小児在宅医療の現状と抱える問題|在宅医療の基礎知識

近年の医療技術の進歩により子どもの救命率は大きく向上し、この30年でその死亡数は1/4にまで減少しました。しかしその一方で、日常的に医療的ケアを必要とする子どもたちが増え、小児を取り巻く在宅医療の様相は大きく変化してきています。

今回はそんな小児在宅医療の現状と、それを取り巻く様々な問題についてお話ししていきます。

小児在宅医療の現状

現在、日本で在宅での医療的ケアを必要とする子どもの数は2.5万人以上にのぼるとされています。

この背景にあるのは医療の高度化。多くの子どもたちの命が助かるようになった一方で、未熟児の出産と医療依存度の高い重症児・病弱児たちが急増したのです。

少し前、こんなニュースが話題になりました。

東京で、ある重症の妊婦が複数の周産期施設に受け入れを拒否されたというものです。それは長期入院患者によってNICU病床が占有され、満床状態となっていたことが原因でした。

社会はこうした事態を重く受け止め、これをきっかけにNICU病床の有効活用のためにも長期入院児の早期退院を推進する動きが高まったのでした。

 

このような背景から、現在は「慢性の疾患や障害を持った子どもたちや成人ができるだけ住み慣れた場所で自分らしく生きる」在宅医療を推進するようにと、政府が小児在宅医療に関する整備を積極的にすすめています。

そして近年では、新生児だけでなく、小児や、思春期以降に加齢によって症状が重症化した子どもについても、地域や在宅でのケアを利用することが多くなってきました。

 

患者・家族側の「自宅で暮らしたい/暮らさせてあげたい」というニーズとも合致する小児在宅医療は、どんどん重要性が増しているのが現状です。

 

小児在宅医療の対象ー在宅で医療を必要とする子どもの特徴

小児在宅医療の主な対象は、医療依存度が高い子どもたち。重度の知的障害と、肢体不自由が重複している「重症心身障害児」や、NICU(新生児集中治療室)に長期入院したのち、人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要となる「医療的ケア児」と呼ばれる子どもたちに利用されています。

厚労省の調査では、重症心身障害児は4.3万人(2012年時点)、医療的ケア児が1.8万人(2016年時点)いると推計されています。

 

小児在宅医療の対象となる子どもたちの特徴は、在宅酸素や経管栄養、人工呼吸器など複数の医療デバイスを使用しているケースが多くを占めること。

また、人工呼吸器を装着していなくても、気管切開をしていたり痰の吸引が必要だったりと、呼吸器ケアを要することが多くなっています。

 

さらに成人と異なるのは、成長にしたがって重症化したり二次障害が発生したりと、その病態が年を重ねるごとにどんどん変化していくこと。一つの疾患・障害だけでなく、複数併せ持つケースも少なくないだけに、複雑な病態を把握し、生涯を通じてサポートし続けられる医療者の体制づくりが必要になります。

また、医療的ケアが24時間必要になることから、独居することができず、介助者が数分でも目を離すことができない状態が続くため、介助者の負担がとても大きいことも特徴といえます。

 

小児在宅医療の抱える課題ー急激な変化に追いつけない社会

医療の進歩にしたがって劇的に変化してきた小児在宅医療の現場。

しかし、そこには制度上の課題と、小児在宅医療の担い手側の課題があります。

 

  • 社会福祉制度の課題

現行の社会福祉制度の対象は、大島分類によって「重症心身障害児」と判定された、自力で歩けない、話せない子どもや、さらにその上で医療の手を借りなければ常に呼吸をすることも栄養を摂ることも困難な状態にある「超重症心身障害児(超重症児)」・「準超重症心身障害児(準超重症児)」に限られています。

これに対し、自力で歩いたり、話したりすることはできる一方で、医療的なケアが常時必要となる「医療的ケア児」は、社会福祉制度の対象から外れた状態が長く続きました。その結果、NICUから退院しても家族が医療的ケアを含む日常生活援助のほとんどを担っているのが現状です。

その上、対象の年齢によって異なる法律(18歳未満は児童福祉法、18歳以上は障害者総合支援法)や複雑な支援体系も小児特有の課題です。

 

  • 医療提供者の課題

小児在宅医療の現場では、医療・福祉だけでなく、地域と教育の現場との連携が必要となります。

しかし、介護の現場でのケアマネージャーのような、コーディネーターが存在しないため、連携がスムーズに進んでいないのが課題としてまず挙げられます。

 

そして、小児在宅医療に関する高度な知識と技術をもつ医師や訪問看護師、対応できる医療機関が不足していることも課題の一つです。

特に医療機関については、小児在宅医療に関する診療報酬上の評価が、高齢者への在宅医療などと比べて十分でなく、新規参入のハードルが高い状態が長く続いていました。

その結果、小児在宅医療に対応できる医療機関の不足が深刻化しているのが現状です。

日本医師会の調査によると、在宅医療を提供する診療所のうち、小児の受け入れができないと回答した診療所は42.1%に上るとの結果が出ており、受け入れ体制の整備が急務となっています。

 

また地域の小児医療の核となるべき在宅療養後方支援病院、急性期医療を担う三次病院と連携し、緊急時の入院もスムーズに受け入れできる体制を構築していくことも、今後子どもたちやご家族が安心して在宅で暮らし続けるうえで不可欠です。

 

小児在宅医療の未来に向けて行政の取り組み

医療・福祉・教育と包括的な視野での相談支援と多職種連携が大きなカギとなる小児在宅医療。

こうした現状に、行政・民間問わず解決に向けて様々な取り組みが進められています。

 

行政での取り組みをいくつかご紹介しましょう。まず、20166月に改正された「障害者総合支援法」に、初めて「医療的ケア児」という言葉が明記されました。

医療的ケア児を支援するための体制を整備することが、地方自治体の努力義務として課されるととなりました。

 

また、20184月に導入された診療報酬、障害福祉等報酬では、医療的ケア児についての評価が見直されました。

児童発達支援事業所などで、看護職員を手厚く配置した場合に加算される基準が新設されたほか、外出が困難である子どもに対して長時間の訪問看護を実施した場合に算定できる加算基準が設けられました。

 

少しずつではありますが、これらが進むことで、障害の有無や重症度に関わらず、どんな子どもも安心して地域で育つ、そんな社会に近づくことは間違いないでしょう。

 

まとめ

社会を振り切るほどのスピードで進歩してきた医療技術。
それゆえに生じた問題は多くありますが、どんなに重い障害や病気をもった子どもたちも、当たり前に家族のもとで、そして地域社会との繋がりのなかで生きていける社会が一刻も早く実現されることを切に願います。

 

 

<参考文献>

厚生労働省:平成27年度小児等在宅医療に係る講師人材養成事業より

公益社団法人 日本小児科医会社会保険委員会:小児在宅医療ワーキンググループ報告書

厚生労働省:医療的ケアが必要な障害児への支援の充実に向けて

日本医師会:小児在宅ケア検討委員会平成28・29年度小児在宅ケア検討委員会報告書

日医総研:在宅医療を担う診療所の現状と課題

厚生労働省:平成30年度障害福祉サービス等報酬改定の概要

writer
chocola

現在看護師8年目。大学病院の内科病棟に配属され、うち2年間は夜勤専従看護師として勤務。結婚と同時に退職し、現在は訪問看護師として勤務。

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