シンプルな食生活で健康寿命を延ばす方法/医師が教える健康管理(後編) ―医療法人アクア・アクアメディカルクリニック 理事長 石黒 伸―

前編では、現代人が普段から気をつけたい食生活の注意点や、“テケジョ”と呼ばれる鉄欠乏女子の改善法について教えていただきました。後編では、認知症患者や高齢者の食生活について語っていただきます。さらに将来、認知症になるリスクの高い食事、反対にコンビニエンスストアでも手に入る高齢者へおすすめしたい商品まで、アドバイスをいただきます。

▲石黒 伸(いしぐろ・しん)さん

医療法人アクア・アクアメディカルクリニック理事長

 

ドクタープロフィール

幼少期に読んだ野口英世博士の伝記に影響を受けて医者を志し、愛媛大学医学部卒業後、愛媛大学病院泌尿器科に所属しながら、大阪大学の大学院へ。大学院中退後はフリーランスとなり、さまざまな医療機関で臨床経験を積む。31歳の時に、横浜市にて藤が丘ライフクリニックを開院し、在宅医療の世界へ。34歳でコウノメソッド実践医として大阪・南本町に「アクアメディカルクリニック」を開院。

 

健康なカラダ作りは「考えて食べること」から/医師が教える健康管理(前編) ― 医療法人アクア 理事長・アクアメディカルクリニック 院長 石黒 伸 ―

2018.10.23

自身の不調の原因を探ったことがきっかけで、健康的な食生活をスタート

――石黒先生が健康的な食事に取り組み始められたきっかけは何ですか?

僕も、昔は普通にチェーン店のカレー屋、牛丼屋とか、よく行っていました。ざるそばとおにぎり、かつ丼とうどん、そういうお昼ご飯をいつも食べてたんですよ。すると30代後半に、なんだか体がだんだんしんどくなってきた。

体重もじわじわ増え、何よりもお腹がぽってりしてきたんです。

これはちょっとやばいなぁと思いながら、なんでかな?歳かな?あ、運動不足かな?と運動もしてみたんだけど、やっぱりだるくて。

 

ふと自分の食生活を見直してみたら「これが原因かも!」となって。すごい猛烈に反省しましたね(苦笑)。

自分のカラダの細胞たちにひたすら謝ったんですよ〜(笑)

 

で、食事の内容を大幅に改善しただけ生活の質もカラダもかなり変わりました。

運動は犬の散歩程度。

以前はランチ後に毎日30分ほど昼寝していたんですけど、お昼の糖質(炭水化物)の摂り過ぎをやめたら眠さも解消されて、今はまったく眠くなくなりました。

朝からしっかり考えて頭で食べているので、ランチは別に食べなくてもかまわないぐらいお腹も減らないしなによりもカラダが動きやすいんです。

そう、“空腹感“がとても軽くなるんです。これが大きなポイント。

 

自分のカラダで実感したからこそ、いまなんとな〜く不調を感じている皆さんには、自分の食生活を絶対に見直したほうが良いです。絶対に人生損しますよ!

▲血中コレステロールが増える原因を食事からの油だと信じている人が多いが、その原因のほとんどは異性化糖や果糖であるとのこと。「まずは異性化糖を含む製菓や加工食品をとことん減らすことが先決です」と話す石黒理事長。

認知症を予防するため避けるべき食事とは?

――高齢化社会の中で気をつけたい食事について教えてください。

僕の場合、在宅医療で最重度の認知症患者さんをたくさん診てきましたので、患者さんのご家庭全体の食生活もすべてチェックし把握してきました。

総じて菓子パンや食パン、そして安価な甘いおやつ(ほぼショ糖や異性化糖や人工甘味料が使用されているもの)を食べていることがむちゃくちゃ多いんですね。

食卓に置いてあるタレやドレッシングなどの人工合成調味料もかなり問題アリ。

「これでは認知症になっても仕方ない…」と思うことがほとんどでしたね。

 

僕がいつも高齢の患者さんへ、いちばんにする食事指導は、凄くシンプル。

小麦と異性化糖はやめましょう!」これだけです。

これらは現代食の象徴とでも言うべき悪玉糖質の代表選手です。

なぜなら、これらを食すと、急激に血糖値を上昇させます。この血糖値の急激な上昇という現象は、自然界の動物ではありえません。

この「急激」というのがミソで、僕たちのカラダにもっとストレスがかかるのは「急激な変化」なんです。

なぜかというと、体内は「恒常性」といって、常に安定な体内環境を好みますので、これを保持しようと一生懸命なんです。

急激に血糖値が変動しちゃうと、カラダの恒常性を保つシステムに負荷がかかり、エラーが起こりやすくなるんです。

このエラーで引き起こされる体内の生理学的な反応が、細胞や血管にダメージを与え、慢性炎症や脳神経の変性を引き越すことが、多くの論文でも科学的に証明されています。

つまり、これら二つの「悪玉糖質の代表選手」の摂取量を減らすだけでも、認知症になるリスクは確実に下げられるし、認知症患者さんの病状進行さえも遅らせられる、と僕は考えています。

