認知症と摂食障害ー原因疾患と対策

毎日健康に過ごすために、食事はとても大切!ですが、認知症の家族がご飯を食べてくれない。そんな悩みを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。どうして食事をとってくれないのか今回は認知症と摂食障害について、解説します。

認知症と摂食障害-食は命にかかわる

高齢化が進むとともに、増加が見込まれる認知症高齢者。厚労省の調査によると、2012年の認知症高齢者数は462万人で、65歳以上の高齢者の約7人に1人が該当すると報告されていますが、2025年には5人に1人にまで増加すると推計されています。
また、その予備軍である軽度認知障害(MCIの高齢者は、2012年時点で400万人ともいわれています。

そして、認知症の高齢者は、食事を食べてくれない、吐き出してしまう、誤嚥性肺炎を繰り返すといった、食事に関するトラブルを抱えるケースが多いこともわかっています。
過去にボストン近郊の施設で実施された調査では、入所中の重度の認知症患者の85.8%に摂食障害が認められました。
そして、摂食障害が認められた場合と、そうでない場合とで生存率に差があるほか、褥瘡や誤嚥などの症状の有無についても摂食障害との関連が指摘されており、認知症の高齢者にとって、食事が生命やQOLに深くかかわっていることが伺える結果となっています。

摂食・嚥下のプロセスとは

私たちが食事をとる際には、食べ物を認知してから口に運び、細かく噛んで飲み込み、食道から胃に送る、という一連の流れをこなしています。このプロセスは大きく分けて、次の5期に分類されます。

<摂食・嚥下運動の5期>

①先行期:目で見て食べものを認識する

②準備期:食べ物を口に入れ、咀嚼する

③口腔期:歯や舌、頬を使い、食べものをかたまりにして口の奥から喉へ送る

④咽頭期:脳にある嚥下中枢からの指令で、食べものを食道へ送る

⑤食道期:食べ物を胃へ送り込む

認知症が原因となり食事が摂れない場合、先行期から食道期の全ての過程で障害が発生している可能性がありますが、ポイントとなるのは先行期です。

先行期は、目の前にあるものを食べ物と認識し、どのくらいの量を、どのようにして口に運ぶかを計画し、実際に実行するまでの段階となります。
実際に食べ物を口に入れた後に感じた感覚による情報だけでなく、これから食べる食物がどのような硬さか、大きさかなど、先行期で予測した情報をもとに、口やのどの動きが連動します。
そのため、先行期のプロセスに問題があると、口腔期や咽頭期の障害が軽度であっても、誤嚥や窒息が発生してしまう恐れがあることも指摘されています。

認知症の原因疾患摂食障害の特徴

認知症の原因となる疾患には様々なものがありますが、代表的なものはアルツハイマー型認知症レビー小体型認知症前頭側頭型認知症、脳血管性認知症、脳腫瘍などが挙げられます。
今回はこれらのうち、変性性認知症に分類される3種(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症)について、それぞれの特徴と、現れる摂食障害について解説します。

(1)アルツハイマー型認知症

日本の認知症で最も多いのがアルツハイマー型認知症で、全体の7割が該当します。
記憶を司る、脳の海馬から委縮が始まり、記憶障害のほか、意欲の低下、失認、失行などが多くみられます。

摂食障害がはじまるのは中等度以降で、摂食・嚥下運動の5期のうち、「先行期・準備期・口腔期」に障害が現れます。
中核症状の記憶障害、失行・失認、実行機能障害により、目の前のものが食べ物と認識できない、食べ方・スプーンの使い方がわからないといった理由で、自力で食べて飲み込む力はあっても、食事のきっかけがつかめず、食べられないとう状態になってしまいます。
周囲が食事の開始を促すことが必要になります。

症状が進むと嚥下障害が現れるほか、失行により口が開かない、口に入った食べ物を飲み込まずにため込む、といった症状がみられるようになります。

(2)レビー小体型認知症

大脳皮質を中心とした中枢神経系にαシヌクレインという異常タンパク質が溜まり、レビー小体が作り出されることで発症する認知症です。
レビー小体型認知症では、同じようにレビー小体が原因となるパーキンソン病の症状(パーキンソン症状)がみられるほか、うつや幻視、睡眠時の異常行動などが現れることが特徴です。

レビー小体型認知症の場合、パーキンソン症状の影響から、比較的早期の段階でも嚥下障害が現れ、誤嚥を引き起こしやすいため注意が必要です。
手の震えや筋肉のこわばりにより、スプーンを扱えない、食べ物をうまく口に入れられないといったケースもみられます。

また、幻視によって、食事に虫などの異物が混入しているように見えて食事を食べない、という場合もあります。
ごまやふりかけなど、幻視の原因となりそうなものがないか注意する必要があるほか、部屋をできるだけ明るくして、よく見えるようにすることも効果的です。

(3)前頭側頭型認知症

異常なたんぱく質が脳に溜まり、大脳の前頭葉、側頭葉から委縮していく認知症で、5060歳代の比較的若い年代に発症しやすいことが特徴です。
若年性認知症の主な原因の一つといわれています。

症状としては、性格の変化や、社会性の喪失、注意、判断、実行機能などの能力の低下がみられますが、食事に関しては、過食など食行動の変化がみられます。
また前頭側頭型認知症の場合、同じ行動を繰り返す「常同行動」がみられることも特徴ですが、これが食事に現れると、甘いものばかりあればあるだけ食べるといった具合で、同じ料理ばかり過剰に食べる症状が現れます。

このほかに、急いで口に食べ物を運ぶ詰め込み食べや、他者の食事を食べてしまう「盗食」、食べられないものでも手あたり次第口に入れてしまう「異食」などがみられるケースがあります。
他者とのトラブルになり得るだけでなく、窒息や誤嚥にもつながるため、周囲が注意を払う必要があります。

 

どうして食べないのか原因を考えながら対策を!

このように、ひとくちに「認知症」といっても、原因となる疾患によって現れる症状や摂食障害に、それぞれ特徴がみられます。
また、疾患そのものだけが原因ではなく、口腔内のトラブルや、服薬中の薬による副作用など、他の要因も考えられます。

まずは、背景にある認知症の特徴や、その人が置かれている環境、そのような行動をとってしまう理由を知る必要があります。そして、それぞれの原因に沿った対応策を、正確かつ迅速に取り入れることが重要です。

まとめ

認知症と摂食障害の関連について解説しました。食事を勧めても食べてくれない、食べすぎを止めたいけど、やめてくれないなど食事にまつわるトラブルは様々ですが、その背景には原因となる疾患があり、また認知症の方なりの理由がきちんとあります。医療・介護スタッフや家族の皆様が、日々大変な想いをしながら支えてくださっているかと思いますが、高齢者の方に寄り添い、根本の原因を見据えながらサポートしていただければ幸いです。

<参考文献など>

吉田貞夫編著(2014)『認知症の人の摂食障害 最短トラブルシューティング 食べられる環境,食べられる食事がわかる』医歯薬出版

木村百合香(2018)高齢者の嚥下障害の要因と対応https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/31/2/31_165/_pdf

健康長寿ネット:摂食・嚥下障害とは
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/sesshokushougai/about.html

NHK健康チャンネル:【特集】認知症の種類と症状、予防・治療法、介護のポイントhttps://www.nhk.or.jp/kenko/special/ninchisho/sp_1.html

総務省:令和2年9月 20 日『統計トピックス No.126 統計からみた我が国の高齢者』https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics126.pdf

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