話題のドクター同行取材!「健康長寿」のサポートこそ歯科医の使命(篠原長寿歯科 篠原裕之先生)

大阪市東成区大今里に、ユニークな試みと高い技術力で話題の歯科医院があります。「篠原長寿歯科」。院長がサムライや動物の被り物をつけて診察するなど、小さなお子さんも思わずクスッと笑ってしまう明るさ。前面バリアフリーで待合室にはカラオケセット(目的は機能低下予防)もあり、快適でリラックスした雰囲気の同院は、多くの人が抱く「歯医者さんに行くのは嫌だな」という気持ちを和らげてくれるようです。

クリニック名に「長寿」とあるように、超高齢社会への対応として高齢者歯科治療に力を入れ、訪問歯科診療を行っている同院。歯の健康のみならず、嚥下のリハビリなど口腔機能全般の改善に、熱心に取り組んでいます。

今回は院長の篠原博之先生の行う訪問歯科診療の現場を密着取材。訪問先の高齢者施設のスタッフさんとの座談、同院で毎月行われている多職種勉強会の様子もご紹介します。日本の歯科治療の現状に警鐘を鳴らす篠原先生の、熱い想いとともにお届けします。

 

篠原裕之さん

篠原長寿歯科 院長

1960年、内科開業医の長男として生まれる。1987年朝日大学歯学部卒業、1991年同大学院(顎顔面外科学)修了。岐阜の歯科医院に勤務していたが、父亡き後に医院を継いでいた小児科医の弟が他界。故郷の大阪に戻り、1997年に「篠原歯科」を開院した。高齢化社会に対応するため、2012年に「篠原長寿歯科」として再スタート。院内を全面バリアフリーにするなど新築工事をし、自力での来院が難しい方のための無料送迎車を用意。訪問診療も実施している。

 

正しい口腔ケアは、笑顔と希望を呼び込む

さあ、篠原裕之先生の訪問診療スタート!編集部が同行します。

寒空の下、鮮やかな黄色にペイントされた訪問車両でご到着。

訪問先は、大阪市平野区にある特別養護老人ホーム「万寿苑」。

 

今回、取材に協力してくださったのは、こちらに入所されて3年の滝山セツさん(仮名)、要介護3で80歳の女性です。滝山さんは、脳梗塞で入院した先の病院で胃ろうを造設し、その後、口からの食事ができなくなっていました。

2週間前に篠原先生が初めて訪問診療をしたときは「もう生きていても楽しみは何もないのだ」と、ずっと涙を流されていたそうです。

 

この日は3回目の訪問。滝山さんはお元気でしょうか。

 

篠原先生「こんにちはー」

先生の顔を見て、パッと表情が明るくなった滝山さんです。

篠原先生「だいぶ元気そうやなー!」

まずは目を合わせて握手。こうすることで、親近感が増して安心してもらえると同時に、腕の力なども確認できます。

篠原先生「1週間前と全然違うね。まるで別人や」

 

同行の歯科衛生士、のり子さんも驚いていました。

のり子さん「わあ、本当!こんなに変わるなんてビックリ!ちょっと横顔、写真撮らせてねー」

篠原先生「口腔体操、頑張ったんやね。偉いなあ。施設のスタッフさんも頑張ってくれたね」

壁のカレンダーに、一工夫がありました。

口腔体操をした日には、シールを貼ります。施設のスタッフさんの手作りとのこと。「がんばりました!」のシールは、励みになりそうですね!

口腔体操をすることによって、舌や顎が動くようになり、顔つきも変わってくるそうです。

 

診察を始めます。まずは触診し、聴診器を当て、呼吸数もチェックします。

信頼しきったような、滝山さんの笑顔が印象的です。

これまでの2回の訪問診療と、口腔リハビリの成果を、ご自身が実感しているからでしょうか。とても穏やかで素敵な表情です。

 

嚥下のリハビリ3回目でゼリーが食べられるまでに

クッションを抱いて、呼吸のリハビリテーション。

 

