外来と在宅医療を両方行うミックス型診療所。地域連携を活かしたバランスが鍵。−医療法人祐希会 嶋田クリニック 院長 嶋田一郎−

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大阪の中心地から離れ、緑が多く暮らしやすい郊外地区として人気の堺市。この堺市の南区で昨年開業20周年を迎えたのが嶋田クリニックです。
神経内科医として国立病院にも長く勤めた経験をお持ちの嶋田先生は、勤務医時代から通院できなくなった患者さんを積極的に訪問診療し、現在も「外来診療と在宅医療のミックス型診療所」として、一人ひとりの患者さんとの信頼関係を築かれてきました。
在宅医療への想い、また現在の在宅医療が抱えている課題についてもお伺いします。

 

<プロフィール>

▲嶋田 一郎 (しまだ・いちろう)さん
医療法人祐希会 嶋田クリニック院長

昭和59年大阪市立大学医学部卒業後、付属病院内科に入局。長野県立佐久市立国保浅間総合病院内科を経て、旧国立泉北病院の神経内科に勤務。平成8年10月に嶋田クリニックを開院。専門は神経内科。日本内科学会認定内科専門医、日本神経学会認定医。現在は、大阪府保険医協会の地域医療対策部部長、大阪府介護支援専門員(ケアマネージャー)協会堺支部南区地区の顧問も務める。クリニックは現在、内科医である奥様との二診制。

 

勤務医時代に関わり始めた在宅医療に、独立後もミックス型診療所で取り組む

こちらは開業されて20年ということですが。

はい。

神経内科医として勤務していた泉北病院が、民間へ移譲されることになって。

僕も10年間勤務していましたので、ありがたいことに私に今後も診てほしいと言ってくださる患者さんが結構おられて、その後押しで開業を決めました。

平成8年のことです。

勤務医時代に神経難病が進行して通院が難しくなった患者さんを、数ヵ月に一回くらい訪問診療していたのが、私にとっての在宅医療のスタートです。

当時は様子を見に行く程度でしたが、病院に勤めながら7~8人位のお宅へ4~5年ほど通ってましたね。

だから、開業したら在宅医療が必要な患者さんのところへ行こうという考えはもともとあったんです。

その考えで開業したのは在宅医療専門ではなく、いわゆる“ミックス型”診療所です。

午前診があって夜診があって。その間の時間で、在宅医療に取り組むという体制。

開業当初から在宅医療に行く時間を考えた上で時間配分をしていました。

 

当時、ミックス型の診療所はまだ珍しかったのでは?

まだ少なかったですね。

そもそも泉北地区では在宅医療に取り組んでる先生自体が少なかった。

その先生方も皆さんいっぱいいっぱいという状況で。僕は神経内科の専門でしたが、保健所や訪問看護ステーション経由でたくさんの在宅医療の紹介が来るんですよ。

当時は在宅医療が一般的じゃなかったので、神経難病以外にも様々な疾患の患者さんの紹介がありましたね。

今は全体で900枚位あるレセプトの中で在宅の患者さんは30枚前後。

私自身の専門分野の患者さんがほとんどですね。

そもそも僕は「自分が普段診ている外来の患者さんが病気の進行の中で通院できなくなった時に在宅医療でフォローさせて頂いて、可能なら最後も看取る」というスタイルが本来のモットーとしてあったんです。

今は在宅医療もだいぶ一般化したんで、新規開業の先生や在宅を始める先生が増えてきたということもあって、自分が本来の考えていたかたちになりつつあります。

▲「外来だけやっていた勤務医時代に比べたら、在宅医療を始めたことで医師としての幅がいろいろ広がった」という嶋田先生。「出来ることが増えたとも思うし、自分にとってもこの選択は良かったと思ってますね」。

 

時間をかけて医師と患者の関係性を築ける“ミックス型”にこだわりたい

在宅医療に関わって、難しいと感じられるところはありますか?

在宅医療は、単に通院できない患者さんに対して、じゃあ医師から家に行きましょう、というだけではないですよね。

要するに、生活自体が通常のようには成り立ちにくい患者さんも多い。

介護保険を使ってヘルパーさんをお願いするとか、いろんなサービスをたくさん使って生活しているわけです。

だから、こちらの都合だけで診察に行けるわけはなく、訪問時間もいろんな介護業者の方との時間調整をしなきゃいけない。

さらに症状などの情報交換をはじめ、ひとりの患者さんに対して割く時間が診療以外にも非常に多い。

患者さんが多くなれば、それだけ作業も増えるし、ミックス型は通常の外来業務にそういう時間がプラスされるので、なお調整が大変なことも多いかもしれないですね。

 

それでも“ミックス型”にこだわるのには理由があるのでしょうか?

