訪問診療の患者さんの“発熱”の診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク(3)

訪問診療では患者さんが訴えるさまざまな症状に対応し、適切な対処をしなければなりません。訪問診療(在宅医療)を受ける方の中には、さまざまな基礎疾患があり、しばしば発熱することあります。命に関わる重篤な疾患から、訪問診療の範疇で対応可能な疾患までさまざまな原因があり、適切に見極めることが大切です。

今回は、発熱を訴える患者さん、特に訪問診療を受けている高齢者の感染症診断のコツとピットフォール(落とし穴)を含めて解説していきます。

 

【訪問診療・緊急往診のケースワーク】

“尿閉”の診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク(1)

“がん末期の呼吸困難”の診断と対処法|訪問診療・緊急往診のケースワーク(2)

 

高齢者の発熱で気を付けるべきことは?

発熱を起こす原因として多いのは感染症です。まず、感染症による発熱についての話をしたいと思います。

 

高齢者における感染症診療における原則は、

 

1 どこに感染しているか(感染している臓器の特定)

2 何が感染しているか(原因微生物の特定)

3 どれくらい重症か

 

という3点についてきっちりと評価することです。

 

これらは若年者における感染症診療の原則と共通するものですが、高齢者においては特に気を付けなければならないこともあります。まず、高齢者は、そもそも若年成人と比較して感染症にかかりやすいという特徴があります。

 

さらに、発熱を起こすような感染症にかかった場合でも、症状が出づらいという特徴があります。肺炎にかかっても、発熱を伴わないような場合も少なくありません。

 

そのため、たとえひとつの検査が陰性であっても、安易に鑑別診断から除外してはならないということに気を付ける必要があります。

 

高齢者に多い感染症、少ない感染症は?

年齢が高いことそのものがリスク因子となる感染症があります。

 

たとえば、リステリアによる髄膜炎や、帯状疱疹は高齢者において発生しやすいことが知られていますし、前立腺炎も前立腺肥大がリスクとなりますので高齢において起こりやすい感染症の1つです。

 

二大感染症といえば「呼吸器感染症」と「尿路感染症」ですが、上記に挙げた感染症も散見されるため、鑑別診断の際には注意が必要です。

 

帯状疱疹は皮疹が出ていれば診断は容易ですが、髄膜炎や前立腺炎は見落とされがちです。

なかなか在宅医療の現場で腰椎穿刺をすることは少ないかと思いますが、項部硬直などの髄膜炎でよくみられる身体所見や、直腸診で前立腺を愛護的に触ることは、普段から心がけていないと適切な判断は難しいものです。

 

その他、施設の高齢者に多いのが「疥癬」です。寝たきり高齢者の皮疹をみたら疥癬は必ず考えるようにしましょう。

適切な介入が遅れると、施設の利用者間で急速に拡大してしまう恐れがあります。

 

一方、反対に高齢者で少なくなる感染症もあります。

特にStreptococcus pyogenesによって発症する急性咽頭炎はむしろ若年者に多いとされており、高齢者では稀です。また、性感染症の可能性もやや低くなります。

 

ここで一つ、実際に私の担当した症例をみてみましょう。

 

症例:80歳男性の発熱

1か月前から訪問診療を開始した80歳男性の家族より、発熱、咳、呼吸困難があるとのことで臨時往診依頼がありました。

もともと重度の喫煙歴があり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断で近くの病院で治療されていたものの、脳梗塞の後遺症で右片麻痺があり、通院が困難なため訪問診療が導入されています。

既往歴として、若い頃に肺結核を患った既往があります。

 

往診時の状況

昨夜から37〜38℃で推移しており、咳・痰が増え、また、歩くと息切れがするようになってきたとのことです。

聴診をしたところ、左下胸部に雑音が聴取され、ポータブルのレントゲンを撮影したところ、左下葉の肺炎と診断されました。

 

往診時の対処の仕方

今回の症例は、診断自体は容易ですが、問題は肺炎の評価です。

 

