患者と家族の想いに耳を傾け寄り添うことが“在宅緩和ケア”の本質 -ホワイト花満クリニック 院長 末満 隆一-

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ガラス張りの明るい窓一面に咲き誇る、可憐なフラワー。閑静な住宅エリアである福岡市城南区に、昨年(2016年)春に開院した「ホワイト花満クリニック」は、がん患者をはじめとする終末期の在宅緩和ケアに重点を置いた訪問診療クリニックです。院長の末満先生に、在宅緩和ケアの必要性を感じるようになった経緯、日々多くのご家庭を訪問する中で大切にされている信条などを中心にお話しを伺いました。

 

<プロフィール>

▲末満 隆一(すえみつ・りゅういち)先生

ホワイト花満クリニック 院長

福岡市生まれ。九州大学医学部卒業後、同大学第二外科の呼吸器外科医としてがん治療などに従事。2010年から緩和ケアを中心とした医療に携わるようになり、在宅ホスピス(在宅緩和ケア)の重要性を感じて在宅療養支援診療所(たろうクリニック)、長尾病院で在宅診療の経験を重ねる。2016年4月、福岡市城南区に「ホワイト花満クリニック」を開業。

 

初めての看取りで感じた無力感が、道を開く原動力に

-呼吸器外科ご出身の末満先生がなぜ在宅医療を?

大学病院に入局した当初は呼吸器外科を極めることを目指していましたが、研修医1年目の研修先で副当直医を担当し、初めて患者さんのお看取りに接して考え方が変わりました。

老衰で亡くなられた患者さんでしたが、病棟の看護師から「呼吸が止まったようです。」と連絡が入り、病室へ駆けつけると、ご家族のお看取りもなく、ひっそりと息を引き取られていました。医師としてできたのは、お亡くなりになった確認と死亡診断書を記すことだけでした。

「こんな寂しい最期でいいのだろうか?」という思いが、心の片隅に残るようになりました。

 

-医師として最初に接したお看取りが、その後に影響を?

さらに翌年、食道がんの患者さんのお看取りを引き継ぎで担当したことが、終末期の緩和ケアに本気で取り組むきっかけになりました。

その患者さんは症状も比較的落ち着いていたのですが、私が当直ではない時に急変して亡くなってしまったんです。

「痛みが相当強かったご様子だった」と後で知り、心が痛みました。

痛みを和らげる処置ができていれば、穏やかな最期を迎えるお手伝いができたかも知れない、と。

その後、外科医を続けながら独学で緩和ケアについて学ぶようになりました。

 

-緩和ケアを在宅医療で取り組む重要性に気づいたのは?

医師になって13年目、2010年頃です。

緩和ケア病棟がある病院で外来担当医として勤務するようになり、病状が重症化して受診が困難になる患者さんがいらっしゃることに気付かされました。

患者さんが通院できる状態ではないなら、こちらから出向けばいい。

そう考えるようになり、福岡市内の在宅療養支援診療所で2年ほど非常勤医師として働きながら在宅医療の基礎を学び、さらにリバビリ病院の在宅診療部の立ち上げ医師の一人として、より深く携わるようになったことで、開業を志すようになりました。

▲外科医として診断・治療・看取りの経験を積みながら、在宅緩和ケアを志すようになった末満院長。「さまざまなご縁とご指導に恵まれて、今の自分があると思っています」

 

勤務医時代からの小さな積み重ねが開業後の縁に

-開業に不安はありませんでしたか?

患者さんが集まるかどうか、集患に対する不安はありましたが、幸いなことに勤務医時代からの地道な積み重ねが、ご縁を運んでくれました。

他病院から患者さんのご紹介を受けたら必ずお礼状を書き、長期治療に及ぶ場合は経過報告書を怠らず、退院されたり亡くなられた時は必ず報告する。

そうした共有を、連携先の担当医師にはもちろんのこと、メディカルソーシャルワーカー(MSW)にも必ずしていたので、名前と顔をよく覚えてくださっていたのです。

それがご縁となり、開業後のご紹介につながりました。

 

-何事に対しても謙虚に誠実に向き合う。先生のお人柄ですね。

そんな大げさなことではなく、「自分が逆の立場なら紹介後の患者さんの様子が気にかかる」と当たり前のように感じたことを実行しているだけです。

ですが、経過報告の共有まで定期的にする医師は、そう多くはいないとMSWさんに教えてもらいました(苦笑)。

 

-開業から丸1年。現在の在宅患者数やクリニックのチーム体制は?

患者さん数は60名前後。

居宅(自宅療養)を中心に、終末期のがん患者さんの緩和ケアを積極的にさせていただいています。

最初の1年でお看取りさせていただいた患者さんが約40名。

今年度はさらに増えるかも知れません。

ドクターは私と非常勤医師の2名、看護師が常勤2名、事務職員常勤・非常勤2名のミニマム体制です。

さらに信頼できる外部の訪問看護ステーションにサポートしていただき、365日24時間体制で患者さんとご家族のケアを行なっています。

私自身が全ての患者さんの状況を把握し、ベストを尽くしたケアができなければ在宅医として開業した意味がないと思っているので、今はこれ以上クリニックの体制を大きくすることは考えていませんね。

▲「開業時の手続き・届け出も不安材料の一つでした」と末満院長。開業専門のコンサルタントを紹介してもらうことで、準備期間わずか半年でクリニック開設が実現できたそう。

 

在宅医に必要なのは「聞く力」「寄り添う姿勢」

-在宅医として、心がけていることはありますか?

