[在宅×救急]の可能性!持続可能なシステムとボーダレスな連携で地域を幸せに −よしき往診クリニック院長 守上佳樹×京都府立医科大学 宮本雄気−

京都市西京区の「よしき往診クリニック」は、新旧の住宅地が混在するベッドタウンの中に、ぽっと明かりを灯すように建っています。西京区は南西部に洛西ニュータウンが広がり、今後さらに高齢化が加速すると予想されている地域でもあります。

そんな現状に真正面から向き合い、10年先、20年先を見据えた地域医療ネットワークのあり方を考え、エネルギッシュに地域の医療従事者と多職種へ働きかけているのが、院長の守上佳樹先生です。

また、宮本雄気先生は救急科専門医で、京都府立医科大学で活躍しながら、よしき往診クリニックにも開設当初からサポートドクターとして参加しています。「在宅医療」と「救急医療」それぞれの立場から、これからの地域医療に求められる連携の課題や打開策について、語り合っていただきました。

 

<プロフィール>

守上 佳樹(もりかみ・よしき)さん

医療法人双樹会 よしき往診クリニック 院長

広島大学学校教育学部で教員免許を取得・卒業後、金沢医科大学医学部へ再進学。卒業後、京都大学医学部附属病院老年内科へ入局。さらに、三菱京都病院の総合内科で6年間勤務後、京都市西京区に2017年4月「よしき往診クリニック」を開設。

日本内科学会 認定内科医、日本老年医学会認定 老年病専門医

 

▲宮本 雄気(みやもと・ゆうき)さん

京都府立医科大学 救急医療学教室 

日本救急医学会認定 救急科専門医

京都府立医科大学卒業。湘南鎌倉総合病院(初期臨床研修)に勤務後、2014年4月より京都府立医科大学 救急医療学教室で救急医療に従事している。2017年4月から「よしき往診クリニック」にて専門医の一人としても活躍中。

 

開業からわずか半年で築いた在宅チーム医療の基盤

 —守上院長は在宅医療、宮本先生は救急医療がご専門とのこと。現在、どのように連携されているのでしょうか?

守上院長
宮本先生にはYOC(よしき往診クリニック)の開設当初から、専門医として週1日程度、非常勤で在宅医療に携わっていただいています。
宮本先生
開設から半年が経ちますが、あっという間でした。
最初は20人弱だった患者さんが毎週こちらに来るたびに増え、私の他にも専門医の連携ドクターがどんどん増えて。もの凄いエネルギーとスピード感で動いていた気がします。
守上院長
開業半年で患者さん数が約120人、今もほぼ毎日、新患(新規の患者)の往診依頼があります。

YOCのチームメンバーとして協力いただいている専門医も、この半年で15人規模になり、循環器、消化器、呼吸器、肝臓、放射線、乳腺、整形外科、感染症、透析・・・神経内科、眼科まで揃っています。全員20代〜40代で、平均年齢も若い。

宮本先生
YOCを太陽系に例えると、その中心が、よしき先生(守上院長)。

太陽を中心にキラキラ輝きながら回っている個性豊かな惑星が、僕たち専門医という感覚ですね。

 

—お二人のそもそもの接点は、勉強会や講演会ですか?

守上院長
えっと、確か、知り合いの知り合いを通じて・・・。
宮本先生
思い出しました! 初対面は、野外音楽フェスです。
守上院長
そうや!(笑) こーんなノリの(こぶしを力強く上げ)ロックフェス!

 

—ほんとに!?とても斬新な出会いですね。

守上院長
たしかに(笑)。もちろん、日をあらためて、お互いの課題や方向性などをじっくり話し合い、一緒にタッグを組んでみよう!となったんですよ。
宮本先生
僕が勤務している京都府立医科大学に、よしき先生が訪ねて来られたんですよね。

僕も救急医療の課題にぶつかっていた時期だったこともあり、在宅医療に携わることでブレイクスルーのヒントが見つけられるのでは?と直感的に思いました。

守上院長
これからの在宅医療はチーム力で動かす時代

男女や年齢の区別なく、さまざまな専門家・職種のメンバーが集まるほど、チームのエネルギーは強くなる。

救急では目の前の患者さんがどんな状況・症状であれ、最善の治療を尽くすでしょ。

そんな救急を志している時点で、もの凄いパワーを持っている証拠。チームに加わってほしい!と思いました。

 

宮本先生
よしき先生の想いに大学側も共鳴して「行ってこい!」と背中を押してくれました。

僕もYOCで吸収したことは持ち帰って大学の仲間に共有しているんです。

 

▲さまざまな偶然が重なり、導かれるように西京区の現在の場所へクリニックを構えた、守上院長。「人の縁と幸運に恵まれ、今があると思っています」

 

「在宅医療×救急」のコラボレートを突き詰めれば、地域医療が生き返る!