小麦に関しては血糖上昇以外にも様々な健康デメリットがありますが、それはまた別の機会に。。。

 

高齢者は、嗅覚や味覚が僕らの想像以上に鈍ったり変化してしまったりしているので、食べ物の選択基準が「自分が好きかどうか」、つまり「食べると幸福感を得られるか!?」だけになりがちです。

一般的に、脳が喜ぶ最大の理由はエンドルフィンやドーパミンという「快楽ホルモン」の過剰分泌と言われており、なぜか「甘いもの」を目で見るだけでもドーパミンが分泌されると言われています。

ご家族や介護者の皆さんもそういった知識がないままスーパーに買い物に行き、最も目につく場所にどっさりと陳列された菓子パンや甘いものを見てしまうと、ついつい無意識に引き寄せられ買い物カゴに入れちゃってることがあるので、啓蒙し注意することが必要ですね。

▲血糖値を急激に上げ下げする食生活を続けていると、その生理学的ストレスから糖尿病、動脈硬化、脳血管障害、認知症になる確率が格段に高まるだろうと、警鐘を鳴らす。

急激な血糖値の上げ下げを長年続けると、認知症になりやすいだけでなく、糖尿病・心筋梗塞・脳血管障害など命に関わる病に。

――良くないとされている血糖値の急激な上昇ですが、具体的にどんな点が体によくないのでしょうか?

食事で摂取した糖質は、腸管内でブドウ糖に変換されます。そして、血管内に吸収され血液中を漂います。

細胞の扉を開く鍵であるインスリンによって血液中を漂っていたブドウ糖が細胞の中へ入ってきます。

だから、インスリンは血糖値(血液中のブドウ糖)を下げてくれるんですね。

そして、細胞の中に入っていったブドウ糖たちは、細胞の中で繰り広げられる様々な生化学反応によってATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー源に変換されるため、僕たちは「ヒト」でいられるんですよ。

 

しかし、血液中にインスリンが溢れている状態が長年続くと、その鍵穴がダメになってブドウ糖が細胞の中に入れなくなり血液中を漂います(耐糖脳低下)。

つまり、その細胞はエネルギーを作れなくなりダウンするわけです。これが脳細胞のパフォーマンスが大幅に低下してしまう理由です。

完全に鍵穴が壊れた細胞はブドウ糖不足となり挙げ句の果てに死んでしまいます。

これが脳萎縮(脳神経細胞数が減少)してしまう原因の一つですね。

またインスリンは脂肪細胞をどんどん肥えさせる作用もあるため、内臓脂肪蓄積や動脈硬化を助長させるんです。

 

――果糖も良くないと言われてましたが、それも血糖値の上げ下げが理由でしょうか?

果糖というのは実は、最近まで、どのように代謝され、そもそもエネルギー源として体内利用されているのかも不明でした。

最新の研究では、少量の果糖はすべて、小腸で代謝されブドウ糖に変換されることがわかっています。

つまり、少量の果物であれば、食べても血糖値の上昇は緩やかなため、ほとんど健康デメリットはありません

 

では、小腸の処理能力を超える量の果糖を摂取するとどうなるか?

小腸で処理しきれなかった果糖は、ダイレクトに肝臓に運ばれ脂肪に変換されます。

つまり果物の食べ過ぎは、脂肪肝や高コレステロール血症など脂質代謝異常を引き起こすわけ。

とってもヘルシーに見えるフルーツが腹の脂肪に変わるなんて、みんな想像ができないんですよ。

 

でもこれは人類が生き延びるための進化の過程で、非常に重要な機能でした。

果物は自然界ではとても貴重で、限られた実りの時期にしか食べられません。

人類はその限られた果物を食べることでしっかりと体内に脂肪を蓄え、飢餓になっても生き延びられるよう進化していたのです。

果物を人類が食べることで、いろんな場所に種子がばらまかれ、その植物も繁栄できたわけです。

まさにWin-Winの関係だったんですよ。

 

じゃあ果物は食べないほうがいい、ということではなく、果物に含まれる果糖以外の栄養素(ポリフェノールを代表とするファイトケミカル)はとても魅力的です。

ブルーベリー(アントシアニン)などのベリー系果物やアボガド(オメガ9不飽和脂肪酸)など含有果糖が極少量の果物はとってもオススメです。

これらを食べても急激に血糖値が上がることはなく、穏やかに良質なエネルギー源となります。

 

日本の甘〜いブランド物のイチゴやミカンやブドウなどは、不自然なほど高果糖ですので要注意。

特に高齢者や小さなお子さんが習慣的に食べると、前頭葉が至福感を強く感じるため、食べたい欲求が止まらなくなりクセになります。

つまり、現代における果物の食べ方や選択には、知識と技術が必要なんです。

 

実は、異性化糖の一種であるショ糖や果糖ブドウ糖液糖は、ブドウ糖と果糖を人工的に結びつけたもので、体内でそれぞれに分離します。

ですので、異性化糖を摂り続けると、確実に高脂血症や脂肪肝になりますし、そこから全身の動脈硬化にも繋がります。

血糖値が高い状態、言い換えるとインスリンを出し続ける状態を続けることは良くないことばかりですね。

 

わかりやすい原材料や、シンプルな成分表示の商品を選ぶのがポイント

――コンビニやスーパーなどで、高齢者にすすめられる食品はどのようなものでしょうか?

