【特別対談】医療と介護をつなぐ多職種連携はどうあるべきか?全日本病院協会 名誉会長西澤寬俊×WITH医療福祉実践研究所 代表理事 佐原まち子

地域包括ケアの推進で、病院から在宅診療へのスムーズな移行が求められている今、治療を継続しながら介護サービスを受けるためには、両者間の連携はますます重要になっています。今回はチーム医療推進協議会の前代表 北村善明さんに進行役をお願いし、全日本病院協会の名誉会長西澤寬俊さんと医療ソーシャルワーカーの育成に力を入れるWITH医療福祉実践研究所 代表理事の佐原まち子さんをお迎えして、医療と介護が抱える問題とその解決策となる新たな取り組みについて、それぞれの立場からお話いただきました。

<プロフィール>

公益社団法人 全日本病院協会 名誉会長 西澤寬俊さん(写真左)

札幌医科大学医学部卒業後、同大学第三内科に入局。滝川中央病院内科医長を経て、79年、西岡病院副院長。85年から医療法人恵和会理事長(10年、社会医療法人に改組)。全日本病院協会会長を始め、全国老人保健施設協会副会長、北海道病院協会理事長、北海道老人保健施設協議会会長を歴任。厚労省医道審議会医師分科会医師臨床研修部会、社会保障審議会医療部会、中央社会保険医療協議会、チーム医療の推進に関する検討会等の委員を務める。

 

*全日本病院協会:民間病院主体の全国組織として昭和35年に設立。現在約2450(約25%)の病院が加入している。医療提供体制のあり方の検討と提言を行い、会員病院の医療の質の向上および健全経営を図ることを主な活動目的としている。

 

一般社団法人 WITH医療福祉実践研究所 代表理事 佐原まち子さん(写真中央)

日本女子大学文学部社会福祉学科、国際医療福祉大学大学院卒。NTT関東病院・東京医科歯科大学医学部附属病院で医療ソーシャルワーカーとして研鑽を積む。MSWの全国団体である公益社団法人医療社会福祉協会の前会長、国際医療福祉大学の教員を経て、2014年にWITH医療福祉実践研究所を立ち上げ、人材育成に力を入れている。

 

チーム医療推進協議会 前代表 北村善明さん(写真左)

東北大学医学部附属診療放射線技師学校を卒業後、順天堂大学附属病院、虎の門病院、厚生中央病院に勤務。95年5月より日本放射線技師会常務理事、同専務理事を経たのち、2008年6月より同会長に就任。厚生労働省中央社会保険医療協議会専門委員、国民医療推進協議会理事、医療機器センター評議員、医療研修推進協議会評議員、画像診断コンソーシアム副会長、鈴鹿医療科学大学理事を歴任。

 

 

「垂直から水平」に。変化する多職種連携の形

―専門性を高め、横並びの連携を

【北村】西澤先生は厚生労働省の「全国在宅医療会議」にも参加されていますので、在宅医療の現場についてもよくご存知だと思います。

 

【西澤】そうですね。今、在宅医療で一番重要だと言われているのは“連携”ですね。多職種連携もそうですし、医療と介護の連携もそう。これまでのように医師が一番上にいて指示を出すのではなく、各専門スタッフ同士で連携をとる「垂直から水平に」という流れが出てきています。

 

【佐原】それはすごく大事ですよね。医療はどうしても垂直の思考になりがちですから。

 

【北村】医師・看護師 対 その他の医療・介護スタッフという形ですね。

 

【西澤】例えば、命に関わるような高度急性期病院では「垂直な連携」が必要となることが多いかもしれませんが、その後を支える回復期・慢性期病院は、在宅医療や在宅生活までのつながりを意識した「水平な連携」が必要。そこでは医師がすべての指示を出すのではなく、リハビリや介護分野の専門スタッフが専門性を活かして進めていくべきだと思います。

「各職種の専門化がどんどん進む中で、お互いに何をやっているのか伝わりにくい。だからこそ横並びになって、水平に手をつなぐことが求められているのです」と佐原さん。

 

―地域差がある医療と地域の連携

【佐原】それと同時に、国民への周知も進まなければならないと思います。これだけ医療政策が変わってきているのに、一般の方たちは知らずにいることが多いですよね。

 

【北村】自分や家族がその立場になってみないと分からないという。

 

【佐原】介護保険に関してはだいぶ認知が広がっていますが、そこに医療が絡むとどうなるのか。いまだに分からない方が多いと思います。

 

【西澤】日本は医療保険制度等がしっかりしているので、日本人には昔から「病気になればいつでも病院で診てもらえる」という安心感があったと思います。高齢化に伴う財政難で医療費負担が増えてきていること等で、やっと少しずつ関心が出始めているところ。いざ自分や家族自身が当事者となり医療・介護サービスが必要になったときに、サービスの仕組み、使い方等をもっと分かりやすく教わることができる体制が必要だと思います。

