医療と介護を繋ぐ“訪問看護師”の地位向上を目指して出来ること。 ―刀根山訪問看護ステーション・ケアプランセンター刀根山 統括所長・看護師 長濱あかし―

国立の医療センターや総合病院、クリニックなど大小さまざまの機関が集まり、医療体制で充実している北摂地区。その中で現在44箇所もの訪問看護ステーションを有する豊中市にあり、20年という歴史で他のステーションを牽引する存在が刀根山訪問看護ステーションです。

ケアプランセンター刀根山も併設し、一昨年から統括所長となった長濱さんは、3年前から医師会の在宅医療推進事業にも積極的に携わっています。さまざまな角度から見た在宅医療への想い、また訪問看護師の働き方についてもお伺いしました。

<プロフィール>

▲長濱あかし(ながはま・あかし)さん

刀根山訪問看護ステーション・ケアプランセンター刀根山 統括所長・看護師

1982年に刀根山病院附属看護学校を卒業。1983年より国立病院機構刀根山病院に勤務。93年からは帝人株式会社に勤務し、「HOT(在宅酸素療法)患者の生活実態調査」を行う。96年、日本訪問看護振興財団立 刀根山訪問看護ステーション・ケアプランセンター刀根山を設立し、2015年から統括所長に就任。また2014年から豊中市医師会にて、在宅医療・介護コーディネーターもつとめている。

 

“あせも”が原因の再入院に訪問看護の必要性を感じた

―長濱さんが在宅医療や訪問看護に興味を持ったきっかけを教えてください。

最初は刀根山病院でリハビリ病棟を担当していた時ですね。

気管切開と胃ろうをされた患者さんが半年ほどで在宅からの再入院になったことがあって。

胃ろうや気管系のトラブルかな?と思いきや、なんとあせもで戻ってこられたんですよ。

褥瘡とかじゃなくてもう背中一面緑色の浸出液と湿疹。

夏場の皮膚ケアが原因で再入院、っていう事態にショックを受けたんです。

それ以来、在宅療養の現場では何が起こっているんだろう?とずっと気にかかっていました。

 

当時、呼吸不全病棟では予後延長や、在宅酸素の効果があまり上がってなかった頃で、在宅の現場に興味があるという話をしていた私へ、医師や在宅酸素を持ってきていた帝人の担当者さんから、在宅酸素の現場の様子を見てきてほしいと言われたんです。

そこで訪問指導というかたちで、在宅酸素を導入しているお宅をまわり始めました。

 

看護ではなく、指導だけでしたけど、それでも我々が訪問することで、早期入院率が減り、生命予後も伸びて。ひいては在宅率まで徐々に上がったという実感を得ました。

わずか3年でしたけど、病院にとっても患者さんにとってもよい結果が出たんですね。

 

一方で私はこの期間を経て、現場で何も手が出せない指導という立場へのジレンマが積もりに積もっちゃって…「やっぱり私、在宅の現場で看護がしたい!」ってなったんです。

 

このステーションを始めた時は、訪問指導にあたっていた在宅酸素の患者さんたちをそのまま背負って始めたんです。

在宅酸素を使っている患者さん、人工呼吸器のALSの患者さん、と医療機器が必要な人ばかり。

訪問指導でまわっていたのはこの地域だけじゃなかったから、豊能町、能勢町や大阪市内、とかなり遠方まで足を運んでいました。

 

ステーションも増えてきて、医療機器の依存度が高い人たちでも、今は各地域の訪問看護師さんが看られるようになってきたので、うちもようやく普通の“地域を支える”ステーションになりましたね(笑)。

▲「人生の先輩でもあるご年配の患者さんにいろいろ教えていただくのはもちろん、最近増えている子供の患者さんからも命の大切さやたくさんのことを、日々教えてもらってます」

 

医療と介護を繋ぐ訪問看護師の地位向上を目指して声をあげる

―長濱さんは豊中市の医師会で“在宅医療・介護コーディネーター”だと聞きました。

豊中市では27年度から始まった、医師会が手がける“在宅医療推進事業”と“医療と介護連携の促進事業”があります。

お声がかかって、そこに立ち上げから関わっています。在宅医療・介護コーディネーターとしてのお仕事は今年で3年になりますね。

 

在宅医療推進事業は在宅医を増やそうという事業。

24時間365日は無理だからと在宅医療に取り組まれていない医師たちに、「先生がおひとりでされるんじゃなく、私たちもいます、サポートします」ということを伝えたくて。

そういう後押しをするつもりで訪問看護師として参画してます。

 

―他の事業はどんな活動ですか?

他には、各職種がスキルを上げるための多職種スキルアップワーキンググループや、2025年問題を見据えて、市民に現状や課題などを伝える市民啓発ワーキンググループの支援、退院前ケアカンファレンス推進ワーキング、あと在宅医療と介護の現場での情報共有ツールを作ろうということで最近始まったICT検討ワーキング、計5つの事業が動いています。

 

実は、各ワーキングに訪問看護ステーションの管理者を必ず入れてもらってるんです。

忙しくても、10分でもいいから会議には絶対参加する。そうすることで、今どういう事業が行われていて、豊中市の医療や介護が今後どういう方向に進もうとしているのかがわかりますからね。

 

というのも、在宅医療や、地域包括ケアシステムの話の中には、必ず訪問看護って言葉があるんですけど、どの会議の蓋を開けても“訪問看護師は忙しくて欠席”。でもそこに出ないと、意見も出せないですよね。

