“尿閉”の診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク(1)

訪問診療では患者さんが訴えるさまざまな症状に対応し、適切な対処をしなければなりません。訪問診療(在宅医療)を受ける方は高齢の方が多いことから、泌尿器系の訴えは意外と多く、症状によっては時に難渋することがあります。

 

今回は、尿閉が疑われる患者さんがいた場合にどのようにするかについて、事例を交えながら尿閉の原因、診断、対処法などを解説していきます。

 

今回の患者情報

<患者情報>

今回の患者さんは85歳男性のOさんです。

糖尿病、脳梗塞、認知症の既往があり、現在自宅療養中。

訪問介護が毎日、訪問看護が1週間に1回、訪問診療が1か月に1回入っています。

訪問看護師より、2~3日前より排尿回数が著しく増加しており、かつ1回ごとの尿量が減少していると連絡がありました。常に尿意があるものの、トイレへ行っても少量しか出ないものの、おむつは常に濡れている状態とのことでした。

 

臨時往診時のアセスメント状況

訪問看護師の連絡を受け臨時往診に伺い、問診と診察を行いました。

1日の尿回数は20回をこえており、常に下腹部に膨満感がするとのこと。血圧は収縮期血圧180と高値です。恥骨上が緊満しており、軽く押すと痛みを訴えられました。

この時点でほぼ「尿閉」と診断できますが、確信を得たい場合は腹部超音波検査を行います。

 

恥骨上に超音波プローブをあてると、著明に拡大した膀胱がみられます。人によって膀胱の容量は異なりますが、尿閉状態では多くの場合、「300ml~1000ml」程度の尿がたまっています。

 

尿閉の鑑別診断として、男性の場合は前立腺肥大症が約2/3ともっとも多く、次いで神経因性膀胱、脳血管障害、手術、アルコール摂取、薬剤(市販の風邪薬など)、前立腺炎、尿道結石、外傷などが挙げられます。

 

今回の症例では、長年の糖尿病による神経因性膀胱に加えて、超音波検査で前立腺の肥大も確認され、複合的に尿閉になったものと考えられました。

 

膀胱エコーを使う際のポイント

泌尿器科医でないと、膀胱のエコーを見慣れていないという場合もあるでしょう。

膀胱のエコーで評価できることとしては、膀胱内の尿量、膀胱壁に腫瘍を疑う隆起がないか、膀胱壁の厚さ、肉柱形成の程度、憩室の有無、結石の有無、前立腺体積、前立腺の形態などです。

とくに、尿閉になりやすい膀胱の特徴としては、肉柱形成や憩室があり、前立腺体積が大きく(20-50mlが中等症、50ml以上が重症)、前立腺が膀胱内に大きく突出している場合(中葉突出)です。

中でも中葉突出がある場合は尿閉のリスクが高いことを覚えておきましょう。

 

※補足①:膀胱内にたまっている尿量の推定方法
容積や体積の簡単な推定する際に、前後径(cm)×長径(cm)×短径(cm)×0.5、という式を覚えておくと便利です。水平断面像にて長径を算出、矢状断面上で前後径および短径を算出します。膀胱が大きくはっきりと確認できる位置で算出することがポイントです。
※補足②:残尿測定器の測定値と実際の残尿量がかい離する場合
最近は、腹部に装置をあてるだけで自動的に残尿量が測定できる、超音波膀胱容量測定装置も普及してきています。通常、2-3回測ってその平均を採用しますが、患者さんの状態によっては実際の値と大きくずれてしまう場合があります。
その原因としては、たとえば腹水がたまっている場合や、大きい膀胱憩室があってその中にたまっている尿量をひろってしまっている場合などがしばしば見られます。実際の値とかい離していることが疑われる場合には、超音波を使って自分で測定してみることも必要です。

 

訪問診療で行う“尿閉”の処置

訪問診療の場においてできる処置としては、まず尿道カテーテルの留置です。

尿路感染症のリスクを下げるために、間欠的導尿をはじめから行うことも考えますが、脳梗塞後で巧緻運動障害がある場合や、認知機能が悪い場合には自ら導尿を行うことは難しく、また1日に何回も導尿することは在宅介護では難しい場合も多いのが現状です。

 

また、間欠的導尿ができる場合でも、急性期はしばらく膀胱に炎症が残っていますので、しばらくは管を留置して膀胱を休ませるのがよいでしょう。

 

もしくは、身体に不自由が多少あって訪問診療を受けているものの、認知機能はしっかりしているという場合には、尿道カテーテルをバッグにつながずとも、キャップをつけて適宜排尿してもらうという方法もあります。

 

“尿閉”の処置における投薬

投薬としてはα1ブロッカー(タムスロシン、ナフトピジル、シロドシン)を出すことが一般的です。

女性の尿閉に対しては、上記3剤だと前立腺肥大の病名がつけられないことから出せませんので、同じα1ブロッカーであるウラピジルを処方することが多いです。

 

また、近年前立腺肥大症に対して適応が通った、PDE5阻害薬であるタダラフィルも選択肢にあがるでしょう。

その場合は、エコーで前立腺体積を計測したり、残尿量を測定したりしてカルテに記載することが保険上で求められますので注意しましょう。

どの薬剤も必ずしも即効性があるわけではないので、少なくとも数日~1週間程度は服用してから、管を抜くことを検討しましょう。

 