 

【佐原】地域包括支援センターができて、地域の中での連携は進んできていますが、やはり「医療と地域介護との連携」という部分ではまだかなり地域差がありますし、ハードルも高いですよね。

 

【北村】地域の中で旗振りをできる人がいるかどうかによっても、違いがありますね。

 

医療ソーシャルワーカーに求められる役割

―病院と地域資源をつなぐMSW

【西澤】これから医療・介護の需要は間違いなく高まりますが、少子化で働き手は減少します。それに対応するのが機能分化。一番適切な医療を受診し、サービスを受けることで、少ない資源を皆で利用する。そのコーディネーター役として医療ソーシャルワーカー(以下MSW)が期待されているのです。

 

【佐原】私たち医療ソーシャルワーカーはもともと社会福祉が専門で、医療分野に入ったのは昭和初期からです。しかし、医療の中に生活者の視点を浸透させるのは難しく、高齢化社会で地域包括ケアが推進されるようになってから、ようやく医療分野でMSWの存在が注目されるようになってきたと感じます。

 

【西澤】病院内でもMSWを配置するところは増えていて、医療相談室や地域医療連携室などで相談が受けられます。

「MSWが病院内にいること自体が、他の職種の連携にとても良い影響を与えている」と西澤さん。コーディネーターとしてのMSWの存在が、病院内の体制作りにも影響している。

 

 

【北村】全日病に加盟する病院と日本医療社会福祉協会のMSWで、一緒に研修をされたそうですね。そうした取り組みは画期的だと思います。

 

【佐原】『病院が適切に機能していくために、相談に対応するMSWには活躍してほしい。』そうした全日病の先生方からのご相談があって、全日病主催の「病院医療ソーシャルワーカー研修会」が実現しました。

MSWはこれまで患者さんの経済的な問題や難病や障害など、病気に関連する相談を受けていましたが、在宅復帰するときに地域と病院をつなぐ役割を果たすことが求められるようになってきています。病院、地域の医療資源、介護サービスのちょうど真ん中に立って、患者さんが自分の暮らしに戻っていけるようにサポートします。

 

―全日病とMSWでの合同研修会

【北村】「医療ソーシャルワーカー研修会」は、どのくらいの頻度で開催されているのですか?

 

【佐原】年に2回です。1回目はMSWだけの研修で、2回目は事務部門や看護部門を含めた3職種の研修です。

 

【北村】開催期間は?

 

【佐原】2日に渡って行われました。

 

【北村】この規模で職種の垣根を越えて研修を行うのは珍しいですね。

 

【西澤】そうしないと地域のニーズに応えていけませんからね。いろいろなサービスがある中で患者さんはどのようなサービスを選べばいいのか?スムーズに退院するためにはどのような支援が必要か?そうした声に応えるにはMSWの存在が欠かせません。病院側にとっても非常にメリットのある研修なのです。

 

【佐原】研修では、MSW、看護師、事務職(または医師可)の3職種で、「地域と病院をどのようにつないでいくか」を考えていきます。

 

【西澤】特に中小規模の病院では、急性期治療後のリハビリや慢性期の入院治療など、在宅復帰までを担う医療を提供しています。在宅医療で急変があった場合の入院にも対応し、状態が落ち着いた後はまたご自宅で生活をしていただく。誰かがその間を取り持たなければならないとすれば、それはMSWが適任でしょう。これからの時代にすごく必要な職種です。

 

―3職種で実践的な連携を話し合う

【北村】MSWがより力を発揮できるように、3職種で研修を行っているのですね。素晴らしい取り組みだと思います。

 

【西澤】MSWが病院内にいること自体が、在宅医療や介護などに関わる他職種との連携にとても有効だと考えています。

 

【佐原】私たちは患者さんに寄り添う仕事ですが、かといって病院が潰れてしまっては元も子もありません。病院はその地域の文化を築いてきた大切な存在。病院がなくなれば地域の構造自体が変わってしまいます。地域の方たちが困らないように病院が発展していくためには、MSWも病院側の視点を理解し、協力する必要もあるんです。

2017年11月4日、5日に開催された「第2回 医療ソーシャルワーカー研修会」の様子。お互いの声を聞き合うことでよりスムーズな連携が可能に。患者さんたちが納得のいく暮らし方ができるように、病院スタッフとMSWが協力して在宅医療につなげています。

 

在宅医療の現場で生じる連携の問題

―利用者と家族が取り残される現状

【佐原】実際に在宅医療の現場では、利用者さんやご家族が“取り残されている”と感じることがあります。

 

【北村】例えばどんな場面ですか?

