利用者さんの不安を取り除く存在になりたい!地域に根ざす訪問看護ステーションを目指して-さくら訪問看護ステーション 管理者・訪問看護師 松田香純-

大阪の郊外地である堺市は閑静な住宅地が広がり、住みやすい街として人気の高いエリアです。この堺市で、地元の方々から「さくらみち」の愛称で親しまれる通りに7年前開設されたのがさくら訪問看護ステーションです。明るく活気あるスタッフが集まり、利用者さんとのコミュニケーションを大事にした「寄り添う」訪問看護が、地域で厚い信頼を得ています。

20歳代でステーションを開設、まだ30歳代という若さの松田所長に、よりよい訪問看護を目指して取り組んでいる活動と、現在抱える問題についてお伺いしました。


<プロフィール>

松田香純(まつだ・かすみ)さん

さくら訪問看護ステーション 管理者・訪問看護師

近畿大学附属看護専門学校卒業後、大学病院へ勤務。結婚、出産を経て、堺市内の民間病院へ。同市内の老人ホームや訪問看護ステーションで勤務した後、2010年11月に「さくら訪問看護ステーション」を開設。現在は、同ステーションの管理者と、併設のケアプランセンター代表を兼任。大阪府訪問看護ステーション協会堺ブロック長、近畿大学校友会地域医療ケア支部 副支部長も務める。

 

土日も利用者さん宅へ気軽に足を運ぶ、年中無休のステーション

―すごくお若かったので、驚きました。今おいくつですか?

今、35歳で、ここを立ち上げたのは28歳の時です。当時は、周囲から大丈夫か?とかなり心配されました。

訪問看護ステーション協会も年上の40歳以上のベテランの方が多いので、何ができるの?という感じでしたね(笑)。

 

―松田さんが在宅医療や訪問看護に関心をもたれたきっかけを教えてください。

看護学生だった時に、同居していたおじいちゃんが、ある日突然家で血を吐いて亡くなったんです。

当時、介護を必要としていたわけではなかったんですけど、肺がんでした。

救急車が来るまで私が応急処置をして…その時に、病院だけじゃなく自宅にも医療が必要なんだということに、はじめて気づきました。

 

さらに老人ホームで勤務していた時に、自分が出来る医療行為の範囲が少ないことがどうにもジレンマと感じ、そんなことも重なって在宅医療にどんどん興味をもつようになりました。

 

老人ホームに来られていた訪問看護師さんへお願いして、ステーションに就職させてもらったんですけど、そこが1年半ほどで閉鎖することになってしまったんですね。

他のステーションへ移ってもよかったんですけど、探してみたら土日が休みという所が多い。

 

でも、ガン末期の方は医療機関が開いてない土日がいちばん不安。金曜日に「次は月曜日まで待っててね」というのは、すごく酷な気がして。

そこをカバーしたい!と、その時お世話になっていた医師に話すと「じゃあ自分でやってみたら?」って(笑)。

 

ステーションの管理、運営…はじめて取り組むことだらけの試行錯誤の日々

 

それこそ勢いで立ち上げてしまって、スタッフも訪問看護師3人だけの本当に小さい規模からはじめました。

しかも全員が訪問看護業務以外の管理業務をしたこともなければ、経営面も関わったこともない、まったくもって無知な状況で…本当にいろいろ模索しましたしすごく大変でした。

今冷静に考えたら、絶対にやらなかったと思います(笑)。

 

訪問看護で「ちょっと待ってね!」はもちろんしたくなかったので、夜中でもコールがあればすぐに飛んで行きました。

スタッフが少なかった頃は土日、祝日、お盆・お正月もみんなでずっと働いてましたから、休みなんて365日なかったですね。

 

利用者さんは前のステーションから引き継いだり、新しく紹介を受けられたので黒字スタートができて。

運営的には困ったこともなかったですし、今ではスタッフも7人に増えて私自身がステーションにいる時間も確保できるようになったので、なんとかうまく回ってきたと思いますね。

▲松田さんは「訪問看護の世界にも専門ナースが増えてきています。ここにも精神科に精通した看護師がいますし、今も少しずつ増えてますが認定看護師といったような専門性のある訪問看護師が増えると、訪問看護の質はもっと良くなっていくと思います」と話す。

 

 

利用者さんとしっかり会話をすることで、望まれる看護や治療が読み取れる

―開設時に掲げられた理念から利用者さんとのやりとりを大事にされてることが伝わってきます。

利用者さんはモノじゃないし、機械じゃないですからね。

ここを立ち上げるにあたって目指していたのが、そういう「人対人の訪問看護」です。

病気を抱えてらっしゃるのは御本人たちですから、その方々の意向をちゃんと聞かないと、思ってもない入院をしないといけなくなったりもしますしね。そういう意味でも、お話は積極的にしていきたいなと思ってます。

 

たとえば点滴ひとつの医療行為でも、うちの場合は穿刺して「後で取りに来ます」と、帰ったりはしないんです。点滴中もずっとそばに居る。

その間はたっぷり話が出来るので、いろんなくだらない話もして。この地域の美味しいお店を「あそこ、行ってみ!」と教えてもらったり。

そう接していると、「来てもらうのが楽しみ」なんて嬉しいことを言ってくださる利用者さんもけっこう増えてくるんです。

 

