医科歯科連携は“「分からない」の壁”を取り払うことから。 -医療法人社団 啓至会 理事長/町田わかば歯科 院長 星野 真-

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JR横浜線・小田急線町田駅からバスに乗ること10分、町田街道に面した建物に町田わかば歯科はあります。こちらは歯科医院であるものの、主な役割は訪問歯科診療を通じて、自由に外出できない方の口腔のトータルケアをすること。今回は啓至会理事長であり、町田わかば歯科院長も務める星野先生に、医科歯科連携の取り組み、地域における訪問歯科の役割などをお話しいただきました。

 

<プロフィール>

▲星野 真(ほしの・まこと)先生

医療法人社団 啓至会 理事長/町田わかば歯科 院長

1995年北海道大学歯学部卒業後、東京女子医科大学病院歯科口腔外科入局。口腔外科専門医を取得する傍ら、口腔病理の基礎研究により医学博士号も取得。在職中に昭和大学歯学部の金子芳洋医師の著書『摂食嚥下障害の評価法と食事指導』に出合い、訪問歯科での摂食嚥下診療の必要性を確信し在宅診療に転身。2011年訪問歯科専門クリニックである武蔵野わかば歯科を開設し、口腔機能回復、低栄養改善などに積極的に携わっている。2017年5月からは「わかば塾」を主催し、訪問歯科を実践できる歯科医師、歯科衛生士の育成にも関わる。

 

口腔ケアの実態を見て、訪問歯科の世界へ

-これまでのご経歴を簡単に伺えますか。

北海道大学の歯学部を卒業後、東京女子医科大学の歯科口腔外科に入局し、口腔外科を中心に外傷、腫瘍の手術や病棟管理をしていました。

歯科口腔外科を選んだのは大学時代に高齢化が起こることを散々聞いており、来院される方には有病者が多いと思ったからです。

そういった方の全身管理ができ、疾病を理解した上でリスク管理をしながら、安全な歯科治療ができる歯科医師になりたい、と思っていました。

 

-大学病院内で口腔ケアを推進されていたのですね。

依頼を受けて各フロアの病棟やICUに往診に行ってみると、人工呼吸器関連肺炎で挿管されている方は、唾液の誤嚥による肺炎が多く報告されていたため、女子医大の中で口腔ケア研究会をつくりました。

また、その頃私は病棟長をしていたため、たとえば舌がんの再建術後の患者さんが退院することがあれば、ご家族も含めて退院時指導をする立場でした。

私がゼリーを食べさせたり、口の体操をしたりと、少しでも帰宅後の食生活が安心に送れるように、今でいう嚥下訓練を行いました。

当時の大学病院ではそんなことは教えてくれませんでしたし、学生時代にも習っていなかったため、ほぼ独学です。

今から振り返ればこれが訪問歯科のスタートだったかもしれません。

 

-そこから訪問歯科の世界に飛び込むことになる。

大学を辞めてアルバイト探しをしているときに、訪問歯科という触れ込みを見て興味を持ちました。

そこで老人ホームに初めて足を踏み入れることになりますが、寝たきりの高齢者の口腔内環境がかなり劣悪なのにまず驚きました。

歯科医が往診しているにも関わらず、満足な治療もケアもされないまま放置されており、歯科が全く役に立っていない現状を目の当たりにしました。

一方で、これまでに自分が大学病院の病棟で全身管理をやってきた経験を活かして、療養している要介護高齢者やハイリスクな患者さんの治療を行う訪問歯科の世界に貢献できそうだとも感じました。

▲「静岡県立静岡がんセンター歯科口腔外科部長(当時)であった大田洋二郎先生は、適切な口腔ケアによって術後の合併症が減り、入院期間が短縮できるということを提唱されており、手探りの私に新しい方法論を教えていただきました。」と話す星野先生。

 

全体を見る医師、専門職の歯科医。互いを知ることが連携への第一歩

-口腔ケアの認知が広まる中で、医科歯科連携が持つ価値とは何でしょうか。

訪問歯科では、病気と共に療養している方の生活の場に私たちはおじゃましているので、優先されるべきは健やかに日常が送れることであり、それを支える根幹が「食べること」だと思います。

だんだん身体が衰えてきて、精神的な意欲が落ちてきていても、食事だけは絶対に必要です。

たとえば寝たきりになったとしても、最後まで働く機能はやはり食べることに関するものです。

人間のこうした「食べる」という本質に対して、2つの職種が組むことで栄養へのアプローチができますし、かつ、最後までよく噛んで飲食ができるようになるメリットは計り知れません。

