薬剤師の視点からみた理想の在宅医療チームとは:チーム大津京の成功例(後編) −チーム大津京 サブリーダー/うさぎ調剤薬局 管理薬剤師 保井 洋平−

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関西の地域医療で注目を集めている「チーム大津京」。今回は創設メンバーの一人で、サブリーダーとして活躍している薬剤師の保井洋平さんにインタビューしてきました。

薬局で調剤対応や服薬指導を行う通常業務に加え、自ら地域に飛び出して連携ネットワークを拡げ、訪問薬剤師として積極的に在宅医療に関わってきた保井さん。「チーム大津京」をはじめ、大津市内の複数の地域医療チームの立ち上げにも尽力。そんな保井さんに在宅チーム医療における薬剤師をはじめとする専門職の関わり方、役割分担の重要性について教えていただきました!

滋賀県大津市で見つけた!在宅医療の「多職種連携」が目指す姿 -チーム大津京【イベントレポート】

2016.11.15

<プロフィール>

▲保井 洋平(やすい・ようへい)
うさぎ調剤薬局 浜大津店 管理薬剤師
チーム大津京 サブリーダー

大阪薬科大学卒。調剤・OTC併設型薬局、大手チェーン薬局などの勤務を経て、2014年より「うさぎ調剤薬局 浜大津店」へ。認定薬剤師、実務実習指導薬剤師、公認スポーツファーマシスト、吸入指導マイスター、禁煙支援薬剤師、日本在宅薬学会公認バイタルサイン講習会エヴァンジェリストなど様々な認定・資格を持つ。「チーム大津京」創設メンバーの一人で、現在もサブリーダーとして活躍中。「京滋摂食嚥下の会」世話人、「大津糖尿病連携フォーラム」世話人など、多彩なアプローチで地域医療に貢献している。

 

薬局のカウンターを飛び出し、患者さんの家へ!

保井さんは薬剤師として、いつ頃から在宅医療に携わるように?

10年ほど前、大津市北部の薬局に勤務していた頃に訪問薬剤管理に携わるようになりました。

難病の小児患者さん向けの栄養剤を定期的にお届けし、お薬を粉砕して飲みやすくする調剤対応から始まり、がん末期や認知症患者さんの訪問薬剤管理にも関わらせていただく機会が増えていきました。

 

薬局のカウンター業務から外へ飛び出し、患者さん宅へお薬を届ける。その違いは大きいものですか?

初めてターミナル(終末期)のがん患者さん宅へ訪問した時、かつて薬局でその方の服薬指導をさせていただいたことがあることに気づき、衝撃を受けました。

「あんなにお元気そうだったのに、数年でこんなに変わってしまうのか」と。

薬局には、比較的元気な方が訪ねて来られる場合が多いので、カウンター越しの会話から「死」を意識することはありません。

けれど患者さん宅へ訪問すると、ものすごくリアルに「死」を感じたのです。

この違いは、大きかったです。

 

その原体験から薬剤師の関わり方を考えるように?

それまでも「患者さんを待ち、カウンターで調剤対応と服薬指導をすればOK」という関わり方に、漠然とした疑問は感じていました。

服薬指導したお薬を、きちんと飲めているのか、効き方はどうだったのか、患者さんが再び薬局に足を運んでくれない限り何も状況が分からない。

一方通行のコミュニケーションは嫌だ!もっと自分から薬局の外へ出て行こう!という思いが、在宅医療に関わるようになり一層強くなりました。

 

「チーム大津京」との出会いも、その頃ですか?

大津市北部で在宅医療に力を注いでおられた診療所のドクターに声をかけていただき、チームの前身となったメーリングリスト(おうみ在宅医療ケアメーリングリスト)に紛れ込んだのが、最初のきっかけです。

そのメーリングリストからネットワークが大津全域に拡がり、気づいたら2012年秋の「チーム大津京」の決起集会に参加していました(笑)。

▲「終末期のがん患者さん宅への訪問がきっかけで、在宅医療に深く関わりたいと思うようになりました」と振り返る保井さん。「チーム大津京」に参加した当初、薬剤師は保井さん一人だったそう。

 

「チーム大津京」の活動を通じて、薬剤師の専門性を他職種にアピール

「チーム大津京」における保井さんの役割は?

私はサブリーダーとして、メーリングリストやSNSの情報発信を担当しています。

「チーム大津京」の大きな特徴が、チームリーダーがケアマネージャー、サブリーダーが薬剤師という、医師中心ではないチーム編成にあります。

だから、様々な在宅医の先生にも気軽に参加してもらいやすく、普段からケアマネージャーと連携を取り合っている多職種の方も参加しやすい。

これは、チームの発起人である西山医院・西山順博先生の丁寧な配慮だと思います。

 

それぞれの専門職がアピールする場にもなっている?

