在宅医療で出会う「神経難病」の代表的な疾患|在宅医療の基礎知識

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在宅医療に取り組んでいると少なからず「神経難病」という言葉は聞くことでしょう。

しかし、まだまだ様々な誤解が多い分野でもあります。

神経難病を扱う診療科は主に神経内科です。神経内科医は中枢神経に関係する幅広い疾患を扱っています。

神経内科で良く知られている病気として認知症や脳卒中などがありますが、その他に「神経難病」といわれる現代でも進行を止めることのできないいくつかの疾患があります。

今回は在宅医療で出会うこれらの神経難病に関して代表的な疾患を解説します。

神経難病とは?

難病と名前がついていると「難病っていうからには難しい病気なの?」「そんな珍しい病気を自分がケアできるのか?」「いったいどこに注目してケアすればよいのか?」このような不安がケアスタッフから聞かれます。

しかし、そもそも神経難病という単語は私にとっては非常に抵抗感を感じる言葉のように思えてなりません。

 

難病と呼ぶのはあくまでも視点が医師、特に医療研究者サイドからの目線であり、疾患の根本的な完治方法がないことが問題とされています。

しかし逆に在宅医療の現場においては正直その観点は重要ではありません。

病気の原因が何にせよどれだけ患者さんに寄り添い、最後まで傾聴し理解できたかがポイントなります。

 

神経難病の患者さんは皆さんの在宅医療の現場において少なからず存在すると思います。

実際に訪問診療の依頼が来た時に皆さんの抵抗感が少しでも和らぐよう、代表的な疾患の例を解説していきます。

 

ALS(筋委縮性側索硬化症)

「難病の王様」と言われています。最近ではメディアなどで取り上げられる機会も増え一般的にも認知度が高まってきている疾患です。

手足をはじめとした全身の筋肉、つまり喉、呼吸に関連にしたあらゆる筋肉が徐々に萎縮し機能しなくなる病気です。

筋肉の病気と思われがちですが実は筋肉には問題はなく脊髄にある運動神経そのものがだんだんと消滅していく病気で脊髄に関連した疾患です。

 

障害を受けるのが運動神経のみであるため逆に体の感覚や視力、聴力、内臓の機能などは低下せずそのまま保たれています。

現在においてもなぜ運動神経だけが消滅していくのかはまだ不明です。

 

ALSの発症率

日本での発症率は10万人中2~3人くらいでわずかに男性の方が女性よりも多いです。

発症年齢は60~70歳代が多く、現在約1万人の患者さんが全国で診療を受けているとされています。

 

ALSの症状経過

病状経過として大事なポイントは進行性であることです。それも意外と早いスピードで進んでいきます。

自然に経過をみたとして発症から亡くなるまでの経過が2~5年とされており、日本人の死因の1位を占める癌は最近ではさまざまな治療方法の進歩で徐々に延命が可能となりつつある一方でALSの進行のスピードは癌と同等、もしくはそれよりも速いといえるかもしれません。

 

自覚症状として最初は手足の軽い筋力低下のみの方が多いのですが徐々にお箸が使いづらい、荷物が持てない、車のハンドル操作が重たい、歩くのにとても疲れやすい、浴槽をまたげない、階段が昇りづらい、転びやすいといった生活を送る上での障害が出始めます。

心配になり病院に受診するのは実際に生活をする上で支障が出始めるころが多い印象です。

 

さらに症状が進むと喉や呼吸筋の低下から呂律がまわらずしゃべりにくい、息苦しい、寝床から起きられないなどの生命に直接かかわる兆候が出てきます。

これらの経過が先に述べた2~5年のうちにだんだんと出現してきます。この経過に沿って患者さんと十分相談しつつ経管栄養(胃婁を含む)や人工呼吸器の装着の準備を進めていきます。

 

ALSの治療法

現在のところ根本的な治療方法はありません。

進行を少しでも遅くする目的でリルゾールと呼ばれる薬の内服やラジカットと呼ばれる注射薬による点滴療法があります。

それ以外は対症療法がメインとなり根本治療として疾患そのものに対して対策を講じられることはないため、逆に在宅医療の力がいかんなく発揮される疾患といえます。

 

在宅ケアでの注意点

在宅ケアでの注意点は症状の進行具合により異なります。

初期は転倒、そして中等度進行期は体幹指示、高度進行期は床上での身体管理がメインとなります。

 

■初期

初期は徐々に歩行が不安定になるもののまだ自力での歩行が可能な時期です。

しかし患者さんの認識と実際の下肢筋力には隔たりがあることが多く、リハビリのつもりで散歩を頑張るあまり転倒してしまうリスクも高まります。

 

