「最期に会えてよかった」と言われる在宅医を目指す-医療法人社団 コンパス 理事長 後藤基温

2008年に設立された医療法人社団コンパスは、医科訪問診療・歯科訪問診療・巡回健康診断の3つの事業を柱に活動している医療機関です。都内近郊を中心に医科・歯科のクリニックを4拠点(赤羽、大宮、横浜、大阪)と、歯科クリニックを4拠点(立川、湘南台、名古屋、蕨)運営されています。全国でも珍しい法人内での医科・歯科連携という強みを活かした訪問診療について、後藤理事長に詳しくお話を伺いました。

 

後藤 基温(ごとうもとはる)さん

医療法人社団コンパス 理事長

 

経歴

1971年生まれ。東京医科大学医学部を卒業後、老年病科、精神神経科、救命救急科での勤務を経て、平成13年に後藤医院を開業。平成27年に医療法人社団コンパスの在宅医科診療部長、翌年に理事長に就任。

東京消防庁救急救命士養成講座講師、NPO法人日本手技療法協会顧問医師、NPO法人日本在宅看護普及会副理事長。株式会社さかえケアサービス代表取締役兼務。

 

スムーズな医科・歯科連携がコンパスの診療の強み

-まず医療法人社団コンパスの特徴について教えてください。

大きく分けて、医科・歯科・健診の3つの柱があります。

医科の訪問診療では月2回を基準に、通院困難な高齢者のご自宅や施設に伺っています。最大の特徴は在宅ターミナルケアといって、お看取りに対応していることですね。

 

また、通常は夜間・休日のオンコールはナース対応の医療機関が多いですが、私たちのクリニックでは24時間365日体制で、すべてドクターが対応していることも特徴です。

 

法人内で医科・歯科の連携がとられているのは珍しいですよね。

おそらくまだほとんどないのでは?実際、疾患別に見ても、糖尿病と歯周病、骨粗しょう症と顎骨壊死など、両方の分野が関わり合う治療は多くあります。例えば末期がんの患者さんには口腔ケアが欠かせないなど連携はとても重要です。

 

同じ法人内であれば、気づいたときにすぐ専門スタッフに行ってもらえますよね。

クリニックを探すなど余計なプロセスが必要ないので、患者さんにとっては大きなメリットがあると思います。

 

医科・歯科連携によって改善できる症例とは?

高血圧の薬を飲むと歯茎が腫れることがあるのですが、それを見つけてくれるのは歯科の先生。

他の医療機関を受診している患者さんに「主治医の先生に頼んで血圧の薬を変えてもらって」と伝えても、他院の先生がなかなか受け入れてくれなかったり、患者さんからは話しづらかったりしますよね。

当院では歯科医から内科医にスムーズに話が通りますので、「すぐに変えましょう!」と決断できるのです。

 

こだわったのは「食べる」「寝る」「出す」

-先生が訪問診療に興味を持たれたきっかけは?

もともと高齢者医学を専門にしていたのですが、この分野はこれからの時代には絶対に必要になると考えていました。

特に“大きな病院ではケアできないところ”を診ていきたいと思ったのがきっかけです。

 

病院では病気については何とかしようと治療をしますが、食欲がなくても「そのうち食べるだろう」とか、「眠れない」には睡眠薬を処方とか、排便がなくても「明日には出るんじゃない?」など、“食べる”、“寝る”、“出す”、についてはあまり重要視されていません。だからこそ、その3つで高齢者の健康を支えることができるのではないかと考えました。

 

-それでご自身のクリニックを開業されたのですね。

ええ。“食べる”、“寝る”、“出す”に、こだわった医療を提供するために、平成13年に後藤医院を開業しました。

例えば認知症の患者さんで、怒っていたり泣いていたりする方がいますが、ちゃんと食べているか、寝ているか、出しているか、を見ながら体調を整えていくと、症状が改善されるケースが多く見受けられます。

 

認知症を治すことはできませんが、認知症状のある方が一日をにっこり笑って過ごすためのサポートはできます。

「一日をにっこりと過ごす」が、私の診療のキーワードなんですよ。

▲後藤医院のある練馬区では、地域として他職種連携の取り組みが進んでいる。年に4回開催される研修会では、チームに分かれて模擬訓練を実施。顔が見える関係作りが、実際の地域医療の現場で活かされている。

 

当時はまだ訪問診療のクリニックは少なかったのでは?

平成13年当時は訪問診療という言葉も浸透していなかったですね。

実際に患者さんのご自宅に伺うと家の整頓が分かりますし、冷蔵庫の中やゴミ箱、シンクに洗い物が残っているかを見て、認知症状が進んでいないかや必要なサービスは何かを判断することができます。

 

足腰が弱って外に出られなければ代わりにゴミ出しをしたり、「棚が落ちちゃったからお願い!」と言われて金槌で棚を付けたこともありますよ(笑)。

当時はヘルパーさんの代わりに生活のお手伝いもしていました。

 

全国的にも珍しい訪問診療での睡眠時無呼吸症候群の治療

-コンパスに参画された経緯は?

もともと歯科の在宅診療を手がけていたコンパスが、ちょうど医科に力を入れ始めるタイミングで声をかけられました。

 

私が理事長に就任してまず取り組んだのが、医科訪問診療の充実と健診部門の立ち上げでした。

現在、学校や企業を中心に年間2万人の健康診断を行っていますが、来年にはさらに倍になる予定です。

今後、企業の健康診断に歯科健診を導入していく動きもありますので、医科歯科連携の当院の強みが活かせると考えています。

 

-訪問診療での口腔ケアの重要性について教えてください。

食べる機能を維持する、回復させるということは、体にとってすごく良いことです。

その噛んで飲み込む「もぐもぐごっくん」のサポートをするのが歯科診療。

歯を残すことや嚥下機能を保つことも大切ですし、精神的なケアにもつながります。

末期がんの患者さんも口腔ケアによって、穏やかな顔になっていきます。

 

-他にも力を入れている取り組みはありますか?

