これからの在宅医療は“医師の専門性”が強みになる ‐医療法人 優仁会 かとう整形在宅クリニック 理事長 加藤泰司‐

「かとう整形在宅クリニック」は大阪府豊中市の住宅街にとけこむ、3階建ての落ち着いた雰囲気のクリニックです。理事長の加藤先生は脊椎整形外科のスペシャリスト。そのキャリアを活かし、在宅患者100人の往診でも内科的な総合診療に加え、理学療法士と連携したリハビリを取り入れるなど、特徴的な取り組みをされています。

約20年に及ぶ勤務医から在宅医へ転身したきっかけ、外来診療・通所リハビリテーション・在宅医療まで一貫して行えるクリニックにパワーアップした背景などを取材しました。

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▲加藤 泰司(かとう・やすじ)先生
医療法人 優仁会 かとう整形在宅クリニック 理事長

九州大学医学部卒業後、大阪大学医学部整形外科入局。市立堺病院整形外科、大阪府立急性期・総合医療センター勤務を経て、市立豊中病院整形外科へ。9年間で1300件以上の脊椎手術を行う脊椎外科指導医として活躍。
2009年4月かとう整形在宅クリニックを開院。2014年10月、現在の場所へクリニックを移転。

脊椎手術のオーソリティーから第二のドクター人生へ

—先生は整形外科がご専門なのですね?

治療や手術の成果が、レントゲンなどで目に見えて分かりやすいのが整形外科。腰椎や頸椎の変性疾患などで手足がしびれて歩けなくなったり、運動機能障害を起こしたり。
そういう患者さんを手術で治療する脊椎外科の専門医として、一番長く勤めた市立豊中病院整形外科では9年間で1300件以上の脊椎手術を行いました。歩けなかった人を「僕が手術で回復させてみせる!」という自負とプライドを持って取り組んでいました。

—なぜ、在宅医療のクリニックを開業しようと?

病院医師として「最初の10年は修行」「次の10年で専門性を極める」を目標に、ある程度、思い描いていた通りにやってきた。「さぁ、これから10年はどうする?」と、ふと立ち止まったんです。最初は「後進を育てる10年」と思っていたんですけど、それだけでいいのかな、と。

僕の中で開業というゴールは想定外だったんですけど、勤務医じゃないドクターはどんな感じなんだろう?という興味もあって、既に開業していた友人の整形外科クリニックへ見学がてら遊びに行ってみたんです。今思えば、あれがターニングポイントだったのかな。

友人のクリニックは外来診療メインでしたが、通えない患者さんの要望で往診にも応えていました。外来の待合室は大勢の患者さんでいっぱい、忙しくて休みもない。なのに「往診が一番楽しい」と笑って言うんです。
それから友人が忙しい時に外来と往診を手伝うようになり、リウマチや脊椎損傷、変形疾患で寝たきりになっている患者が結構いらっしゃることを知りました。整形外科医だからできる在宅医療も、あるんじゃないかと考えるようになったんです。
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▲「子供の頃に小児喘息を患って、その時に診てくれた先生が優しくて大好きだったんです」と医師を志したきっかけを振り返る加藤先生。

医療と介護の勉強会を企画して人脈づくり

—2009年の開業後、集患活動はどうやって?

当初、外来は予約制で訪問診療をメインにしていました。医師は僕だけ、事務員が2人。患者さん10人の小さな規模からスタート。
地域のケアマネージャーや訪問看護ステーションとの関係性を深めるのが大事だと考え、無料参加できる「医療と介護の勉強会」を毎月のように開催して、そこでの出会いがご縁となり、紹介で患者さんが増えてゆきました。

勉強会は今も続けていて、計70回を超えました。特に介護スタッフから医療や看護のことが判らず壁を感じているという声が多いので、勤務医だった頃の繋がりも活かして多彩なドクターに様々なテーマで講演していただいています。70人定員の会場が毎回ほぼ満席。最近は「1事業所から1人参加」という人数制限を設けているほどです。

—訪問診療の患者さんの多くは、整形外科的な疾患ですか?

