一枚の“絵”が在宅医療のはじまり。岸和田の医療・介護を支える在宅医−医療法人出水クリニック 院長 出水 明−

人口約20万人の大阪府岸和田市は、泉州二次医療圏というエリアに位置し、大学病院こそないものの、がん診療連携拠点病院や第三次救急医療施設など医療資源が潤沢なエリアです。
そんな岸和田市で1996年に出水クリニックを開院、岸和田市内の在宅医療を充実させようと奔走する出水先生に他のクリニックや看護師との連携の重要さ、積極的に取り組まれている具体的な活動を語っていただきました。

 

<プロフィール>

▲出水 明(でみず・あきら)さん
医療法人 出水クリニック院長

京都大学工学部を中退、印刷紙器会社勤務した後、大阪大学医学部へ入学、1986年に卒業する。同大学医学部付属病院麻酔科より大阪警察病院麻酔科、喜多病院ペインクリニック科を経て、1996年4月 出水クリニックを開院。ペインクリニック学会専門医、麻酔科学会麻酔専門医、在宅医学会認定専門医、プライマリ・ケア連合学会認定医、臨床内科医会認定医。現在は、岸和田市医師会副会長、岸和田緩和ケア地域ネットワーク代表世話人など、地域の在宅医療シーンにおいて積極的に活動している。

 

ペインクリニックから在宅医療へ

在宅医療に取り組まれることになったきっかけを教えてください。

私はもともと麻酔科にいたのですが、手術室での麻酔の他にも、集中治療、それからペインクリニックなどに携わっていました。

ある時に、院内の内科から依頼があり、硬膜外チューブからモルヒネを毎日注入していた患者さんがいました。

その方は転移性のガンだったんですが、現在ほど告知が一般的ではなかった時期でしたので主治医も病名を伝えていなかったんです。

でもご本人はもう少し痛みがマシになれば家に帰りたい、とずっと頑張られていました。

しかし、結局その方は亡くなられるまで病院に入院されていました。

その方が亡くなる数ヶ月前に「この薬の処置だけなら私が家まで行きますから、1回家に帰ってみませんか?」と提案したら、とても喜んでくれましてね。

結果、その1日だけになりましたけど、それでも「在宅っていいもんなんだな」と気づいたのはその時が最初ですね。

その後、今でいう緩和ケアを行う病院に勤め、何十人かの患者さんを看取りましたが、その時に出会った乳がんの女性が私の在宅医としての運命を決めた方です。

外来と入院を数回繰り返されていたものの、やはり寂しいし家に帰りたい、とご希望されました。

当時は在宅医療の体制はもちろんなかったんですが、通常の勤務終了後に看護師さんたちとご自宅までお邪魔するようにして…みんなで御自宅でお誕生会をしたり、テレビ局の取材を受けたり…いろんな思い出があります。

その方は絵が好きな方で、最後に大きな絵を描きたいとおっしゃって、痛みに耐えながら、100号の絵をなんとか描きあげられ、その絵にサインを入れた数日後、ご自宅でお看取りさせていただきました。

実は、その絵は当院のロビーにずっと飾っています。

最初は以前いた病院に飾っていたんですが、彼女のお母様が「あの絵は病院に描いたんじゃないんです。先生に描いたんです」「先生のところに置いていただけませんか?」とおっしゃられてこのクリニックにやってきました。

この患者さんとの出会いが、私が在宅医療を志す一番の契機になりましたね。

▲お看取りした患者さんから贈られた絵のタイトルは『白い道』。思い通りにならない体と闘いながら描き上げられた100号サイズの大作は、今も出水クリニックのロビーに飾られている。

 

在宅医療のスムーズな連携を実現する“院内訪問看護”

開院当初はどのような体制だったのでしょうか?

開院したのは平成8年ですが、当時、日本には在宅専門クリニックがまだありませんでした。

私もペインクリニックをやりながら、がん性疼痛の方をご自宅で診れるのがいいかなと。

外来と在宅を両立した、現在も続けている外来ミックス型のスタイルでスタートしました。

病院での在宅の経験から在宅医療には看護師がとても大事な存在だと思っていたので、最初は看護師2人で、一人は在宅を、もう一人は外来を担当してくれました。

その時々で人数は変わりますが今は常勤6人、非常勤2人で合計8人の看護師が頑張ってくれてます。

在宅医療に取り組むドクターの多くは“在宅医療の主役は看護師だ”と言いますが、これは、看取り後に、ご家族が清算に立ち寄ってくださる時によくわかります。

まずは「先生、ありがとうございました」って医者を立ててお話してくれますが、看護師が来たら「うわぁ!○○さん!」って、バーッと看護師のところに行って、ずっと話している家族の方も多い。

