同じ志の多職種の仲間と、一人ひとりの患者に向き合う -ナカイクリニック 院長 中井昭宏-

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大阪府第二の都市である堺市。閑静な住宅街が広がる西区浜寺元町に2007年、内科・心療内科・放射線科を専門とする中井医師が「ナカイクリニック」を開業しました。我が家で最期を迎えたいと願う患者さんのために熱心に在宅医療に携わり、その想いに共感するスタッフと多職種連携を実現しています。さらに近畿大学校友会の地域医療ケア支部の支部長としても活躍する中井医師に、在宅医療や多職種連携への取り組みについて伺いました。

 

<プロフィール>

▲中井 昭宏(なかい・あきひろ)先生

ナカイクリニック 院長

1968年4月20日生まれ。近畿大学医学部卒業後に放射線診断科に入局。大阪府内の民間病院で内科、小児科、救急、心療内科の勤務医として従事するなか、患者さん一人ひとりに寄り添った在宅医療に取り組みたい想いから、2007年「ナカイクリニック」を開業。近畿大学校友会において地域医療ケア支部の支部長を務めるなど、地域や職種を超えたネットワークづくりにも力を入れる。

 

 患者さんに作った“ポタージュスープ”が開業のきっかけに

—最初に在宅医療に興味を持ったのはいつですか?

学生時代、がんで母親が亡くなったときです。

ギリギリまで「家に帰らせてほしい」と強く望んでいましたが、当時は自宅で看取る仕組みがなく、そのような支援のできる医師になりたいと思いました。

 

 -実際に在宅医療に携わったのは?

大阪府の民間病院が在宅医療を始めたころ、私も携わりましたが数々の壁や限界を感じました。

患者さんが亡くなったら夜間でもすぐに駆けつけたいのに、病院からは給与もタクシー代も出ない。

患者さんが希望するのは我が家。

いつ、どんなときでも家に来てくれる医師でなければ意味がない、と思いました。

 

-開業のきっかけになった出来事はありますか?

ある末期がんの患者さんの話です。

患者さんが「先生、もう何も食べられなくなった」と言うので「最後に飲みたいとか、食べたいものはある?」と聞いたところ、「北海道のジャガイモで作ったポタージュが飲みたい」とおっしゃった。

そこで北海道から食材を取り寄せて、自分で料理をしてボタージュスープを届けたんです。

 

-医師が患者さんの食事を作った話は、初めて聞きました。

あんまりないでしょうね(笑)。

その患者さんは、これまで苦労を重ねて畑をやっていて、まさか自分が末期がんになるとは思っていなかった。

たくさん話をするなかで、そんな境遇も知っていたので、最後の希望をなんとかしたかったんですよ。

ポタージュスープを「おいしい、おいしい!」と嬉しそうに飲んでもらったとき、こういう患者に寄り添った仕事をしていきたい、それなら、もう自分で開業するしかない、と決心しました。

 

食べられるチャンスがあれば、積極的に手伝いたい

—自宅で最期を迎えたいという患者さんは増えていますか?

「最後の“死に甲斐”をどうするか?」と考える人が増えているのは事実。

痛みがなければ家で過ごしたいし、絶対に好きなものを食べたいんです。

在宅医療に関わる医師として、食べられるチャンスがあれば手伝いたい。

家族の支援がない人や独居の方も多いなか、積極的に介入してきました。

 

-これまでに、どんな患者さんがいらっしゃいましたか。

印象的だったのは、焼酎を飲ませてほしいという患者さん。

訪問看護師に相談し、本人にも病状が悪化するかもしれないと全て説明しましたが、「先生、飲ませて」と言うのでアテとして和歌山までマグロを買いに行き、一緒に飲みました。

そしたら味をしめてね(笑)。

次のリクエストは、フランス料理のフルコース。

さすがに私一人では無理だと思っていたら「私たちが作ります」と訪問看護師の方々が手伝ってくれました。

食べられないことはわかっていましたが、目で楽しんでもらおうと。

その患者さんは、出来上がった料理を何とも言えない笑顔で見つめてくれていました。

 

-抜群のチームワークですね!