そうですね。

いろんな考え方があると思いますが、僕はやっぱり患者さんが外来に通っていて、その患者さんが通院できなくなったらこっちから家まで行きましょうっていうのが理想。

症状の軽い時期から進行した状態まで一貫して診る、ひとりの医師がその人に寄り添ってずっと診て行くスタイルというのが、本来あるべき姿かなと思うんです。

あと、病気って家族全体での取り組みが必要になってきますよね。

たとえば患者さんに対してフォローやケア、介護している家族がそのストレスが元で、新たに病気になったりすることも少なくない。

外来とのミックス型だと、そういう背景を知った上で、ご家族も診てあげることが可能です。

だから、患者さん自身の病気ひとつじゃなくて、病気が起こる素地というか、家族含め周辺環境を全部を丸ごと医師が診て行かなきゃいけない。

その患者である対象者だけを切り離して診るというよりも、俯瞰して生活の全てを診るようなスタイルを作らなきゃいけないんです。

▲「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・福祉」の3要素を備え、堺市の市民に暮らしやすい環境を提供するための活動を行う“三つ葉の会”では、嶋田先生が会長をつとめ、日々奔走している。

 

 理解し合える関係を普段から築くことが地域連携のカギ

堺市南区では地域での連携はどのような状況ですか?

在宅医療は地域医療なので、患者さんに対してひとりの医師だけでなく、介護業者を含めた、介護のネットワークを作るメンバーみんなで患者さんをフォローしていく事が必要だと思います。

そこで、堺市南区では介護や福祉、医療やいろんな業種の方が集まった “三つ葉の会”というた有志の会を一年前に立ち上げました。

たとえば地域のネットワークの中で、患者さんの紹介をいただく時にも、単純にお互い顔の見える関係になっているとスムーズになります。

ケアマネさんも、訪問看護師もみんなが顔なじみで、よくわかりあってる状況。

この患者さんだったら、あそこのケアマネさんと、訪問看護ステーションが組むといいかな、などの相性もわかるので、そういう見立てもしやすくなります。

堺市南区でケアマネさんは100人くらいいますが、どの方がどんな疾患や状態が得意なのかっていうのは、書面上には出てこない。訪問看護も一緒です。

僕が連携しているケアマネは20人ぐらいですが、やっぱり誰がどんな強みがあるのか、みたいな部分は普段から付き合っている中でしか分かってこないんですよ。

 

先生はケアマネージャー協会の顧問でいらっしゃいますよね?

はい。

ケアマネさんは医療面が苦手という人も多いので、今はそれをいちばん大きな課題としています。

なので、ケアマネさんをはじめ介護職種の方のための医療セミナーなどを開催して勉強できる機会をいろいろ作ったりしています。

また、個人的な取り組みですが、会議やカンファレンスで医師以外の方が黙ってしまうことも多いので、自分だけが発言するのでなく、みんなから意見を聞くようにしたり、専門用語もあまり使わないようにしたり…可能な限り配慮しながらすすめています。

 

病院との連携に関してはいかがでしょうか?

最近は減りましたが、以前は退院の日にいきなり在宅のお願いがくることもあって(苦笑)。

理想としては在宅になる可能性がある患者さんは入院した時点で連絡をもらえるとありがたいですね。

そうすれば入院中にも少し様子を見に行ってしっかりとカンファレンスや準備もできますから。

▲「外来で来られていた方に、在宅になっても診に来てほしいと言われたら、断れないですよね。だって、そう言われることが僕にとっても嬉しいことですから」。

 

24時間対応など在宅医療へのハードルも柔軟な対応で。

今後の在宅医療への課題はどういうところだと思われますか?