■中等度の進行期

この時期には四肢の筋力のみではなく背筋や腹筋など体幹そのものを支えている筋力にも低下がみられます。

この時期がくると単純に坐位をとるだけでも上半身の重さを腰で支えることが難しくなり、座った状態からそのまま倒れこむことがあります。そのため車いすへ乗る場合にもちょっとした急な車いすの動きで患者さんの上半身が倒れこむ危険があるため、操作をする上で安全に気を遣う必要があります。

 

■高度進行期

高度進行期の床上での管理には人工呼吸器や胃婁などが関連してきます。

実施するタイミングの判断は担当医の仕事であるため本記事では割愛します。

 

日頃のケアにおいてよく言われるのは動かせなくなった手足の向きや位置に患者さんがこだわるということ。

特に手は手の平を下向きにして指が伸びるような肢位でベッド上においてあげると満足されることが多いと思います。

 

また、呼吸筋が弱ると肺活量が減少します。

その結果発声ができなくなり、人工呼吸器管理となることでその患者さんの声は失われます。

次第に失われていくコミュニケーション能力の代わりとして文字盤の使用や眼球の動きで操作するコンピュータを使用した意思伝達装置の導入がありますがこれらは動けなくなる前より少しずつ練習をしていくことが必要です。

 

パーキンソン病

徐々に体のしなやかな動きができなくなる病気です。一般的には50歳以上で発症します。

振戦(ふるえ)、動作緩慢(動きが遅く表情が乏しい)、筋固縮(関節の動きがスムーズではない)、姿勢保持障害(立つと身体が不安定、まるで木の棒が倒れるような転び方をする)などの症状が主に出現し、パーキンソン病患者さんは一見表情が変わらない仮面のような様子から仮面様顔貌と表現されることもあります。

また体の症状のほかにREM睡眠行動異常(夢遊病)や認知障害、幻覚、妄想など多彩な行動障害がみられます。

原因は大脳の下に位置する中脳の黒質ドパミン神経細胞が減少することで脳内のドパミンが減少し発症するといわれています。

 

パーキンソン病の発症率

10万人に100~150人くらいとされており高齢になればなるほど増加するため60歳以上では100人に1人くらいの割合で存在する比較的数の多い疾患です。

 

パーキンソン病の症状経過

病状経過は進行性で最初は椅子などに座っていて片方の手や足の震えで気づきます。

この段階ではあまり受診することはないのですがその後震えている側の手足の動きがさらに鈍くなり字が書きにくい、お箸を使いづらい、小銭が取り出しにくい、歩いていて異常に疲れる、長距離を歩くと脚を引きずるようになるなどの症状がみられ始めると受診のきっかけとなります。

 

4~5年経過してくると今度は手足だけでなく体幹のしなやかさも低下してくるため姿勢が不安定になり立位や歩行で転びやすくなる症状がみられ始めます。

そのため受診のたびに身体のどこかに青あざを作ってくるようになります。

 

その他便秘症状や頻尿、発汗、嗅覚障害、起立性低血圧、意欲低下やうつ症状といった運動症状以外の症状も多彩に認められるようになり、全体的な活動性が低下していきます。

最終的には刺激に対する反応性も乏しくなり寝たきり状態となります。病気の進む速さは人それぞれですがだいたい発症から10~20年くらいの経過です。

 

パーキンソン病の治療法

治療としては残念ながら現在でも進行を止めるような根本的治療方法はまだ存在していません。

不足しているドパミンの補充を目的にした薬物療法がメインでL-DOPAと呼ばれるドパミン関連物質を主軸にその他脳内のドパミンが安定して存在しうるように開発されたいくつかのお薬を毎日かかさず服用していきます。

 

また大脳の基底核と呼ばれる場所に電極を差し込み持続的に刺激を加えることでパーキンソン症状が改善する報告があることから、内服で効果に乏しい場合にはこの手術療法を実施することもあります。

 

在宅ケアでの注意点

在宅でのケアのポイントとしてパーキンソン病は幻覚(壁に虫がたくさんはっている)や妄想(誰かが自分の自宅に攻めてくる)といった精神症状や認知障害を認めることも多く在宅医療の現場ではこれが管理を難しくさせます。

 

例えば妄想がひどくなると「どこかの兵隊が自宅周辺を取り囲み、次々と家に入ってくる。だから自分はこれに備えなきゃいけない」とヘルメットやバットを持ちながら自宅で真剣な顔をしている患者さんを見たことがあります。

 

当然患者さんは興奮状態にあり、その時介護者も敵に見えてしまうこともあるので注意が必要です。

また幻覚では特に幻視(実際にはないものが見えてしまう)の訴えが多くみられます。壁や天井の模様や小さな傷、障子の穴などが虫や顔(鬼やお化け)などにみえると訴えます。

 