訪問看護師って在宅医療と介護を繋ぐ要だとか言われているのに、実際にはどこか抜け落ちている印象だったので、どうにかできないかなと思ってお願いしたんです。

 

この地区は三師会(医師・歯科医師・薬剤師)の皆さんも熱心に動かれているんで、負けてちゃいけない!看護師も入れて「四師会」にしてもらわないと!って(笑)。

訪問看護師も、しっかり在宅医療の四輪駆動の一輪になりたいですよね。自分のステーションの事とか日々の訪問看護はもちろん大切ですけど、四輪駆動のひとつを担うためには、やっぱりもう少し表に出た所でも頑張っていかなきゃいけないなって思うんです。

▲現在、刀根山訪問看護ステーションの患者数は約90名。常時100名前後の利用者がある。神経難病の利用者がいちばん多く、次に呼吸器、悪性腫瘍の疾患が続く。

 

臨機応変な雇用スタイルで働きやすい環境へ改善

―現在、豊中市には訪問看護ステーションはいくつありますか?

ここを立ち上げた当時は市内に4つしかなかったんですけど、今は44箇所ぐらいですね。ご利用者さんを地域で支えようという思いがみんなあるので、自分の所がいっぱいでもすぐ断らずに「あちらなら空いてますよ」と連携する体制は作っています。

 

―訪問看護師の現状に課題感はありますか?

今は全体的に訪問看護師が足りない状況

看護学生の研修や実習でも「訪問看護すごい!素晴らしい!」「ぜひやりたいと思います!」ってなるのに、実際にはなかなか帰ってこないんです。

なので、大学の新卒とか経験が浅くても、本当に訪問看護に興味がある子を育てていこうとしているところです。

 

うちは今、常勤換算でスタッフが10人。午前中だけとか、週3、4日とか、そういう形態の短時間雇用もしています。

 

立ち上げた当初は非常勤スタッフは7時間がベースでしたけど、出産や子育て、ご主人の転勤なんかがあって、15人ぐらいから一気に4人ほど減ったことがあったんです。

その時に、「短い時間だったら…」という看護師がいて。

女性の場合、結婚したり子供ができても、こういう形態なら無理せずに働きやすいのではないかと思って、臨機応変な雇用を始めてみたんです。

 

子供の患者さんたちからは、下校後という夕方訪問のご希望も増えて来ているので、今後は遅い時間勤務の雇用も考えているんですよ。

せっかく看護師免許を取ったのに働いてないという人も多くて、勿体ないですよね。そういう人が働きに来られるよう、ターゲットも柔軟に広げていこうと思ってます。

 

―いいですね!女性がすごく働きやすいイメージです。

そこPRしといてください!看護師、大募集中です!(笑)

 

▲訪問看護ステーションを立ち上げた時「あせもみたいなもので再入院しなくて済むように!医療的な技術だけでなく生活という視点で家族と一緒に患者さんをケアしたい」と思ったという長濱さん。

 

皆が“自分らしく”居られる在宅療養を支えていきたい

―長濱さんが考えられる在宅療養、訪問看護の良さや魅力はどういったところですか?

入院していた患者さんが家に帰って来られると、がらっと雰囲気が変わったりすることがあります。

きっと、それは住み慣れた“自分らしく居られる”自宅の主人だっていう存在と、大部屋で患者さんのひとりっていう、自分自身の存在の仕方の違いですよね。

 

そもそも家が誰にとっても本来いるべきところですよね。

患者さんのお宅で呼吸器に花が飾ってあったりするのを見ると、それだけでも病院の無機質さとは違うなぁと思うんです。

やはりご自宅って皆さん自分が居るべき場所としての理想。それを叶えられるのが、私たち訪問看護師の仕事かなと思いますね。

 

でも…私はたぶん訪問看護が好きっていうよりも、人が好きなんでしょうね。人と関わるのが好きなんだと思います。

たまたま看護師であるから、その知識がいろんな人たちのお役に少し立ててるということかもしれません。

 

やっぱり自分の訪問看護で患者さんがちょっとでも笑顔になってくれたりすると嬉しいんです。

だから、私は訪問すると患者さんを笑わせて帰ってきますよ(笑)!

 

いつもは無表情の人が、こちらのポロっとこぼしたひと言で、フッと笑ってくれるんです。

ニヤッとでもいいからちょっと笑ってくれると、こちらもなんだか嬉しいな~ってなるんですよ。

しょうもない事でもいいから患者さん、ご家族みんなで笑って、在宅療養の現場であるお家を明るくしたいですね。

 

我々、訪問看護師はたしかに医療職ではあるけれど、在宅の閉ざされた世界に外からこういう人間が来ることで、何かしらちょっと風が吹けばいいなと思いながら、毎日お宅にお邪魔してます。


取材後記

お忙しい毎日を送られているだろうに疲れた様子は一切なく、とても明るく元気な長濱さん。看護師それぞれが好きな色を選べるという制服のポロシャツですが、いつも太陽に向かう大輪の向日葵を思わせる黄色がとてもよくお似合いでした。みずから足を運ぶ訪問看護やステーションの運営だけでも多忙を極めるのに、在宅医療介護の推進活動にも積極的に参加され、訪問看護師の未来を見据えたバイタリティあふれる活動には頭が下がりました。

 

◎取材先紹介

刀根山訪問看護ステーション・ケアプランセンター刀根山

大阪府豊中市刀根山5-1-1

06-6853-5231

http://www.jvnf.or.jp/toneyama/

 

取材・文 梶 里佳子/撮影 前川

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