まず、新規で在宅医療に取り組もうとする先生が増えづらい理由は、すぐ24時間対応だと繋げて考えてしまうという点かと思います。

たしかに24時間対応にすれば高い点数がとれるんですけど、僕はひとりが24時間対応するっていうのは、土台無理だと思ってるんですね。

もちろん在宅医療を専門にするような診療所だとか、そういうスタッフがいたりで、対応できるなら、それでいい。

そういう形でないとフォローできない患者さんももちろんいますからね。

その一方で今までのかかりつけの先生が、時々顔を出してあげるだけで大丈夫な人もいるわけです。

なのに、今の制度は、「空いた時間にちょっと顔を出して診てあげようかな?」ってことを、しづらいんです。

だから1回1回の訪問診療や往診の点数を高くするべきだと思うんですよ。

そうすれば在宅医療専門の先生じゃなくても、1回行くにあたってのコストや時間的なものが、カバーできるんじゃないかと。

いざ取り組もうとした時の最初のハードルを低くすることが大事。

そのあたりのハードルを下げることができれば在宅医療に取り組める医師もグンと増えると思います。

1回でもある程度の点数がとれれば、医師ももっと臨機応変に在宅医療に取り組みやすくなるはずなんです。

 

患者さんが増えるほど、24時間対応というのは負担が大きい?

そうなんですよ。

なので、たとえば24時間ファーストコールに対応してくれる訪問看護ステーションと連携する、というのもひとつの方法です。

訪問看護の方に自分の連絡先を教えておいて、緊急の際には夜中でも連絡してくれたらいい。

そういう連携をしっかりしておけば間接的にでも24時間対応できるので、僕はそんなかたちをとっています。

本当に待てる状態なのか?一刻を争うのか?訪問看護ステーションがその確認をするゲートキーパーになってくれるだけで非常に助かります。

もちろん24時間対応の訪問看護ステーションも限られているので、もともと心配な患者さんは、そういう看護ステーションへお願いしたり。

そういう前提でやってるので、ミックス型の当院でもあまり無理が出ず、やっていけています。

 

在宅医療の敷居を下げることが、充実した明るい医療の未来に繋がる

これから、ミックス型の診療所は増えていくと思われますか?

在宅医療に取り組みやすい土壌をある程度作って行けば、増えるでしょうね。

24時間対応とか点数とか…その敷居の部分がクリアになれば。

そこで、二の足を踏んでおられる先生方も多いと思いますので。

あと僕も最初は在宅医療のことは何もわからなかったけども、勉強のためにと勤務医時代に在宅医療に取り組んでおられた先生のところへ何回か見学に行かせてもらったんです。

おかげである程度のイメージを作っておくこともできて不安なく在宅医療に飛び込むことができた。

なので、2年ぐらい前から医師会の取り組みとして、在宅医療に取り組んでおられる先生に付き添って見学できる研修が行われています。

保険医協会でも、私が部長を務めている地域医療対策部会で、在宅医療を始めたいという医師に向けて、初心者講座みたいなものを立ち上げようか?という話もでていて、準備中です。

外来とは違って、在宅は患者さんのホームグラウンドに入っていくので、コミュニケーションの取り方ひとつでも全然違いますよね。

言葉上では聞いたことがあってわかったつもりでも、実際には上手くいかなかったということも出てきます。

だからこれから開業しようかなと思っている先生には、いろんな学びの場に足を運んで貰えたらと思いますね。

 

では、最後に在宅医療を目指す方へメッセージを。

在宅医療というのは、病気を診るというよりも患者さんの生活すべてを診る医療です。

その人の暮らす家に行って、その人の生活環境を見て、また家族と話し合って…。

そういう人と人とのつながりがあるから、在宅医療はやってて楽しいんですよ。僕自身もそれが楽しい。

患者さんとの距離が本当に近くなる、そういう実感が得られます。

そりゃあ、もちろん大変なこともありますけどね(笑)!でも、それを越える楽しさがあるんです。

在宅医療のハードルはまだまだ高いかもしれないけど、うまく越える方法さえ見つければ、医療者としてやりがいのある現場ですよ、と伝えたいです。

うん、僕はもうその壁は越えちゃいましたから!

 


取材後記

昨年秋に開院20周年を迎えた嶋田クリニック。読み応えのある院内報「こころ」も既に100号を越えたというのには驚きです。この20年のあいだには、約60人の在宅医療患者のお宅まで足を運ばれて大忙しだった時代もあったそうですが、現在は先生もクリニック自体も無理しすぎることなく、“末永く在宅医療を続ける”ことを目指しているという言葉が印象的でした。医師も患者も互いに笑顔でいられる在宅医療は理想のかたちですね。

 

◎取材先紹介

〒590-0141大阪府堺市南区桃山台2-3-4 ツインビル桃山2F
嶋田クリニック
TEL072‐290‐0777 FAX072‐290‐0766
http://www.shimada-cl.or.jp/

(取材・文 梶 里佳子/撮影 前川 聡)

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