高齢者のおしっこの問題に直結する「前立腺肥大症」とは|在宅医療の基礎知識

今回は前立腺肥大症についての話です。訪問看護や訪問介護の利用者さんは、おしっこの問題を抱えている方が多いことと思います。
「さっき行ったのにまたトイレに行きたくなる」「おしっこの勢いが弱くて、他の人の何倍も時間がかかって困る」「失禁が頻回でおむつの交換が大変」など、おしっこの問題というのは高齢者にとって実は日常生活の質(Quality of Life)を左右する非常に重要な因子だということが分かっています。

 

そもそも前立腺とは?|在宅医療の基礎知識

そもそも前立腺って、耳にしたことはあるけどどこにあってどのような働きをしているかについて御存知の方はあまり多くありません。

前立腺は、「会陰(えいん)」と呼ばれるお尻の穴の上のところの奥にあり、通常はクルミ程度の大きさです。
腎臓から作られた尿がたまるところを、膀胱(ぼうこう)と呼びますが、そのちょうど出口にあるのが前立腺です。膀胱から出たおしっこは尿道を通って、陰茎先端から排泄されますが、膀胱を出た直後の尿道を取り囲むように前立腺が存在しています。

また、前立腺は男性にしかない臓器であり、精液が尿道に出てくるときに通る部位でもあります。前立腺からは前立腺液が分泌さえ、精子の運動を助ける働きをしています。

 

前立腺肥大症とは?どのような症状が出る?

前立腺は、加齢とともに肥大化することがあります。通常はクルミ大程度の臓器ですが、年齢を重ねるとホルモンバランスによって肥大化し、鶏卵大、鵞卵大と大きくなる方もいます。
通常50歳をこえると急激に有病率が増加し、60歳代で60%、80歳代で90%が前立腺肥大症であるとされています。

前立腺が大きくなるとどういう影響が出ることが考えられるでしょうか。
先ほど述べたように、前立腺は尿道を取り囲むようにして存在しているため、前立腺の肥大が起きると、取り囲まれている尿道が圧迫されて狭くなってしまいます。

また、形も変形し、前立腺の中葉とよばれる真ん中の部位が膀胱側へせり出してくることにより、尿意切迫感や、重症になると尿閉(尿が自力で出せなくなること)になってしまい、下腹部の緊満と激痛で救急搬送される場合もあります。

 

前立腺肥大症の検査と治療

利用者さんが前立腺肥大症かもしれない、と思ったときにはまず近くのクリニックへの受診を勧めてみましょう。受診した場合はどのような検査が行われ、どういった治療がされるでしょうか。

◎前立腺肥大症を疑った場合の検査

  • 尿検査
    膀胱炎や前立腺炎といった、細菌感染症との鑑別に必要です。
  • 超音波検査
    前立腺の大きさや形をみます。
  • 尿流量検査
    実際に専用の便器で排尿をしてもらって、尿の速度や排尿パターンをグラフ化します。
  • 残尿検査
    おしっこを出しきった後に残っている尿の量(残尿量)をチェックします。50ml以上残っているのは異常とされています。
  • 直腸診
    おしりの穴から指を入れて前立腺を触る検査です。超音波検査が無い場合に、大きさを推定するために行われたり、前立腺癌の危険が無いかをチェックしたりします。
  • PSA検査(採血)
    前立腺癌の危険が無いかチェックするために行います。ちなみに、前立腺肥大でも前立腺癌でも血清PSA値は上昇しますが、前立腺肥大と癌は全く別物であり、肥大だからと言って癌になるわけではありません。

その他、やや痛みなどを伴いますが、精密に調べる場合にはウロダイナミックスタディや、膀胱尿道鏡検査を行うこともあります。

◎前立腺肥大症の治療

前立腺肥大症の治療には大きく分けて3つあります。

1. 薬物療法

ひとつめは薬物療法です。

現在主に用いられているのは、α1ブロッカー・5α還元酵素阻害薬・PDE5阻害薬などです。
α1ブロッカーは、尿道をリラックスさせる作用があり、尿の勢いを改善したり、残尿を減らしたりするために用いられます。
5α還元酵素阻害薬は、男性ホルモンを抑えることで前立腺を小さくする働きがあります。

