健康なカラダ作りは「考えて食べること」から/医師が教える健康管理(前編) ― 医療法人アクア 理事長・アクアメディカルクリニック 院長 石黒 伸 ―

アクアメディカルクリニックの石黒先生に、「健康のための食生活」についてお伺いしました。現代人が陥りがちな“危険な”食事、逆におすすめの食材や食事法なども教えていただきます。近頃よく耳にする“テケジョ”についても、その原因や改善法などを詳しく解説していただきました。

▲石黒 伸(いしぐろ・しん)さん

医療法人アクア 理事長・アクアメディカルクリニック 院長

 

<ドクタープロフィール>

幼少期に読んだ野口英世博士の伝記に影響を受けて医者を志し、愛媛大学医学部卒業後、愛媛大学病院泌尿器科に所属しながら、大阪大学の大学院へ。中退後はフリーランスとなり、さまざまな医療機関で経験を積む。31歳の時に、横浜市にて藤が丘ライフクリニックを開院し、在宅医療の世界へ。34歳でコウノメソッド実践医として大阪・南本町に「アクアメディカルクリニック」を開院。

 

栄養価が高くて安全な肉と野菜。食事はカラダにいい食材選びから。

――体のために良い食材とは、どのようなものでしょう?

今、僕がいちばんおすすめしたいのは、グラスフェッドビーフ

日本で流通している99%の牛肉は穀物を主に与えた穀物飼育牛、いわゆるグレインフェッドビーフです。

本物のグラスフェッドビーフは牛舎でなく放牧飼育され、野生のウシ本来の“ご馳走”である牧草だけを食べて育ったウシのことです。

つまり、成長促進ホルモン剤や抗生物質といった不自然な化学物質はほとんど使用されていないということです。

さらにグラスフェッドビーフ生産者のほとんどは牧草地に農薬などの散布もしません。

一つ注意点は、パスチャーレイズドビーフ(放牧牛)という牛肉もあるのですが、牧草以外の穀物飼料も食べていることが多く、純粋なグラスフェッドではない可能性が高いです。

 

穀物のみで肥育されている和牛やアメリカ牛の肉の脂は、食べるべきではありません。

なぜなら、ほぼ飽和脂肪と不飽和脂肪酸オメガ6で構成される脂であり、これらは腸管や脳、血管に慢性的な炎症を引き起こし、動脈硬化をはじめとした様々な慢性疾患の元凶となることが数多くの論分や疫学調査で証明されています。

 

一方グラスフェッドビーフは、グレインフェッドビーフとは全く別物の「たべもの」です。

そう、同じ牛肉でありながら、全く「別物」だということをしっかりと認識して欲しいのです。これが大きなポイントです。

“牛肉”という同じ名前の食材であっても、栄養学的や遺伝学的に全く「別物」なのです。

こういう知識がみなさんの今後の健康を大きく左右する。つまり、知ることこそ「食事術」なのです。

 

グラスフェッドビーフは、霜降りではなくウシ本来の赤身肉であり、穀物牛の1/3以下の飽和脂肪量です。

そしてなんと、みなさんもよくご存知な不飽和脂肪酸オメガ3を穀物牛の5倍も含むのです。

さらには、日本人に不足しがちな脂溶性ビタミンであるカロテノイド(ビタミンA前駆体)とビタミンEも豊富。

オメガ3、カロテノイド、ビタミンE、これらは全て強力な抗酸化作用を有しており、慢性炎症を予防し、脳や筋肉のパフォーマンスの維持に一役買ってくれるのです。

 

海外には、数少ないですが、グラスフェッドで飼育された乳牛もいます。

そのミルクのみを使用しているグラスフェッドバターは、その製造過程でミルクが熟成発酵されています。

つまり、グラスフェッドバターは「発酵食品」なのです。

発酵させることでアレルギーの原因となるカゼインというタンパク質が微生物分解されます。

そして、グラスフェッドの特徴であるカロテノイド(黄色)を豊富に含むため“黄色のバター”になります。

脂溶性ビタミンであるビタミンD・K・Eも含みます。

さらに、当然オメガ3をたっぷり含むため、栄養学的にみて非常に優秀なエネルギーフードと言えるのです。

 

