重症心身障害児の在宅看護/在宅医療の基礎知識

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訪問看護は赤ちゃんからお年寄りまで、疾患や障害の種別・程度を問わずすべての方が対象です。しかし、実際のところ、すべてのステーションが小児の訪問看護を行なっているわけではありません。

その理由として多く聞かれるのは「小児(科)看護の経験があるスタッフがいない」というもの。小児の場合は特にちょっとしたことでも重症化・急変しやすく、状態変化の予測や判断の難しいという特徴があります。

また、NICUを出て初めて在宅療養に移行する際はもちろん、状態が安定するまでは訪問が頻繁に必要なケースが多いのも小規模なステーションにとっては大きな負担になります。

そんな理由もあり、ベテランの看護師であっても「小児はちょっと…。」と敬遠されてしまうところがある小児の在宅看護。
今回は特にその中でも年々増えてきている「重症心身障害児」の在宅看護について、お話したいと思います。

重症心身障害児(重症児・重心児)とは

近年、医療(特に新生児・救急医療)の高度化に伴い、新生児の死亡率は大きく減少した一方で、気管切開や経管栄養などの“医療的ケア”を永続的に必要とする子どもたちが年々増えてきています。

そのなかでも、重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複している児童(大島分類の区分1〜4に該当)は「重症心身障害児」と呼ばれています。

(※「重症心身障害児」という名称はあくまで行政用語であって医学用語ではありません。

行政的には「重症児」と略されますが、医療機関では「重心児」と呼ぶこともあります。混乱しないように注意しましょう。)

 

重症心身障害児の原因疾患

原因となる疾患としては

  1. 染色体異常や先天異常などの出生前異常
  2. 周産期異常(低酸素性障害や低出生体重など)
  3. 出生後の疾病による障害(脳炎・髄膜炎、MR/EPI、外傷など)

の3群に大別されます。

日本では昔、重症心身障害児の多くは15〜16歳までの命と考えられ、成人以降も生き続けること は想定されていなかった時代もありました。

しかし、就学すら望めなかった昔と比べると今や重症心身障害児の生命予後は格段によくなり、超重症児(者)も約30歳まで生命予後が伸びてきているといいます。

 

高齢者の介護・看護との違い

超高齢社会の日本において、高齢者の介護・看護は看護師にとっては通常業務といっても過言ではないでしょう。

しかし、対象が「重症心身障害児」となってくると、普段やっている仕事と何がどう違うのか、急に「これでいいのかな…?」と戸惑う場面も出てきます。

そこで、高齢者と異なる点のうち、重症心身障害児に特に特徴的なものを順に解説します。

 

1.重症心身障害児特有の病態

医療の発達により、昔と比べると寿命が延長したとはいえ、重症心身障害児の生命予後が未だに悪いのには高齢者とは異なる特有の病態が基礎にあります。

重症心身障害児は主に呼吸機能の課題(胸郭の変形・呼吸中枢の障害など)と栄養・消化機能に関する課題をもっていることが多いという特徴があります。

それらの病態は運動麻痺によるところが多く、発育に伴いさまざまな合併症を併発し、さらに多様で複雑な課題へと繋がっていきます。

したがって、彼らを介護・看護する上ではそうした合併症の発症を予防し、重症化させないよう日頃から管理することが重要になります。

<重症心身障害児に特に多くみられる合併症>

  • 呼吸機能疾患
  • イレウス
  • 誤嚥
  • GER(胃食道逆流)
  • てんかん

 

2.療育/保育・教育の視点〜”横軸”の発達〜

重症心身障害児ならではのポイントとして、もっとも高齢者看護との違いが現れるのはこの「療育/保育・教育」の視点ではないでしょうか。

「療育」という言葉自体は”治療と教育”のことを指しており、生命機能の維持・向上を支え、育てることを意味します。

『ーこの子らを世の光にー』

これは日本における”障害福祉の父”、重症心身障害児の療育の先駆者である糸賀一雄氏の言葉です。

糸賀氏は、子どもがハイハイから立ち、自分で歩けるようになるような成長を「縦」の発達といい、一方で内面的な豊かさや個性の充実を「横」の発達と捉え、たとえ重い障害のために「縦」の成長は難しくとも、子どもたちの「横」の発達は無限の可能性を持っており、それを伸ばすための人間的な豊かさを形成していく教育(=療育)が必要なのだと説いています。

『どんなに障害がひどくても、その発達の段階のなかに、一歳は一歳として、三歳は三歳として、それは私たちが四十歳、五十歳の人生のもつ意味と同じ価値をもつものとして、むしろ人生の「意義」を包蔵している…』