私の参加目的も、そこが一番大きいです(笑)。

在宅医の先生、訪問看護師さん、歯科衛生士さん、栄養士さんなど、多職種の大勢の方に「薬剤師の役割を知ってください」「専門スキルを上手に活用してください」「患者さんのためにも連携をとりあいましょう」という思いが出発点。

薬剤師を深く知ってもらうため、「在宅療養における薬剤師の役割」「在宅医療で何を薬剤師に依頼するのか」「ポリファーマシー問題について」などのテーマでグループワークを企画しました。

 

テーマを聞くだけでもとても興味深い内容ですね。

逆に、他の職種メンバーが企画した勉強会を通して、管理栄養士、歯科医・歯科衛生士、福祉用具、介護支援専門員、訪問看護師、リハビリ(PT・OT・ST)、鍼灸師など、様々な職種の在宅療養における役割について、深く知ることができました。

薬剤師だけではなく、それぞれの職種の人たちが「もっと知ってほしい」「役に立ちたい」と同じ思いを抱いていたことが分かり、なんだかホッとしました。

 

保井さんにとって、「チーム大津京」はどんな存在ですか?

「癒やし」でしょうか。

どんな仕事であれ、皆さん、様々なストレスや悩みを抱えていますよね。

私にとって、前向きな志からネガティブな悩みまで、吐き出せる・聞いてもらえる仲間がいる、そんなホームグラウンドが「チーム大津京」。

2カ月に一度の勉強会で気持ちをリセットして、明日からまた頑張ろう!と思える存在です。

 

病状が変化しやすい在宅医療では、きめ細やかな薬剤師の処方チェックと服薬管理が重要に

「在宅療養における薬剤師」について教えてください。どんな良い影響があるのでしょうか?

端的に言うと、ほとんどの患者さんの「飲むべき薬」が減ると思います。

 

お薬の“断捨離”ですか?

例えば、経管栄養の患者さんで、排尿を促進するお薬を退院前から処方され退院後も飲み続けているケースがありました。

突き詰めると入院中に導尿(膀胱留置カテーテル挿入)をしていた時に処方されていたもので、オムツに切り替えた後では必要のないお薬でした。

他にも、入院中、ブドウ糖の点滴をしているのに、持病の糖尿病のインスリンも打ち続けていて、退院して在宅に戻ってからはインスリン注のみとなり低血糖を度々起こしていたとか。

お薬同士が打ち消し合い、意味なしです・・・。

 

それって、レアケースではなく?

結構、ありがちです。

原因の一つは「処方カスケード」と呼ばれる処方の連鎖と悪循環です。

ある症状に対して薬を処方→副作用が出る→副作用に対して別の薬を追加処方という具合に薬の種類が増え、薬が相互作用を起こし、適切な薬物治療ができていない状況を生んでしまうのです。

 

入退院を繰り返している、持病が多いなど、全体像が把握しにくい患者さんも多そう・・・。

病院に入院していた時からの処方や、それ以前からの持病のお薬については、在宅主治医の先生も変えるに変えられないという状況が起こりやすい。

最近、問題視されている「ポリファーマシー」は「多剤併用」という言葉に置き換えられますが、薬の多さは一つの目安でしかなく、問題の本質ではありません。

重要なのは、「処方内容が患者さんにとって適切か否か」です。

 

だから、在宅医療に薬剤師が介入する意味があるのですね。処方内容についてドクターに助言することも?

例えば、嚥下障害のあるご高齢の患者さんの場合などではよく提案させていただくことはあります。

口の中ですぐに溶けるOD錠や、子ども用のシロップ薬の方が飲みやすいですので。

 

お薬のスペシャリストならではの柔軟なアレンジですね。

在宅医の先生と連携をとり、飲みやすいお薬に変えたり、1日3回の服薬を1日1回で済むよう調剤したり。

15種類から4種類にまで減らすことができたケースもあります。

特に在宅医療では、患者さんそれぞれの症状や生活リズムに合わせて、お薬の管理・調整を行うことが重要。

1日1回の服用でも、お薬をきちんと飲めるようになれば、効能が発揮されやすく、血液検査の数値などにも表れやすくなります。

▲保井さんが訪問薬剤師として関わった数年で患者さん宅から引き取った残薬の一部。「病状が進み、飲みこむ力が弱くなると残薬につながりやすいそう。「患者さんの状態が変わりやすいのが在宅医療、薬剤師の処方監査がとても重要になります」と保井さん。

 

専門職が専門性を発揮することが、在宅医療チーム力アップの秘訣

薬剤師が加わることで、在宅医療チーム全体の連携にも良い効果が?