最近では“睡眠時無呼吸症候群”の治療にも力を入れています。

実は私自身が治療を受けて「これはいい!」と思ったのが、導入のきっかけです(笑)。

治療には医科・歯科の連携が非常に重要で、両方からのアプローチができることが強みになります。

 

簡易検査をして重症度を測り、軽傷~中等症であれば歯科でのマウスピース治療、中等症~重症であれば内科でのCPAPという機器を使った治療をします。

それが一つのクリニックの中で完結するので、患者さんにとって便利ですよね。

 

-高齢者と睡眠時無呼吸症候群は聞き慣れない組み合わせでした

一般的に40~50代の男性に多いとされていますが、高齢者の中に潜在的な患者さんがどのくらいいるのか、クリニックの患者さんを対象に調査をしているところです。

例えば、夜眠れているのに、朝起きられない人がいますが、そうした人はもしかしたら無呼吸症候群なのかもしれない。

夜の眠りの質を高めてあげると、昼間起きていられる時間が増える可能性もありますよね。

 

睡眠時無呼吸症候群の治療で、寿命が延びるまでの具体的な効果があるかはわかりませんが、高齢者の生活の質の向上には、繋がるはずと考えています。

 

患者や家族が望む最期を迎えるために

-ターミナル期の医療で注意されていることはありますか?

過度に治療をしていくよりは、患者さんが過ごしやすいようにしていきたいと思っています。

高齢の方に限ってですが、具合が悪いときに思い切ってスパッと薬を止めてみると元気になる方もいます。

ご飯を食べられるようになったり、昼間に起きていられるようになったりすることも。

 

もちろんきちんと経過を診ながらアフターフォローをしなければいけませんし、基本的に薬を飲んでいて調子が良ければ止める必要はないですが、正月が迎えられるかなと言っていた患者さんが、薬を止めて具合がよくなって「桜が見られたね!」なんていうこともよく経験します。

 

-在宅医療を受けていても、ご家族が最後に救急車を呼んでしまうケースもありますよね。

自宅や施設で最期を迎えたいと思っていた方が「やっぱりつらいから病院に行きたい」と言えば、病院に入る選択肢を残しておくべきですが、そうではなく本人の意志に反して病院に入れてしまうのは違う気がします。

 

人が旅立つプロセスというのは、周りの人たちが“受け入れていく”ためのプロセスでもあります。

そのためには時間が必要で、やっと受け入れられたときに病院に搬送してしまうと、また一からやり直すばかりでなく、違う道に進んでしまう可能性もありますよね。

▲「看取りでは最期の時間をどう過ごすか、ご家族と一つ一つ段階を経ていくことが大事」だと話す。在宅医療は患者が亡くなって終わりではなく、ご家族とこれまでを振り返るグリーフケアの時間を持つことが重要。それによって残された家族は身内の死を受け止めることができるという。

 

-先生が診療で大切にされていることは?

今、私が診ている患者さんの100人に90人は、お昼に何を食べたかを忘れてしまっています。

でも「美味しかった?」と聞けば、「美味しかったよ!」とにっこり笑顔が返ってくる。

いかに“にっこり”を引き出すかを大事にしています。

 

-印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか?

末期がんの患者さんで「飼い猫を撫でたいから病院を出て家に帰りたい」と在宅医療を受けられた方や、「タバコが吸いたい」「お酒が飲みたい」と家に帰って最期を迎えられた方たちがいます。

病院では決してできないことを自宅では叶えられます。

 

とは言っても、実際には猫は点滴の管を引っかくので同じ部屋にはいられませんでしたし、タバコも思ったようには吸えないものです。

それでも「先生も一緒に飲もうよ!」と誘ってくれて、お茶で乾杯するだけでも気持ちは満足したんでしょうね。

「先生のおかげで家に帰ってこられた」と嬉しそうでした。

 

後進の育成が課題。患者から信頼される人材を育てたい

-最後に今後の展望をお聞かせください。

高齢の患者さんはどんどん増えていきます。そういう方たちが最期を迎えるときに、選んでもらえるようなクリニック作りをしていきたいと考えています。

クリニック作りは、結局は人作り。皆さんから「ありがとう」と言ってもらえる人たちを育てていくことが目標です。

いずれは医師を増やして、8拠点すべてを医科歯科併設にしていきたいですね。

▲呼び出しがあればいつでも電話対応する後藤先生。月に2、3回は夜中の呼び出しがあり、急ぎ駆けつけることもある。携帯電話は常に持ち歩いているが、「床屋で髭を剃っているときだけは出られないよ!危ないからね!」と笑って話してくださった。

 

取材後記

ユーモアあふれる後藤先生の語り口に、取材チームも思わず笑ってしまう場面があり、楽しい雰囲気の中で取材が進みました。後藤先生が担当された患者さんは、不思議とターミナル期を迎えてからも長い期間持ちこたえられる方が多いそうで、もしかしたら「また先生に会いたい」という気持ちが、患者さんの「生きたい」という想いにつながっているのかもしれないな、と感じました。“一日にっこり”のキーワードが印象的でした。

 

◎取材先紹介

医療法人社団 コンパス

東京都北区志茂2-39-9 ペアシティ秀華一番館1-B

TEL 0120-591-173

FAX 03-3903-9022

ホームページアドレス https://www.compass-dc.jp/

 

(取材・文/安藤梢、撮影/菅沢健治)

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