 

【佐原】私自身、義理の母を介護した経験で分かったのですが、往診や訪問看護、入浴サービスなど、医療と介護サービスがいくつも入ってくるとき、ご家族は混乱すると思います。私はMSWですから全体を見通すことができましたが、何も知らないご家族にしてみたら、どんなに戸惑うだろう?と。

 

【北村】たしかに、誰に何を聞けばよいのか分かりませんよね。

 

【佐原】ご家族が不安に思っていることや、症状が変化していくプロセスについて、誰に聞けばよいのか?義母の場合は、たまたま訪問診療を担当いただいた医師に相談できたのですが、医療と介護のわかる窓口となる人がいないと在宅医療は混乱します。

 

【北村】利用者さんやご家族にも知識がないと、振り回されてしまうということですね。

 

―病院以外でのMSWの介入

【西澤】最近では訪問診療を担う医療機関にMSWを配置しているところも少しずつですが増えてきていますね。

 

【佐原】もっとご家族の相談に乗りやすい仕組みが浸透してくるといいですね。しかし、一方で利用する当事者の方々にももっと積極的に情報収集をしてほしいと思います。在宅医療を受けて具合が悪くなったときには、どこに連絡をすればよいのか。かかりつけの先生は救急時に連絡できるのか。分からないまま救急車を呼んでしまうケースが未だによくあります。

 

【北村】夜間や土日に連絡できるかは、あらかじめ確認しておくべきですね。

 

【佐原】せっかくかかりつけの医師がいるのに、その情報がないまま救急で処置を受けるのは残念だと思います。

 

【西澤】病院で救急対応する場合は、ご本人やご家族の希望が聞ければいいですが、意識がないこともありますからね。すべてを訪問診療の先生が診なければならないのではなく、訪問看護と連携したり、いくつかの診療所が輪番制で担当することで、医師の負担を減らす仕組み作りも可能です。地域の在宅療養支援病院や機能強化型の在宅療養支援診療所などは、そうした流れで制度化されました。

 

【北村】自分の地域で受けられる介護サービスや医療資源を知りたいと思ったら、どこに相談すればよいでしょう?

 

【西澤】かかりつけの病院でMSWに相談してもらうのが最善だと思います。

 

【佐原】地域包括センターではご本人の病状まで把握できませんが、病院でしたら主治医の先生に確認して、その方に必要な地域の医療資源を適切にお伝えすることができます。

対談は終始和やかな雰囲気で進みました。お二人の笑顔が、病院とMSWの良い関係づくりの象徴のように感じられます。

 

地域医療を支える病院の存在

―継続的な治療を受けるために

【佐原】患者さんたちは、大病院や大学病院に対してとても信頼をお持ちですよね。でも日本には地域で温かく見守る中小規模の病院が多く、自分たちの暮らしに合った医療機関を選ぶことも必要です。地域の中で、入院ができて在宅診療までの準備をきちんと支援してくれる病院はどこなのか、そこに関心を持ってほしいなと思います。

 

【北村】わざわざ遠くにある大学病院に通う方も多いとか。

 

【西澤】臓器別に分かれた高度医療や急性期治療でしたら、専門医のいる大病院が良いでしょうが、ある年齢以上になって慢性期の疾患がある場合は、地域に密着した病院で継続的な医療を受ける方がよいですよね。

 

【佐原】何かあったときにお世話になるのは地元の病院。地域の病院のことをもっと信頼してほしいです。

 

病院、MSWの今後の展望

【北村】お二人が今後力を入れていきたいことを教えてください。

 

【佐原】課題はたくさんありますが、やはり基本が大事。MSWに求められる役割が増えても、一人一人の患者さんの望む暮しを的確に理解する力は高めていかなければなりません。そこは揺るがずにいたいですね。

 

【北村】西澤先生はいかがですか?

 

【西澤】在宅医療は単独で行われるものではありません。外来、入院、在宅診療の組み合わせのパターンで常に変わっていきますので、在宅医療だけという捉え方ではなく、全体に目を通すことが大事だろうと思います。機能分化が進めば進むほど、連携が必要。病院は一番チーム医療を実践している場所だと思います。だから病院内の連携を地域のチーム医療・介護に伝えていくことが求められているのではないでしょうか。

 

【佐原】そうした病院事情に詳しいのはMSWですからね。病院と地域をつなぎながら、もっと情報を発信していく役割を担えるのではないかと思います。

 

【西澤】在宅医療は病院も含めた地域全体で支えていくもの、という発想が必要ですね。

 

取材後記

病院側のスタッフと医療ソーシャルワーカーが合同で研修を行い、問題を共有しながらよりよい解決策を探る取り組みをされていることに、今後の「医療と介護の連携」における希望の光が見えたような気がします。専門化が進めば進むほど、そうしたお互いの歩み寄りが大切になっていくということがよく分かりました。「実はそれぞれの職種ごとに、連携に向けての動きは出てきているんですよ」という北村さんの言葉もあり、さらなる協力体制が生まれることが期待できそうです。

 

(取材・文/安藤梢、撮影/菅沢健治)

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