 

-医師だけでは充分にサポートすることは難しいということですね。

医師は患者さんの全体像は把握していますが、各論的な細かな機能や部位に対して専門性を持っているわけではないので、そのひとつを私たち歯科医が担えるならば本当に助かるとおっしゃってくれています。

おそらく訪問に関わっている主治医の中にも、医師と歯科医のような連携を望む気持ちがあると思いますが、なかなか自分たちだけではできないのが現状です。

 

-できないというよりも、分からない部分が多いのでしょうか。

そうですね、分からないという部分のほうが強いと思います。

患者さんが食べられないのは食欲の問題なのか、歯が痛いのか、それを周囲に訴えられていないのか、それとも認知症なのかがよく分からないのが実情でしょう。

そこで、歯科専門の先生が中継役を果たして、少しでも食べられるように後押しする、というのは、患者さんの療養上にもプラスですし、生活の質を上げることにもつながります。

「医科と歯科」がつながるのは、そこがキーワードだと思います。

 

-看護師や介護職の方とのコミュニケーションで課題はありますか。

看護師の方々は私たちの往診によく同行してくれますが、主治医はまだまだ共に行動することが少なく、そこが課題だと考えています。

実際、歯科衛生士や歯科医師といった職業が何をやるのかについては、相手はあまり知らないことが多いですね。

それは、こちら側も同様なので、相手を知ることが第一歩だと思い、初めの頃は衛生士を伴って内科の往診に同行しました。

互いに何をしているかを知ることで、仲が深まったというのもありますが、まったく視点が違うんだなということを理解できたことは収穫でしたね。

 

-お互いに、どこをどう見ているのでしょうか。

医師、看護師はやはり患者さんの全体を見ます。

医学的に言えばまず意識レベルの確認ですが、話しかけて返答があるかどうか、その人の表情や雰囲気、部屋に入って語りかけることからその人の体調や精神状態、病態の変化を把握しながら全体を見ていきます。

反面、歯科医はまず「入れ歯を見せてもらっていいですか」あるいは「お口の中のお掃除をします」と言って入っていきます。

悪い言い方をすれば、口の中さえきれいになればOKという印象すらあります。

それが、看護師の仕事を間近で見ることで、「あ、そういうふうに患者さんを見ていくんだ」と感じて、学んだように思います。

▲「キーパーソンは医師、そのサブとして歯科医がおり、この医科歯科連携がっちりと手を組むことで周りの職種がより一層素早くに動けるようになるので、必然的にそれが多職種連携につながる」と、星野先生は語ります。

 

医師と歯科医が共通認識を持つことで早期回復に貢献

-医科歯科連携によって、変わった部分やメリットはどこでしょうか。

医師と歯科医が共通認識を持てることです。どこに患者さんを導いていくか、どのような診療方針で進めていくかが共通化できます。

そもそもなぜ医科歯科連携かという部分に立ち戻れば、この2職種のみが指示を出せる職種だからです。

 

-タッグを組むことで現場がスムーズに動けると。

たとえば嚥下訓練はST(言語聴覚士)に歯科医から指示を出せるのがベストです。

管理栄養士の場合は保険点数上の問題があるため、医師を経由しなければなりませんが、本来であれば栄養面や嚥下機能を考えた食事を、私たち歯科医から栄養士に直接依頼できる形が望ましい。

肝心の主治医が栄養のことや、嚥下のこと、口腔内のことを把握していない場合、認識のない人を経由しなければならないという本末転倒なフローになってしまいます。

 

-それは難しさがありますね。

それは非常にストレスですね。

でも、だからこそ主治医と歯科医ががっちりとタッグを組んで方向性を合わせることが大切です。

当院はありがたいことに、歯科に理解のある医師が近くにいたため、タッグを組んで多職種と共に在宅NST(栄養サポートチーム)という形で診ています。

主治医と歯科医が綿密な連携を取れれば、余計な説明はいりませんし、指示がスムーズに出るようになります。

 

-実際に医科歯科連携で良くなった患者さんの事例はありますか。

重度の心不全で死の間際と言われて担ぎ込まれた方の事例です。

どうにか一命をとりとめて回復病棟に移りましたが、まったく経口摂取はできず、鼻からチューブを入れて栄養を摂っていました。

私はリハビリ病院の入院中からその方に付きましたが、ご家族とご本人の何とか口から食べたいというご希望を伺っていたので、ST、PT、OTに看護師も全員揃っているリハビリ病院の特長を活かして、訓練内容から処置の仕方まですべて指示させていただきました。