本来であれば医療機関、近隣やボランティアの方で支援ができればいいですが、システムが追いついていません。

僕が旗を振ったら周りが手伝ってくれて、だから実現できたこと。

無茶なこともやっています。

ある白血病の男の子の患者さんは、抗がん剤をたくさん使っていたので生モノは一切禁止。

お母さんも「絶対にあかん!」とおっしゃっていましたが、本人は「マグロ、マグロが食べたい」って言うんです。

私は何度も、いろんな先生に相談し、最後はご家族にも了承いただいて小さいマグロの握りを一折作りました。

普段は1日におにぎり2個しか食べないのに、ペロっと完食! その後に私の誕生日がきて、男の子がプレゼントを用意してくれたり、亡くなる前に書いていた“お礼したい人リスト”にパパとママ、お兄ちゃんの次に私や訪問看護師の名前があったんです。

だから特に思い出深いですよ。

 

-それが在宅医療のやりがいに?

その男の子の往診には、必ず30分時間を取ってゲームをやってから診察や食事のアドバイスをし、日曜日も暇があれば遊びに行きました。

それが私のモチベーション。

淡々と死を迎えるだけでは続かないですよ。

もちろん、亡くなったと連絡を受けたときは、すぐに、何があろうと走って駆けつけます。

患者さんの中は、自分の最期がわかる方もいて「明日の朝7時に来て欲しい」と言われ、翌日の6時50分頃に伺ったら呼吸が止まったタイミングだったこともありました。

最期まで面倒をみる希少な医師として、堺市は自分がやっていこう。

しんどいこともありますが、在宅医療は好きですよ。

▲広々とした明るいクリニックには、患者さんが作った似顔絵や、スタッフからの誕生日プレゼントなど温もり溢れるアイテムが。地域のみなさんに親しまれている中井医師の人柄が伝わってきます。

 

医療チームは、想いに共感してくれる仲間の集まり

—訪問看護師や薬局とのネットワークづくりは円滑でしたか?

最初は苦労しました。

けれども長く付き合っていきたいので妥協はせず、薬局なら薬の種類や量が豊富でフットワークが軽いところを随分と探しました。

何度も足を運び、食事をしながら「こんな医療をしたいから手伝ってほしい」とお願いし、最後はオーナーさんから「全面的に引き受けます。一緒にやっていきましょう」と共感していただきました。

 

-そうやって医療チームが出来上がった?

開業当初、訪問看護ステーションと薬局とでオレンジサークルという緩和ケアのチームを作り、初回の往診には医師、訪問看護師、薬剤師の3人体制で訪問しました。

これだけのスタッフが24時間体制で見守ってくれるとわかれば、患者さんは安心しますから。

サークルとしての活動はしていませんが、今でも連携は図っています。

 

-現場で助けられることも多いですか?

特に年配の患者さんは“お医者さん”というと構えてしまいがちですが、訪問看護師を前にすると何でもよく話します。

以前、私には「むくみはありません」と答えていた患者さんが、訪問看護師には「むくみが気になって、内緒でマッサージに通っています」と相談していたことも。

その情報を共有して治療法の提案もできるので、随分と助かっています。

▲「堺市西区に開業したのは、知人の社長が介護付き有料老人ホームを運営することになり、入居者さんを往診するクリニックを併設したいという話を受けたから。看板を立てずに口コミで患者さんを集め、イチからスタートしましたが、人に恵まれて多くの支援を受けました」と語る中井医師。

 

近畿大学OBのネットワークを地域医療に活かしたい

-近畿大学OBのネットワークを作っているそうですね。

近畿大学では全卒業生を対象に、近畿大学校友会という組織を作り、日本全国と台湾・韓国・タイ・アメリカ・マレーシアなどの海外を含め197の支部を設けています。

私は地域医療ケア支部の支部長として、この地域のキーマンを任されていますが、まだ始まったばかり。

名刺交換をして近大出身とわかると「こんな連携をやっているから一緒にやりませんか」と一人ひとりに声をかけて、ようやく医師や看護師、薬剤師、栄養士などのメンバーが60人程集まりました。本当に地道な活動です(笑)

 

-具体的にはどんな活動を?

南大阪在宅医療看護研究会を立ち上げ、年に1回、在宅ケア向上を目的に講演会を継続的に開催しています。

そのほかに大阪府の老人会や病院・施設から「先生、認知症や予防について話してほしい」といった依頼も受けていますね。

講演会だけでなく相談コーナーを設けた方がいいとなれば「ごめん、この日は空けておいて」と他の職種のメンバーにも協力してもらっています。

また、近大出身者が多く活躍する台湾に毎年足を運び、医療指導をしています。

日本よりも医療技術やシステム導入が遅れている地域に行ったら、医師としていろいろ教えたくなるもの。

将来、介護施設とはいきませんが、日本の家族がゆったりと最期を過ごせる場所を提供したい夢を持っています。

 

-これから地域医療にどう活かしていきますか?

