com/

(取材・文/佐々木修、撮影/菅沢健二)

 

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