それはお互い一緒にケアをやってきたという、仲間意識みたいなものが強くあるんでしょうね。

私もこれが理想の在宅医療のかたちじゃないかと思います。

看護師がやってくれている仕事といえば、患者さんや家族のQOLサポート、医師の指示に基づくさまざまな医療行為、さらに重要なのが医療介護連携のハブ。

特に連携のハブの役割は重要ですね。

医者が患者さんの家から戻ってケアマネさんやヘルパーさんに電話したり、あれしてこれして…という時間はとてもない。看護師はそこをうまくやってくれるし、細やかな対応もできる。

在宅医療を円滑にすすめるにあたって、すごく大事なポイントだと思います。

在宅医療はチーム医療だと言われますが、いちばん大事なのは現状や目標の“共有”なんです。

みんながバラバラに自分の専門性だけに走って、“船頭多くして船山に上る”状態では駄目ですから、当院では医者と看護師が同じ場所にいる「院内訪問看護」が理想だと考えています。

毎朝必ず医者と看護師みんな揃って、昨日はどうだったとか患者さんの様子とかについてのカンファレンスをおこない、コミュニケーションを密にすることで連携もスムーズなんだと思います。

院内訪問看護は、患者さんにとっても情報がスムーズでやりやすいと思うんですよ。

「悪いことがあるとしたら、看護師に医者の悪口は言いにくいけどね」って冗談で言ったりもしますけど(笑)。

▲「うちの看護師さんには『医者が何かするんじゃない。君たちがやるんだよ』『ここぞというときに、うまく医者を引っ張り出して使ってくれればいいから』『君たちが中心になってやっているんだよ』と常に言ってます。すると『また先生、そんな上手なこと言うて!』と返されるんですけど」(笑)。

 

診診連携もカタチにとらわれなければ難しくない

院内訪問看護は大きな特徴ですね。他にはありますか?

外来と在宅の両立をしているミックス型であること。

あとは、診診連携での365日対応かな。

私が発起人となって「岸和田在宅ケア24」と称する他クリニックとの連携を立ち上げて、2005年からホームページでも情報発信をしてるんです。(http://www.hck24.com/)

最初は、在宅医療が好き、訪問看護との連携、看取り対応、という3条件を満たした4軒でスタートしましたが、現在は10軒がゆるやかに連携しています。

 

診療所同士で連携を組むというのは難しいことも多いと聞きますが。

そうですね。

たとえば国は主治医・副主治医制というかたちを推奨しています。

ただ我々が実際にやってみて、まず副主治医は必要なのか?という疑問があります。

たとえば、がんの方だと「はじめまして」から、亡くなられるまでが約40日とすると5週ほどですよね。

主治医が週1回行っても、5回で終わりなんです。

これでは副主治医は要らない気がしますね。

連携医師との患者情報のやり取りも、あらかじめ「○○町の××さんがちょっと危ないかも。

家で看取る話はついています」「訪問看護担当者は△△で、連絡先はここです」とメールをするぐらいで済むんです。

主治医・副主治医制にしてシステムに入った何百人もの患者さん情報を共有して…と言われても、そんな膨大なデータはなかなかチェックしてられないですよ。

あと請求元も問題なんです。

往診した人か、そこまで診ていた診療所か…これは難しい。

なので、うちは“バイト医”システムを採用してるんです。もともと診ていた診療所が一括して保険請求。

そして連携で往診した“バイト医”には、そこから往診1回いくら、待機1日いくらのバイト代を払う。

かたちだけが先行してがんじがらめになると、かえってやりにくくなるというのが、我々の現実的な思いですね。

「主治医が看取りに行かないのはいかがなものか」と言う人がいるんですけど、問題はそれがストレスになるがために在宅はしないという方向に動く危険性があること。

そんなことを言い出したら医者は余暇もなくどこにも行けなくなりますから。

そういう時は、連携でお願いしている先生に診てもらえばいいんです。

もちろん自分も戻りしだいできる限りのことは必ずする、それでいいと思っているんです。

月1人ぐらいペースで看取っていれば、そういう割り切りも必要だと思えるようになりますよ。

 

それも在宅医療を長く続けられるコツなのかもしれませんね。

そうそう。根を詰めて医者、医者って考え過ぎですよって。

例えばうちは患者さんを他のクリニックの医師が看取る時も、段取り全部看護師がやってくれるわけです。

看護師はずっと継続的にその患者さん、ご家族と面識があるから、そういう時も何も問題は起きない。

医者がひとりで、なんでもやろうとするのが無理が出る原因のひとつ。

そう思うと、患者・家族のQOLだけでなく医者のQOLを支えてくれるのも看護師ですね。

▲先生自身の手で独自のデータベースを作成し、看護師や事務スタッフたち全員と訪問のデータを共有している。スタッフは誰でも院内で自由に閲覧でき、入力も可能。待機当番看護師はiPadで外出先からもアクセスできる。在宅訪問のレポートなど患者さんの家族やケアマネージャーにプリントして渡す時にも便利だそう。

 

外来ミックス型の在宅医療とは

外来と在宅を両立するミックス型のいいところはどこでしょうか?