今回の症例ではいくつか注意すべきポイントがあります。

まず、既往歴として肺結核がある点。今回のケースでは、レントゲン上、結核による左側の胸郭の変形が見られ、胸膜の肥厚や石灰化も見られました。

また、COPDも合併していることから、拘束性障害と閉塞性障害が併存している可能性があり、肺の予備能は元々かなり低い可能性があります。

 

肺炎と診断がついた後には、どのような肺炎であるかという点が重要です。

 

今回は、「肺結核の既往」「COPDの既往」がある肺炎であることはすでに分かっています。さらに評価を進める上で、可能であれば血液ガス分析を行い、呼吸不全の評価を行いましょう。

 

Ⅰ型呼吸不全だけでなく、拘束性障害によるⅡ型呼吸不全が併存している可能性もあります。さらに追加で、尿中肺炎球菌抗原、レジオネラ、さらにマイコプラズマの検査なども、可能であれば検討します。

 

そして、重症度の判定も当然必要です。

 

市中肺炎であればよく用いられるのがA-DROPという評価方法です。

Age(年齢)、Dehydration(脱水)、Respiration(呼吸不全)、Orientation(意識障害)、Pressure(低血圧)の5項目の評価を行います。

どれも在宅で評価できますので、訪問診療の場面でも有用な指標です。

年齢の項目は、男性70歳、女性75歳以上ですので、訪問診療を受けている患者さんの多くは、すでにまず年齢の時点で1点が加算されることでしょう。それに加えて、脱水・呼吸不全・意識障害・低血圧のどれか2つが加わると、3点となり、入院適応となります。

 

今回のケースの考察

今回の症例では、呼吸不全のみ該当しましたので、外来(在宅)または入院のどちらも選択しうる状況でした。

病院の外来では、「酸素投与を要する」という時点で大概が入院になります。

 

しかし、実は臨時で在宅酸素療法を導入することも可能な場合があり、特にもともと訪問診療を受けている方は「自宅で医療が行われる」ことに対して抵抗感が少ないため、そうした手法で乗り切ることも選択肢には挙がります。

ただ、今回は肺結核とCOPDという2つの呼吸器合併症があるため、あえてリスクが高いためかかりつけの病院に入院とし、治療をお願いしました。結局10日間の入院の後、退院され、再度ご自宅に戻られました。

 

在宅ならではの工夫・注意点

在宅における注意点としては、家族の許容度が重要です。

今回の症例などの場合、「熱がある」ということと「息が苦しそう」という、家族が傍から見ていて「つらそう」「かわいそう」と感じやすい症状が出ると家族の負担も大きいものになります。

 

医学的に適切な指示をしたつもりでも家族が強い不安を覚えると、結局夜中に搬送先を探さなければならないことになります。

 

急性疾患を抱えながら家で過ごす場合には、医学的な側面を評価するだけでは不十分であり、家庭の環境についてもきちんと考えなければならないことに注意しましょう。

日中の段階で、「入院適応ではない」とはっきり判断できない場合は、無理せず入院先を探した方が賢明です。

ぎりぎりまで頑張って家族が疲弊してしまうと、在宅医療そのものを続けていくことが困難になる場合もあります。

 

訪問看護師や他職種にお願いしたいこと

呼吸器感染症の場合は、特に痰の管理が大切です。

痰の吸引もそうですが、家族に体位ドレナージを理解してもらうことも大切です。

そもそもそうした対応が可能かどうかをきちんと評価し、難しいと感じる場合には早めに医師と相談することが大切です。

 

まとめ

今回は高齢者の発熱についてまとめました。

発熱は時に致命的になりうるので、正しく対応できるように自分なりに鑑別できる流れを考えておくことが大切です。

特にご家族は熱があったり、息が苦しい姿を見たりすると、途端に不安になりますので、在宅医療でできる範囲を総合的に考え、在宅のまま様子をみる場合は経過の見方の指導法を工夫することが重要です。

 

 

writer

しゅうぴん先生

普段は急性期病院で医師として勤務しながら、定期的に訪問診療も行い、最後まで患者さんに寄りそう医療を行っています。
また、正しい医療情報の普及を行う活動をライフワークとし、昼夜問わず精力的に活動しています。

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