全人的ケアで“自分らしく”生きる理想のホスピスを実現 ―医療法人永仁会 千里ペインクリニック 院長 松永 美佳子―

無料メルマガ登録

大阪府豊中市にある千里ペインクリニックは、緩和ケア・痛みの専門クリニックとして2004年に開院。早期に緩和ケアを取り入れることで、患者さんが自分らしく生活できるように支援しています。開院当初から在宅医療に注力し、がん患者さんの訪問件数は1200件以上と大阪府でトップクラスの実績。2012年からホスピス型賃貸マンション『アマニカス』を併設し、独自の医療スタイルを築いた松永先生に、開院の経緯や在宅医療、緩和ケアの現状と課題についてお話を伺いました。

 

<プロフィール>

▲松永 美佳子(まつなが・みかこ)さん

医療法人永仁会 千里ペインクリニック 院長

1991年に大阪大学医学部卒業。大阪府立千里救命救急センターに入局後、箕面市立病院麻酔科、大阪大学医学部付属病院集中治療室・麻酔科、阪南中央病院麻酔科、市立豊中病院麻酔科などを経て、平成16年6月に千里ペインクリニック開院。

日本麻酔科学会専門医、日本ペインクリニック学会専門医。

 

院内で無医村状態だった末期がん患者

 —医師を目指したきっかけは?

小さい頃から動物が好きで、将来は獣医になることが夢でした。

中学・高校時代にはバスケットボールに熱中。

一時は実業団入りを夢見ていましたが、高校3年生の春に靭帯を切る大怪我を負い、プレイができなくなってしまいました。

その経験から辛い思いをしている人の役に立ちたいと思い、獣医から人を診る医師を目指すようになりました。

 

-大学を卒業してからの経歴は?

大阪大学を卒業してから内科に入局し2年目に千里救急センターに勤務し、救急を学びました。

緊急手術で麻酔をかける機会が多かったので、3年目に麻酔科に入局しました。

実は自分が何をしたいのか迷っていて、とりあえず、麻酔科に入ってみました。

複数の病院の麻酔科で経験を重ねるなか、麻酔科の中にペインクリニックの分野があることを知りました。

 

-ペインクリニックに興味を持った理由は?

麻酔科や集中治療室では、麻酔をかけることが中心のため、患者さんの意識はありません。

私には患者さんとコミュニケーションを取って治療していく分野の方が向いていると思いました。

その後、麻酔の業務の傍ら、ペインクリニックを学んでいきましたが、その中で、他科からがんの痛みの相談をたびたび受けるようになりました。

自分でイチから勉強してがん患者さんと接していくうちに、いろんな問題があることに気づきました。

 

-どんな問題が?

私自身もそうですが、若い頃は最先端医療に惹かれ、医師やスタッフはとても熱心に、手厚い治療を行います。

たとえば90歳を過ぎた患者さんが脳出血を起こして救急車で運ばれると、私たちが朝まで麻酔をかけ、手術をして集中治療室で人工呼吸器をつけるなど、できることは全て尽くします。

一方で、がん患者さんはがんの終末期になると医療が潮が引いたような状態になり、院内の無医村になっているように感じました。

 

緩和治療は抗がん剤と同じくらい延命効果がある

—それが在宅医療に取り組むきっかけに?

余命少ないがん患者さんに「家に帰った方がいいんじゃないですか?」と聞くと「肩の痛みがあるうちは帰ることができない」と不安そうにおっしゃいます。

それなら患者さんが自宅で安心して生活できるように、自分が在宅医療に取り組もうと思うようになりました。

 

-在宅医療に取り組む麻酔科医は珍しいのでは?

確かに少ないですね。

麻酔科の中には痛みの治療をする専門のグループがあり、ペインクリニック専門医を取得しています。

また、麻酔科医は外科や内科、婦人科などあらゆる科の周術期の全身管理と術中術後の痛みをコントロールします。

がんの緩和ケアも痛みだけでなく、肺や肝臓、腎臓などの全身管理が不可欠。

よって麻酔科医であるペインクリニック専門医が緩和ケアに従事するのが、一番適していると思います。

 

-失礼ですが「ペインクリニック」も聞きなれない名称でした

「ペイン」は英語で「痛み」を意味し、「ペインクリニック」とは痛みを治療する診療科です。

2004年に開院した当時は、ペインクリニックも在宅ホスピスもマイナーな分野だったので「ペインクリニック」という看板を出すことが認知度を高める要因のひとつになったと思います。

看板を見て「なに?」と注目され、治療を受けて良い結果に繋がったら口コミで広がっていく。その繰り返しです。

 

-在宅ホスピスとはどういうものですか?

