慢性的な尿閉は膀胱破裂の危険性あり|在宅医療の基礎知識

高齢者にとって排尿の問題はQOL(生活の質)を大いに障害する問題の1つです。しかし、中には自覚症状のないまま進行し、取り返しのつかない状態にまで進行してしまっている場合があります。
今回は、尿閉(にょうへい)という、尿が出せない状態についてお話します。

尿閉とは|在宅医療の基礎知識

尿閉とは、膀胱に尿がたまっているものの、何らかの原因により尿が体外へ排出できない状態のことをいいます。紛らわしい言葉としては、乏尿(ぼうにょう)や、無尿(むにょう)といった言葉がありますが、これらを正しく区別できているでしょうか。
腎臓において作られる尿量が少ないことを、乏尿や無尿といいます。乏尿は1日400ml以下、無尿は1日100ml以下の尿量に減少している状態のことをいいます。

尿閉は、尿が作られる量に関係なく、尿が体外に出せない状態のことをいいます。まずはこの違いを理解しておきましょう。

尿閉の症状と評価

尿閉になると、普通は激しい下腹部の緊満感と、疼痛を感じます。おしっこを最大限がまんして漏れそうになったときのことを想像してみてください。
そのつらさが徐々に悪化するのに一向に尿が出ない状態が、尿閉です。じっとしてはいられないほどつらいことが想像できるかと思います。

しかし、尿閉があるからといって必ずしも症状があるわけではありません。実は、排尿障害が徐々に悪化して、残尿が多い状態で放置していると、膀胱が次第に変形していきますが、そのような慢性的な経過の場合には自覚症状が全く出ないこともあるのです。

残尿とは、尿を出し切ったあとに膀胱内に残ってしまった尿のことを指します。(残尿と残尿感は異なりますので、残尿があるかどうかを知るには、排尿後にブラダースキャンという機械や超音波検査を行うか、直接導尿をして量をはかって評価することが必要です。)
この残尿が多い状態が続くと、膀胱は常に広がった状態になってしまい、余計な圧がかかっていることになります。余計な圧がかかった状態が続くと、膀胱が変形します。

膀胱というのはつまるところ、袋状をした、排尿するためのポンプですが、形が崩れてくるとより残尿も増え、余計な圧がかかりやすくもなります。するとさらに膀胱が変形します。
そうした悪循環がはじまると、肉柱とよばれる筋張ったような膀胱になってしまい、そのうち膀胱憩室という小部屋ができ、最終的には松笠様膀胱とよばれる、まつぼっくりのようなでこぼこした膀胱に変形してしまいます。
この過程で、膀胱が過剰に伸展していると、膀胱の血流が悪くなり、神経が障害されてしまうため、たいして症状が出ないまま進行してしまうのです。

もちろん、全く健康で他に病気の無い方でしたら、その前に排尿障害がつらくて泌尿器科にかかりますのでそこまで行くことは少ないですが、たとえば糖尿病があってもともと末梢神経障害があるような方は、自覚症状が特に出づらいため、より注意することが必要です。

尿閉を放置するとどうなる?

尿閉状態が長く続くと、膀胱に過大な圧がかかり続けることになります。するとどうなるでしょうか?

通常、膀胱から腎臓までは尿が逆流しないようになっています。膀胱が広がることで膀胱の壁内尿管が圧迫され、尿管口が閉じるのです。
しかし、膀胱が変形してくるとそうした逆流防止機構が働かなくなり、さらに過大な圧が膀胱にかかっているために、膀胱尿管逆流症が起こります。膀胱の尿が逆流することで、腎臓にも高い圧がかかることになり、腎不全になります。また、排尿状態がよくない方は、細菌尿という状態になっていることが多いため、腎盂腎炎を起こしやすくなってしまいます。

 

さらに、逆流が起こって腎不全や腎盂腎炎になることだけではなく、変形して弱った膀胱に過大な圧がかかると、膀胱破裂を起こしてしまうこともあります。破裂する部位によって、腸のあるスペース(腹腔内)に尿が漏れると、腹膜炎を起こして緊急手術が必要になることがあります。場合によっては、死亡してしまうこともあるでしょう。

こうしたことを防ぐために、特に症状が無い人でも、時々排尿状態に気を配って、管理していく必要があります。

尿閉の治療方法

新たに尿閉がわかった場合には、どのような治療が行われるのでしょうか?

まずしばらくは尿道カテーテルを留置します。留置して膀胱の圧をとることで、膀胱を一時的に休ませます。その際、状況に応じてα1ブロッカーやPDE5阻害薬という排尿障害に対する薬を使用します。
1週間~1か月後くらいを目途に、試しに抜いてみて、おしっこが出るかどうかを観察し、きちんと出て残尿が少なければそのまま様子をみて、全く出なかったり残尿が多かったりする場合は再度留置します。

この際、いろいろな原因により尿道から管が入らないことがあります。そうした場合は、膀胱瘻といった管を恥骨の上の皮膚から膀胱まで留置する手術を行うことがあります。

何度か尿道カテーテルを抜いてみても改善しない場合は、男性で前立腺肥大があれば前立腺の手術をすることで排尿ができるようになることがあります。尿が出ない原因が前立腺ではなく膀胱にあるような場合には手術で治すことは難しく、これ以上悪くならないように管で管理していくことになります。

 

具体的には、下記のような管理方法があります。

・最もよいのは間欠的自己導尿です。ただし、上肢の機能と認知機能が保たれていることが必要です。

・男性で長期に管を留置する必要がある場合は、合併症を少なくするため膀胱瘻造設術を行うことがよいでしょう。

・女性では、さほど苦痛もなく、合併症も男性に比べれば少ないために、尿道カテーテルの留置でも差し支えないと判断することは多々あります。

まとめ

「下っ腹が最近はっているけど、おむつに尿は出ているし、便秘かしら?」などという言葉を利用者さんの家族から聞いたときに、「尿が出ているのは膀胱破裂寸前で出ているだけかもしれない」と考えつくことで、利用者さんの隠れた病気を見つけることができるかもしれません。
「そういったこともあるんだ」と知っていないと思いつくことはできませんから、よく覚えておきましょう。

writer
しゅうぴん先生

普段は急性期病院で医師として勤務しながら、定期的に訪問診療も行い、最後まで患者さんに寄りそう医療を行っています。
また、正しい医療情報の普及を行う活動をライフワークとし、昼夜問わず精力的に活動しています。

知っておくべき高齢者の排尿に関する症状まとめ その1|在宅医療の基礎知識

2017.05.17

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