またグラスフェッドミルクの熟成発酵の過程で、微生物分解によって、短鎖脂肪酸「酪酸塩」が豊富に作られます。

この「酪酸塩」は、僕らの腸内にいる善玉菌の酪酸菌のエサとなり、彼らが大量に「酪酸」を腸内で作り出してくれます。

この短鎖脂肪酸である酪酸。実は「脳を育てる」可能性が指摘されています。

酪酸を経口投与されたマウスでは、脳内の海馬や前頭葉で、中枢神経系のネットワークを育てる「脳由来神経栄養因子(BDNF)」が増加しているのが明らかになっています。

つまり、腸内細菌(酪酸菌)が産生する酪酸は、脳の成長に大いに関係している可能性があるのです。

酪酸塩を継続的に、そして安定的に摂取できる食材というのは珍しいので貴重です。

質的な栄養素欠乏になりがちな現代人の食事を補うためにも、僕自身、毎日15g〜30g(大さじ1〜2杯)ほどのグラスフェッドバターを食べていますよ。

 

――お肉以外では、いかがでしょうか?

たとえば野菜だとおすすめはブロッコリー人参

特に人参はビタミンAの源となるプロビタミンAであるカロテン類がずば抜けて豊富です。

あとは枝豆(未熟大豆)オクラ、ちょっと珍しいところで言えばモロヘイヤ

すべて色の濃さが特徴的な緑黄色野菜に分類され(実は枝豆もそうなんです)、全て現代人に不足している葉酸と食物繊維を多く含みます。ぜひ熱心に食べてください。

 

古来からのぬか漬けや味噌漬けといった「発酵保存食」も強くおすすめしたいですね。

また、調味料では、ぬちまーすという沖縄の海塩などが日本人に必要なミネラルを多く含むので、私も常用しています。

 

小腹が空いた時には、植物油を使用していない素焼きのナッツもいいですよ。

おすすめは血糖値を上げづらいピスタチオ、そしてアーモンド。

保存が効いて食べ過ぎ予防にもなるので、密閉小分け包装を常備していると便利です。

▲パンは血糖値の上昇が早いそう。「そのうえ健康維持のための栄養素があまり含まれていないので、食べ続けると認知症の基盤になる“新型栄養失調”になります」

 

時間のない医療従事者にもおすすめしたい健康スタイルの食事法

――医療職の方たちは忙しくて食事に気を配れない人が多いと聞きます。

そうなんですよね。これはあくまでも僕の感覚ですが、医者が100人いたら90人くらいは、食生活の見直しが必要だと思います。(苦笑)

末期がんを患った壮年期の外科系の医師が当院に来られたことがありました。

お聞きすると、お昼ご飯はカップ麺とおにぎり、夜は売店の弁当という食生活を20年以上。本当に後悔されていました。

 

――具体的に何に気をつけて食事をとると良いのでしょうか?

僕が実践しているのは、基本的に人工的に精製された砂糖・小麦・果糖を極力摂らないこと

僕はこれだけを徹底しています。その場は血糖値が上がってエンドルフィンやドーパミンといった脳内快楽ホルモンがたくさん出るから「おいしい!幸せ!」となるんですけど、1~2時間経つと、一気に血糖値が下がってドーンとしんどくなる。

食後に眠くて、だるくて、やる気が出なくて…頭がぼーっとしちゃうってこと、ありませんか?

 

もしお昼に定食を食べる時間があれば、定食のご飯をなしにしてもらうか1/4にしてもらうのがベター。

ソースやドレッシングにも意外に人工果糖や植物油など健康メリットのないものが多く含まれているので、それらもかけないでねと注文します。

なので僕は、カバンに小分け包装されたエゴマオイルやオリーブオイル、ぬちまーすの小分けボトルを常に持ち歩いているんです。

煮付けや野菜や揚げ物の衣などにも結構糖質は含まれているので、バランスが良いんですよ。

 

サラダに“エゴマオイル”や“オリーブオイル”などの良質な油をドレッシングにして摂るといいですね。

実はこれら油は醤油とも抜群に相性が良いので刺身やお肉や揚げ物にも抜群に合います。オイルを摂ると満腹感が持続しますから。

ランチを工夫すると午後の集中力が高まって、夕方まで元気で動けますよ。

 