医師や看護師ががん患者さんの自宅に訪問して、自宅で緩和医療を提供することです。

24時間365日体制なので、住み慣れた場所で安心して生活ができます。開院当時、この北摂地域では、在宅ホスピスを受けて最期まで自宅で過ごすことはほとんどありませんでした。

 

-末期のがん患者が中心ですか?

緩和ケアは最期にかかるイメージが強く、病院の医師も末期にならないと紹介してこないので、大半が末期がんの患者さんです。

がんは抗がん剤だけが治療でなく、痛みやその他の症状を軽減することも大切な治療のひとつ

早期に緩和ケアを取り入れることで体調のいい状態で抗がん治療を受けることができます

また、生活の質を上げ、自分らしい生活ができるようになり、その結果、延命に繋がったりすることも多々あります。

そのことを患者さんだけでなく医師にも、もっと知ってほしいですね。

 

▲お花と緑でいっぱいのホスピス型賃貸マンション『アマニカス』。癒しの空間づくりにも松永先生のこだわりと工夫がたくさん詰まっている。

 

元気な状態から利用できる新しいスタイルのホスピス

—今では緩和ケアという言葉は随分と浸透してきていますね。

5年くらい前からマスコミも含めて緩和ケアが注目され、今では病院内に緩和ケアのチームや専門病棟が次々とできています。

しかし、私たちが取り組んでいるのは、自宅で受ける緩和ケア。

老老介護や独居老人が増えるなか、特に核家族化が進む都会では、がんなどの病気を抱えて「一人では生活できない」「介護ができない」と介護破たんする方が多く、死の直前だけが問題ではないと実感しています。

私たちのクリニックでは、抗がん剤など積極的治療を選択しなかった方、あるいは終了され病院を離れて行き場のなくなった方々を「がん難民」と呼んでいます。

 

-病状悪化に伴う介護破たんは病院がひきとらないんですよね。

そうです。

その問題を解決するために2011年にホスピス型賃貸マンション『アマニカス』が設立されました。

1階が千里ペインクリニック、2・3階が居住スペース、家電などもすべて揃っているので体ひとつで入居が可能。

24時間・365日体制でクリニックが対応します。

我々が訪問している患者さんが病状悪化や介護破たんに伴って入居されたり、病院を退院されるとき、直接アマニカスに入居されるがん患者さんもおられます。

病状の程度に関わらず、お元気なときでも利用できます。

 

現在は、がん患者さんや腰痛や帯状疱疹など痛みを伴う疾患の患者さん、あるいは大きな病気はないけど高齢で介護や医療が必要な方など、様々な方々にご利用していただいています。

夫婦部屋(大きい部屋)もあります。

病院ではないのでお酒もOK。

24時間出入りが自由で、ご家族も泊まれることが最大の特徴です。

ご家族やお孫さんも自由に出入りして一緒にご飯を食べたり、息子さんが夜に仕事から戻り、朝はここから出勤される方もいらっしゃいます。

 

-イベントも開催しているそうですね。

地下に音響設備を完備したホールを設け、月1回プロを招いて本格的なジャズライブを開催しています。

日常とは違った別世界なので、患者さんからは「生のジャズライブを初めて聴いた。すばらしかった。癒された。」などの声を聞きます。

スタッフも私も一緒に楽しんでいます。

 

緩和ケアの情報を収集し、自分で選択できる仕組みを

—在宅医療の緩和ケアの課題は?

病院では余命わずかになっても抗がん剤をし、患者さんもそれを望みます。

予後1カ月位になり、初めて緩和ケアの施設を探すように言われるかホスピスを勧められるのが現状です。

「緩和ケアってどこに行ったらいい?」から始まり、ようやく辿り着いたときは、もう残り時間はわずかということも少なくありません。

患者さんやご家族は「もっと早くにかかっていたら良かった」とおっしゃいますが、こういう話はなかなか口コミでは広がりません。

 

-緩和ケアの情報は口コミで広がりにくい?