大学病院時代に上司の医師から「患者さんとご家族との信頼関係は1日あれば築ける」と教わりました。

当時の私はまだ若かったので「できるわけがない」と思っていましたが、今ならその言葉の意味が身にしみるように分かります。

大切なのは、目の前の患者さんが、より良い日常を過ごせるよう、医師として何ができるか?を常に考えること。

そのためには、とにかく、患者さん・ご家族の話しに耳を傾け続けることしかありません。

時間をかけても、なかなか想いが伝わらないことはあります。

分かりやすい言葉で説明したつもりでも、理解していただけないこともあります。

それでも、向き合おうとする姿勢を示し続けることが大切だと考えています。

 

-看取りに不安を感じるご家族にはどう接しますか?

当初は「急変したら病院へ」と望まれていたご家族が、訪問診療に伺ううちに少しずつ気持ちが整い、最終的にご自宅でのお看取りを選ばれるケースは多いですね。

そこに至るまでには、私の力だけでは到底難しく、訪問看護師さんの力添えによるところが大きいですね。

そういうチーム体制で「何かあれば必ず駆けつける」「最期まで一緒に頑張りましょう」という姿勢がご家族にちゃんと伝わることで安堵感が生まれ、患者さんの穏やかなお看取りにつながるのだと思います。

▲クリニック名の「ホワイト」は、癒やしを象徴するキュアカラー。全ての患者さんを花に例え、自分らしさを取り戻して満たされるよう願いを込めて「花満」と名付けたそう。

 

出会いは一期一会。最期までお看取りするのが在宅医の使命

-先生ご自身が忘れられない、お看取りの患者さんはいらっしゃいますか?

納得してお看取りをしていただけなかったケースの方が、強く印象に残っていますね。

開業前に外来担当させていただいた呼吸器系のがん患者さんが、ご自宅で最期を過ごすために遠方の入院先から帰ってこられ、在宅ケアに向けた準備を進めていた矢先にお亡くなりになったことがあります。

ご家族が「病院から連れて帰らなければ」「自分が目を離さなければ」と、ご自分を責めてしまうようになって・・・。

その後、半年ほど外来でご家族の心のケア(グリーフケア)をさせていただいたのですが、3回忌が過ぎた今でも心の傷が完全に癒えていらっしゃらない。

悔いが残らないお看取りをエスコートするのが在宅医の役目の一つでもあるのですが、正解がないだけに、今でも難しさを感じています。

 

-ご家族のグリーフケアもされているのですか?

1時間程度、お話しに耳を傾ける程度のケアですが、ご家族の気持ちの整理のお手伝いになればとの想いから、時間が許す範囲で対応させていただいていました。

だだ、開業してからは訪問診療を最優先にしているため、単純に時間の余裕がなくなってしまい、今はそこまでのケアが正直できていません。

 

-医師一人が診られる人数には限界がありますよね。最近は、在宅医が連携して負荷軽減を図る動きもありますが?

夜間の緊急診療や看取りについて、グループを組んで当直制で対応している訪問診療クリニックもありますよね。

とても、いいアイデアだと思います。だけど、当直ではなかったために最期のケアができなかった勤務医時代の経験を、結局また繰り返すことになるのではないかと抵抗を感じてしまうのです。

私は在宅医として、自分が診ている患者さんに対して最期まで責任を持ちたいと思っています。

だから、一人で診られる限界の指標として「患者さんの人数は70名まで」と決めています。

 

夢は終末期の重症患者が過ごせるアットホームな在宅ホスピス施設

-今後のクリニックや先生ご自身の目標はありますか?

中心静脈栄養管理や気管切開管理といった要医療度が高く、施設やご自宅での介護が難しい終末期の重症患者さんを受け入れられる高齢者向けの施設を、いつか作りたいと考えています。

ご自宅と同じように過ごせる、アットホームで温かい雰囲気の10床以下の小さな施設が理想的ですね。

 

-在宅医療の今後に課題に感じていることはありますか?

まだまだ私も勉強中なので偉そうなことは何も言えません(苦笑)。

ただ、私自身を振り返ると、在宅医療の存在すら知らなかった勤務医時代は、終末期のがん患者さんの緩和ケアを在宅で行うという考え方も知識もありませんでした。

ですが、在宅医として走り出した今は「どんな病状の患者さんでもご自宅へ帰れる」「住み慣れた場所で最期まで過ごせる」と確信を持って言えます。

なので、医学生・研修医時代から在宅医療を実践的に学べるような教育の仕組みが整えば、退院後の在宅での医療的ケアを見据えた治療が入院中から可能になり、大病院から在宅医療への移行がより円滑になるかも知れませんね。

 

-最後に、これから在宅医療を目指す医師にアドバイスをお願いします!

在宅医療に限らず、どんな仕事でも大切なのは「情熱」です。

患者さんにとって、ご家族にとって何がベストの医療であるのか。

常に考えられる医師を目指してください。

 


取材後記

取材中、終始謙虚な発言が目立った末満院長。先生から出てくるエピソードはいずれも、患者さんに対して「してあげることができなかった」というものばかり。それこそが、先生の真摯な姿勢とお人柄を表しているのだと感じました。クリニックの看護師さんによれば「誰に対しても、目と表情を見て、時間を惜しまず会話をするのが先生の診療スタイル。私たちスタッフに対しても同じなんですよ」とのこと。先生と連携している別の訪問看護師さんも「お看取りまで先生のケアは本当に美しい」と大絶賛でした。末満先生ご自身が、ピュアカラーの花そのものなのかも知れません。包み込むような穏やかな笑顔も印象的で、取材班も優しい気持ちにさせていただきました!

◎取材先紹介

ホワイト花満(かみつ)クリニック
福岡県福岡市城南区神松寺2−10−3
電話:092−801−8739
http://www.shirohana8739.com

(取材・文/野村ゆき、撮影・中本マナブ)

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