温泉卵や枝豆、焼きサバやサバ缶

あと、無調整豆乳にココナッツシュガー、粉のフラクトオリゴ糖、羅漢果顆粒などを混ぜるといいですね。

高齢者には手に入れづらいものもあるので、手軽なものだと少量の「非加熱の生はちみつ」なんかで甘味を足してもらうのもいいでしょう。

 

おやつで最もオススメなのはさつまいもです。干し芋であればおやつにも最適。

塩や醤油だけのせんべいとか、シンプルなバニラのアイスクリーム。

あ、アイスはですね、絶対に「ラクトアイス」は買わないほうが良いです。

ラクトアイスは乳製品でなくただのサラダ油を乳化させて作られたものです。必ず、高脂質の生乳を使ったアイスクリームを選んでください。

よくあるポテトチップスも化学調味料の少ないうす塩味や、最近はオリーブオイルポテトチップスとかもあるので、そういうものなら多少は食べてもいいと思います。

あと、こんにゃくチップスとかココナッツシュガーチョコといったものもありますよ。

 

つまり、シンプルな味のものがいいですね

成分表示や原材料は、極力シンプルなものを選んでほしいです。

表示に10個以上の名前が並んでいるものは絶対に避けた方がいい。

また、食べ過ぎを防ぐのに、小分けのものがベターです。

 

少し考えながら買い物をすれば、食事も自然と変わっていくし、誰でも健康なカラダへ一歩ずつでも近づきます。

ぜひ少しづつでも食生活を見直して、健康なカラダを手に入れれる取り組みを始めてください!

▲「食べ物というのは、本来は健康であり続ける為に摂るもの。目の前にある食事は、自分の健康にメリットがあるのか?ということを、常に考えないといけないんです」。

 

消費者の意識が変われば、社会の健康志向も高まる!

――最後に、先生が定期的に開催されているという講習会について教えてください。

今年の2018年から始めて、7月と10月には1日まるごとセミナーを開催しました。

健康や体にいい食に関するテーマで、各方面のスぺシャリストをゲストにお招きし、3か月に1回程度行っています。

 

今のところ対象者は、経営者・医者・看護師・介護関係者など一部の職種限定の講座なんですが、いずれは広いホールで市民講座的に開催したいですね。

医療従事者、特に開業医がもっと関わってきてくれると嬉しいと思ってるんです。

 

健康を強く意識した社会的な食事改革というのは、ヘルスケアビジネス実践者、医者を含む医療従事者、飲食店経営者、加工食品製造業者、農水畜産業従事者、農林水産学者、獣医師といった異業種の方々ががっつりタッグを組まないと、実現できないと思ってるんです。

患者さんの健康増進のためになる事業というのは医療法人でも認められていますし、医師は国民の健康増進を図ることを義務づけられていますから、今後は積極的に、食に関する新規事業やコラボレーション事業の立ち上げに取り組んでいきたいと思っています。

 

みんなの食に対する健康意識や食の消費行動が少しずつでも変われば、確実に病者が減り医療費は抑制でき、日本社会の生産性は飛躍的に向上するはずで、なんでもっと日本政府はそこに力を入れて取り組まないのか?本当に不思議です。

だって、現代食が大勢の慢性疾患患者を作ってることはもはや周知の事実ですから

 

僕は最近こんな言葉をよく使います。「あなたのカラダは、あなたにしか作れない」と。そして、「最高のカラダ作りには、最高の素材が必要だ」と。

このような「食医学」や「食事術」が広く周知されれば、加工食品や外食産業の在り方、農水畜産業の生産者意識、医療従事者の食指導への取り組み姿勢なども変わったり…ちょっとずつ、日本がいい方向へ流れが変わるんじゃないかと信じています。

 

僕は、「日本人の日本人による日本人のための食事」について、今後もガンガン掘り下げて探求し続け、日本中に発信していきたいと思います!

 

取材後記

元気で笑顔が素敵な石黒理事長。みずから実践されているという健康的な食事についても、詳しく教えてくださいました。ご自身も昔は医師という仕事の忙しさに追われて、不健康な食事を続けられていたそうですが、今では食材から調味料まで健康的なものにすべてリセット。そのおかげで、元気よく医師の仕事を続けていられる!とお聞きすると、我々も自然と食事改革に挑戦したくなりました。

 

取材先紹介

〒541-0054 大阪府大阪市中央区南本町3-1-16 AQUA MEDiCAL CAMPUS 4

医療法人アクア・アクアメディカルクリニック

TEL 06-6281-9600  FAX 06-6537-1996

http://aqua.clinic

 

<取材・文 梶 里佳子/撮影 前川 聡>

 

 

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