近所の方との立ち話で「あのクリニックに行ったら腰痛が治った」とは言いますが、「うちの旦那はがんで亡くなったけど、あのクリニックは良かった」とはあまり言いませんよね。

辛くて悲しいことなので、もう封印したい。思い出したくない。近所の方もなるべく触れないようにします。

緩和ケアの情報自体が少ないことが問題です。

病院や役場でパンフレットはもらえますが、簡単な情報しか乗っておらず、それを見て自分に合った施設を判断するのは難しいと思いますね。

 

-貴院の患者さんはどうやって調べられているのでしょうか?

今は本人やご家族がインターネットで探して見つけるケースが増えています。

どのような生活を望むのか、どのような最期を望むのかを自分でしっかりと考え、情報収集をして選択することが理想です。

特にがん患者様は何年も闘病生活をされているので、治療だけでなく、緩和ケアについても早い時期から意識してほしいですね。

緩和ケアはがんと診断されたときから必要なものです。

 

-緩和ケアのスタッフ体制での課題はありますか?

緩和ケアはやりがいのある仕事ですが、その一方で医療従事者にとっては、ストレスや喪失感が大きく、バーンアウトしやすいことですね。

これからますますニーズが多くなる領域だと思いますが、長続きするスタッフの育成が必要です。

当院では医師や看護師は、ペインクリニック外来とがん患者様の訪問診療の両方に携わってもらうこと、また、担当制にせずチームで対応する体制にすることで「心の負担」を減らすよう心がけています。

 

▲ホスピス型賃貸マンション『アマニカス』の地下のホールは、松永先生が好きなアンティーク家具で統一したクラシカルな空間。月1回プロの演奏家を招くジャズライブは入居者はもちろん、近隣の方々も楽しみにしているそう。

 

理想をカタチにして目標は達成。これからは継続がテーマ

—がん患者の訪問件数は、大阪府トップクラスの実績とのこと。

これまでの訪問件数は1200件程度です。

クリニック開院時は、病院で最期を迎えることがほとんどでした。

今は多くの病院やクリニックが緩和ケアや在宅医療に力を入れていることもあり、北摂エリアの癌患者さんの自宅での看取り率は厚生省の目指す12%前後まで上がっています。

当院は在宅ホスピスのパイオニアとして存在したと思います。

 

-これからのビジョンは?

「こんな施設が必要」と思い、ホスピス型賃貸マンション『アマニカス』が生まれ、24時間体制で、医療、看護、介護を提供しています。

利用していただいた患者さんやご家族に喜んでいただく姿を見ると、自分の思いや方向性に間違いはなかったと実感しています。

1つのモデルケースをつくり、「こんなやり方」を模索していることに対し、自分の中ではひとつの目標に到達できたと思っています。

 

課題はたくさんありますが、なによりも経営も含めた運営を維持していくことが最も大きな目標です。

多くの方にご利用いただけるように安定した基盤をつくることが何よりも大切だと思っています。

 

-とても充実しているように見えますね!

患者さんやご家族の皆さんからありがとうと言われ、喜ばれた顔を見ると続けようと思いますが、一方でそろそろ様々なストレスから解放されたいと思っている自分がいます。

 

取材後記

これまで緩和ケアと聞くと、がん末期の患者さんが受けるイメージでしたが、早期に行うことで痛みを和らげ、自分らしく生き生きと暮らし、延命にも繋がることを知りました。また、ホスピス型賃貸マンション『アマニカス』は、24時間・365日の医療体制で安心して過ごせる新しい在宅医療のスタイル。我が家のように寛げる個室や緑溢れる庭園、本格的な音楽ホールがあり、患者さんだけでなく家族も一緒に楽しめる空間です。取材では「自分の理想をカタチにできた」と語る松永先生の充実した笑顔がとても印象的でした。一人でも多くの患者さんに利用していただき、病気や痛みと向き合いながら幸せな生活を手にしてほしいと願うばかりです。

 

◎取材先紹介

医療法人永仁会 千里ペインクリニック

大阪府豊中市少路1丁目7番18号 アマニカス1階

TEL:06-6856-1371

http://www.senri-pain.jp/

 

(取材・文/藤田 美佐子、撮影/前川 聡)

 

無料メルマガ登録

【無料公開中】人気記事を資料にまとめました!

資料ダウンロード「感染予防」