在宅医療へスムーズに移行するために。訪問看護師が求める多職種連携とは。 -まごころ訪問看護ステーション 訪問看護事業部所長・管理者 今井-

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福岡の中心部から近く、自然豊かな文教地区である城南区。戦後、大規模な住宅団地の建設が進んだこともあって福岡市内の中でも人口密度が高く、今後高齢化が加速するであろうと予測されているエリアです。

そんな城南区に拠点を構える「まごころ訪問看護ステーション」で所長を務める今井さんは、福岡市内で訪問看護ステーションの開設が増えはじめた頃に、病院看護から訪問看護の道へ。以来、10年以上にわたり福岡の訪問看護黎明期を支えてきた一人です。訪問看護の現場から見た在宅医療の課題、理想的な連携について語っていただきました。

 

<プロフィール>

▲今井さん

まごころ訪問看護ステーション 訪問看護事業部所長・管理者

福岡市内の急性期総合病院で看護師として勤務後、訪問看護師の道へ。2016年5月に「まごころ訪問看護ステーション」へ入社。自ら訪問看護師として現場へ赴きながら、看護事業部の所長として職員である訪問看護師や理学療法士の環境整備・教育、地域の行政や医療機関への働きかけなど幅広い業務を行なっている。

 

「看護の質」と「ヒューマンスキル」が訪問看護の命綱

-こちらの訪問看護ステーションの概要を教えていただけますか?

2年ほど前に設立し、その翌年から私は職員として、訪看(訪問看護ステーション)の仕組み作りから関わってきました。

重視したのは、フレックス制度の導入をはじめ「職員にとって働きやすい環境づくり」。

現在(2017年5月時点)、福岡市内の居宅(自宅療養)の小児から高齢の患者さん約40名を、訪問看護師6名・理学療法士2名の職員が力を合わせて、24時間・365日体制でケアさせていただいています。

 

福岡市は人口に対する訪看の数が全国的にも多い地域で、毎年20件近い訪看が新設されているのですが、実は総数はずっと130件前後。

それだけ、採算が取れずに撤退している事業所が多いということなのだと思います。

訪看は立ち上げから半年が勝負どころなんです。そこを乗り越えられるかどうかが、その後の経営を左右します。

 

-その勝負どころを乗り切るポイントは、何だとお考えですか?

ごく当たり前のことなのですが、働いてくれる「」と「看護の質」に尽きると思います。

訪問看護はチームワークが全て。半年から1年以上の持久戦に及ぶことも多く、職員1人の看護スキルが高いだけでは「看護の質」を継続できません。

 

また、訪問看護ステーションは病院のように待っていても集患はできないので、職員全員が地域・医療機関・居宅介護支援事業者などと、どう連携を図ってゆくべきか?を常に意識し、行動できることも重要。

うちでは、職員全員が営業的な活動をしています。といっても、連携先へ訪問看護ステーションの一員として挨拶に赴き、顔を覚えてもらうという社会人として常識内のことですが。

どの職員も施設を訪問した時に挨拶がきちんとできれば「良い人材が揃っている」と評判になり、次の訪問看護の依頼につながり、そうした経験の積み重ねが看護師の自覚や質の向上にもつながるんです。

 

-働いている訪問看護師さんは、どういう方が多いのですか?

病院勤務を5年以上経験し、結婚・出産後の復帰先として訪問看護の道を選んだ「ママさん看護師」ばかりです。

訪問看護の仕事は、子育との両立を長く続けることが可能です。

訪問先へ一人で行き、患者さんやご家族とマンツーマンで向き合うことになるので、人生経験をある程度積んできた30代・40代くらいから訪問看護師として再スタートするのが、経験値・年齢ともにベストだと私は思っています。

 

-緊急連絡には、どんな体制で24時間・365日対応を?

日中は基本的に私が全て対応し、夜間の待機当番は全員交代制です。

もちろん、家庭の事情などで、できる日・できない日があるので、それぞれの都合を持ち寄って予定表を組みます。

待機当番の看護師が緊急コールで判断に迷った場合は、必ず私に連絡をしてもらい、待機当番が急な事情で動けなくなった場合のセカンド待機も体制として整えています。

 

-患者さんの情報共有は、どうやって?