――健康にいいという油について教えてください。

体全体のエネルギー源になる品質の良いオリーブオイルや純国産の菜種オイル、脳や血管をきれいにするオメガ3系オイル、特にDHA/EPAです。

DHAは青魚・シャケ・タラなどの魚油が圧倒的に健康メリットが高いです。

植物性オメガ3系であるエゴマオイルも大変おすすめですが品質に注意が必要です。

他に僕が利用している変わりどころの植物性オメガ3系オイルは、ヘンプシードオイル・カメリナオイル・サチャインチオイルです。これらはクセが強いので好みが別れます。あと、オキアミを原料とするクリルオイルは、吸収率が非常に高いリン脂質結合型DHA/EPAと、抗酸化成分アスタキサンチンを両方併せ持つスーパーオイルであり最もオススメしたいオイルの一つ。

あとココナッツオイルは、脳のエネルギー源となり脳パフォーマンスを高めるMCT(中鎖脂肪酸)オイル含有率が高いので非常におすすめです。

▲「僕は、ぬちまーすで作った味噌を野菜につけたり、ブラックコーヒーにココナッツオイルを混ぜたり…少し頭を使えば、健康的食事のアイデアもいろいろ出るし、やり始めるとむちゃくちゃ楽しいですよ」

 

女性を悩ませる不調の原因“テケジョ”とは?

――近頃よく耳にする“テケジョ”とは、何ですか?

鉄欠乏女子、のことですね。

この鉄不足というのは非常に深刻で、エネルギー代謝が障害されます。

うつ症状を引き起こしたり、倦怠感がでるほか、ひどくなれば貧血・無気力・認知機能低下・味覚障害といったような日常生活に大きく支障をきたす症状も出ます。

 

摂取する鉄分の量が少ないことだけがテケジョの原因ではありません。

鉄が吸収された後、体に利用されるところまで運ぶ“鉄輸送タンパク”というものがありますが、良質なタンパク質や食物繊維を食べずにパンやスイーツばかり食べるという食生活の人は、体内の鉄輸送タンパクがうまく生合成されず、せっかく摂った鉄分も細胞まで運ばれないため“テケジョ”になりがちです。

 

――“産後うつ”も、鉄欠乏が関わっているのでしょうか?

出産時には鉄分が激減しますので、原因となっている可能性はあります。

オイル不足やミネラル欠乏、そして糖質過多も関係があるとされています。

実は栄養価の低いものばかり食べている状態の妊婦が多いというデータもあり、妊娠糖尿病、鉄欠乏、産後うつになりやすいのはそのためでもあります。

石黒理事長のある日の夕食。取り寄せた新鮮な野菜をオーブンでグリルするだけのシンプルなものだが、栄養価も高くグラスフエッドバターやオリーブオイルなどを使って調理しているので、とっても健康的!味噌汁にもたっぷりのあおさ海苔が!

 

“テケジョ”からの脱却!キホンは食事改善

――鉄分を摂取するのにおすすめの食べ物はありますか?

食材で言えば、吸収率の高いヘム鉄が含まれる動物性タンパク質が最優先ですね。

もちろん野菜や海藻に含まれる非ヘム鉄も食べるべきです。糖質の高いものでお腹を満たさずに、こういうものを積極的に摂ってお腹でなくカラダを満たしてください。

 

アイテムとして紹介したいのは、魚のかたちをした鉄の塊“ラッキーアイアンフィッシュ”。

味噌汁や煮物といった煮込み料理などの鍋へ入れて、一緒に煮込むと微量な鉄分が溶け込みます。

そして、具材に含まれるタンパク質と結合してヘム鉄に近いカタチとなり、カラダに吸収されやすくなるんです。

 

味も変わらないので、煮物をする鍋とかご飯を炊く炊飯器とか、何でもいいので使ってみてください。

こういう簡便性が高いものも食事改革と併用して取り入れてみましょう。

 

鉄分の補給としては、こういった道具を使うほか、重度の場合でもヘム鉄サプリなどとプロテインを併用してしっかり飲めば、3ヵ月ほどでうつ症状や意欲低下症状、だるさなんかも、改善が期待できます。

もちろん、食事をおろそかにしていいということではないので、まずは食生活を見直してみましょう。

ぐんと健康的な毎日が送れるようになると思いますよ!

 

次回予告

後編では、高齢者の食生活を中心に教えていただきます。認知症などの現代慢性疾患リスクを高める食事や予防できる食材など、を詳しく教えていただきます。

 

取材先紹介

医療法人アクア・アクアメディカルクリニック

〒541-0054 大阪府大阪市中央区南本町3-1-16 AQUA MEDiCAL CAMPUS 4

TEL 06-6281-9600  FAX 06-6537-1996

http://aqua.clinic

 

<取材・文 梶 里佳子/撮影 前川 聡>

 

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