プライマリ・ケアとは。高齢化で高まるプライマリ・ケアの重要性|在宅医療の基礎知識

「急に熱が出た」「朝から腰が痛い」など、病気による症状は時として急に出てくることがあります。しかし、いきなり病院に行っても予約は数週間先、なんてことは多々ありますね。そんなときに、臓器や症状を問わずにすぐに診てくれる、それがプライマリ・ケアです。

今回はそのような、あらゆる医療の入り口である、プライマリ・ケアについてお話し致します。

プライマリ・ケアとは〜在宅医療において注目のキーワード〜

プライマリ・ケアとは、1996年の米国国立科学アカデミー(National Academy of Sciences, NAS)の定義によれば、次のように説明されています。

primary careとは、患者の抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである』

プライマリ・ケアの「プライマリー(primary)」は、「初歩的な、初期の」と訳されるほか「主要な」という意味合いでも用いられます。
プライマリ・ケアについては後者の意味合いが強く、患者の身近なところで、様々な心身の不調についてなんでも相談に乗ってくれる。
なんでも診てくれる医療サービス、といえます。

日本では、最近注目され始めたプライマリ・ケアですが、欧米では医療のゲートキーパーとして、アメリカ、イギリス、デンマークなど、既に多くの国々で導入されています。

医療サービスを受けたい場合は、あらかじめ決めておいた家庭医をまず受診し、必要に応じて高度な医療を提供する病院や、専門医を紹介してもらう、という仕組みになっていますが、自分や家族のケアに継続的に関わっているため、家庭医での受診でほとんどの問題は解決可能といわれています。

対して、日本は医療機関を自由に選択し、受療できる「フリーアクセス」が認められています。
専門医の診察を自由に受けられるメリットがある一方で、患者が大病院に集中することで、本来提供すべき専門的なケアを医療機関が提供できない、患者も病院の待ち時間が長くなってしまう、といったデメリットがあります。

プライマリ・ケアの五つの概念とは

欧米の多くの国で導入されているプライマリ・ケアですが、日本ではどのように定義されているのでしょうか。

日本プライマリ・ケア連合学会によると、国民のあらゆる健康上の問題、疾病に対し、総合的・継続的、そして全人的に対応する、地域の保健・医療・福祉の機能と考えられると説明しています。

同時にプライマリ・ケアの五つの理念についても示されています。

プライマリ・ケアの五つの理念

  1. 近接性(Accessibility)
  2. 包括性(Comprehensiveness)
  3. 協調性(Coordination)
  4. 継続性(Continuity)
  5. 責任性(Accountability)

では、これら五つの理念について、より細かく見ていきましょう。

近接性(Accessibility)

ひとことで言えば、受診しやすい、ということです。

受診のしやすさにもいろいろな要素があり、
・距離的に近いかどうか(地理的
・診療費が払えるか(経済的
・時間を問わず診てくれるか(時間的
・気軽に受診できるか(精神的
といった各側面をバランスよく満たす必要があります。

例えば、受診時に支払いする金額のイメージがしやすい(経済的)、夜中でも受診できる(時間的)といったことも、 「受診しやすさ」に関わる大切な要素といえます。

包括性(Comprehensiveness)

包括性とは、要は「なんでも診てくれる」ということです。

大きい病院では、胃や腸の問題であれば消化器科、肺の問題であれば呼吸器科の医師が担当しますが、必ずしも専門の医師が常に身近にいるわけではありません。
とりあえず診てほしい、そんなときに頼りになるのがプライマリ・ケア医(家庭医)です。

もちろん、それぞれの専門家のような診断や治療ができるわけではないかもしれませんが、「ひとまずつらい症状を抑える」「とりあえず今やれることをやる」といった範囲で、症状を問わずに診てくれます。

また、必要に応じてワクチン接種など「予防」に取り組むことや、不調は感じていないけれど健康診断の結果が悪くなった、といった「未病」の状態からのケア、家族へのアフターフォローなど、「発病前」、「治癒した後」についても、プライマリ・ケアの機能といえるでしょう。

協調性(Coordination)

次に、協調性です。
プライマリ・ケアでは、まずは患者からの訴えを直接聞きますが、必要に応じてより専門的な医療機関を紹介することが必要です。
他の医療機関との連携が欠かせませんね。