基本的には傾聴と理解の姿勢を示しつつ経過観察で良いのですが不眠状態であったり患者さんや見守るご家族の精神的な疲弊が強く日常生活に支障をきたす状態であれば致し方なく、抗精神病薬で症状の緩和を試みた方が良いでしょう。

 

ただし抗精神病薬はパーキンソン症状を急激に悪化させる可能性がありできれば使用は避けておきたいです。

またこれらの精神症状は皮肉にもパーキンソン病の治療薬の副作用として現れることもありますので内服の容量が変わったりした場合には注意深い観察が必要です。

 

多系統萎縮症/脊髄小脳変性症

どちらの病名も神経疾患の世界ではよく耳にする名前です。

二つとも進行性でパーキンソン病同様に数年の経過の中で次第に身体が動かしにくくなっていきます。

 

それぞれの病気の特徴をとらえて違う病名がつけられていますが脊髄小脳変性症は読んで字のごとく脊髄上部と小脳の機能低下が起こる病気です。

多系統萎縮症はパーキンソン病の症状に小脳や自律神経の機能低下が加わった病気と考えてください。

残念ながら現在のところどちらも根本的な治療方法はなく進行に応じたケアが大切となります。

 

多系統萎縮症/脊髄小脳変性症の発症率

現在のところ多系統萎縮症は全国で1.1万人、脊髄小脳変性症は2.5万人程度の患者さんがいます。

本当に自宅での生活が困難となるまでは、ケアの主役は在宅医療で活躍する医療者となります。

どちらの病気もそれぞれ特徴はあるものの数年の経過で徐々に動けなくなっていくのは同じで自分で歩けるうちは「転倒」に注意しなければなりません。

 

症状経過と在宅ケアのポイント

病気の経過としてポイントとなるのは、嚥下障害が出現し食事がとれなくなってきた時です。

「汁物や固形でのむせ込みが多くなった」、「肺炎を起こした」などの問題が生じた場合は嚥下能力の低下が推測されます。

 

嚥下能力の低下は放置すれば窒息の原因ともなり事前に十分な時間をとって患者さんにそのような経過を送る可能性を話したうえでの対処が必要となります。

具体的にはとろみやキザミ食で食事の状況が好転しなければいよいよ必要カロリーを摂取するための経管栄養を実施していくことが必要です。

 

またどちらの疾患も進行期になると声帯や喉頭の動きが一段と鈍くなり普段は開いていて気管支や肺への空気の通り道になっているはずの声門(声帯)が閉じてしまい呼吸障害をきたすことがあります。

この時患者さんはたいてい大きく開口しており喘ぐような呼吸をし、吸気時にゼーゼーといびきのような大きな音を立てながら苦しそうに息をしています。

 

これがみられた場合には早急な気道確保の必要があるため即座に担当の医師へ相談するべきです。

その後気管挿管そして気管切開などが必要となるケースが多いためこのような状態になる前に事前に病状の流れを患者さん自身やそのご家族、更には患者さんに係る医療者も知っておく必要があります。

 

まとめ:神経難病は決してケアが難しい病気ではない

今回、主に4つの疾患に関して在宅医療を行う上での必要なポイントを述べてきました。

お気づきになった方もいるかもしれませんが神経難病とはどれも進行性であり、それを有効に抑制できる手段はまだ存在しません。

そのため在宅医療の半分は患者さんの不安な気持ちを受け止め、懐に入り込む(本音で話し合える)くらいの寄り添い方ができるかどうかだと思います。

 

もう半分は本格的な生活のサポートです。

患者さんが自分で動けるうちはわれわれ医療者がよく医療現場で目にする移動、食事、排せつ、整容などのADL評価表を用いながら対応していきます。そして最終的には動けなくなり、嚥下障害や呼吸障害からいよいよ栄養摂取の仕方、呼吸補助の必要性を決定しなければならない時期があります。

このタイミングを最も近くでみていて把握できるのが在宅医療の現場であると思います。

得られた身体の情報を担当医へ報告し患者さんの病気の進行具合を皆で共有していくことが大切です。

 

神経難病は治療が難しい病気ではありますが決してケアが難しい病気ではありません。

難病の患者さんに寄り添ってもらっていると感じてもらうために在宅医療を展開するチームの結束力が試されているとも言っても過言ではないでしょう。

 

ぜひとも患者さんの身体機能の評価とその評価に基づいて実生活を送るために必要な環境を提供できるようにご尽力いただければ幸いです。

 

【参考文献】

参考情報サイト:難病情報センター www.nanbyou.or.jp/

 

writer
浅野翔吾(あさのしょうご)

2006年 東海地方にある急性期病院にて初期研修

2008年 神経内科専修医

2009年 日本内科学会認定内科医

2012年 日本神経学会神経内科専門医

2016年 日本内科学会総合内科専門医

病院勤務の傍ら近隣の在宅医療クリニックにて共同診療に参加している。

 

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