まず、訪問看護師さんが本来の自分の仕事に集中できるようになります。

例えば、お薬の整理だけでも20〜30分かかってしまうこともあります。

私たち薬剤師がそこをきちんとカバーすれば、お薬の整理整頓をより分かりやすく、美しく、飲みやすく仕分けできますし、看護師さんは褥瘡ケアなどの看護業務に多くの時間を使えるようになります。

 

限られた訪問看護の時間をより有効活用できますね。

私自身、在宅医療に薬剤師として入らせてもらうようになり、訪問看護師さんの仕事量の多さに驚きました。

薬剤師の仕事だけでなく、歯科衛生士さん、栄養士さん、ヘルパーさんの仕事まで、看護師さん一人でやっていることが珍しくありません。

ですが「餅は餅屋」という言葉があります。看護師さんが抱え込み過ぎていたものを、それぞれの専門職に仕分けすれば、患者さんに提供できる医療・看護・介護の質の向上に繋がるはずです。

 

それこそが、在宅医療における「チーム医療」の真の理想なのですね!

薬剤師・栄養士・歯科衛生士を私は「在宅トリオ」と呼んでいるのですが、この3つの専門職が在宅医療チームに加わることが当たり前になれば、理想的です。

在宅医療のパフォーマンスは最高レベルにブラッシュアップできますよ!

▲取材中、保井さん宛に緊急相談が。5分後には患者さん用の薬を用意し、薬局前で連携しているケアマネに手渡していた。その応対の早さにびっくり!「チーム大津京のスピード感、いつもこんな感じです(笑)」と保井さん。

 

薬局カウンターからお看取りまで寄り添える薬剤師を目指して

「チーム大津京」では薬剤師の重要性や、チーム内の役割分担などが周知されている印象ですが、課題に感じていることはありますか?

在宅医療全般の市民向けのアナウンスが、まだまだ十分とは言えないと感じています。

歩行困難で薬局へお薬を取りに行けない、認知症があってお薬の飲み忘れなどが頻繁に起こるようになった、処方されている錠剤やカプセルが飲みづらくなったなど、身近なお薬に関する困りごとが訪問診療を始める良いきっかけになりやすいと思います。

薬以外の介護の不安などの相談は、チームのケアマネージャーに橋渡しをすることができますし、困りごとを誰にも相談できず地域で孤立してしまう人が、一人も存在しないようにしたいですね。

 

薬剤師として、どんな風に患者さんと関わってゆけたら理想的ですか?

薬局に通える比較的元気な段階から服薬指導や健康相談に関わらせてもらい、年齢や病状に伴って自然な流れで在宅療養へ移行し、お看取りまでお付き合いさせていただく。

そして、息子さん、娘さん、お孫さんまで、ご家族ぐるみで薬剤師としてフォローさせてもらうことができれば幸せですね。

 

今後の目標を聞かせてください。

いつか、自分の地元である滋賀県北西部の高島市で、「チーム大津京」のノウハウを持ち帰り、在宅医療チームを結成できたらと思っています。

大津エリアに比べて高島エリアは医療・介護の過疎地域で、在宅医とケアマネがまだまだ少ないです。

自分を育ててくれた両親をはじめ、お世話になった地元の方たちのためにも、いつか実現させたいです。

 

最後に、保井さんのように専門性を発揮したい!と考えている次世代の薬剤師さんにアドバイスをお願いします。

薬局のカウンターで待っているだけでは変化は生まれないし、何も始まりません。

在宅医療は、地域ごとに人口も住民構成も抱えている課題も違うので、そこに拠点を構え、根を張っている専門職にしか見えてこない、分からないことがたくさんあります。

もっと積極的に自ら出向き、薬剤師として地域医療に貢献しましょう!

▲保井さん指導の元、訪問薬剤管理を経験した薬科大学5回生の実習生。「お薬を届ける以外にも、訪問薬剤師としてできることがたくさんあり驚きました。ケアマネージャーさんなど、他職種との連携も具体的にわかり勉強になりました!」と声を揃える。

 


取材後記

保井さんが勤務する薬局で閉店間際にインタビューさせていただいたのですが、取材中も患者さんやケアマネージャーからの電話相談が相次ぎ、薬剤師が地域医療の要となっていることをリアルに感じ取ることができました。薬剤師をはじめ、管理栄養士、歯科衛生士などの専門職が医療チームに加わることで、在宅医療を提供する側・利用する側の双方にメリットが生まれる。保井さんのお話しは具体的で説得力があり、医療全体・地域全体のことを考えていらっしゃる、愛あふれる視点が強く印象に残りました。

 

◎取材先紹介

うさぎ調剤薬局
滋賀県大津市浜大津3-2-1
電話:077・521・7775
(取材・文/野村ゆき、撮影/前川 聡)

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