—宮本先生が守上院長と出会う前から感じていた救急医療の課題とは?

宮本先生
救急医療のポリシーは、「老若男女や重症・軽症の区別なくすべて受け入れる」ことだと考えています。

ですが今、その持続が難しくなってきています。とくに問題視されているのが高齢者の救急搬送です。

 

入院した場合、治療が終了した段階で他病院への転院、または退院して在宅療養という選択肢が一般的です。

しかし、国の施策により療養型病院が縮小傾向にあり、また、在宅療養は患者さんを取り巻くご家族や地域などのサポートが整わないとスタートが難しいことから、結果的にすぐに転院・退院が叶わず、救急医療用の病床を長期間使用してしまい、新たな救急患者を受け入れることが難しくなっているという問題が起きています。

救急の「出口問題」と呼ばれていて、日本の医療で直面している問題の1つです。

 

守上院長
本当にその通り。私は、在宅医療も救急と同じように老若男女や症状の区別なく誰もが平等に受けられる地域の最終セーフティネットであるべきだと考えています。

救急の出口問題は、受け皿となる地域医療との連携なくして改善しません。

宮本先生
救急と在宅医療が直接連携できる体制が整えば、出口問題の解決に一歩近づき、より多くの救急患者を受け入れることができます。
守上院長
私も総合病院の救急外来を担当していたとき、そういった患者さんを数多く診ました。

応急手当をし、家へ帰ってもらう際に「後日、あらためて専門科で精密検査を受けてください」と念を押すのですが、結局そのまま来られない方も多い。

宮本先生
でも、万が一急変してご自宅で亡くなった場合、原因不明の異常死として扱われ、警察の検死が入る可能性もあります。

実際そういうケースが最近、増えてきているんです。

守上院長
救急の診断を僕たち地域の医者がしっかりと引き継げば、ご自宅でのお看取りまでサポートできるので、検死が入ることもなくなります。

 

—「在宅」と「救急」が抱える医療問題は共通点があるのですね。

宮本先生
他にも共通の課題があります。持続可能なシステムの構築です。

在宅から救急へ、救急から在宅への連携が大事ですけど、これがなかなか難しいんです。

守上院長
まずは、コミュニケーションロスの改善からじゃない?在宅も救急も、24時間365日対応が求められる医療現場だからね。

でも医師一人が「365日頑張るぞ」ではどうしても限界がある。

宮本先生
そうなんです。在宅医療と救急が円滑にコミュニケーションを取れるようになれば、出口問題の改善に大きく貢献できると思います。
守上院長
さまざまな専門科のドクターとYOCが連携しているのも、お互いが知恵を出し合い、大勢のマンパワーで継続的に動かし続けるため。

地域の医師が手を結び、連携を取り合い、チームで持続可能なシステムを作ることが大事だし、急務な課題だよね。

宮本先生
現在、北米型ERをモデルにした持続的なシステムを取り入れている病院も多くあります。

もう一歩踏み込んで、YOCのチーム在宅医療と救急の連携をモデルケースにできれば、解決策が見出せる可能性が高まります。

守上院長
「在宅医療×救急」のように、在宅医療は別のスペシャリティと掛け合わせると可能性が爆発的に広がる。

まだまだ僕自身も気づけていない在宅医療の役割があるはずで、それはさまざまな専門家の人と人が向き合い、話し合い、一緒にトライ&エラーを実体験しないと気づけない。

やれることはすべて、やってみる価値がある!

宮本先生
僕も同感です!