全ての患者さんの状況を全員が把握できるよう、毎月1回はケースカンファレンス(事例報告会)を行ない、仕事内容の「見える化」を心がけています。

また、職員全員が日中ほとんど事業所内におらず現場を飛び回っているので、専用のスマートフォンを支給し、SNSを活用して必要であれば写真を撮って画像を共有したり、重要事項は一斉伝達をしたりなど工夫しています。

クラウド型の情報共有システムを活用できたらベストでしょうけれど、まだ多くが施設向けに開発されている印象で、訪問看護の現場ニーズにはフィットするものは少ない気がします。

今のところSNSと電話を使いながら自分の目と耳と足で確認する方が、よっぽど早いんですよ(苦笑)。

▲今井さん自慢の「まごころチーム」を支える看護職員。全員が子育てと両立しながら現場でイキイキと働いている。「看護師としても働く母親としても、お手本になってほしい」と成長を見守っている。

 

幸せな看取りを通じて実感した訪問看護師の使命

-所長は何がきっかけで訪問看護の道へ?

早くに両親を亡くし、手に職を付けたい一心で看護師になり、急性期病院で看護師として働いていました。検査データや診断画像を見て研修医よりも意見を言えるくらい猛勉強もしました。

 

だけど、いくら勉強して経験を積んでも、納得するまで患者さんと向き合えないままに、次々と患者さんが入れ替わる。

病院では看取りの後も最後にご家族と一緒に体を拭いてあげたいと思っても時間も余裕もなく、「お身体を綺麗にしますから外に出ておいてくださいね」としか言葉をかけられない。

「何のための看護師なのだろう?」と限界を感じてしまったんですね。

看護師そのものをリタイヤしようと思うほど、思いつめてしまいました。

そんな時に偶然、訪問看護師をやってみないかと声をかけてもらい、試すような気持ちで現場に出てみたら、どっぷりとハマってしまったんです。

 

-そう実感できる出来事が、具体的にあったのでしょうか?

看取りの経験です。

初めて訪問看護に携わったのが末期ガンの患者さんで、最期の半年間、訪問診療を行うドクターに勉強させてもらいながら、患者さんやご家族と向き合うことができました

少しずつご家族と共に看取りに向けた準備に入り、最期は苦しまれることなく本当に穏やかなお看取りをさせていただきました。

患者さんがご家族全員とお別れの言葉を交わすこともでき、看取り後はご家族と一緒に患者さんのお身体を拭いてあげて、死化粧も本当にお綺麗。

ご家族から笑顔で感謝のお言葉をいただいた瞬間、感激してしまったほどです。

 

-穏やかな旅立ち、ご家族の笑顔・・・理想的なお看取りですよね。

最期の瞬間までのサポートが看護師の使命であり幸せでもあるのだと、ようやく分かったんです。

それから10年以上があっという間。

たくさんの方のお看取りをさせていただきましたが、まさに「一期一会」。

「このタイミングで、この患者さんと出会えたことには必ず意味がある」と毎回、どなたに対しても感謝の気持ちでいっぱいになります。職員全員にも、こうした思いを実感し、幸せに感じてほしいと願っています。

 

病院から在宅へ。切れ目なく充実した医療と介護を実現する鍵とは?

-訪問看護と他職種の連携について、どうお考えですか?

病院に入院されていた患者さんの在宅医療への移行がスムーズであるほど、より手厚い訪問看護が可能になります。

患者さんとご家族が最期をお家で過ごすために自ら望んで在宅医療へ切り替えるケース、積極的な投薬や治療を望まなかったために消去法的にたどり着くケース、どうして良いか分からないうちに病院から帰されてしまうケースなど、在宅医療へ移行する背景には、患者さん・ご家族のさまざまな想いや事情があります。

だからこそ、退院後の在宅ケアについて、その可能性が出てきた時点で、少しでも早い段階から病院側と、外部の在宅医療・看護・介護チーム側が連携してゆけるのが理想的です。

 

-どうすれば理想に近づけるでしょうか?

