“がん末期の呼吸困難”の診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク(2)

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訪問診療では患者さんが訴えるさまざまな症状に対応し、適切な対処をしなければなりません。訪問診療(在宅医療)を受ける方の中にはがんの末期の方もいらっしゃいます。呼吸困難は本人にとっては痛みよりつらい症状である場合があります。

今回は、呼吸困難を訴える患者さんがいた場合にどのようにするかについて対処法を解説していきます。

 

【訪問診療・緊急往診のケースワーク】

“尿閉”の診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク(1)

 

呼吸困難とは?

そもそも呼吸困難とはどのような状態のことを指すのでしょうか。

 

呼吸困難は、呼吸時における不快な感覚であり、主観的な体験として定義されています。

よく混同される言葉として、呼吸不全という用語があります。呼吸不全は、動脈血の酸素分圧が60㎜Hg以下である状態を指します。

 

しかし、呼吸困難はあくまで「主観的な」感覚であるということを、まず認識しておく必要があります。

具体例を挙げれば、過換気症候群では動脈血の酸素分圧自体は保たれていますが、強い呼吸困難を訴えます。

呼吸不全は無くても、呼吸困難が生じることは多々あるのです。

また、反対にCOPDのある患者さんでは、低酸素血症があるにも関わらず、呼吸困難を訴えないこともあります。

 

ちなみに、がんの終末期においては、概ね50%以上の方が呼吸困難を生じるとされています。

 

往診時の対処の仕方

がんを抱えている患者さんが呼吸困難を訴える時は、まず原因の特定を行い、可能であれば原因を改善することが必要です。

 

たとえば、化学療法を行う、胸水に対してドレナージや胸膜癒着術を行う、気道狭窄に対してステントを入れる、肺炎に対して治療を行う、貧血に輸血を行う、ベースにある肺疾患や心疾患に対して薬物治療を行うことなどが挙げられます。

 

しかし、教科書にはそのように書いてあるものの、がん末期になると、がん自体を根治することはできませんし、呼吸困難の原因を簡単に除去できないことの方が現実的には多いわけです。

まして、在宅医療の範疇でできることは限られています。

実際の現場では、そうした中でどのように対処すべきかを考える必要があります。

 

1 呼吸困難の評価

まず、呼吸困難を訴える患者さんがいた時には、呼吸困難の程度を評価を行うことが大切です。

呼吸困難を評価する指標はいくつかあります。

 

教科書的には、Visual Analogue Scale、F-H-J分類、MRC息切れスケールを用いて評価をします。

Visual Analogue Scaleは10cmの実線に症状の程度をマークする方法で、10cmに近いと症状が強いと判断します。

F-H-J分類はⅠ~Ⅴ度に分けた呼吸困難の分類で、Ⅴ度になると息切れで外出ができないほどです。

MRC息切れスケールは0~5のGradeで分類しており、Grade5ではF-H-J分類と同様に息切れで外出ができない状態です。

他にBritish Medical Research Council(MRCスケール)などもあります。

 

こうしたツールを用いて、どれくらい動けてどれくらい辛いのかということを評価することに加えて、動脈血液ガス分析で低酸素血症、高二酸化炭素血症、アシドーシス/アルカローシスなど、呼吸不全の評価も行います。

 

2 呼吸困難の原因

どの程度の呼吸困難・呼吸不全があるかを評価した後に、原因について考えます。

大別すれば、がんによる呼吸困難と、がんによらない呼吸困難に分けられます。また、局所の病態と全身性の病態という分け方もあるでしょう。

 

重要なものをピックアップします。

 

1) がんに関連する局所の病態

胸水、肺転移、肺癌、胸膜・胸壁浸潤、心のう液貯留、気道閉塞、肺動静脈の浸潤・塞栓・閉塞、がん性リンパ管症、上大静脈症候群、放射線性肺炎、間質性肺炎など

 

2) がん以外による局所の病態

肺気腫(COPD)、感染性肺炎、心不全、喘息、結核、肺動静脈奇形、気胸など

 

3) がんに関連する全身性の病態

腹水、腎不全、貧血、悪液質、腫瘍随伴症候群、肝転移など

 

4) がん以外による全身性の病態

精神的原因(パニック障害)、過換気症候群、高度な肥満、神経筋疾患など

 

これらの中で、どちらかといえば局所の問題をまず思いつく場合が多いと思いますが、意外と肝転移や腹水による呼吸困難や、痛みによる過換気症候群などもしばしば経験されます。

 

3 呼吸困難の対処

がん患者の呼吸困難は要因が複雑に絡み合っていることもあり、原因の特定が困難な場合もあります。

とくに在宅医療ではその場でできる検査や治療に限りがありますので、対処できる範囲は限られます。

標準的には胸腔穿刺、酸素療法、薬物投与、体位や環境の調整が主な手法です。

 

・胸腔穿刺

胸腔穿刺の仕方は教科書を参照していただきたいところですが、胸腔穿刺の際に留意すべきポイントとしては、排液の際の再膨張性肺水腫です。排液量の目安としては、1L/日までにとどめる方がよいでしょう。

排液がしっかり減少するようであれば、ドレナージチューブをクランプして24時間経過観察し、その後異常がなければ抜去も可能です。

また、胸腔穿刺によってしっかりと肺の再膨張が得られるようであれば、タルクを注入して胸膜の癒着をはかる場合もあります。

 