▲救急の最前線で活躍している宮本先生は内科・外科など総合的な医療に精通。「もとはそんなに熱いタイプの人間じゃなかったんですよ(苦笑)。救急と出会って目覚めました」

 

在宅医療と救急はステージが違うだけ!大勢の人を笑顔にする目的は変わらない

—「在宅医療×救急」の連携から実感した、驚きや相乗効果を教えてください。

宮本先生
僕は良い意味での驚きしかなくて、救急も在宅医療も「患者さんだけでなく、ご家族や僕たち医療従事スタッフも含めて、みんなが幸せになれる医療だ」と確信できるようになりました。
守上院長
在宅医療は、医師としての使命感と喜びを再認識できる現場ばかり。

患者さんやご家族の「ありがとう」の言葉がダイレクトに返ってきている感覚がある。

だからこそ、やれることは全部やらんとあかん!と奮い立たせてもくれる。

宮本先生
在宅医療の現場へ行くようになって、救急で受け入れた患者さんが最終的に、どういう生活を送ることができるのか。具体的に考えられる習慣が身につきました。
守上院長
「こんなこともできる!」っていう気づきもあるんじゃない? 
宮本先生
はい。救急は5分、10分という短時間で診断と治療を開始しなければならない現場なので、目の前で起きている症状ばかりに目が行きがちです。

でも、救急で運ばれてきた瞬間から、患者さんが家に帰ってどういう生活を送れるのか、ひいてはどんな人生の最期を迎えるかまで目を行き届かせるのが大事だと気づかされました。

そのことに気づけると、救急診療の質が一段階上がるんです。

守上院長
患者さんが家に帰ってからの生活がイメージできると、満足度の高い医療が自ずと見えてくる。

時間軸は違うけれど、救急も在宅医療も、限りある時間の中で「患者さんだけでなく、ご家族や周りの人が幸せになれる選択を治療に生かす」という目的は同じ。

僕も、救急のリアルな現状を宮本先生から教わって、往診の質が3段階ぐらい上がった。

 

—在宅医療の現場って奥深いんですね。

守上院長
YOCでは医師だけではなく、内勤の薬剤師、医療事務、広報も全員が必ず在宅医療の現場を経験し、メディカルコーディネーターとしての役割を自覚してもらっています。

書類作成や薬剤処方など、仕事の一つひとつに対して、その向こう側にいる患者さんとご家族の姿を明確にイメージできるようになれば、気持ちの入り方が違ってきます。

一見、非効率的かも知れないけれど、長い目で見れば、かけがえのない財産になる!と僕は信じています。

宮本先生
在宅医療の現場を知ると視点が劇的に変わります。そうした広い視点と前向きなエネルギーが、持続可能なシステムの原動力になるはずです。

 

これからの地域医療を支えるのは、職域を超えた「まちづくり」の連携

 

—今後の地域医療について、どんな理想をお持ちですか?

守上院長
現在、取り組んでいる「在宅医療×救急」のトライアルに対して、具体的に救急医療の負担が軽減されたというフィードバックをきちんと拾っていき、客観的なエビデンス(証拠・根拠)を学会などで示すことも今後は大切だと思っています。
宮本先生
理想としている持続可能なシステムが実現しても、汎用性の高い裏付けデータがないと地域から外へ広がって行きませんから。
守上院長
YOCがある京都市西京区はもちろん、京都府全体、さらに全国へ広がっていくような強い発信力が必要。救急も在宅医療も、もっと「まちづくり」に立ち入っていくべきなんじゃないかな。

医療従事者の多職種連携から、もう一歩踏み出して、行政や一般企業など職域を超え、どんどん地域を巻き込んで連携できれば、いいよね。たとえば「在宅医療×賃貸住宅」とか「在宅医療×生活雑貨」とか。

宮本先生
患者さんの生活の質にかかわるものであれば、すべて連携できますよね。
守上院長
地域医療の環境や連携体制が、街の評価そのものにもかかわってくる。

そんな考え方が、これから当たり前になっていくかもしれないね。

 

—現在、YOCとしては地域とどこまで連携が進んでいるのでしょう?

守上院長
西京区にある訪問看護ステーション、地域包括センター、調剤薬局のほぼすべてと連携できる体制を整え、薬剤師の会、栄養士の会とも新規のプロジェクトを予定しています。西京区の医師会、同じ自治グループ班の開業医の先生、歯科医師会、歯科クリニックとも連携中です。また、西京区の総合病院から研修医を受け入れさせていただく予定です。
宮本先生
すべてよしき先生が自身の足で回り、草の根的に連携の輪を拡げたんです。

 

—凄いですね!地域連携に課題を感じているドクターにアドバイスできることはありますか?