注意!尿閉解除時にショックを起こすことがある

尿閉を解除する際に、ショックを起こすことがあります。

静脈還流量などが急に変わり、それについていけないことなどによります。

とくに超高齢者や、強い降圧療法を受けている方で1000ml以上抜かなければならない場合などでは、300-500ml抜いた時点で一度クランプして5分~10分程度様子をみることも時には必要です。

 

尿道カテーテルが入らない場合の処理

前立腺肥大症や尿道狭窄がある場合、尿道カテーテルの挿入が困難な場合があります。

無理にカテーテルを挿入すると、尿道出血や尿道損傷を招く危険性があるため挿入は慎重に行い、抵抗がある場合は無理に入れないようにしましょう。

 

尿道カテーテルを入れるコツとして、まず陰茎の正しい把持の仕方が大切です。

正しい持ち方は、手のひらを上にして、ワイングラスのボウルを持つときのように亀頭の下に手をそえ、中指と薬指の間に挟んで垂直方向にできるだけ高く持ち上げるという方法です。

この持ち方をすると、残りの指で外尿道口を開くことができますので、非常にスムーズに入れることが可能になります。

泌尿器科でない多くの医師や、看護師の入れ方を見ていると、8割くらいの方が、陰茎をあまり上に牽引していません。

しっかりと持ち上げることで尿道がまっすぐになりますので、入りやすくなります。

 

尿道カテーテルがどうしても入らない時には

さらに、それでも入らない場合は、多くの場合で尿道が生理的に屈曲しているところで先端の向きが合わずに入らないということが多いので、会陰部を押してうまく誘導すると入ることがあります。

もしくは、シリンジに潤滑ゼリーを入れて、尿道に10-20ml程度入れてから挿入すると入るということもあります。

 

ちなみに、カテーテルが挿入できない時は細いカテーテルではなく、あえて太いカテーテルを選択するとよい場合もあります。

カテーテルは通常14-16Frを使用しますが、18-20Frの方が、コシがあるためむしろ入りやすくなることがあります。

 

それでもダメな場合は、ガイドワイヤーを使用します。

尿道カテーテルの先端を少し切るとガイドワイヤーが通るようになりますので、ガイドを入れて、運よく膀胱内に到達するようであればガイド越しに入る可能性が高くなります。(バルーンの部分を切らないように注意しましょう)

 

最終的には膀胱瘻を造設

最終的には、膀胱瘻を造設することになります。尿閉状態であれば、多くの場合、恥骨上2横指にまっすぐ刺すと膀胱に到達します。

この際、腸が膀胱前に入り込んでいないこと、前立腺を刺さないこと、直腸まで到達しないことが大切です。

エコーでみて深さと安全なルートを確認した後に、麻酔、小切開、ペアンで剥離、穿刺、という流れで行います。

膀胱瘻キットが無い場合は、CVキットでもひとまずは造設可能です。

 

その他、泌尿器科医であれば、スタイレットを使用したり、(訪問診療では難しいですが)膀胱鏡を用いたりして入れるという手法もあります。

 

在宅ならでは工夫・注意点

尿道カテーテルを留置することで感染を起こす可能性が高くなるため、陰部や尿道カテーテルの清潔を保ち発熱などの感染徴候に気をつけるよう、訪問看護師や他職種に伝えていきましょう。

 

尿道留置カテーテルは陰茎が損傷しない固定の仕方が大切になります。

陰茎を腹部へ倒して腹部で固定する方法、大腿部に軽く固定する方法がありますがカテーテルには少し余裕を持たせて固定するようにしましょう。

移動や体位変換時にはカテーテルがねじれないように気をつけ、とくに踏んでしまったりしないようにする注意も必要です。

 

実際に訪問することにより生活環境を把握できることは訪問診療の強みです。

環境に合わせて具体的な注意点を伝えることは家族にとってはありがたいものです。

 

また、キャップ管理をする場合は、家族や訪問看護師等にきちんと定期的に排尿させるように指導しないと、尿意を訴えられない人の場合は医原性の尿閉を作ってしまうことがありますので、注意が必要です。

 

排尿障害の事前予防策・予兆

高齢者の排尿障害は生活の質が低下し、なんらかの疾患が隠れていることがあります。

認知症を抱える高齢者であれば排尿に変化があっても、自分で気付くことが難しいです。そのため、介護に関わる周囲の人が普段から排尿パターンを把握しておくことが大切です。

 

今回の事例は神経因性膀胱と前立腺肥大による“尿閉”でしたが、前立腺肥大症は年齢とともに発症する確率は高くなります。

80歳以上では前立腺肥大が90%みられるとされていますので、何もなくても一度腹部超音波検査のついでに評価しておくこともよいでしょう。

 

また、前立腺肥大がある場合は、市販の総合感冒薬を避けること、過度な飲酒をしないこと、普段から尿を貯め過ぎないことにも注意が必要です。

 

普段の診察でも排尿については気をつけておきましょう

尿閉が続くと水腎症に発展し、腎盂腎炎や腎不全に陥ることもあります。「尿はよく出ている。むしろ出過ぎて困っている」という家族の訴えは、実は尿閉による溢流性尿失禁かもしれません。

訪問診療を受けている高齢者は自分の排尿パターンの変化に気がつかないことや、正しく訴えられないことがあるため、リスクの高い人に対しては、普段の診察の際から気にかけておくことは大切なことでしょう。

 

writer
しゅうぴん先生

普段は急性期病院で医師として勤務しながら、定期的に訪問診療も行い、最後まで患者さんに寄りそう医療を行っています。
また、正しい医療情報の普及を行う活動をライフワークとし、昼夜問わず精力的に活動しています。

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