実はここにいる猫も、この4月に大腸ガンで亡くなられた方から託された子なんです。

その方は最後、ホスピスに…という話も出たんですけど、私がこの子の世話をしないと!って最期まで入院できなくて。

亡くなられる時「あなたがこの子を飼ってあげて」というのが最後のお願いだったんですよ。おひとり暮らしで引き取り手がないからって。

いろいろお話をして信頼関係も築けていたから、大事なご家族だった猫ちゃんを任せてもらえたのかもしれませんね。

▲取材中も可愛い鳴き声で空気を和ませてくれたハッピーちゃん。「引越しされる時もずっと連れ添っておられたという利用者さんからは、本当にハッピーへの想いを感じていました」。その想いを受け止め、連れ帰ってから約半年。今ではすっかりステーションの大切な一員。

 

看護の質の向上・地域の認知度UP…訪問看護が抱える課題へ挑戦

―大阪府訪問看護ステーション協会の堺ブロック長をつとめてらっしゃるとか。

最初は管理者が集まって情報共有する、年5回ほどあるブロック会での司会進行とかが主な仕事だったんですが、私がブロック長をはじめた2年前から、そこに勉強会をプラスしました。

もともと地域の報告会だけだったので、その内容をプリントアウトして配布するようにし、勉強会に時間を使えるよう工夫したんです。

 

訪問看護ステーションはたくさんありますけど、自分も集まりに顔を出すようになると、その質がバラバラだなと感じることもあって。

多忙な管理者がいっぱい集まるせっかくの機会なので、同じように知識をつけていけたら、地域全体で看護の質が上げられるんじゃないかと思ったのがきっかけで。

 

薬のことだったり、処置の方法だったり…その都度違う知識を持って帰れるようにしています。

この間は弁護士さんをお呼びし、法令遵守や個人情報保護についても勉強しました。

 

現在、堺市内にある訪問看護ステーションは100ちょっと。でも、その中で協会に加入しているのが60ちょっと。

現在の加入のメリットは勉強会や研修費用が安くなるぐらいで、未加入だからと行って大きなデメリットがないので必要性を感じていただけてないのかもしれません。

 

でも、やっぱりステーションの管理者が一同に介して普段からコミュニケーションをとっておけば、お互い助け合ったり、連携したりできるメリットがあると思うんです。

たとえば災害が起こった緊急時にも近隣で助け合うとか、うちでは受けられない利用者さんをそちらでお願いしますとか、そんなケースも必ずありますから。

 

―他にも課題だと考えられているようなことはありますか?

全国的な話ですが、訪問看護師自体がもっと増えていくことが必要です。堺もまだまだ足りていませんし。

それ以前に訪問看護自体をご存知ない地域の方もまだまだ多いと感じていて。利用する段階になって病院から紹介されてはじめて知った、という利用者さんやご家族がほとんどですよ。

 

なので、今年はじめてPR活動をしてみました。

近くの浜寺公園で毎年5月に開催される、“ローズカーニバル”というお祭りがあって、大阪府訪問看護ステーション協会としてブースを設けたんです。

健康相談と銘打って血圧やBMIを測って、参加者には作成した訪問看護のパンフレットやクリアファイルを配りました。

 

行列ができるほど盛況で、堺市長も足を運んでくださったおかげで市の広報にも載せてもらえましたし、利用者さんも増えてPR活動としては十分だったと思います。

ブロック会自体も、堺全体で盛り上げていこうって、みんなで動けるよう結束が固まったのも嬉しい成果でしたね。

▲利用者さん一人ひとりと向き合える時間が長いからこそ、入院や外来ではわからない症状の原因が訪問看護でわかることも。「利用者さんの立場で」「利用者さんの意向を尊重」…訪問看護ならではのコミュニケーションを大事にしたい、と開設当初に掲げた理念が今もしっかりと息づいている。

 

100人いれば100通りの看護がある。それが訪問看護のやりがい

―最後に読者へメッセージを

在宅医療って病気を看るというより「その人、その人を看る」というイメージ。お家があって、生活があって、そしてときどき病気、なんです。

その“ときどき病気”の時に、「こうしたらいいよ、ああしたらいいよ」「生活がこうだから、じゃあこういうやり方しよう!」と手助けできるのが私たちだと思っています。

 

病院は病気を治すところなので、各々の生活は持ち込まないのが基本ですよね。

でも、在宅医療では利用者さんのお家での生活が100人いたら100通り。

その人それぞれの生活背景に合わせたやり方を考えないといけないけれど、それが大変であると同時に楽しいんですよ。

忙しいけれども、その中でやりがいもたくさん見つかると思います。

 

取材後記

落ち着いた物腰でしっかりと訪問看護への想いを語ってくださった松田所長。利用者さんの想いを届けたい一心で医師との意見交換で熱くなったり、地域の訪問看護の質をあげたいと新しい試みに積極的にチャレンジされたり、と利用者さんに託された猫を優しく撫でながら話す姿からは想像もつきません。しかし、訪問看護に対する熱い想いはブレることのない、一本筋の通った芯の強さを感じられる、とても魅力的な女性でした。

 

◎取材先紹介

さくら訪問看護ステーション

大阪府堺市西区浜寺昭和町一丁157番地

072-261-1271

 

取材・文 梶 里佳子/撮影 前川

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