守上院長
まず、お互いの顔が見える関係を築くのが大切で、実際そうなるよう行動あるのみです。

研究会や勉強会で議論を交わすことも大切だけど、現場で一緒にコラボレーションするのが一番早くてわかりやすい。

想像以上の発見と手応えを得られるはずです。

宮本先生
僕が救急と在宅医療の両方に携わって実感したのは、お互いを思いやる大切さ。

当たり前のことですが、まだまだ十分とは言えないと思います。

大前提である「患者さんのために全力を尽くす」を全うするために、救急医は「どんな状態で在宅医に後を託すべきか」を考える。

守上院長
在宅医は「救急の力を借りる前に手を尽くせることはないか?」という視点を忘れない。

やるべき仕事をしないで手を止めたらあかんでしょ。職種に関係なく、世間一般常識として。

宮本先生
そのためにも、いろんなドクターが、もっと在宅医療の現場を知るべきだと思います。

救急医だけでなく、どんな分野の専門医であれ、最終的には患者さんを生活の場へお帰しするための医療を提供しているのですから。

守上院長
まずは、職種・エリアの区別なく、地域医療っていいよね!参加してみたい!と思ってもらえるようなモデルをYOCで作りたいですね。

▲守上院長と宮本先生はともに30代。「柔軟性とフットワークの軽さが若手の大きな武器。僕たちの世代にできること、まだまだたくさんあるはずです」と声を揃える

 

医師に必要なのは、やれることは全部やる!のトライ精神とボーダレスな探究心

 —お二人は連携を始めて、まだ半年ですよね?そう思えない密度の濃さを感じます。 

宮本先生
守上院長の懐の深さのおかげです。

僕、つい熱くなりすぎて意見をぶつけてしまう一面があるんですけど、ぜんぶ真っ正面からガッチリと受け止めてくれる。「ええやん、やってみよう!」って。

僕に対してだけではなく、医療スタッフ全員に対してもそうなんですよ。だから、どんどんチャレンジしたくなる。

守上院長
大学時代の学園祭の実行委員長や、サッカー部のキャプテンの経験が大きいかもしれないなぁ(笑)。

参加メンバーみんなの力を一つにしないと、大学祭の成功もサッカー部の優勝も実現しない。

宮本先生
リーダーシップやカリスマ性は、あらゆる物事に動じず、受け止める度量がある、ということ。

よしき先生を見ていると、そう思います。

守上院長
宮本先生のボーダレス感の強さも凄い。

「これは僕の仕事じゃない」 とか「そんな前例はない」とか上から振りかざすセリフを一度も聞いたことがない。

専門外の分野でも疑問があればその場で納得するまで確認するし、調べる。

臓器別・専門科別の診断がメインになってしまっている今の時代で、レアメタルみたいな存在!

宮本先生
レアメタルですか(笑)
守上院長
そのボーダレス感こそ、スーパードクターの重要な要素だと思う。

 

—YOCのチームから、いつか巣立っていく可能性も?

守上院長
YOCのチーム医療で吸収した知識や経験を、スーパードクターそれぞれが別のフィールドで新たな組織を作って連携の輪を拡げていく。

大勢の人を幸せにできる選択をしていくのが、絶対いいでしょ。

 

宮本先生
同じマインドを持った医師が、タンポポのようにふわーっと飛んで行って、いろんな街に根づけば、それはそれで素晴らしいことですよね。

 

—お二人からは、不思議なほど前向きなエネルギーしか感じられません。

守上院長
マイナスに傾いたこと、ないよね。
宮本先生
断言できます。一度も、ありません!
守上院長
僕たちYOCの取り組みは、求められている医療なのだという自負があるし、これがダメだったら日本の医療が根幹から危ういのではないか!という思いで本気で取り組んでいます。

高齢化へと向かう時代の波の方が早いので、全力で走り続けないとね。

宮本先生
はい!

 

▲取材当日が誕生日だった宮本先生に、YOCの医療スタッフからサプライズケーキのプレゼントが! 開業半年とは思えないチームのボーダレスな雰囲気も印象的でした

 

取材後記

身体を治療する「第一世代医療」から、心のケアを含めた「第二世代医療」、そして人それぞれの幸福感に寄り添う「第三世代医療」へ。その旗手の一人として第三世代の医療を担っていくであろう、守上院長と宮本先生、そしてYOCチームの皆さん。「地域を支える医療として、もっとまちづくりに立ち入っていくべき」と先を見据えた、お二人の言葉が印象に残りました。

 

◎取材先紹介

医療法人双樹会 よしき往診クリニック 

京都市西京区桂御所町1-27

電話:075−381−2220 

http://yoc.or.jp

 

取材・文 野村ゆき/撮影 前川 聡

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