近畿大学病院に通院する患者さんが自宅に帰って来たとき、在宅医や訪問看護師、薬剤師などのスタッフ全員を近畿大学出身者で構成して支援する。

お互いに性格などもわかっているので、対等で円滑な意思疎通を図ることができ、患者さんにも安心感を与えられます。

東京や名古屋にも拠点をつくり、10年後に「大きな組織になった」と仲間としみじみ振り返りたいですね。

 

-異業種の方も参加していますか?

支部の存在を知り、弁護士や税理士、建築士など異業種のメンバーとも少しずつ繋がりができてきました、みんな「誰か困っている人がいたら声をかけてね」と協力的です。

一人で開業して悩むより、些細なことでも気軽に相談できる仲間がいたら気持ちは楽になる。

医師は医療関係者以外の人とのネットワークをつくることが苦手なので、どんどん人脈を広げて情報交換や交流の場を設けていきたい。

このネットワークが地域医療の支援や発展に繋がったら嬉しいです。

 

地域医療には、多職種連携と医師の想いが不可欠

-在宅医療の課題はありますか?

病診連携は取れていますが、患者さんを私たちに送るタイミングをもっと早めてほしいですね。

現状ではコミュニケーションを図る時間がすごく短い。

抗がん剤治療が始まり、あまり効果がみられない時点で任せてもらえたら、患者さんの満足度はもっと高まるはずです。

また、自分たちの医療チーム内ではSNSを活用して情報共有をしていますが、他のチームとも「今、手が離せないから、この患者さんを訪問してほしい」といった連携を図れたら便利。

これから後期高齢者がさらに増え、労働人口が減っていくなか、少数精鋭で地域医療を支えるシステムが必要になってくるでしょうね。

 

-事業領域を広げていく構想はありますか?

医師や相談員を増やし、いずれはクリニック内に地域連携室を設けたいと思っていますが、自前で介護施設を作ろうとは考えていません。

複数の医療機関や施設、そして多職種の方々と連携した方がよりよいサービスを実現できるからです。

この地域全体が1つの病院と見立て、その中にクリニックの医師、訪問看護ステーションには看護師がいて、支援するヘルパーや相談員がいるのが理想です。

 

-最後に読者へのメッセージをお願いします。

在宅医療は病院とは異なり、患者さんの背景や家族全体を見ることになります。

その全部を受け入れていくには多職種連携が不可欠。

食の支援はもちろん、いろんな職種が介入して情報共有することで成り立つもの。

医師がトップに立つのではなく、役者が全員揃い、患者さんも含めて円陣を組み、一つのチームを作ることが大切です。

さらに自分がどんな人生の最期を迎えたいのか、きちんと考えたうえで患者さんと向き合う。

想いがなければ伝わらないし、医療チームのイメージを具体的に持っていなければ、誰もついてきてくれません。

まずは自分の想いを具現化したうえで開業して、地域医療に邁進してほしいと思います。

 


取材後記

歯に衣着せず、感情豊かに想いを語り、取材に応じてくださった中井医師。患者さん一人ひとりと真剣に向き合い、使命感を持って地域医療に取り組む、強い意志を感じました。その熱意で周囲の人たちを巻き込み、堺市の在宅医療の向上を目指しています。

クリニックには、中井医師の似顔絵をはじめとする患者さんからの手作りプレゼント、そして笑顔いっぱいの写真の数々が展示されていました。たとえ短くても幸せな人生の最期を過ごしたことが手に取るように伝わってきます。このような患者さん本位の在宅医療を実現するには多職種連携が不可欠。特に「医師がどれだけの想いを持っているか。それが一番大切」という言葉が心に残りました。これからも地域医療を盛り上げ、若い医師たちに想いを継承していってくれることを期待しています。

 

◎取材先紹介

〒592-8343
大阪府堺市西区浜寺元町1-120-1
ナカイクリニック
TEL 072-269-0553
http://eterno-teresa.jp/nakai/index.html

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