一つ目の鍵を握るのは、病院側のMSW(メディカル・ソーシャル・ワーカー)さん。

事前に情報を共有してくれて事前に準備した上で、退院カンファレンスに臨めるように段取りを整えてくれるMSWさんがいてくださると、とてもスムーズなんです。

末期がんや神経系難病の患者さんなど、退院後もご自宅で医療的ケアが継続して必要であると予想できる患者さんがいらしたら、入院中から病院のMSWさんが中心となり、在宅ケアへ向けた準備を整える。

どこの病院でも、それが当たり前のようになれば、在宅医療への移行がもっと円滑になり、患者さんやご家族も安心してご自宅へ帰れると考えています。

 

-鍵を握るキーパーソンは、他にも?

病院では基本的に介護保険を使ったケアをしないので、病院内での「訪問看護・介護」に関する教育には限界があります。

そんな病院に外部から働きかけられる「在宅介護のプロ」が、ケアマネージャーさんです。

訪問看護・介護では、制度的に医療保険よりも介護保険が優先されるため、患者さんにとって最適なプランニングになるか否かは、ケアマネージャーさんの舵取りにかかっています。

だからケアマネージャーさんたちと連携を深め、一緒になって働きかけていかないといけないと思っています。

 

▲具体的な課題を挙げながら「在宅で医療的ケアが必要な患者さんは今後、もっと増え続けるはず。だからこそ、他職種が連携体制を強化してゆかなければ」と強調する今井さん。

 

在宅医療を手厚くサポートできる施設を創りたい!

-ご自身が考える、訪問看護の理想を教えてください。

訪問看護に10年以上携わってきて、「在宅で診られないものはない」「誰もが家に帰れる」と日々、感じています。

ME機器(監視モニターや人工呼吸器などの医療機器)も日進月歩で進化していますし、希望されるお客様の中には、ご自宅の部屋を病院のICU(集中治療室)に引けを取らない体制にすることもありました。

 

今後、末期のがん患者さんなど、自宅で最期を過ごしたい方や継続的な医療的ケアが必要なのに病院での長期入院がままならず、在宅医療へ切り替わらざるを得ない、というケースがますます増えてゆくでしょう。

どちらのケースに対しても医療依存度が高い患者さんを受け入れられる訪問看護ステーションでありたい。

また、ご自宅が不安なご家族に対し、施設でのフォローも含め、施設を創りたい!と本気で考えています。

介護施設でもない、医療施設でもない、中間的な看護専用の施設です。

 

-確かにそのようなケースは増えそうです。具体的な構想はあるのですか?

具体的には、病院から在宅医療への移行期を支援するショートステイ型の看護施設です。

ご家族も一緒に泊まれるようにすれば、ご自宅でのケア方法を看護師がマンツーマンでアドバイスすることができます。

在宅医療のドクターとも密に連携し、患者さんの容態が急変した場合は、病院に搬送する前に看護専門施設で集中的なケアを行い、状態が落ち着いたら再びご自宅へというスムーズな移行も可能になります。

在宅ケアが長期戦に及ぶ場合は、ご家族に休息していただくレスパイトケア施設として一時的に利用していただく、という活用もできると思います。

 

-患者さんとご家族の安心感が増し、在宅医療をより前向きに捉えられそうですね!

訪看が主体となり複数の在宅医と連携できれば、お困りの患者さんを、より幅広く受け入れられる可能性が高まります。

また、病院から在宅医療に移行する準備段階として過ごせるワンクッションとなる専門施設があれば、患者さんとご家族の精神的な不安もケアできます。

行政の認可など様々なハードルがあるのですが、いつか実現させたいと本気で考えています。どなたか、いいお知恵をお持ちの方がいらしたら、ぜひアドバイスをください!

 

取材後記

訪問看護・介護の現場を熟知し、患者視点に立った問題点を次々と指摘してくださった今井さん。その気っ風の良さ、エネルギッシュな人柄、職員を想う愛情あふれる笑顔が魅力的で、短時間のインタビュー中のやり取りだけでも、訪問先の患者さんとご家族、連携するドクターやケアマネージャーから厚い信頼を得ている様子を伺い知ることができました。きっと、困難に思えることすらパワーに変えてしまう不思議な魔法をお持ちのはず。在宅医療サポート専門の看護施設の実現、心より応援しています!

 

◎取材先紹介

まごころ訪問看護ステーション 

福岡県福岡市城南区飯倉1−6−25

電話:092−845−1011

(取材・文/野村ゆき、撮影・中本マナブ)

 

 

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