・酸素療法

酸素療法は、呼吸困難に対してもっともよく用いられる対処です。

低酸素血症があれば当然酸素吸入が効果的なことが多いですが、低酸素血症が無い場合でも酸素投与により症状が改善する場合もあります。

 

ただし、在宅医療において留意すべき原則としては、「なるべく家での普段の生活を阻害しないこと」です。

多くの酸素を投与する場合に、マスクで投与することもありますが、食事や会話に支障が出てしまいます。

意外と鼻カヌラで高流量を流す方が、快適な場合があります。

 

また、PaCO2が45mmHg以上の場合は、酸素を過量投与するとCO2ナルコーシスを引き起こすため注意しなければなりません。

 

その他、最近では在宅で非侵襲的人工呼吸を行うこともあります。

 

・薬物療法

薬物療法として第一に選択されるのはモルヒネです。モルヒネは呼吸困難の原因そのものを改善するわけではありませんが、患者の主観的感覚を改善することに役立ちます。

これは、呼吸中枢の感受性が低下し、酸素消費量が減少することで換気量や呼吸回数が低下することによると考えられています。

ただし、モルヒネは、重度な喫煙歴がある方の場合は死亡率の上昇につながる場合がありますので、その点には気をつける必要があります。

 

呼吸困難に対して、リン酸コデインが用いられることもあります。リン酸コデインは、鎮痛効果は弱めであるものの、呼吸困難への薬としては有用です。

しかし、モルヒネとリン酸コデインが併用されていることを時折見かけますが、リン酸コデインは肝臓で代謝されてモルヒネとして働きますので、モルヒネを使う段階ではモルヒネのみに統一した方がコントロールしやすいでしょう。

 

心理的要因が原因の場合は、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬を投与します。身体所見や検査所見と比較して呼吸困難を強く訴える患者、呼吸困難発作を引き起こし、不眠を訴える患者に有効です。

 

ステロイドが有効なこともあります。がん性リンパ管症、放射線性肺炎、上大静脈症候群などがコルチコステロイド投与の適応となっており、ベタメタゾン(リンデロン)が主に使用されています。

しかし、呼吸筋の機能低下を引き起こす可能性があるため、効果と副作用のバランスを考えて投与しなければなりません。

 

・体位や環境の調整

在宅医療ではできることが限られていますので、逆に言えばできることがあるならば検討すべきです。呼吸は持続的な運動ですので、体位や外的要因に大きく左右されます。

 

まず、呼吸筋をしっかり使えるように、胸郭の動きを制限しない工夫をすることが大切です。

腹水がたまっていたり肝転移で横隔膜が挙上したりしているような場合は、頭側を挙上することが大切ですし、片側に胸水がたまっている場合は、貯留側を下にして寝るだけでも症状が改善する場合があります。

 

また、環境整備として、部屋の温度と湿度を適切に保ったり、窓をあけたり、たばこなどの煙がこないようにすることなども忘れてはいけません。

 

在宅ならではの工夫・注意点

薬物療法で第一選択薬となるモルヒネには嘔気・嘔吐、傾眠、便秘、呼吸抑制などの副作用が生じます。

とくに呼吸抑制には患者さんやご家族も怖いイメージを持っていることが多いため、きちんと説明する必要があります。

 

家族に患者の昼間の睡眠が増えている時、声がけに反応がない時は患者の覚醒を促すようにする指導をする必要があります。

また、きちんと服薬記録を行い、服薬のタイミングや薬剤の投与量を把握してもらうようにします。

自宅での麻薬管理をすることになるため、子どもやペットの手が届かない場所に保管することや、使用済みの貼付剤は家庭のごみ箱に捨てず別に保管しておくことも指導します。

 

酸素療法を行う場合は、室温は20~25℃に保ち乾燥を防ぐために湿度を40~60%にします。

酸素供給を行う場から2m以内は火気厳禁なので、そうした自宅の環境整備も必要です。

酸素ボンベを使用する場合は室内の通気性を保ち、近くに可燃物を置かないようにしてボンベが倒れないように固定することも大切です。

 

訪問看護師や他職種にこのケースでお願いしたいこと

訪問看護師や他職種には、服薬のタイミングや服薬量を把握、治療による副作用の出現に注意するよう伝えましょう。

呼吸困難が強くなると、鎮静を要することもありますが、鎮静をかけることで患者がコミュニケーションをとることが難しくなる場合があります。

そういった際に家族が受け入れられるように医師以外からも折を見てそうした話を入れていただくようにすることは大切です。

 

また、がんが進行してより末期になると死前喘鳴が起こり、持続的な喘鳴がみられるようになります。

この場合患者は苦痛となっていない場合がほとんどですが、そばで見ている家族には大きな苦痛となることがあります。

そうした際にも、そのような可能性があることを、事前に複数の職種から説明しておくかどうかで、家族の受け入れ方も違ってきます。

 

まとめ

今回は呼吸困難についてまとめてみました。

満足に息が吸えないことは命の危険に直結しますので、本人の苦しさは相当なものです。

検査や治療機器に制限のある在宅医療の現場でも、できる限り症状を緩和できるよう、いろいろな対処法を学んでおきましょう。

 

writer
しゅうぴん先生

普段は急性期病院で医師として勤務しながら、定期的に訪問診療も行い、最後まで患者さんに寄りそう医療を行っています。
また、正しい医療情報の普及を行う活動をライフワークとし、昼夜問わず精力的に活動しています。

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