正常な発達を経て年齢を重ねて高齢者となった方に対して、すでに形成・確立されたその方の個性、価値観を尊重した関わりをすることは高齢者ケアの大前提です。

しかし、重症心身障害児の関わりは、まさに今これから、その子がかけがえのない個性を形成していくプロセスを支援するものとなるのです。

こうした観点から、私たち看護師も重症心身障害児に関わる場合、日々のケアは単なる”介助”ではなく、ひとつひとつが“彼らの心身の発達を支援するもの”として考えます。

そのため、たとえば体位変換やオムツ交換、入浴の介助なども大切なコミュニケーションの機会のひとつとして捉えます。

身体に触れること、身体を動かすことで児がどんな反応を示すかを感じながらケアし、児自身も自分の身体に触れられたり動くことで”固有感覚コミュニケーション”という、自身の身体を感じる絶好の機会になるのです。

このように、子どもには成長と発達を促す療育が必要不可欠であり、身体の状態の安定と同時に社会・集団の中で様々な体験ができるよう、地域社会全体で支援する姿勢が求められます。

 

3.手探りの支援(見通しを立てられないことでの苦労)

高齢者の方の支援では、医師からその方の疾病・障害など心身の状態から今後どうなっていくかの見立てを確認したり、ある程度は自身の知識や経験から推測することができます。

心不全や腎不全、がんなど高齢者の方に多い一般的な疾病に関しては、教科書やインターネット上でも情報が簡単に入手することもできます。

また、高齢者の場合、それまで歩んできた人生についても、ご本人がお話できなくても家族や周りの方にお話を聞いたり、家庭の様子からもご本人の好みや価値観などを伺い知ることができ、支援の方向性や支援目標なども比較的立てやすいと言えます。

しかし、重症心身障害児の場合は重い疾患や障害が重複しており、コミュニケーションも困難なケースが多いため、どの機能がどの程度発達しているか、この先どれくらい発達が見込めるかなどを正確に判断することが困難です。

(私自身、自力で座れるようになるのは難しいだろうと言われていたが、リハビリを続け成長したらできるようになった!ということもあります。)

そのため、看護師やその他の支援者はその子一人ひとり、その表情の変化やバイタルサインの変化など、どんな些細な反応も見逃さずキャッチし、その反応の意味を考える観察・洞察力が求められます。

そうして、援助を通して刺激を繰り返すことで、時間をかけてその子の「快/不快」や「好き/嫌い」、「喜怒哀楽」の表出をはじめとしたその子なりの変化、”成長”がわかるようになっていくのです。

たとえ同じ基礎疾患・障害を持つケースであってもその後の成長・発達の程度は個人差が大きく、その子・家族に対して、どのような方法でどんな支援が適切かを判断するのは常に一人ひとり手探りの状態といえます。

 

4.利用できる制度・サービスの違い

高齢者の在宅療養を支える代表的なサービスはみなさんよくご存知の通り、介護保険法に定められた在宅(訪問介護/看護/リハ・デイサービスやショートステイ)、施設(老人ホームや老人保健施設など)、地域密着型(小規模多機能型居宅介護や認知症対応型グループホームなど)のさまざまなサービスがあり、それらをケアマネージャーが立案した計画にもとづいて各サービス事業所と連携をとって支援します。

一方、重症心身障害児とその家族を支えるサービスはそれとはまったく異なる法律にもとづいて実施されます。

18歳未満である障害児はたとえ寝たきりであっても、介護保険制度の対象にはなりません。

代わりに障害者総合支援法にもとづく日常生活の支援(主に居宅介護)と、児童福祉法にもとづく児童の発達に必要な支援が行われます。

(未就学児であれば「児童発達支援」、小学生〜高校生の就学児であれば「放課後等デイサービス」が利用できます)

そのほかにも市町村の創意工夫により、利用者の方々の状況に応じて柔軟に実施できる「地域生活支援事業」というものもあります。

このように、介護保険サービスとはその名称もサービス内容も、地域によっても多少異なるため複雑なのですが、まずは重症心身障害児のお子さんが住む地域にはどのようなサービスがあるかを確かめることが大切です(試験的なモデル事業などもいろいろあります)。

 

5.”相談支援員”の存在

さらに、児童の場合は「居宅介護支援事業所」の”介護支援専門員(ケアマネージャー)”の代わりに「相談支援事業所」の”相談支援員”が同様の役割を担っています。

しかし、相談事業所の数も支援員の数も介護支援専門員と比べると少なく、相談支援員ひとりで100人も担当されている場合もあり、人手が足りていない状況にあります。

その上、彼らは重症心身障害児を専門としているわけではないため、医療的ケアや身体的な課題については看護の立場からも特に細やかな情報共有が大切になります。

 