きっかけはそうでも、在宅医療のドクターとして、その方の最期までお世話させていただく限り整形外科以外は診ないというわけにはいきません。内科など足りない専門知識は必死で勉強しましたし、分からないことがあれば、今でも知り合いの専門医に教えを請います。
整形外科以外の経験値に過信がないぶん、「念のために病院で検査したほうがいいかも知れない」など、慎重で丁寧な診療を心がけてきました。

—思いがけない疾患の兆候に気づけたことも?

腰痛で歩けなくなり、訪問診療させていただくようになった患者さんが、往診時に激しい息切れをなさっていて、「心不全の兆候かも知れない」と市民病院の循環器の医師を紹介。大事に至らずに済んだことがあります。
在宅医としては、できるだけ病院へ搬送しない方が望ましいのかも知れませんが、やはり命が最優先。古巣でもある市民病院をはじめ、地域で連携できる総合病院に恵まれているので助かっています。

理学療法士と連携するリハビリ往診が評判に

—現在のクリニック、かなりパワーアップしてますよね?

2年前に現在の場所へクリニックを移転し、訪問診療と並行して外来診療と通所リハビリテーションにも力を入れるようになりました。電子カルテ、レントゲン、高性能の骨密度測定装置など、設備面も充実しています。常勤医師は相変わらず僕一人ですが、非常勤でスポーツ整形外科やリウマチの専門医など7人のドクターに協力してもらっています。
看護師は常勤・非常勤あわせて6人。また、常勤の理学療法士6人・作業療法士1人、さらに非常勤の理学療法士10人が手伝ってくれていて、リハビリ往診にも精力的に応えています。

—理学療法士・作業療法士がそんなにいらっしゃるんですか!?

膝が痛くて歩けない、寝たきり一歩手前などの患者さんの症状に合わせて、理学療法士がストレッチなどの機能訓練指導をすると、1カ月後には嘘みたいに回復するケースが結構あるんですよ。
外来に通えないから訪問リハビリを行うのですが、訪問診療を繰り返すうちに通所リハビリへ通えるまで日常動作が回復した患者さんもいらっしゃいます。勤務医の頃は手術と投薬以外の保存治療をあまりやってこなかったので私自身、再発見でした。

特に高齢の患者さんは年齢的にも手術が最善の治療とは言えません。できるだけ自分の力で動けるようにサポートするのがリハビリの目的。今後もっと在宅医療で理学療法士や作業療法士の役割が重視されるべきだと私は思っています。

—介護されるご家族にも喜ばれそうですね

通所リハビリに通えるまでの回復は難しくても、自力でトイレの便座に移れるようになる、自分の手で食事ができるなど、ちょっとしたことができるようになるだけで、ご家族は大喜びされます。
また、ベットの寝姿勢がズレてしまった寝たきりの患者さんを元の位置に戻すのって結構大変なんですが、作業療法士さんにコツを教わると魔法をかけたみたいに楽にできたりするんです。

質の高いリハビリを提供することで、患者さんと介護されるご家族の笑顔が増えれば、こんなに幸せなことはありません。
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▲好きな言葉は「一期一会」。患者さんや医療スタッフとの縁にも意味があると感じていて、少しでも患者さんと触れ合える時間を大切にして、お世話したいと思っています。と加藤先生。

骨折予防と運動機能アップで健康寿命を伸ばす

—訪問診療で大切にされていることは?

「患者さんの声を聞く医療の実践」を理念に掲げ、患者さんやご家族が何でも相談しやすい、明るく楽しい雰囲気づくりを大切にしています。いわば、心のバリアフリーですね。訪問診療を行うのは、医師である私だけでなく、当院の看護師や理学療法士・作業療法士、訪問看護ステーションの看護師などバラエティに富んだ顔ぶれで、全員で一つのチームです。
患者さんにとって距離が近く、頼りになる“ホームドクター&セラピスト”のような存在でありたいと願っています。

—訪問診療と外来の両方をされるようになり、感じることはありますか?