飲み込むタイミングも呼吸の訓練によって改善されていきます。呼吸は嚥下において、とても重要な要素です。

のり子さん「腹筋がすごくついてきましたね。いい感じです!」

往診バッグ。コンパクトに整理されています。

続いて口腔内のお手入れとマッサージをします。

のり子さん「舌を押したときの反射が、とても良くなっていますね」

入れ歯も調整し、噛み合わせチェック。念入りに行います。

次に、ドライフルーツのイチゴをお口に入れます。飲み込んでしまわないよう、ガーゼに包んでおきます。

篠原先生「顎と舌がどのくらい動くか、見せてもらいますね」

のり子さん「味、する?・・・美味しい?」

これは口腔機能のチェックと同時に、味覚刺激と唾液を出すトレーニングにもなります。

そして、姿勢のトレーニング。

食事をする姿勢をとるには体幹保持が大事。ゆっくりと筋肉に刺激を与え、柔軟性も高めます。車椅子のステップもはずし、足を床に置いてしっかり踏ん張れるようにします。

 

胃ろうをしてから長い間、座ることができずにいて、その後、車椅子の生活になった滝山さんですが、少しずつ筋力をつけています。気力もアップしてきたようですよ。

こちらは嚥下調整食のゼリー。かき混ぜても離水しにくく、適度なまとまりがあり、飲み込むときに、むせにくくなっているのが特長です。

そのゼリーを、スプーンを使ってお口に入れる練習です。今日はバナナ味。

 

飲み込んだ後、通常ならば息を吐くところを、逆に吸ってしまったりすると、誤嚥になりやすいのだそうです。

呼吸数が多いと、このタイミングが非常に難しいのですが、滝山さんは前回訪問時よりも呼吸数が落ち着いてきていました。

 

篠原先生「お!むせなかったね!最初は全く食べることができんかったのに、3回目でゼリーが食べられるようになった。すごいじゃない!次は流動食にチャレンジできるね」

 

今日はギャラリーが多いから、滝山さん、ちょっと緊張しちゃったかもしれませんね。

 

施設の皆さんは、本当に勉強熱心な方ばかりです。篠原先生と歯科衛生士・のり子さんの動きをしっかり見て、説明を聞き、リハビリの手順などの指導を受けます。

のり子さん「毎週、宿題出しちゃって申し訳ないです(笑)」

 

壁には「口腔ケアチェック表」が貼ってありました。

スタッフさんたちの熱意と努力が、滝山さんの回復を支えているのですね。

最後に、ご家族と施設のスタッフさんたちも加わって記念撮影。

滝山さん、素敵な笑顔ですね!

「さようなら。また来週ねー!元気でね!」

 

食べることは、患者さんの幸せにつながる ―座談―

診療後、施設のスタッフさんたちにもお話を伺いました。

「万寿苑」では、摂食嚥下リハビリテーションの本格的な取り組みは今回が初めてということで、スタッフの皆さんには当初、不安もあったようです。

―スタッフの皆さんは、篠原先生の訪問診療で嚥下のリハビリテーションに取り組まれるようになって、嚥下に対する意識は変わりましたか?

 

施設スタッフ

「そうですね。あまり知識がない中で、勉強させていただくことが本当に多いです。最初は、どういった形になるのかと不安でしたが、今は嚥下がどれだけ大事かということを、日々、実感しています」

 

―滝山さんの状態が、変化してきたためですね。

 

施設スタッフ

「はい。まず表情が全く違ってきて、とっても明るくなりました」

 

のり子さん

「初めてお会いしたときは、全身絶望感に包まれているかのようで、もうずっと泣いてばかりでしたものね」

 

施設スタッフ

「口から食べられるようになるんだ、という希望は、あんなに明るい表情を生むものなんですね」

 

篠原先生

「頑張ればまた口から食べられるようになる。諦めなくていい。そう思えたら前向きになりますよね。誰だって、死ぬまでにもう一口あれが食べたい、という思いはあるんです。その手当を誰もしてくれない、という状況を変えたいですね」

 

―こちらの施設に、篠原先生が訪問診療されるようになったきっかけは?

 

施設スタッフ

「滝山さんを担当していたST(言語聴覚士)さんからの紹介でした。胃ろうになった滝山さんだけど、摂食嚥下リハビリをすれば、また食べられるようになる、と判断したSTさんが、今回、篠原先生につなげてくれたんです」

 

篠原先生

「そのSTさんは当院で月に一度やっている『口から食べる勉強会』のメンバーなんですよ。会があって良かった。つながりは大切です。同じ思いを持つ人のネットワークが広がれば、口から食べられる人はきっと、もっと増えていくでしょう」

 

施設スタッフ

「これまで当ホームには、嚥下のリハビリのために歯科医を呼ぶというルールも発想もなかったのですが、これからはこういう連携を活用していけるといいな、と思います」

―すごく前向きで積極的な印象を受ける「万寿苑」のスタッフさんですが、先生方はどう思われますか?