ひとつは外来から在宅への切り替えを良いタイミングで円滑にできるところですね。

在宅をしていない先生方は、外来の患者さんの家族が薬だけを取りに来ても話を聞いて処方して渡すだけっていうことをある期間されてたりするんです。

連れてくる手間がかからないし、家族もラクなんですけど、やはり患者さんにとってはいいことではないですよね。

そこで通院が大変ならそろそろ在宅医療をしませんかと声をかけるのも、ミックス型の我々ならスムーズにできます。

もうひとつは、在宅で看取った患者さんの御家族を長期に外来フォローすることで、グリーフケアができることですね。

当院の外来にはこれまでに150人近い在宅遺家族の方が通院されています。長い方は「もう十七回忌ですね」といったお話をすることもあります。

在宅ケアや看取りの時を共有した医療者がいることは御家族にとって癒しになると思います。

それから長く外来で通われて信頼関係のある方を、ご自宅で最後ひと月ほどの在宅医療で看取ることもできますし、その後通院される御家族のグリーフケアも対応できます。そういうメリットは大きいですね。

 

今後、ミックス型の診療所は増えていくと思われますか?

これからは在宅専門クリニックが増えるだろうし、ミックス型はそんなに増えないかもしれませんね。

本来の自宅にいる方が減って、居宅系施設の方が増加して行きますしね。

これからスタイルは変わっていかざるを得ないと思います。

もちろん患者さんたちとの信頼関係があって、ちゃんと診療していれば、それなりにニーズはあると思いますけど。

昔の往診や、プライマリ・ケアの連続としてやっていた、という先生が第1世代。

そこから第2世代を経て、今、在宅医療の医者は第3世代に移ってきていると思います。

この世代は既に在宅ありきだったので、仕事として在宅医療を受けるというスタイルが多い。

最初から20人入居している施設での在宅を受けるとか、そういうところが入口だったりするので、在宅医療への取り組み方として、ちょっと危惧はもっていますけどもね。

 

在宅療養という山登りを登頂までしっかり支えたい

岸和田市の在宅医療と介護のポータルサイト「アットホーム岸和田」(http://home-kishiwada.jp/)について教えてください。

これは岸和田市医師会が運営しているもので、岸和田の医療・介護の情報を網羅した、かなりの優れものです。

医師会に所属している先生方の診療所については、在宅対応内容はもちろん、車いすのトイレ有無とか、駐車場の対応サイズとか。

サ高住や有料老人ホームについては看取りへの対応や外部ケアマネの可不可…そういう細やかな情報までみんなに協力してもらって掲載しています。

年に1回は各所に内容確認して修正更新もしていますから、古い情報にもなっていません。

現在、9万アクセスを超えて、地域のニーズにも応えられているのかな、と思います。

今後もどんどん活用してもらえたら嬉しいですね。

現在、サイトの内容作りは岸和田の在宅医療介護連携拠点会議という組織でやってます。

この会議は月1回木曜日の18時から定例で開催され、各職種30人ぐらい集まるんです。

市役所からは介護保険課、福祉政策課、健康推進課、健康保険課、障害支援課…それから6ケ所の地域包括支援センター、医師会など三師会や、訪問看護師や保健師さん、リハビリスタッフ、市民病院スタッフなども…いろいろな目線があってすごく有意義な集まりです。

 

先生は、休日に山登りするのがお好きと聞きましたが。

普段は日曜登山程度ですが、もともと学生時代は山岳部で、今も山登り好きのスタッフや妻と一緒に登ったりしています。

ただ、開院して最初10年ぐらいは山にも全然行けなかったですね。

地域での診診連携による365日対応、院内看護師との連携での24時間対応ができることで、山登りはもちろん、学会や講演会も行けるし、医師会の仕事もできるようになりましたよ。

山登りって、在宅の介護とも似ていると思うんです。

大変なことも多いけど、在宅で看取った家族には、山頂に辿り着いた時のような清々しさを感じる方が多いんです。

変な言い方かもしれませんけど、やれるだけのことはやった、自分たちで看取ってあげることができた、という達成感でしょうか。

その山登りをサポートしながらお手伝いしていくのが我々の仕事だと思っています。

いちばん景色がよくて、穏やかで登りやすいルートを、我々医師や看護師がきちんと道案内し続けることが大切ですね。

 


取材後記

なんとヒマラヤに登られたこともあるという出水先生は、バイタリティあふれる山好きドクター。患者のQOLだけでなく、家族、さらに医師や看護師のQOLまで大切にされているというところに、在宅医療にもみんなで明るく前向きに取り組まれているんだということが伝わりました。岸和田のためにも日々奔走され、「在宅医療が好き」とおっしゃる出水先生を慕われる患者さんやご家族が多くいらっしゃるのも納得です。

◎取材先紹介

〒596-0046 岸和田市藤井町1-12-5 エアリーズ上野1F
医療法人出水クリニック
TEL072‐437‐5811 FAX072‐437‐5836
http://www.demizu-c.or.jp

取材・文 梶 里佳子/撮影 前川 聡

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