外来が最初の接点だった患者さんが、歩けなくなって訪問診療に切り替わったり、逆に最初は訪問診療から始まった患者さんが通所リハビリ復帰まで回復したり。患者さんとの接点が多様化し、最期のお看取りまで長いお付き合いをさせてもらえるケースが増えてきました。
本来は外来の延長に在宅医療があるべきなんだと改めて感じるようになりました。

—目指しているクリニックの理想を教えてください

うちは整形外科医と理学療法士・作業療法士が密に連携を取れることが強み。理学療法士たちもよく言葉にしている「予防から看取りまで」を実践できるクリニックを目指しています。

特に、予防医学的な部分で整形外科医と理学療法士・作業療法士がタッグを組んでできることが、たくさんあると思っています。
外来診療で骨密度の検査をし、骨粗鬆症の早期発見と治療を行ったり、リハビリで運動機能をできるだけ維持して寝たきりになりにくい身体づくりを患者さんと一緒に目指したり。できるだけ早い段階から地域の“かかりつけ医”としてかかわり、健康寿命を延ばすことに繋げられたら、と思います。

ちなみに、寝たきりになる要因の一つが、大腿骨頸部骨折や脊椎圧迫骨折です。転倒などで太ももや背骨の1カ所を骨折したことが引き金となって運動機能が落ち、連鎖的に骨折が起きる“ドミノ骨折”を引き起こしてしまいます。
最大の予防は骨密度検査による早期発見と薬による予防。高血圧や糖尿病と同じように捉え、予防することが大事です。
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▲「今後は市民講座や健康教室など、地域の方への啓蒙活動を通じて早期の骨密度検診の大切さを訴えたい」と抱負を語る加藤先生。「年金をもらう年齢になったら、骨密度検査を!」

専門スキルが在宅医療の武器になる

—お若いドクターも多いようですが「後進の育成」を意識して?

クリニックで働く非常勤医師の一部は、平均30歳前後で医学部整形学科の大学院で研究をしている若手医師です。私が外来診療をしている時間帯に、在宅患者さんの訪問診療をお願いして、必ず看護師と一緒に回ってもらっています。
私も助かりますし、彼らにとって将来に生きる経験になれば嬉しいと願っています。

—在宅医療にこれから取り組もうとしている医師へメッセージを。

私が在宅医療を目指した時、「新しい取り組みをしている在宅ドクターがいる」と噂を聞きつけては関西・関東の講演会などに足を運びました。実際に訪問診療を行っている医師を手伝うことで得た経験もたくさんあります。そうやってポジティブに行動することで道が自然と開けるのではないでしょうか。

在宅医療=総合内科のイメージが強いかも知れませんが、今後は専門性の高い医療が求められる時代になると感じています。現在、さまざまな診療科で経験を積んでいる若い医師にも、どんどん在宅医療に加わってもらえたら理想的ですね。
患者さんにとって医療の選択肢が広がることにつながりますし、業界全体の質が高まるのではないでしょうか。

取材後記

スポーツ整形外科の診療もされているためか、取材に伺った日の外来の待合室は、若い年代の患者さんでいっぱいでした。訪問診療=看取りのための医療だと思い込んでいましたが、「最期まで自分の力で動ける」診療と予防にこだわる加藤先生のお話しをお聞きし、目からウロコが落ちた思いがしました。
地域住民の方たちと、これから2世代、3世代にわたって長いお付き合いが続くクリニックとなりそうです。

取材・文/野村ゆき、撮影・前川 聡

◎取材先紹介

医療法人 優仁会 かとう整形在宅クリニック
大阪府豊中市上野西3−17−2
TEL:06−4865−80008 FAX.06−4865−8007
http://www.kato-seikei-zaitaku.com

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