 

のり子さん

「こちらの施設の皆さんは、若くてとにかく勉強熱心。こちらの方が毎回刺激を受けているんです。私たちが学んできたことがお役に立てたら何よりだなあって思っています。連携して、経験したことを共有して、多くの患者さんの幸せにつながれば、一番うれしいことですよね」

 

篠原先生

「口から食べるということの大切さや嚥下のリハビリの有効性について、理解してくださる人が増え、取り組む施設が増えてくれることを願っています。同時に、歯科医師ももっと、口腔ケアについてしっかり勉強しなくてはいけませんね。歯医者さんは歯の治療をしているだけではなくて、口腔機能まで、きちんと診るべきなんです」

 

歯に衣着せず、厳しいこともおっしゃる篠原先生ですが、語り口は軽快で明るく、施設スタッフさんも楽しそうにお話をしてくださいました。短い期間で信頼関係が構築されている様子が伺えます。

 

正しい口腔ケアを施せば、口から食べられなかった人でも希望の光が見えてくるのだということを、取材チームも今回、目の当たりにしました。自分の口で食べるというのが、どれほど大切なことなのか。幸せなことなのか。そのためにできることは何なのか。発見と学びの多い、訪問歯科診療の同行取材でした。

 

職域を超えて学ぶ、「口から食べる勉強会」

上記で篠原先生がおっしゃっていたように、篠原長寿歯科では月に一度の多職種勉強会が行われています。その名も「口から食べる勉強会」。

ここでは、その様子を少し、ご紹介します。

勉強会は、診察の終わった夜、篠原長寿歯科2階のセミナールームで行われます。

「一生、口から食べてほしい」という思いを持つ同志が集まり、さまざまな職業の人が講師を務めて、講演や症例検討を行い、知識や知恵を共有します。

時にはメーカーの方や、患者さん、そのご家族の方にもお話をしていただくそうです。

見学させていただいた日は、言語聴覚士さんの講義でした。スクリーンを使ってわかりやすく説明されていました。

質問や意見交換も活発な勉強会です。

 

人生の最期までおいしく食事を楽しめる人がもっともっと増えてほしい。そんなシンプルな願いが、この勉強会の原動力です。

 

嚥下を始めとする口腔機能のサポート次第で、元通り口から食べられるようになる患者さんはたくさんいるのだと、強い口調で語る篠原先生。こういった取り組みが増え、連携が強化されていくことで、復活できる患者さんは確かに増えてきそうですね。

健康で生きてこそ長寿

医学の進歩もあって、人の平均寿命は伸び続けています。しかし、心身の健康が保たれていないまま、医術によってただ生かされている場合、本当の長寿とは言えないのかもしれません。

健康で生きてこそ長寿、とおっしゃる篠原先生。そして、健康長寿のためのサポートをすることが、これからの歯科医に求められていることなのだ、とも。

 

熱いメッセージを預かりました。

「これからの歯科治療は、歯を治せば良いというものではありません。口腔機能までしっかり治療するべきです。本来、当たり前のことなんですよ。歯科医はそもそも、“食べる・話す・笑う”を円滑にするということを目的に、治療しているわけですから。

医療従事者みんなで、意識を変えてもっと勉強しましょう。職域を超えて連携し、一緒に日本の健康長寿を支えていきましょう!」

取材後記

ココメディカマガジン編集部としても、歯科診療の同行取材は初めての経験。どのような現場なのかとお伺いしましたが、篠原先生の診療中は笑いが絶えない現場で、驚かされました。そして、何より診療を受けておられる滝山さんの笑顔が忘れられません。「食べられない」から「食べられる」へ。当たり前に感じる「口から食べること」がQOLにどれだけ大きく影響するかを実感した取材でした。口腔ケアが各地域で、より身近な存在になっていくことを期待しています!

 

 

(取材・撮影/ココメディカマガジン編集部、編集/磯貝ありさ)

 

篠原長寿歯科

〒537-0012

大阪府大阪市東成区大今里1-1-8

TEL:06-6977-6020

https://shinohara-choju.com/

 

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