PDE5阻害薬は、近年新しく前立腺肥大症に用いられるようになった薬で、もともとはバイアグラと同じような勃起障害の治療薬(シアリス)と同じ成分です。血管を拡張し血流を改善すること尿道や膀胱の働きを正常に近づけます

2. 手術療法

前立腺肥大の手術は近年様々な手術が開発されていますが、どれも前立腺の肥大した部分を切除したり核出したりして、物理的に前立腺の肥大を解除するというものです。
数日~1週間程度の入院を要します。

3. 尿道カテーテル挿入・自己導尿

上記を行ってもどうしても自力で排尿ができない場合などには、尿道カテーテルを入れたり、排尿したい時に自分で管を入れて尿を出す自己導尿を行ったりします。

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2017.02.27

前立腺肥大症の臨床症例

より具体的に、前立腺肥大症に対する治療がうまくいくとどのようないいことがあるか、考えてみましょう。

◎症例1

65歳男性。5年前から尿の勢いが無いため、トイレはいつもひとより時間がかかり、回数も多いため、友人たちと一緒に出掛けるのがおっくうになっていた。クリニックを受診し、前立腺体積が50mlと、通常の3倍程度に肥大していることが判明したため、5α還元酵素阻害薬(前立腺を小さくする薬)を飲み始めたところ、半年後に前立腺体積が30mlになった。排尿の勢いがよくなり、よく出し切れるようになったため、より活発な生活を送れるようになった。

症例1の解説

通常、前立腺は20ml以下ですので、この症例は通常の3倍程度の前立腺肥大であるといえます。このように大きな前立腺の場合、薬によって物理的に前立腺を縮めることで症状が改善することが多々あります。

ただし、前立腺が膀胱に大きく飛び出している場合には効果が出づらいなど、単純に大きさだけで治療法が決まるわけではありません。

 

◎症例2

80歳男性。2か月前から、尿がちょろちょろとしか出なくなり、いつも、おむつに排尿している。たまたま腸炎で近くの病院に入院したところ、腹部超音波検査で膀胱が緊満しており、尿道カテーテルを入れると1000mlの尿が貯留していた。慢性的な尿閉に伴う溢流性尿失禁(膀胱が破裂寸前になるほど尿がたまっており、尿が漏れ出してしまっている状態)だと診断された。内視鏡手術を受けて、どうにか自力で排尿ができるようになった。

症例2の解説

このように、尿が自力で出せない状態であるにも関わらず、気づいていない場合は時折見かけます。前立腺肥大によって尿が出しづらい状況が長年続いていると、膀胱の神経が傷んでしまい、尿意が曖昧になってしまうことがあります。

 

◎症例3

85歳男性。夜4-5回、排尿のために起きてしまうため昼間眠気がひどい、という訴えでクリニックを受診。水の飲み過ぎを指摘され、夜間の飲水制限を指導されたが、あまり効果は無かった。1回排尿量を測定したところ、50ml程度、残尿を測定すると、200mlの残尿を認めた。そこで、夜間就眠前に1回導尿し、膀胱を空にするように指導されたところ、夜間の尿回数が1-2回に減少し、夜ぐっすり眠れるようになった。

症例3の解説

この症例は、残尿が多いためにその分の膀胱容量を使えなくなっていたために、頻尿を呈していたケースです。昼間はトイレに行けばいいから頻尿でもたいして困らない、という人はいますが、夜何度も起きるのは日常生活に大きく支障が出ます。夜間頻尿は多くの要素が関係していますが、中にはちょっとした生活の工夫で劇的に改善することもあるのです。

まとめ

前立腺肥大とは、基本的には命に危険が及ぶ疾患ではありません。しかし、重症になると著しく生活の質が下がり、活動性も下がります。利用者さんが前立腺肥大症に困っている疑いがある場合、上記のようにちょっとしたことで生活の質が大きく変わることがあります。

おしっこのことで困っている男性の利用者さんがいたら、ぜひ近くの泌尿器科へ一度受診を勧めてみてはいかがでしょうか。

writer
しゅうぴん先生

普段は急性期病院で医師として勤務しながら、定期的に訪問診療も行い、最後まで患者さんに寄りそう医療を行っています。
また、正しい医療情報の普及を行う活動をライフワークとし、昼夜問わず精力的に活動しています。

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