事前の訪問シミュレーションのメリットとは?|在宅医療の現場に学ぶ

在宅患者が在宅サービスを利用中に容態が急変したり、介護事故に巻き込まれたり、機材トラブルがあったりというリスクは常に付きまといます。

しかし、リスクマネジメントやヒヤリハット事例、事故における法律を学び、対応を共有することで、事故を未然に防ぎ被害拡大を予防することが可能です。

ここでは、筆者が経験した急変時のトラブルについてお伝えします。みなさんの事業所ではどのように対応するか、シミュレーションに役立てていただければと思います。

単独訪問に潜むワナ|事前のシミュレーションで冷静に対応

介護現場は単独訪問が多いため、急変した患者の観察、事業所への連絡、救急要請、応急処置および記録を全て一人で行う必要があります。
しかし、急変ではスタッフ側もパニックになり冷静な判断ができず、スムーズな対応が取れない、ということもあります。

初めて介護に入る際には、事業責任者と同行訪問を行い、各患者に起こり得るリスクとそのマネジメントを責任者と確認しましょう。
また、緊急時にどこまで蘇生治療を行うか、介護スタッフが救急車への同乗ができない場合は家族にその同意をとっておくなどの下準備も重要です。

このように、事前準備を徹底し、ヒヤリハットおよび介護事故事例から事故シミュレーションを何度も行うことで、事故を減らし、冷静に対処することが可能となります。

急変時、5つのトラブルに学ぶ

では、ここからは具体的な事例を見ていきましょう。

患者の容態の急変。これは、在宅患者を介護する家族および医療従事者に常に付きまとう大きな不安の一つです。

筆者は、総合病院連携の在宅医療、家庭医研修プログラムを持つ医院での在宅医療に関わった経験がありますが、そこで経験したトラブル(あるいは問題点)として、以下がありました。

1. 急変時DNRを事前に確認していたが、家族が救急車を要請してしまう
2. 治療中の疾患とは関係ない原因で急変
3. 少しの変化でも不安に思い在宅医にコールを繰り返す
4. アクセスの困難な土地であり、急変があっても在宅医がすぐに行けない
5. 急変時の様子が悲惨

トラブル1. 急変時DNRを事前に確認していたが、家族が救急車を要請してしまう

このケースでは、在宅に移行したばかりの看取りが近い患者でした。急変時対応はDNR(「心肺蘇生を行わないでください」という意味)であり、急変時には救急車を呼ぶのではなく、すぐにクリニックに電話をしてもらい、自宅で看取る方針を事前に家族と確認していました。
しかし、急変にパニックになったのか、家族は救急車を呼び、結局病院へいったもののコード上何も蘇生処置はできないため、そのまま病院で看取りとなりました。

在宅医療へと移る際には、ほぼ全てのケースで急変時のコード確認を行っていると思います。しかし、このコードに関して、家族の理解が医療者と同様レベルと考えてはいけません。

実際、別事業所の件ですが、急変時DNRを確認していたにも関わらず、蘇生措置を行わなかったと家族が訴訟に持ち込んだケースもあり、患者家族と医療者のコミュニケーション不足や家族間での急変時対応の認識不足が明らかとなりました。

もちろん、各施設規定のコード確認用紙には各事項が細かく記載されており、それを本人または家族が確認してサインしているはずなので、訴訟で敗訴する可能性は低いでしょう。前述したケースにおいても家族が敗訴となっています。
しかし、近年、敗訴が確実でも手数料目的に訴訟を引き受ける弁護士が後を立たないため、医療訴訟は増加しています。今後、介護利用者増加に比例して、介護にまつわる訴訟も増加が予測されます。

医療従事者は、急変時DNRを事前確認していても、医療従事者とそうでない人との理解度には隔たりがあると認識し、コード確認を事務的に行わず、一つ一つ丁寧に説明することが大切です。

トラブル2. 治療中の疾患とは関係ない原因で急変

誤嚥性肺炎や窒息、機材トラブルなど、原因疾患とは関係ないところでの急変もたくさんの事例が報告されています。
筆者が担当した寝たきり患者の多くが、褥瘡による敗血症、誤嚥性肺炎、尿路感染症など、主疾患とは関係ない原因で急変を起こした歴がありました。