重症心身障害児の看護で気をつけるポイント

身体の動かし方や呼吸ケアのこと、その他重症心身障害児特有の注意は多々あります。

その中でも特にこれから重症心身障害児を看護する方に”まずはここだけは知っておいてほしい”というポイントはこちらです。

 

看護のポイント1:それまでの経過と普段の様子の把握

重症心身障害児(特に乳幼児期)は生理的機能の発達が未熟で体温調節がうまくできなかったり、適応力の幅が狭かったりして気候・天候(気温や気圧、湿度など)など周囲のわずかな外的変化にもうまく対応できず、些細なストレスでも体調を崩し悪化させやすい特徴があります。

台風のくる前後、気温差(入浴前後など)、疲労がたまる活動(受診、課外活動や外出、その他普段と違う行動)などは体調を崩しやすい条件の例です。

そのため、普段から表情の変化や筋緊張の有無、流涎(よだれ)の状態の変化などは特に注意して観察して変化を読み取る観察力が求められます。

また、学童などある程度年齢を経た重症心身障害児に関わる際は、どんな時に体調を崩しやすいかを家族の方に事前に聞いておくと、あらかじめ注意でき、よりこまめにケアして回避したり、悪化を最小限にできることもあるため、出生時からそれまでの経過を把握することも大切なポイントです。

 

看護のポイント2:合併障害の相互関連と悪循環の理解と緊張調整

重症心身障害児は、先述の通りさまざまな合併障害があり、これらが相互関連し悪循環(たとえば、筋緊張亢進が起こると発熱したり、腹圧がかかって胃食道逆流が起きたり、良眠できなかったり…それらのストレスでよりいっそう緊張が高まるといった状態)が起こります。

こうした状況を理解した上で、その原因・要因を検討しそれを除去していくことが必要です。

その上で、緊張を緩和するための姿勢調整、精神的、心理的アプローチなどの環境調整や、薬物療法(筋緊張緩和薬や精神安定薬、催眠剤など)といった対策を検討していきます。

 

看護のポイント3:姿勢調整(ポジショニング)

高齢者と同様、重症心身障害児も自分で姿勢変換をすることが難しく、健康維持や変形拘縮の予防のためにもポジショニングがとても重要になります。

不安定な姿勢は筋緊張を高め、呼吸・消化機能にも影響するため、一人ひとりに合わせた保持具を用い、本人がリラックスして安心・安楽を感じられるようにケアすることが大切になります。

ただし「姿勢が崩れない=動けない」ではいけません。姿勢はコミュニケーションの発達にも関連し、生活や活動を広げる上でもとても重要な要素です。

また解剖学的・運動学的に正しいことが、その子にとって「安心・安楽」とも限りません。

重症心身障害児のポジショニングは非常に個別性があり、看護師だけでなく理学療法士・作業療法士など、姿勢の評価分析が行える専門家の意見を聞き、日々介助に関わる家族や介助者がその子本人が「安心・安楽」と感じているかどうか評価し、実践することが重要なポイントです。

こうしてまずは日々の体調を安定して保持できるよう支援することで、さらに生活を広げる支援ー就学や外出、入浴、コミュニケーション支援などへとつなげていくことができるのです。

 

最後に:医療的ケアのニーズはこれからも高まります

長々と重症心身障害児のケアについて書いてきましたが…いかがでしょう?

これを知って恐怖心やマイナスなイメージは少しは払拭できたでしょうか?

重症心身障害児のような医療的ケアを必要とする小児の看護は、今後ますます求められる分野ですので、ぜひ能動的に取り組んでいただける看護ステーションが増えることを願います。

私個人の感想ですが、彼らと関わっていくと、その純粋さや生きる力に癒され、感動させられっぱなしです。

この記事をきっかけに重症心身障害児の看護について学び、直に彼らと触れあってみていただければ嬉しいです。意外とあなたもこの分野の奥深さにハマるかもしれませんよ!

 

(参考・引用)
日本小児医療在宅支援研究会
http://shounizaitakusien.kenkyuukai.jp/about/

社会福祉法人 全国重症心身障害児(者)を守る会
http://www.normanet.ne.jp/~ww100092/index.html

重症心身障害児者等コーディネーター育成研修テキスト(中央法規)

写真でわかる重症心身障害児(者)のケア(インターメディカ)

糸賀一雄生誕100年記念事業HP
http://100.itogazaidan.jp/report/report_44

writer
chocola

現在看護師8年目。大学病院の内科病棟に配属され、うち2年間は夜勤専従看護師として勤務。結婚と同時に退職し、現在は訪問看護師として勤務。

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