 

-主治医の先生も理解されたのでしょうか。

この場合は、主治医がぜひ来てくださいとのことで介入できたケースです。

最初は禁食状態でしたが、主治医が経管栄養を駆使してリハビリが行えるように栄養状態をサポートしてくださいました。

間接訓練から始めて徐々にゼリーが経口できるようになり、リハビリを続けるうちにソフト食程度であれば食べられるようになりました。

その後、在宅に移っても継続して診させていただきましたが、そのうちに刻み食が食べられるようになり、最終的にはその方の希望だった餃子まで食べられるようになりましたね。

 

-早い介入ができるというのは理想的ですね。

本当に理想です。

体調が悪化したものを元に戻すには相当なエネルギーが必要なので、入院中の初期から介入できるのが一番良いですね。

今は誤嚥性肺炎で入院しても、急性期担当の医師はできるだけ早い2日目ぐらいの段階から、経口摂取を開始させるとおっしゃっていました。

これからは医師の方もどんどん変わっていかなければいけません。

▲ナチュラルケアグループでは、星野先生と医師の方々が月1回大阪で嚥下内視鏡の検査のために往診を行っている。そこには、主治医から看護師、ST、PT、栄養士もいるため、完全な多職種連携ができあがっているとのこと。

 

コミュニケーションの壁を取り払い、専門職としての信頼を醸成

-地域の交流や、主催されているわかば塾について教えてください。

地域では、たとえば介護支援事業所に出向いて、要介護になる前のご高齢の方たちに介護予防的な口腔ケアの仕方や、嚥下障害にならずに済むポイントをお話ししています。

その他に在宅に取り組みたいと考えている歯科医、歯科衛生士を対象としたわかば塾を開催しています。実際に地域の中でどのように動いたらいいのか悩む先生は多く存在します。

先ほども述べたように、私は医科歯科連携が大事だと考えていますが、歯科医師側の問題として、連携を取りたいが実際に医師と何を話して良いのか分からないケースが多いのです。

 

-歯科医と医師の間には、壁があると。

患者さんの往診に行きたいという、熱意ある歯科医は大勢いますが、コミュニケーションの部分でつまずきを感じている方は多いです。

そういった歯科医のために、主治医が歯科に何を求めているのか、看護師さんやSTさんがどういうことをやっているか、何から話せば良いかを伝えて、医師と歯科医の垣根を取っていければなと思っています。

加えて、やはり在宅の往診に行くのであれば最低限知っておかなければならない医学知識があります。

これは大学病院でも学校でも教えてくれないので、勉強会をひらけば喜ばれるのではないかという思惑がありました。

 

-意識や知識を身につけることが、各地域の在宅訪問歯科の底上げになりますね。

こっそり患者さんの家に行って、「口腔ケア終わりました。失礼します」と静かに帰ってくるだけではもったいないですよね。

性格的に得手不得手はあるにせよ、単に人間関係の構築だけではなく、専門職対専門職として信頼されるというのが本筋だと思います。

それには歯科医側も、積極的に関わりをもつような動きが必要ですし、現場を把握し仕切れるような能力も必要です。

その準備のための“わかば塾”です。

 

職域を超えて、さらなる連携の拡大を進めたい

-先生が今後、医科歯科連携で実現したいことをお聞かせください。

現在わかば塾でやっているようなことが、皆で取り組めるようになれば医科歯科連携の世界も大きく変わると思っています。

歯や口腔内は毎日のケアがとても大事です。その主軸になれるのは歯科衛生士だと思うので、交流のすそ野をさらに広げられればよいですね。

 


取材後記

スマートな佇まいの一方、身振り手振りを含めた情熱的な語り口が印象的だった星野先生。日頃から医院の歯科衛生士の方々に「歯磨き要員になるんじゃない」と、よく言っておられるそうです。考え方の基にあるのは、病気だけではなく人全体を診ることの大切さ。こうした真剣な姿勢が、日々患者さんに対して、また後進の歯科医や歯科衛生士に対して向けられ、地域の訪問歯科を支えていると感じさせられました。

 

◎取材先紹介

町田わかば歯科

〒194-0022 東京都町田市森野3-18-18
TEL:042-728-8029
http://machida-wakaba.com/

(取材・文/佐々木修、撮影/菅沢健二)

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