特に、寝たきり患者の誤嚥性肺炎は頻度が高く、時に致死的です。また、食事介助中の窒息で訴訟となったケースも多数見受けられます。
常にバイタルを含めた患者観察をしっかり行い、わずかな変化も見過ごさないこと、機材トラブルに対してはあらかじめ各介護施設・事業所のガイドラインを確認しておくといった対応が必要です。

トラブル3. 少しの変化でも不安に思い在宅医にコールを繰り返す

頻回のコールは、在宅に移行したばかりの患者・家族、神経質な患者・家族によく見られます。

こういった患者や家族の不安を取り除くには、緊急時の対応を確実に決めておくのはもちろん、医療者と患者・家族との信頼関係構築や患者状態の理解と受け入れが重要な鍵となります。
この過程には時間がかかるため、頻回コールをすぐに減らすことは難しいことが多いと感じました。

筆者が在宅医療を経験した大手のクリニックでは、10名ほどの医師が交代で夜間オンコールを回し、24時間体制で頻回コール患者に対応していました。
しかし、個人開業医ではこういった対応が難しいため、オンコールの看護師がまず電話に対応し、必要に応じて医師に連絡をするという対応をしていました。このように、医療者が無理なく仕事を継続できるシステム作りは大切です。

トラブル4. アクセスの困難な土地であり、急変があっても在宅医がすぐに行けない

在宅医療は、病院が少なく、救急車のアクセスが困難な土地には必須のサービスです。

このケースでは、本人および家族の強い希望で在宅となりましたが、家は救急車がアクセス不可の山奥であり、急変時に医療関係者がすぐに駆けつけられるわけではない、ということを十分に利用者側に理解してもらう必要がありました。

夜間に急変されたため、訪れた際にはすでに約1時間経過しており、到着した時には亡くなっていました。

このように、医療施設入院とは異なり、もしかしたら急変時にすぐに対応していたら助かったかもしれないケースでも、在宅では救えない状況も起こり得ることを利用者および家族に周知してもらうことが重要です。

トラブル5. 急変時の様子が悲惨

看取りとなる原因はさまざまで、静かに眠るように亡くなる場合もあれば、大量の出血で窒息を起こしながら苦しんで亡くなる場合もあり、後者のような場面を見た家族は、かなりのショックを受けてしまいます。

経験した2件のケースをご紹介します。1件は喉頭癌末期の気管切開患者で、癌が頚動脈に浸潤し、頸部からの大出血で死亡。2件目は食道静脈瘤がある肝臓癌末期患者の静脈瘤が破裂し、口から大量出血で死亡。
いずれも、事前にリスクを十分に説明していましたが、家族が夜間に一人で最後の瞬間に立ち会ったため、そのショックは大変なものでした。今後、在宅で看取る患者が増えるということは、このような場面に一般人が遭遇する可能性が高くなることを意味します。

今回のケースでは、事前に悲惨な結果になり得ることを容易に予測できましたが、それ以外でも、可能な限りどういったケースで亡くなる可能性があるのかを考え、最悪な場面も含めて家族とシミュレーションすることが大事だと感じました。

医療訴訟のケースでは、医療者と患者とのコミュニケーション不足はもちろん、患者家族が予期せぬ出来事と感じた時にも訴訟となる傾向があります。どれだけ急変時のシミュレーションを家族と行っていても、想像をはるかに超える現場となることもありますが、事前に急変時が悲惨な状態となる可能性を話しておくことは大切です。

<まとめ> 在宅医療の現場では、あらゆる事態への予測が必要

筆者の属していたクリニックでは、医師・看護師・介護師・理学療法士などが毎週集まり、紹介したような事例に関して、ミーティングで情報共有していました。こうした努力が、在宅医療事故や、訴訟リスクを回避するために重要だからです。
今回紹介した事例も、医療従事者のシミュレーションとして役立てていただければと思います。

参考
■在宅医療の最近の動向 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/h24_0711_01.pdf
■小児等の在宅医療について 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/zaitaku/dl/syouni_zaitaku.pdf
■明治安田生命グループ 介護総合情報サイト MY介護の広場
http://www.my-kaigo.com/pub/carers/risk/houritsu/

writer
めぐみ

日本で医師として働いていたものの、夫の仕事の関係で一時的にイギリスに滞在中。元医師の視点で医療事情、体験談をお伝えしていきます。

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2016年9月29日

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