また、医療機関の振り分けをすることだけでなく、退院後の介護サービスへの移行サポートもプライマリ・ケアに求められる機能の一つです。
さらに、適切なケアを提供するためには、患者が抱える複数の持病や服薬状況、家族の背景など、様々な職種に渡る情報を把握することが求められます。

このように、プライマリ・ケアにおいては、各専門医、看護師、検査技師、ソーシャルワーカーなど、いろいろな専門スタッフと連携して一人の患者さんに対応する、いわゆる「チーム医療」が不可欠です。
そのためには、チームワークを大切にできる協調性が必要とされます。

継続性(Continuity)

プライマリ・ケア医は、医療の入り口に立っており、医療が必要な人の案内役を担っています。
病気に関して困ったことがあれば、とにかくまず相談する、そういった立ち位置にいるため、一人の患者について時系列的に把握することが可能です。

ひとつの病気だけを切り出してみれば、ガイドラインで治療方法が決まっていても、「その患者さんにおいてはどうするか」といったことはガイドラインには書いていません。
「胃癌が見つかったけどもう85歳だし、この患者さんであれば無理して手術するのはよくないな」といった、一人ひとりに合わせた冷静な判断ができるといった強みがあります。

また、先に少しご紹介しましたが、介護スタッフや地域の支援機関と連携し、退院後の介護サービスへの移行をサポートすることや、認知症の方なども、医療だけでなく介護面でもカバーする必要がある患者への支援についても、プライマリ・ケアが果たすべき役割の一つです。
医療の入り口だけでなく、その後の継続的なサポート役でもあるのです。

まさにゆりかごから墓場まで診てくれるのが、プライマリ・ケアです。

責任性(Accountability)

専門医は、その専門分野においては他科には真似のできない技術と知見を持っていますが、責任を持つのはその担当分野のみです。
一人の患者について、どう生きて、どう死ぬか、そういった人生全体のバランスや終着点について責任をもって考えてくれるのが、プライマリ・ケアの考え方です。

プライマリケアは初期医療・全人的医療の専門家

これらをまとめてみると、プライマリ・ケア医とは、受診しやすく、何でも診てくれて、専門家と適切に連携をとってくれて、生まれてから死ぬまで責任を持って継続的に診てくれる、とても素晴らしい医師であることがわかります。

それらをきちんと実現するには、幅広い知識と、他人と協調するバランス感覚、常に自らのスキルを高めていくような勤勉さが求められます。
一つの臓器については専門ではなくとも、初期医療・全人的医療については誰にも負けない専門家だと言えます。

<まとめ>プライマリ・ケア医の重要性は、今後さらに高まる

日本は世界各国と比べてずばぬけて医療へのアクセスが良く、経済負担が少ない医療制度をとっています。にも関わらず、未だに専門医志向、大病院志向が根強く残っています。
もちろん、すでに診断のついている一つの病気を治すためには、専門医のたくさんいる大きな病院にかかることがよいかもしれません。

しかし、たとえば実際の症例においても、「糖尿病については一流の医師にずっと診てもらっていて、体重も減ったし血糖値もみるみる下がって体調もよくなったけど、実は胃癌の末期であることがわかりました。採血したら毎回、問題ないって言ってくれて喜んでたのに。」ということははしばしば起こります。

これも、プライマリ・ケア医(家庭医)と常に顔を合わせていれば、「何も見つからないかもしれないけど、そろそろ年齢的にも、胃カメラでも受けておいたら?」なんて言って勧められていたら、早期に見つかっていたかもしれません。

医療が高度化・専門化してきた現代であるがゆえに、それを患者側が適切なタイミングで正しい順序で選択して医療を受けることは難しくなってきました。そういった際の身近なアドバイザーとしてプライマリ・ケア医が果たす役割は、今後ますます重要になることでしょう。

<参考文献など>

一般社団法人日本プライマリ・ケア連合学会:

https://www.primary-care.or.jp/index.html

writer
しゅうぴん先生

普段は急性期病院で医師として勤務しながら、定期的に訪問診療も行い、最後まで患者さんに寄りそう医療を行っています。
また、正しい医療情報の普及を行う活動をライフワークとし、昼夜問わず精力的に活動しています。

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