蒸し暑くてなんだか眠れない…そんなも夜あるかと思いますが、寝不足は熱中症の原因の一つ。熱中症予防のためにもしっかり眠ることが大切です。
一方、厚労省の統計では、日本の成人の2割は睡眠により十分な休息が取れていないことが明らかになっており、もはや不眠は国民病ともいわれています。高齢者についても3人に1人は何かしらの睡眠障害を抱えているとの報告があり、事態は深刻です。今回は高齢者の睡眠障害について解説します。
睡眠障害とは
睡眠障害とは、睡眠に何らかの問題がある状態のことで、不眠症のほか、昼間眠くて仕方がなくなる過眠症、睡眠時無呼吸症候群など様々な疾患を指します。
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、日本では成人の2割が睡眠で十分な休養が取れておらず、高齢者に至っては、3人に1人は何らかの睡眠障害を抱えているといわれています。
このうち、最も多いのは「不眠症」で、睡眠に関するトラブルが1カ月以上持続し、日中に倦怠感や眠気、集中力・気力・食欲の低下などがみられます。
主な不眠のタイプとして、入眠障害(寝つきが悪い)、中途覚醒(途中で目覚め、再び眠ることができない)、早朝覚醒(朝早くに目覚める)、熟眠困難(寝た気がしない)の4パターンに分けられますが、 高齢者の場合、中途覚醒、早朝覚醒を訴える方が多くなります。
高齢者の睡眠の特徴
心身の健康のために睡眠は欠かせないものですが、年齢を重ねると、睡眠にまつわるトラブルを抱えることが多くなります。高齢者の睡眠にはどのような特徴があるのでしょうか。
まず一般的に、加齢とともに早寝早起きになります。
ただし、高齢者の早寝早起きについては、生活習慣の変化に加え、血圧、体温、ホルモン分泌など、睡眠を支える生体機能リズムが加齢によって変化し、体内時計が前倒しになることによって引き起こされるものであり、これ自体が病気というわけではありません。
また、ヒトの眠りは性質が異なる二つの眠りを繰り返していますが、高齢者の場合、深い眠りのノンレム睡眠の時間が減り、浅いレム睡眠の時間が増えることがわかっています。
レム睡眠は、身体は休んでいるものの、脳は活発に活動している状態です。
その結果、尿意やちょっとした物音などでも何度も目が覚めてしまうようになります。
そして、眠りが浅く途中で起きてしまうため、実際に眠っている時間は若年者より短い一方、寝床にいる時間は長くなる傾向がみられます。寝床で休んでいるのにしっかりと眠れないため、睡眠への満足度も低下します。
高齢者の睡眠障害
高齢者はなぜ睡眠障害を引き起こしやすいのでしょうか。
その背景には、退職、死別、独居による孤立など、様々なストレスを抱えているケースが多いほか、生活環境の変化、持病やその治療薬などの影響を受けていることが考えられます。
具体的には、次の要因が睡眠障害を引き起こすと考えられています。
・ 喪失体験、社会的孤立、病気の罹患など心理・社会的ストレス
・ うつ病、認知症、アルコール依存症などの精神疾患
・心疾患、慢性肺疾患、糖尿病、泌尿器科的疾患、皮膚疾患、整形外科的疾患など、痛みやかゆみ、息苦しさ、夜間頻尿を伴うの身体疾患
・ 中途覚醒や早朝覚醒を招くアルコール、利尿作用があるカフェインなどの作用
・ 日中の運動不足や夜勤などの生活習慣
また、睡眠に影響を与える疾患は多く存在しますが、疾患そのものの影響だけでなく、降圧薬など疾患に対する治療薬の副作用によって睡眠障害が現れることがあります。
このように、ひとくちに睡眠障害といっても原因が多岐に渡るため、改善のためには何が原因かをまず突き止め、原因に沿った対応を行う必要があります。
健康づくりのための睡眠指針 2014~睡眠 12 箇条~
より良い睡眠のためにどうすべきか。厚生労働省は「健康づくりのための睡眠指針 2014」内で、睡眠12箇条として示しています。
<健康づくりのための睡眠指針 2014~睡眠 12 箇条~>
1. 良い睡眠で、からだもこころも健康に。
2. 適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。
3. 良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
4. 睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。
5. 年齢や季節に応じて、ひるまの眠気で困らない程度の睡眠を。
6. 良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。
7. 若年世代は夜更かし避けて、体内時計のリズムを保つ。
8. 勤労世代の疲労回復・能率アップに、毎日十分な睡眠を。
9. 熟年世代は朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠。
10. 眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない。
11. いつもと違う睡眠には、要注意。
12. 眠れない、その苦しみをかかえずに、専門家に相談を。
引用:厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針 2014~睡眠 12 箇条~」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
認知症と睡眠障害
睡眠障害の原因の一つとなり得るのが認知症。
アルツハイマー型認知症の場合、睡眠を促すメラトニンというホルモンの分泌量が減り、分泌のタイミングも変化するため、睡眠と覚醒のリズムが崩れていき、夜間の眠りが浅く中途覚醒が増える、夜間不眠のために昼寝をし、昼夜逆転するなどの睡眠障害が起きます。
レビー小体型認知症の場合、進行初期の段階で、レム睡眠時に夢を見て叫ぶ、手足をばたつかせて暴れるなどの異常行動を示す「レム睡眠行動障害」が現れます。
認知症による睡眠障害の治療については、残念ながら有効な薬物治療が確立しておらず、規則正しい生活を通し、生活サイクルを保つことが大切になります。
規則正しい生活を心掛け日中の活動量を増やす、午前中に日光を浴びる、リラックスできるような就寝環境を整えることなどが有効です。
まとめ
今回は高齢者の睡眠障害について解説しました。高齢者の3人に1人が罹患し、認知症とも深くかかわる睡眠障害。高齢者にとって身近なものととらえ、どのように対処する必要があるのか、周囲があらかじめ理解し、備えるべき事項といえるでしょう。
<参考文献など>
厚生労働省:e-ヘルスネット「高齢者の睡眠」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-004.html
厚生労働省:e-ヘルスネット「不眠症」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html
厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針 2014~睡眠 12 箇条~」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
厚生労働省:平成30年「国民健康・栄養調査」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08789.html
井上 雄一(2012)「高齢者における睡眠障害」日老医誌; 49: 541-546
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/clinical_practice_geriatrics_49_541.pdf
岡靖哲(2014)「認知症における睡眠障害」臨床神経; 54: 994-996
https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/054120994.pdf